PDC 09資料で見る、2010年のMicrosoftの動き【第一回】

正式スタートするクラウドサービス「Windows Azure Platform」

 11月に米ロサンゼルスで開催された米Microsoftの開発者カンファレンス「Professional Developer Conference 09(以下、PDC 09)」では、2010年以降のMicrosoftが目指すテクノロジーの方向性が発表されている。

 そこで、今回から4回にわたり、PDC 09の発表などから、2010年にどのような動きが起きるのか見てみる。今回は、2010年1月1日から正式サービスを開始するクラウドサービス「Windows Azure Platform」を紹介する。


正式サービスを開始するWindows Azure Platform

Windows Azure Platformは、2010年1月1日から有償化される。実際に課金が始まるのは2月1日から、1月は課金のテストが行われるため、請求は0円となる
Windows Azure Platformのリリースに合わせて、AppFabricのβ版の提供、ASP.NET MVCのβ2の提供など、さまざまなツールやモジュールが提供されている
SQL Azureで追加されるData Syncを使えば、オンプレミスで変更したデータを簡単にクラウド上に反映できる

 2008年のPDC 08で発表されたWindows Azure Platformは、非常に意欲的だった。データベースには、新たにAuthority(オーソリティ)、Container(コンテナ)、Entity(エンティティ)というACEモデルを採用するとしていた。

 しかし、SQL Server自体を利用したいという多くのユーザーの声に応えて、SQL Server(正式名称はSQL Azure)自体をWindows Azure Platformに移植することになった(ベースはSQL Server 2008 R2)。

 SQL Azureは、開発者にとってはSQL Serverそのままといえる。SQL Azureのプログラミングに関しては、ADO.NET、ネイティブのODBCなどがそのまま利用でき、Windows Azure Platformに移植されたPHPからアクセスすることも可能だ。また、SQL ServerのT-SQL(TDS)がサポートされているため、オンプレミスのSQL Server Report Server(ただしSQL Server 2008 R2のモノ)がそのまま利用できる。これにより、SQL Azureの状況を簡単に把握することができる。

 また、SQL Azureには、オンプレミスのデータベースとデータを同期するためにSQL Azure Data Sync(開発コード名:Huron)という機能が用意されている。Sync Framework 2.0を利用することで、データの同期化を実現している(オンプレミス側のSQL Serverには、Sync Framework Power Pack for SQL Azureというソフトが用意されている)。ただし、正式サービス開始当初はサポートされず、2010年の第1四半期にサポートされる予定だ。

 このほか、SQL Azureで用意される予定だったBusiness Intelligence(BI)やレポーティング機能(Azure上で動作するもの)なども、現在のCTP版では提供されていない。これらの機能は、将来的に実装される予定だ。ただし、SQL Server 2008 R2が持っているBIやレポーティング機能とSQL Azureを接続して利用することはできる。


CTP版と正式版で変わったところ、変わらないところ

Windows Azureは、最大8仮想CPUまでの環境が提供される
Windows Azure Platformは、Microsoftの製品だけでなくオープン環境もサポートする
Windows Azure PlatformとオンプレミスのWindows Serverは、連動して動作するようになる

 CPUやストレージなど扱うWindows Azureの部分は、PDC 08で発表された内容と大きな変更はない。

 仮想CPUに関しては、CTP版では2つに制限されていたが、正式版では、Small(1.6GHzのCPUが1つ)、Medium(1.6GHzのCPUが2つ)、Large(1.6GHzのCPUが4つ)だけでなく、新しくX LargeというVM環境が用意される。このX Largeならば、1.6GHz相当の仮想CPUを8つまで使用できる(I/Oはハイパフォーマンスを使用)。

 プログラミング環境としては、基本は.NET Frameworkがベースになっている。Webロールなどは、ASP.NETがそのまま利用できる。Windows Azure Platformは、.NET Frameworkだけでなく、PHPやJava、Python、Rubyなどのオープンなプログラミング環境が利用できる。もちろん、開発ツールとしてもVisual StudioだけでなくEclipseも使用できる(MySQLも用意されている)。

 .NET Servicesは、Windows Azure Platform AppFabricという名称に変更された。Windows Azure Platform AppFabricは、サービスを接続して連携して動かすためのAppFabric Services Bus、各サービスに対してのアクセス権を設定するAppFabric Access Controlが用意されている。これらのサービスは、PDC 08で.NET Servicesといわれていたモノだ。

