メリット社長に聞く、デルが日本市場を重視する理由
デルは、2009年2月に、全世界の組織体制を大幅に変更した。大手企業を中心とした「ラージエンタープライズ」のほか、「中小企業」、「コンシューマ」、「公共」の4つのグローバル組織とし、顧客ごとの体制を敷いたのだ。それから9か月が経過した。「製品中心の組織から、顧客中心の組織へと転換を図ることを目的とした成果は、日本でも着実に表れている」と、デル日本法人のジム・メリット社長は語る。さらに、「ハードウェアプロバイダー」から「ソリューションプロバイダー」への脱皮を図る方針を掲げ、ソリューション事業やサービス事業を加速。「日本はノンハードビジネスの比重が高く、グローバル戦略の先行指標となる。日本の市場はますます重要になる」とも語る。日本におけるデルの取り組みを追ってみた。
ジム・メリット社長 |
デルは、1984年5月、米国テキサス州で創業。今年で25年目を迎える。世界125以上の国と地域をカバー。53の営業拠点を展開している。年間売上高は、2009年度実績で610億ドル。フォーチュン500社の96%にデルのコンピュータが導入されており、現在、毎秒1台のペースで、コンピュータが出荷されている計算になるという。
昨今では新興国市場での取り組みを加速しており、同市場向けの製品ラインアップを強化、これら市場における成長率は、前年比50%増で推移しているという。
また、2008年に買収したストレージベンダーのEqualLogicにより、ストレージ事業を拡大。「買収時点では全世界で2500~3000社だった顧客数は、1年を経過し1万社に増加している」(メリット社長)という。
サービス事業に関しては、年間50億ドルの売り上げ規模に達しており、2009年にはPerot Systemsを買収したことでこれが85億ドルに拡大。全売上高の10%を超える規模になるなど、サービス事業の拡大に向けた準備にも余念がない。
日本においては、1993年1月から事業を開始。現在30億ドルのビジネス規模を持つ。従業員数は1500人で、神奈川県川崎市の本社のほか、東京・三田および大阪・堂島浜に営業およびサービス拠点を設置。さらに宮崎県宮崎市にテクニカサポートおよびカスタマーサポート部門を置いている。
日本法人社長にジム・メリット氏が就任したのが2006年。この4年間の取り組みについて、3つの重点課題の解決に取り組んできたと同氏は振り返る。
ひとつめは、カスタマーサービスおよびサポートによる顧客満足度の改善である。それまで中国・大連の拠点から行っていたテクニカルサポートを、新設した宮崎の拠点に移行。日本品質のサポートへとシフトすることで、クライアントPCではナンバーワン、エンタープライズサーバーやストレージサーバーでも1、2位を争う顧客満足度を達成することができたという。
2つめはソリューションビジネスの拡大だ。サービス、サーバー、ストレージ事業の売り上げ構成比の拡大に踏み出したほか、東京・三田にソリューションイノベーションセンターを設置して、ソリューション提案体制を強化した。
「プロフェッショナルサービスの事業規模は、世界的にみても日本が最大規模となる。この分野はさらに成長の余地があると考えている」とする。
そして3つめが、パートナービジネスの強化である。コンシューマ製品に関しては、従来からのダイレクトモデルに加えて、同社製品を展示販売するリテールパートナーの拡大に積極的に乗り出したほか、法人分野においても、SIパートナーとの連携を強化するなど、パートナービジネスの地盤づくりに注力した。
一方で、デル日本法人が、今後の重点課題として掲げるのが、ITのシンプル化、Efficient IT(ITの効率化)をベースとした「付加価値の高いソリューションの提供」のほか、デルが得意とするダイレクトモデルを活用した「オンライン機能の強化およびオンラインの一層の活用」、ノートPCを中心とした「クライアント製品の拡充」、ブログやTwitterを活用するほか、カスタマーイベントなどを通じて顧客の言葉に耳を傾ける「Listen/コミュニティ」の4点だ。
付加価値の高いソリューションの提供では、クライアントビジネスの効率化、データセンターの効率化、クラウドの導入支援をあげる。「これらの観点から、ITの自動化を進め、削減した人件費を、新たなIT投資予算にまわすといった提案を行っていきたい」とする。
また、メリット社長は、「私はデルに入社して11年を経過したが、その間、言われ続けてきたのは、デルは顧客の声に熱心に耳を傾ける企業であり、一緒にビジネスをしやすいという点だ。これは米国や日本だけでなく、中国やオーストラリア、インドでも同じであり、デルにとって大きな差別化策になっている」とした。
大規模企業のビジネス概況 |
一方、メリット社長は、4つのグローバル組織におけるこれまでの成果などについても言及する。
