PDC 09資料で見る、2010年のMicrosoftの動き【第二回】

Windows Azure Platformに追加される新機能

 前回は2010年から正式サービスを開始するクラウドサービス「Windows Azure Platform」の全体像を紹介した。今回は、新機能を中心に紹介する。


Windows Azureの新機能

 Microsoftは、Windows Azure Platformでアンマネージのコードを動かすとしている。つまり、Windows Azure PlatformでC++などで書かれたネイティブのアプリケーションを動かすことができる。

 2010年中盤以降には、VMロールという機能を追加する。これは、Windows Azure Platformの仮想マシンをそのまま貸し出すものだ。つまり、ユーザーが作ったVHDイメージをWindows Azure Platform上で動かすことができる。アンマネージのコードもサポートすることで、ユーザーの実行環境をオンプレミスからWindows Azure Platformに移行することができるだろう。

Windows Azureのストレージで追加される新機能

 このVMロールを実現するために追加されるのが、AzureストレージへのDrivesという機能(2010年2月以降)。AzureストレージはBlobやTableといった単位でデータを管理しているが、DrivesはNTFSボリュームとして利用できる。このため、Azureストレージをドライブとして扱うことができる。つまり、BlobをNTFSボリュームとして管理できるようなインターフェイスを用意することで、アプリケーションからBlobをドライブとして見せている(実体としてはVHDファイル)。これにより、アプリケーションからの仮想的なドライブがWindows Azure Platform上でサポートされる。


BlobでコピーとスナップショットがサポートされるPage型のBlobストレージをサポートPage型のBlobを使ってAzure上でNTFSがサポートされる。これにより、Azure上でHDDが利用できる
Azure上でサポートされるドライブは、VHDの仮想HDDAzure上でBlobにある仮想ドライブにアクセスするには、NTFSがそのまま利用できるため、オンプレミスと同じ方法でアクセスできるWindows Azure Platformの耐障害性が仮想ドライブでも利用できる
AzureのTableでは、一括してデータが変更できるEntity Group Transactionがサポートされる

 細かな機能追加としては、Entity Group Transaction機能が追加された。この機能は、複数のインサートやデリート、アップデートを一度のトランザクションで処理できるようにしたもの。これにより、一括でデータの変更したい場合、一度の処理で終了する。一度のトランザクションで、100コマンドが上限となっている(4MB以内)。

 Blobにおいては、コピーやスナップショットといった機能もサポートされた。

 このほか、Tableでは、セカンダリーのインデックスをサポートすることが検討されている。これにより、Table機能が使いやすくなる。

 また、Windows Azure Platform用のCDN(Content Delivery Network)がサポートされることも今回明らかにされた。CDNのサポートにより、クライアントから膨大なデータにアクセスしても、十分に対応できる。特にCDNは、動画のストリーミングなどに使われるだろう。

 今回CDNをサポートしたことで、HD動画の配信などを行う無料のSilverlight Streamingは停止され、Windows Azure Platform上に移行することになる(Silverlight Streamingは10月末で終了)。

 無償から有償になったことは残念だが、その分Windows Azure Platformの強力なネットワークやデータセンター、CDNが利用できるため、安定した映像配信が行えることになるだろう。また、CDNは、ビデオだけでなく、さまざまなデータをキャッシュするため、膨大な数のユーザーがアクセスするサービスもWindows Azure Platform上で展開することが可能だ(CDNは、Blobデータを対象にしている)。


オンプレミスとWindows Azure Platformを接続する「Project Sydney」

Project Sydneyでは、オンプレミスのWindowsとWindows Azure Platformを接続する。オンプレミスでアップデートしたアイテムが自動的にWindows Azure Platformでも更新される

 オンプレミスとWindows Azure Platformを接続するためのテクノロジーとして、Project Sydneyといわれるものが計画されている。Project Sydneyでは、オンプレミスとWindows Azure PlatformをIPsecとIPv6でセキュアに接続する。これにより、オンプレミスでの変更を、すぐにWindows Azure Platformに反映することができる。さらに、ユーザー認証プラットフォームのGeneva(開発コード名)を使って、認証をサポートする。

 ベータテストは、2010年から始まり、2010年末のリリースを目指している。このため、詳細の説明は、PDC 09では行われなかった。


Windows Azure Platform上のサービス、PinPointとDallas

PDC 09で紹介されたPinPointの画面
Dallasは、Windows Azure Platformに構築されている
Dallasのアーキテクチャ

 PDC 09では、PinPointといわれるWindows Azure Platform上のサービスも発表された。PinPointでは、Microsoftのパートナー、パートナーが提供しているサービス、アプリケーションなどを簡単に検索できるようにしたサービスだ。このシステム自体がWindows Azure Platform上で構築されている。