 このWindows Azure Platform AppFabricに対応する形で、オンプレミス側にWindows Server AppFabricが用意される。Windows Server AppFabricやWindows Azure Platform AppFabricは、PDC 08で紹介された複数のサービスやテクノロジーを集めたものだ。また、WorkFlowは次世代のBizTalk ServeといわれていたDublin(開発コード名)、インメモリキャッシュによりデータベースアクセスのパフォーマンスをアップするVelocity(開発コード名)なども入っている(VelocityはAppFabric Cachingという名称になるようだ)。WorkFlow機能などは、Windows Server AppFabricと合わせてWindows Azure Platformでも実装されていく。これは、オンプレミスとクラウドでフローをコントロールする必要があるためだ。

 AppFabricは、計画としては、Azure上のサービスやサードパーティ、オンプレミスのサーバー上で提供されているサービスを連携させるWorkFlow Serviceも計画されている。しかし、正式スタートにはWorkFlowは間に合わない。

 もう一つ重要なのは、Windows Azure PlatformとオンプレミスのActive DirectoryなどのIDシステムを連携させるために、Active Directory側にActive Directory Federation Services 2.0というソフトが用意される。このソフトと.NET Frameworkに用意されているWindows Identity Foundation、Windows Azure PlatformのAppFabricが連携することでClaimベースのID認証が行える。

 簡単にいえば、Active Directoryで認証されたユーザーなら、Windows Azure Platform上に構築したアプリケーションであっても認証された状態になる。このため、ユーザーはWindows Azure Platform上で再度IDなどを入力しなくても利用できる。


Windows Azure Platformの価格

 Windows Azure Platformは、基本的に利用した分だけ料金を支払う従量課金制となっている。課金されるのは、Windows AzureなどのCPU、メモリ、Azureストレージなどを1つのパッケージにしている。さらに、SQL Azureのデータ容量、AppFabricのメッセージングの回数なども従量課金の対象となっている。このほか、ネットワークの帯域使用量として、データトランスファー料金が必要になる。

 Windows Azureの仮想マシンとしては、Small、Medium、Large、X Largeの4種類が用意される。

 最も小さなSmallは、1.6GHz相当のCPUが1つ、1.75GBのメモリで、0.12ドル/時間あたりとなっている。大体、CPUが増えていけば、それに従って追加料金が取られる。つまり、8つのCPUを使用するX Largeは、1つのCPUを使用するSmallの約8倍(0.96ドル)となっている。もちろん、CPU数に従って、メモリ容量も増えている。

 このほか、Azureストレージは、1GBあたり0.15ドル/月間。Azureストレージのトランザクションあたり0.01ドル/10万回。データトランスファーは、Inが0.10ドル/1GB単位、Outが0.15ドル/1GB単位だ。

 SQL Azureは、データ量1GBまでのWeb版が9.99ドル/月、10GBのBusiness版が99.99ドル/月となっている。現状では、10GBのBusiness版が最大容量となるが、Microsoftではデータ容量の拡張を計画はしている。2010年には、データ容量の拡張が行われるだろう。コストに関しては、1GBあたり9.99ドルが基本となる。

 Windows Azure Platform AppFabricでは、アクセスコントロール、サービスバスなどで使用されるメッセージにかかる料金として、それぞれ0.15ドル/10万回あたりとなっている。

 3つのサービスで共通のコストとして、ネットワークの帯域使用量として、データトランスファー料金がInに0.10ドル/1GBあたり、Outが0.15ドル/1GBあたりかかる(北米、欧州)。ただし、アジアのデータセンターはコストが高く、Inが0.30ドル/1GB単位、Outが0.45ドル/1GB単位となっている。

 このように細かく紹介しても、わかりにくいだろう。大ざっぱにいえば、ライバルのAmazonのクラウドサービスと同等のコストとなっているようだ(ちなみに、ドルと円の換算レートは1ドル98円)。最近の円高から考えると高い気がするが、2カ月ごとに為替レートは変更する予定と説明している。

