仮想化導入のプロに聞く、日本企業の仮想化の導入状況


 仮想化道場ではこれまで、各社のハイパーバイザーや仮想化関連ソフトの解説を行ってきた。今回は、少し視点を変え、仮想化ソフトを実際に販売しているディストリビュータの立場から見た仮想化の浸透度合いを調べてみた。伺ったのは、仮想化ソリューションを数多く手がけている株式会社ネットワールド。同社のマーケティング1部 部長の芹澤朋斉氏と、マーケティング1部 バーチャル・インフラグループ グループマネージャーの大城由希子氏に、日本におけるサーバー仮想化の現状を伺った。


仮想化は様子見から本格普及の段階に

―日本における仮想化ソフトの導入状況はどのようになっていますか?

マーケティング1部 部長の芹澤朋斉氏

芹澤氏
 2~3年前は、テスト導入ということで、VMwareの導入を行っていました。この段階では、実際に使いものになるのかどうかをテストしたり、問題点を洗い出すといったことがメインでした。

 しかし、一昨年から、アーリーアダプターとカテゴライズされるテクノロジーに敏感な企業の方々が、サーバー仮想化を本格導入してきています。これは、テストが終了して、企業で使いものになると判断されたためでしょう。

 昨年の経済危機によって、仮想化ソフトの導入時期や件数は、少しテンポがスローになってきていますが、ITのグリーン化やサーバーの集約といったことを重視され、次回のシステム更新で、サーバーの仮想化を行おうと考えていらっしゃるお客さまは非常に増えています。

大城氏
 サーバーの仮想化そのものは、一般的になってきています。ネットワールドでも、数多くセミナーを開催しているのですが、仮想化に関して興味を持たれているお客さまの知識レベルも聞きかじったレベルから、よくご存じになっているレベルまで、まちまちになってきています。こういった状況を見ていると、仮想化が特別なモノではなく、多くのお客さまの環境で動き出しているといえるでしょう。


―サーバーの仮想化は、どのような用途で使われているのですか?

マーケティング1部 バーチャル・インフラグループ グループマネージャーの大城由希子氏

大城氏
 まずは、サーバーの集約ですね。サーバーを集約することで、部門ごとに増殖する物理サーバーの数を何とか抑えたいというのがきっかけになっています。

 もう一つ大きな理由としては、古いシステムのマイグレーションです。リース切れや保守が打ちきりになった古いx86サーバーで動作しているWindows NTベースの情報システムを、新しいハードウェアで動作させるために仮想化を使われることが多いです。

 ハードウェアの更新と情報システムの更新(ソフトウェア)を一度に行うと、コストもかかりますし、何よりも新しく情報システムを設計し開発しなければならないので、時間もかかります。このため、仮想化を使って、新しいハードウェア上で古い情報システムを動かして、数年かけて新しい情報システムを構築し直すということが行われています。

 仮想化は、ハードとソフトを切り離して考えられることが重要になっています。ハードの陳腐化やリース切れにより、新しいITシステムを同時に構築するというのは、企業にとって大きな負担になっていました。こういったことを切り離して、お客さまの自由に検討できることが仮想化の大きな魅力になっているのでしょう。


―古い情報システムが新しいハードで動くとなると、なかなか新しいシステム開発はされなくなるのではないですか?

大城氏
 確かに、そういった感じはあります。ただ、レガシーのシステムに関しては、仮想化で動いているというだけですので、数年かけて新しいOS、新しい機能を再構築していくべきだとお客さまには話してはいます。実際、仮想化を導入されたお客さまは、数年間をかけて、ゆっくり新しい情報システムの要件をまとめて、現在のビジネスにマッチしたITシステムを構築されています。

 また、新しいITシステムは物理サーバー上で構築するのではなく、仮想サーバー上で構築されることが当たり前になっています。仮想サーバーが必須になっているのは、レガシーシステムのマイグレーションで仮想化を使って、便利だったという意識があるからでしょう。

 実際、数年前はWindows NTのマイグレーションという案件が多かったのですが、最近はWindows 2000 ServerやWindows Server 2003、Windows Server 2008を仮想化するという案件が多くなっています。

 ただ、こういったことは地域差があります。都市部のお客さまはWindows Server 2008を仮想化するといったことが当たり前になっていますが、地方ではまだWindows NTが物理サーバーで動いていて、何とかしたいといわれることもあります。


使われている仮想化ソフトはVMwareが大半

―仮想化ソフトはどの製品が多く導入されているのですか?

