事例で見るセールスフォース:クラウド時代のIT管理術を学ぶ【第二回】

日本酒メーカーで使われた販売・生産管理システムとしてのセールスフォース

 第一回では、甲府市における定額給付金の給付システムの導入事例を元にセールスフォースの魅力に迫った。しかし、セールスフォースの魅力は、大規模なシステム開発の容易さとコストの低さだけにあるのではない。

 第二回となる今回は、中堅日本酒メーカーなど、中小企業の事例を元に、セールスフォースの販売・生産管理機能について紹介する。


低迷を続ける日本酒業界

 近年、日本酒業界は低迷を続けている。国税局の統計によれば、1970年度には年間約153万キロリットルもの消費があったにもかかわらず、2007年度にはその4割程度である約66万キロリットルにまで減っている。特に平成に入ってからは、一気に需要が半分にまで落ち込んでしまった。

 日本を代表する酒である日本酒業界がこのような状況に陥ってしまったのには、さまざまな理由がある。まず、「アル添酒」と呼ばれる、薄められた日本酒にエチルアルコールを足して増量したものが長らく主力となっていたということがある。これは本来、戦時中の物資不足を補うために採られていた製造法だったのだが、その利益率の高さから戦後もそのまま使われ続けた。需要の高さとアル添酒の利益率の高さにあぐらをかいた形となった日本酒業界は、次第に「売るための努力」をしなくなっていった。

玉乃光酒造の製品ホームページ

 こうした日本酒業界の現状を打開すべく、「本物の日本酒」の販売拡大に奮闘しているのが、今回紹介する京都市の中堅酒造メーカー「玉乃光酒造」である。同社は、本来の日本酒の作り方と味を大切にした「純米酒」をいち早く手がけ、アル添酒によって離れた日本酒ファンの心を取り戻そうと努力していた。しかし、今の時代、いいものを作っただけで売れるわけではない。苦労して作った「いいもの」を「いかに売るか」「どこに売るか」を考える必要がある。同社が、こうした販売管理に役立てるべく導入したのがセールスフォースだった。


セールスフォースによる効果的な販売・生産管理

 販売を強化する上で、販売管理や生産管理は不可欠となる。そのため、効率的な販売・生産管理を行えるシステムの導入は急務となっていた。

 とはいえ、もともと同社には、オフィスコンピューター(オフコン)を利用した販売管理や生産管理、会計のためのシステムが存在していた。しかし、そのシステムは10年以上も前に導入されたもので機能が非常に限定されており、販売実績を調べようにも、当月累計・地域別・請求先別の販売実績程度しか把握できなかったのだ。そのため、売り上げが落ちても、どこで、なにが、どのくらい落ち込んでいるのかをつかむことができなかった。そこで、販売・生産管理システムの再開発の一環として、セールスフォースの導入を選択したのである。

 数ある販売・生産管理システムの中からセールスフォースを選んだ理由は、従来のスタイルでシステムを開発したら最低でも100万円かかるところが、セールスフォースでは当面必要な3ライセンスなら、毎月数万円にもならないコストで始められるという敷居の低さにあった。

 同社ではセールスフォースのクラウド型システムを導入し、どのように活用しているのか? 『クラウドの象徴 セールスフォース』では、同社の担当者が次のように述べている。

 


 「まず利用したのは、スケジュール入力と販売実績の管理です。もうひとつの販売管理システムから抜き出したデータを、セールスフォースのデータベースに落とし込んで検索する、という使い方をしており、非常に便利に使っています」


 単純に当日の販売結果を見るだけでなく、セールスフォース上で業界団体である日本酒造組合中央会が発表する月別の統計データにアクセスして情報を取得し、集計に重ねるなどの工夫も行っている。

 さらなる活用法として、同書では次のように述べられている。

 


 「また現在は、日経POS情報サービスが提供する、各販売店の売り上げデータも取得し、一緒に組み合わせて見ることができるようにしました。要は、社内の情報と社外の情報を組み合わせて見ることができるようになっているんです。

 これが非常に重要なんですよ。例えば、純米大吟醸が何リットル売れているか、といった情報が分かります。単に本数だけじゃなく、どのような酒質の商品が、どれだけ出荷しているかが分かるんです」



中小企業とセールスフォース

 日本では、郵便局株式会社、みずほ総研、ローソンなど、大企業への導入事例が目立つ傾向にあるが、ここで挙げた玉乃光酒造のように、中小企業への導入も着実に増え始めている。

 本書では、玉乃光酒造のほかに、従業員10数名のネジ商社「ツルガ」の事例が、その代表者である敦賀氏の人柄とともに詳しく語られており、ビジネスとITのあり方について考えさせられる。

 


 そこで敦賀氏がセールスフォースのシステム上に構築したのは、日々の業務内容を記録していき、各社員が「進行中の案件を動かすために、どのように行動すればいいか」を、情報の面から助けるシステムだ。

 「どのような要望が寄せられたのか」「どのような対応をしたのか」「対応にどのような回答があったのか」「商談で提供した商品の詳細はどうか」「納入時、なにか特記しておくべきことは起きたか」といった情報を分析することで、個々の案件に対して漫然と取り組むのではなく、判断材料をシステムから社員に与え、最適な対応ができるようにしたのだ。

(中略)

 なお、敦賀氏には、ITに関する専門知識やシステム構築の経験は一切ないという。

 逆に彼が持っていたのは、前職である大企業において日報などを使って業務経過を記録した経験であり、ビジネススクールで学んだ最新の経営学の知識である。そういったものを、エクセルなどの身近なツールを使って試した上で、セールスフォース上に業務システムとして展開できた。それが大きな武器となったのだ。



 つまり、セールスフォースのクラウド型システムを、単に営業情報の共有のためのツールとして見るのではなく、営業マンの意識改革や業務プロセスの改善に活用しようとしているのである。ユーザー自身のカスタマイズが容易であるため、このような、ビジネス本来の使い方が可能なのだろう。

 本書は、このほかにも、中堅人材派遣業者やNPO法人の利用例も丹念に取材しており、これからクラウド型システムの導入を検討する企業や部署にとって、参考になる情報が多く掲載されている。


クラウドの象徴 セールスフォース
著者:西田 宗千佳
サイズ:四六判
ページ数:272p
発行:インプレスジャパン
ISBN:978-4-8443-2769-1
価格:1,680円(税込み)

 



(インプレスジャパン コンピューターテクノロジー編集部)

2009/11/25/ 09:00