Windows Azure Platformが2010年1月から提供されるのは21カ国。2010年の後半には、さらに20カ国が追加される
2010年1月時点で、11カ国の通貨で支払いができる。日本の円も入っている

 Windows Azure Platformは、2010年1月の段階で、米国、カナダ、イギリス、ドイツ、デンマーク、ユーロ(欧州)、ノルウェー、スウェーデン、スイス、日本、ニュージーランドなどの通貨で支払いが行える(2010年第2四半期にはオーストラリアドルでの支払いも可能になる)。もちろん、これ以外の国でも、米ドルベースでWindows Azure Platformを利用することができる(英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、日本語などの言語で請求が行われる)。

 基本的には、クレジットカードでの課金となるが、日本では請求書払いも用意されるようだ(月間250ドル以上の契約の場合)。この場合は、与信が必要となるため、若干手続きが面倒になる。

 基本的には従量課金(Pay to Go)で提供されるが、よりお得なサブスクリプションモデルやボリュームライセンスも用意されている。

 サブスクリプションモデルは、最低契約期間や複数のAzureサービスを組み合わせることで、大幅な割引を行っている。また、ボリュームライセンスは、MicrosoftのEA(Enterprise Agreement)を前提として、ほかのMicrosoft製品と合わせた契約になっている。EAに関しては、2010年中に、価格が表明される予定だ。

 現在、Windows Azure Platformのサービス開始時に期間限定で用意されたサブスクリプションモデルが3つ発表になっている(最低契約期間は6カ月)。

 初期特別提供は、Windows Azure Platformを試してもらうため、最低限のサービスを無償で提供している。Windows Azure Platform Development Accelerator Coreプランは、Windows AzureとAppFabricだけが利用できる(SQL Azureは入っていない)。通常の従量課金と比べると42%オフとなっている。SQL Azure(10GBのSQL Azure Business版)が含まれるWindows Azure Platform Development Accelerator Extendedプランは、従量課金よりも46%オフとなっている。

 現在発表されているサブスクリプションプランは、期間限定と表明されているが、いつまでという記述がないため、当面の間はこの3つのプランが提供されることになるだろう。Windows Azure Platformに新しいサービスが追加されたとき、また新しいサブスクリプションプランが提供されることになるのだろう。

 Windows Azure Platformのサービス開始に関しては、2010年1月1日からとなっている。それまでは、現在のCTPがそのまま無償で利用できる。機能としては、サービス開始時と現在のCTPではまったく同じものだ。

 また、2010年1月1日から有料サービスとなっても、1月にすぐ課金が始まるわけではない。実際の課金は2010年2月分からとなる。2010年1月分は、有償契約をしても、請求書の発送や課金のテストがあるため、0円の請求が行われる。


Coca-Colaでは、早速Windows Azure Platformを使って発注システムを作成した。IDは、Identity Foundationを使って、Windows Live IDと社内システムのIDがリンクしている販売店が簡単に製品を発注できるCoca-Colaのシステムの概念図

 本格的にサービスを開始するWindows Azure Platformだが、ビジネスで利用するための必要最低限の機能がそろったクラウドサービスといえる。ただ、PDC 08で考えていたようなコンシューマサービスを含めた新しいクラウド環境を提供するまでにはいたっていない。このあたりは、Windows LiveやOffice Liveなどが、Windows Azure Platformに連携する2010年中盤以降になるのだろう。

Windows Azure Platformを管理するSystem Center Cloudの画面

 また、ビジネスでの利用を考えると、Windows Azure PlatformとオンプレミスのWindows環境をダイナミックに管理する管理ツールが必要だ。Microsoftでは、System Centerのクラウド版を提供しようと考えている。このSystem Centerのクラウド版は、新たなソフトウェアというわけではなく、System Centerを構成する各アプリケーションにクラウド対応のプラグインなどが追加されることになるだろう。これにより、1つのSystem Centerアプリケーションから、オンプレミスもクラウドも一括して管理できるようになるだろう(ただし、Windows Azure Platform以外の他社クラウドも管理できるかは不明)。

 もし、Windows Azure Platformに興味を持っているなら、ぜひとも無料の初期特別提供サブスクリプションを契約し、Azureがどんなものか試してもらいたい。まず、試すことで、どんなことに使えるのかよくわかるだろう。





(山本 雅史)

2009/12/21/ 00:00