 Microsoftでは、PinPointを拡張して、パートナーが開発したWindows Azure Platform上のサービスやモジュールを販売するマーケットプレイスにしていきたいと考えている。これは、salesforce.comのアプリケーション販売のAppExchangeと同じモデルだ。

 現在は、ほとんどがパートナーの紹介や製品カタログばかりだが、将来的にはWindows Azure Platformで提供される有償のサービスを紹介したり、ユーザーがPinPointで紹介されたサービスを簡単に取り込んで自社のWindows Azure Platform上で使用できるようにしたいと考えている。

 さらにPinPointの1サービスとしてDallas(開発コード名)が用意された。Dallasは、Data as a Serviceといえるサービスだ。Windows Azure Platform上にあらかじめ保存されたデータに対して、RESTやAtomベースで自由にデータフォーマットを変換して、ユーザーのサービスに取り込むことが可能になる。

 基調講演では、NASAのマーズエクスプローラが撮影した膨大なデータや写真をExcelなどの表形式、AtomやRESTなどのWebサービスとして、.NET Frameworkから簡単に呼び出し、データフォーマットを変換して利用するというデモが行われた。


Dallasでは、ユーザーが必要する形式でデータフォーマットを変換するNASAのマーズエクスプローラが撮影した写真もDallasで提供されている。データを変換して、3D映像にしている

 現在は、政府のパブリックドメインのデータがDallasで用意されている。Microsoft CTOのレイ・オジー氏は「膨大なコストをかけて作られたデータが、死蔵されている。Dallasを使用すれば、多くのユーザーや開発者がパブリックドメインのデータを利用しやすくなるだろう。また、Dallasのプラットフォームを使えば、貴重なデータを持っている企業がビジネスとしてクラウド上でデータの販売が簡単にできるようになる」と話している。


SQL Azureの新機能

1月1日からスタートするSQL Azureでは、基本のデータベース機能だけが提供される
SQL Azureのアーキテクチャ図。オンプレミスのSQL Server 2008 R2のレポーティング機能が利用できる

 SQL Azureは、基本部分のデータベースはSQL Server 2008を利用している。ただし、オンプレミスのSQL Serverとデータ同期を行うData Sync、Business Intelligence(BI)やBusiness Analytics、Reportingなどの機能は、今回のリリースではサポートされていない。これらの機能は2010年にサポートされることになる。特にData Syncの機能は、オンプレミスのサーバーとの連携に必須の機能となっているため、BIやReporting機能などよりも優先して作業が進められている。

 SQL Azureの新しい機能としては、データベースのクローン機能が2010年には提供される。これは、同じデータセンター内でのクローンだけではなく、データセンターをまたがってデータベースのクローンを行うことができる。これにより、エリアをまたがったバックアップも可能になる。

 もう一つ大きな発表としては、Vidaliaというコード名で開発されている、データの監査や改ざん防止、暗合化を行う機能だ。Vidaliaによって、企業の重要なデータを暗合化する。例えば、システム管理者でさえも重要なビジネスデータにアクセスできなくし、監査担当者のみがアクセスできるようにするといったことが可能になる。もちろん、データの変更や追加、削除などが行われれば、自動的に誰が変更したのかが、監査ログに書き込まれる。

 例えば、医療関係のシステムをクラウド上で構築した場合、個人データ、医療情報などがSQL Azureに置かれることになる。こういったデータがシステム管理者といえど、自由にアクセスできるようでは大きな問題になる。こういったシステムにVidaliaを利用すれば、セキュリティ性の高いクラウドサービスが構築できる。

 また、PDC 09ではHustonというコード名のSQL Azureの開発ツールが発表された。Hustonは、SQL Azureのデータベース構築をWebベースで行うツールだ。非常に簡単にデータスキーマーなどを決めて、テーブルを作ったり、データの追加、削除などが簡単に行える。


2010年には、SQL Azureでデータベースのクローン機能がサポートされる。データセンターをまたいでデータのクローンが行えるSQL Azureのメジャーバージョンアップでは、テキスト検索、データ変更のトラッキング機能、CLRのサポート、BI機能のサポートなどが検討されている
Vidaliaというコード名でデータの監査を行う機能が追加されるVidaliaを利用することで、オンプレミスとクラウド上で重要なデータを扱っても、きちんとした監査/管理ができるようになる

オンプレミスとクラウドを連携するAppFabric

AppFabricのワークフローコントロールには、以前Dublinというコード名の次世代BizTalkだったものが使われている
AppFabricでデータキャッシュを行うのが、開発コード名Velocity
Velocityは、2010年の中盤にはRTM版がリリースされる。Windows Azure Platformに搭載されるのは、オンプレミスのVelocityのRTMがリリースした後になる