芹澤氏
 現在は、VMwareですね。XenServerやHyper-Vも注目はされていますが、やはり仮想化関連の機能がきちんとそろっているのはVMwareです。セミナーで各社の仮想化ソフトを紹介しますが、VMwareの機能を紹介すると、多くのお客さまは「この機能が欲しかったんだ」といわれることが多いです。ただ、XenServerやHyper-Vもバージョンアップで、VMwareに匹敵する機能をサポートしてきているので、VMware以外を利用されるお客さまも増えてくるでしょう。

 今後は、コストと機能、お客さまが行いたいことを勘案し、仮想化のプラットフォームを選択することが必要になってくると思います。

 また、仮想化の対象になるOSとしては、Windows Serverがほとんどです。Linuxなどもありますが、Windows Serverが圧倒的ですね。


―どのくらいのサーバーを集約されているのですか?

大城氏
 初期導入では、4~5台くらいで、集約率は高くないです。これは、サーバーの仮想化ということに対して、お客さまも半信半疑な部分があるからでしょう。まずは、4~5台で試してみて、様子を見ようということだと思います。

 いったん導入されたお客さまは、初期導入で余裕を持たせて運用し、その後、新しくリースアップを迎える物理サーバーを仮想化していき、徐々に社内のサーバーを集約していくというパターンです。まだまだ、一気に、すべてのサーバーを仮想化するという状況ではないですね。経済状況というファクターもありますが、非常にステップを踏んで仮想化されていくという印象を持っています。

 もちろん、仮想化を行われているお客さまでも、新しく物理サーバーを選ばれる場合もあります。例えば、データベースなどを動かすのに、パフォーマンスや保守を考えて、仮想化するのではなく、物理サーバーを新たに導入されることもあります。


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課題はアプリケーションの対応

―仮想化において、データベースやパッケージアプリケーションの対応や保守といったことは問題になっていませんか?

大城氏
 数年前に比べると、多くのパッケージソフトが仮想化に対応してきています。ただ、カスタムソフトにおいては、開発元が仮想環境での動作を保証できないとして、最終的に移行されなかったお客さまもいらっしゃいます。こういった場合でも、テスト環境においては、カスタムソフトもきちんと動作しているのですが、最終的な保守という問題が出てきています。

 ただ、お客さま側も賢くなってきて、2台の仮想サーバーを用意して、1台の仮想サーバーで動かしてトラブルが出たとすると、もう一台の仮想サーバーにvMotionなどで移行して、動作を確かめるということをされています。このような環境を利用することで、トラブルの原因が、ハードなのか?ハイパーバイザーなのか?アプリケーションなのか?ということが判断しやすくなります。

 トラブルの元がアプリケーションと分かれば、サポートに仮想化上で動かしているということはいわずにトラブルを報告すると、アプリケーションのバグで次回のパッチで修正されるといったレポートが返ってくるとあるお客さまはいわれていました。逆に、仮想化上で使っているというと、サポート側がてんやわんやになって、必要な情報がもらえないので、現状では仮想化ということは表には出していないとおっしゃっています。

 このように、ハードやOSといった層では、仮想化は当たり前になってきていますが、アプリケーションという部分ではまだまだ認知されていません。

 実際、いろいろな会社に仮想サーバーを導入するために、アプリケーションのテストをしていますが、ほとんどのアプリケーションは仮想環境でも動作しています。ただ、正式な保守が受けられないということがネックになっていることはあります。こういった場合でも、賢いお客さまは、先ほどのように、自分たちである程度トラブルの原因を見つけて、サポートに情報を求められています。


―やはり、保守やライセンスといったことが仮想化においての大きなハードルになっていますか?

大城氏
 そうですね。特にオフコンと同じように、ハードとソフトが一緒になっている製品は大変です。使用しているサーバーはx86で、OSもWindowsなのに、保守やライセンスの問題で仮想サーバー上で動かせないといったこともあります。ただ、最近ではオープン系システムを採用されているお客さまが増えているので、アプリケーションはパッケージをベースにして、自社に合わせて、少しカスタム化されていることが多くなっています。こういった環境なら、仮想環境でもまったく問題なく動作しています。

 今後は、インテグレータやソフト開発側でも積極的に仮想化を使ってほしいと考えています。最初から仮想環境でシステムを開発してもらえれば、完成したシステムを納入する場合でも、ファイルで納品できますから、システムのセットアップで手間取ることはありません。また、トラブルが起こっても、開発会社側に仮想環境があれば、簡単に納入したシステムを再現して、バグを見つけることもできます。

 こういった提案をソフト開発会社にしてはいるのですが、あまり受け入れられていないです。開発側にとっては、仮想化という層が一枚はいることは面倒くさいと思われているのかもしれません。

 ただ、米国の状況を見ていると、将来的には、仮想化ベースでのソフト開発が必須になっていくでしょう。


―ありがとうございました。



(山本 雅史)

2009/7/6/ 00:00