デル全社において最大規模の売上高を誇るラージエンタープライズでは、大規模企業のIT投資抑制が続いているものの、「クライアント、サーバー、ストレージ、プロフェッショナルサービス、マネージドサービスといったデルが持つ広範囲なポートフォリオを生かせること、柔軟性を持ち、安定性を持ったビジネスが行えることに評価が集まっている。シンプル化、標準化、自動化を通じてEfficient Enterprise(企業の効率化)を支援することができる。こうした取り組みによって、日本においては、ソリューションビジネスの収益が拡大している」とした。
大規模企業に対するWindows 7へのマイグレーションサービスや、クライアントをはじめとするIT資産のライフサイクル管理、仮想化技術の提案などを推進。さらに、データセンターに対しては仮想化技術の導入促進、データの重複や冗長化を防ぐストレージの最適化などを提案。クラウドについては、企業のプライベートクラウド環境に対するインフラ提案に加えて、来年後半には、パブリッククラウドサービスを日本でも開始する予定を明らかにした。
「IBMやHewlett-Packardと異なるのは、クラウドサービスをモジュラー型で導入できる点にある」と、メリット社長はデルのクラウドサービスの特徴を訴えた。
公共分野のビジネス概況 |
公共事業については、政府、自治体、教育、医療の4つの分野から事業を推進しており、教育分野向けには、公共市場に特化した初の製品として、ネットブック「Latitude 2100」を投入。HPCビジネスでは日本においても導入実績が拡大しており、名古屋大学、東京大学高エネルギー加速器研究機構、愛知県立大学、徳島大学、同志社大学、基礎生物研究所、農林水産研究情報総合センターなどに導入している。
中小規模企業のビジネス概況 |
従業員数500人以下の企業を対象としている中小企業においては、エントリーレベルの製品ラインアップを強化。従来は大企業向けにしか提供していなかった最新技術やソリューションを中小企業にも提供できるようになったとする。一方で、デルスモールビジネス賞を開催して、起業家や中小企業ユーザーを表彰。「Take Your Own Path(信じる道をいこう)」をキーワードとしたブランドキャンペーンを実施して、中小企業に対してデルのブランド訴求を強化してきた。
コンシューマ分野のビジネス概況 |
コンシューマ事業では、デザインフォーカス型の製品を相次いで投入。デザイン重視のAdamo XPSのほか、カラーバリエーションを用意し、パーソナライゼーションに対応したInspiron 545/546の投入。さらにはゲーミングブランドであるAlienwareを日本市場に初めて投入した。
「日本においては、さらなるリテールパートナーの拡大も必要だと考えている。コンシューマの売り上げ構成比は約2割だが、デルにとっては大きな成長源となる市場」と位置づけた。
日本におけるスマートフォンの展開については、「具体的なプランがあるわけではないが、展開するチャンスがあればやっていきたい」とした。
なお、Windows 7については、「発売1カ月間の引き合いは順調であり、今後についても強気の見通しを立てている。今後のIT需要拡大の起爆剤になるだろう。企業ユーザーについては、実際にWindows 7へ入れ替え始めるのは来年前半から後半にかけてと見ているが、マイグレーションサービスや、Windows 7を最適化するサービスメニューを用意するとともに、環境対応、コスト削減、管理性の高さといったWindows 7のメリットを訴求し、企業におけるWindows 7の導入に対応していく」などとした。
4つのグローバル組織化によって、組織を横断するような製品の展開に課題がでる可能性があるが、メリット社長は、「HPCやテクニカルサポート、CRMなどに関しては、すべての組織をまたがる形で展開しており、そうした問題は起こっていない」と否定した。
また、メリット社長は、「顧客志向の一層の強化」、「より広範なソリューションプロバイダーへの変革」、「重点市場としての日本におけるビジネスの強化」、「顧客向けサービス、サポートを重点課題として取り組む」といった4点を掲げた。
「デルの最大の強みは、顧客の声を聞く体制ができていることである。そして、今後、ソリューションプロバイダーへの移行を図る上で、日本市場における経験が大きな鍵になる。日本の市場や顧客から学ぶことが、デルの成長につながるだろう」としたほか、「サーバー、ストレージ、サービスの市場はまだまだ拡大。経済環境の悪化もあり、一時的には厳しい状況にあるが、ソリューションプロバイダーとしての変革を進めることで、デルの存在感を高めたい」とする。
日本はまだまだプロプライエタリのITシステムが数多く残っているとメリット社長は指摘する。
「この状況は、むしろデルにとってビジネスチャンスがあるということにもなる。これまでの4年間で多くのことを達成できたと自負している。だが、まだ仕事が終わったとは思っていない。やることはまだある」として、メリット社長は、今後の事業拡大に意欲を見せた。
2009/12/18/ 00:00