 今回発表されたWindows Server AppFabricとWindows Azure Platform AppFabricは、オンプレミスとクラウドで連携して使うため、対になったソフトといえる。

 AppFabricは、PDC 08で公開されていた次世代BizTalkのDublin(開発コード名)、分散データベースのキャッシングシステムとなるVelocity、.NET Framework 4.0に含まれるアクセスコントロールやサービスバス機能などをすべてまとめ上げて1つのファミリー化したものだ(1つのアプリケーションに統合したわけではない)。

 Dublinは、BizTalkの次世代として、.NET Frameworkが持っているWindows Workflow Foundation(WWF)やWindows Communication Foundation(WCF)をコントロールして、ワークフローを作成するためのツールだ。Windows Azure Platform側にもAppFabricが用意されているため、オンプレミスとクラウドの両方にわたるワークフローのコントロールが可能になる。

 Velocityは、メモリ上にデータベースのキャッシュを作ることで、複数のサーバーにまたがっているデータベースに効率よくアクセスし、高いパフォーマンスを出すことができる。もちろん、オンプレミスのサーバー用にAppFabricがリリースされるため、オンプレミスでもデータベースのパフォーマンスをアップすることが可能だ。また、DataSync機能などと組み合わせることで、オンプレミスとクラウドに分散しているデータベースのアクセスをVelocityでパフォーマンスアップすることも可能だろう。

 Windows Server AppFabricは、2010年の中盤にリリースされ、その後Windows Azure Platformにも搭載されていく。現在、Windows Azure Platformには、サービスバスやアクセスコントロールなどの.NET Servicesの部分が先行して動作している。Windows Server AppFabricは、現在ベータ版がリリースされている。

 また、プログラミング言語として、PHP、Java、Ruby、Pythonなどもサポートされている(MySQLなどもサポート)。PDC 09のデモでは、ブログシステムとして有名なWordPressがすでに搭載されていた。


Velocityを利用すれば、複数のサーバーに分かれているデータベースを効率よくアクセスできるVelocityを利用することで、複数のノードを使ってもパフォーマンスが低下しないVelocityは、Appfabricとしてオンプレミスもクラウドにも提供されるため、両環境でシームレスに利用できる

標準化されたサービスの充実度が普及への課題

 企業でクラウドサービスを利用するのに必要なのは、多くのテンプレートだろう。現状のWindows Azure Platformでは、クラウドの基盤となる部分ばかり提供されている。やはり、企業がクラウドを活用していくためには、さまざまなサービスが必要となる。

 例えば、CRMやERPなどがないと、一からシステムをWindows Azure Platform上で構築する必要になる。Salesforceが多く利用されるのは、Salesforceのクラウド内にさまざまなシステムが用意されているからだ。さらに、テンプレートによりカスタマイズも簡単で、すぐにでもサービスが開始できる。このようなことを考えれば、最低限SharePoint ServicesやDynamics Servicesなどは早急に用意する必要がある。

 また、会計システムなどのパッケージソフトを販売している企業が、Windows Azure Platform上で自社の会計システムをサービスとして提供してくれれば、それと連携するような企業向けのクラウドサービスといったものも構築しやすい。

 さらに、コンシューマ向けのサービスを展開するには、決済機能などが一元的に提供されていれば、それぞれのサービスごとに決済システムを構築する必要もなくなる。

 今後Windows Azure Platformが、本格的に普及していくためには、クラウドプラットフォーム上にどれだけ標準化されたサービスが用意できるかにかかっている。すべてをMicrosoftが開発する必要はないが、いろいろなサードパーティがWindows Azure Platform上にサービスを構築してくれないと、クラウドのメリットは出てこないだろう。

 コンシューマ分野をみてみると、少し混乱があるようだ。Microsoftがコンセプトとしている3スクリーン(携帯、PC、テレビ)をサポートするためには、コンシューマ向けのサービスがWindows Azure Platformで動作する必要がある。特に、携帯やPC、テレビ(ゲーム機)などと連携するLive Servicesなどは、コンシューマ分野でクラウドを使うには必須のサービスとなる。

 こういったコンシューマ向きのクラウドサービスは、Wave4といわれるWindows Liveサービス、Office 2010をベースとしたOffice Liveなどが出てくる2010年中盤以降になるだろう。このような時期がきて初めて、コンシューマ向けの新しいクラウドサービスが打ち出されるだろう。

 企業でも、Windows LiveやOffice Live、Live Servicesを利用して、新しいコンシューマ向けクラウドサービスをWindows Azure Platform上に構築することもできるだろう。





(山本 雅史)

2009/12/22/ 00:00