PDC 09資料で見る、2010年のMicrosoftの動き【第三回】

コンテナ化されるデータセンター

 Microsoft.comやWindows Live、Windows Update、Bing、Windows Azure Platformなど、Microsoftは世界でも有数のデータセンターを運用している。しかし、その実態は、なかなか明らかにされてこなかった。PDC 09では、Microsoftでデータセンターの運用や研究を行っているMicrosoft Global Foundation Servicesのデータセンター リサーチ&エンジニア ディレクターのダニエル・コステロ氏の記者会見が行われた。

 今回は、Microsoftのデータセンター戦略を見てみよう。


世界6カ所で運用されるWindows Azure Platformのデータセンター

Windows Azure Platformは、世界で6カ所のデータセンターで運用される。その中でもダブリンとシカゴは2009年にオープンした最新鋭のメガデータセンター
Microsoftのデータセンターは、サーバーからラック、コンテナ、IT PACへと進化している。ダブリンとシカゴは、最新鋭といっても第三世代のもの。今後は、IT PACを使った第四世代のデータセンターが構築される

 Microsoftは、Windows Azure Platformのサービスを行うために、世界に6つの大きなデータセンターを運用している。北米はシカゴとサンアントニオ(テキサス州)、欧州はダブリン(アイルランド)と西ヨーロッパ(場所は不明)、アジアは香港とシンガポール。

 これらのデータセンターは、Windows Azure Platformだけのモノではなく、Windows LiveやBingなどMicrosoftのさまざまなネットサービスも運用されている。Microsoftの主要なデータセンターは、この6カ所といえるだろう。

 コステロ氏は、Microsoftが運用しているサーバーの数などは明かさなかったが、検索だけで月間21億6000回ものクエリが発生し、Windows Live IDは毎日10億回以上の認証などが行われている(2008年のデータ)。こういったデータから見れば、世界全体では信じられない数のサーバーが運用されているとおもわれる。

 また、クラウドのサービスが増え、ユーザーが増えるに従って、運用しているデータセンターの規模も日々拡大している。2003年から5年間で、サーバーの台数は15倍にもなっている(2008年にはサーバーの台数は30万台)。2009年はWindows Azure Platformのサービスインに合わせて、シカゴとダブリンのデータセンターがオープンしたことで、さらに倍増している。

 特に、新設されたダブリンとシカゴのデータセンターは、「メガ」データセンターといわれるほどの膨大なデータセンターだ。ダブリンが約2万8000平方メートル(東京ドームの約2/3)、シカゴは約6万5000平方メートル(東京ドームの約1.3倍)という広大な敷地にデータセンターが建っている。

 ダブリンとシカゴのデータセンターの特徴は、コンテナを使用した第三世代のデータセンターが利用されている点にある。


シカゴで運用されているコンテナサーバー群ダブリンで運用されているラックサーバー群。このフロアでは、高信頼性を求めて、旧来のデータセンターと同じようなシステムとなっている

 これまで、Microsoftはラックサーバーを床上げした建物に設置していた。また、建物全体をエアコンでクーリングしていたため、膨大な電力を必要としていた。このため、データセンターにかかるコストの30%を電力が占め、データセンターで使用する総電力の40%をエアコンなどの冷却で消費されている。

 しかし、第三世代のデータセンターでは、エコロジーや省電力に配慮して、エアコンを使用せず、外気を利用したクーリング、水道水を利用した水冷が使われている。

 もう一つ重要なのは、サーバーの設置を床上げしたフロアに設置するラックサーバー型ではなく、サーバーやストレージユニットなどを積んだコンテナを開発し、簡単にサーバーの拡張が行えるようになっている点だ。これにより、旧世代のデータセンターのように建物の内部全体を冷却する必要はなく、サーバーが積まれたコンテナ内部だけを冷却すればいいので、電力面でのメリットが高まっている。

 シカゴのデータセンターは、2階建てになっており、1階にコンテナサーバーを収容し、2階は旧来のラックサーバーによるデータセンターが作られている。コンテナサーバーはコスト面を重視し、ラックサーバーは信頼性などを重視したモノとして位置づけが異なる。

 1階部分の写真を見てみると、貨物の集積場のように整然とコンテナが並んでいるのがわかる。シカゴのデータセンターで利用されているコンテナサーバーは、最新世代ではないため、サーバーなどが入ったコンテナの上に電源や冷却のためのシステムを入れたコンテナを積んで2段重ねになっている。


シカゴのデータセンターは、建設に約500億円かかっている。大きさは、約6万5000平方メートル(東京ドームの約1.3倍)1階は、コンテナサーバーが二段重ねで配置されているシカゴのデータセンターは、第三世代と第四世代のデータセンターとして運用できるように作られている

 コンテナサーバーにしたことで、サーバーの増強が非常に簡単になった、とコステロ氏は話している。実際、電源やネットワークなどを接続するだけなら、コンテナが搬入されてから1日かからずに、サーバーに火を入れられる。

 運用面もよく考えられており、MicrosoftのSystem Centerなどを十分に利用して、コンテナに積まれた数百台のサーバーにOSやアプリケーションを簡単に配置して運用できる。コンテナサーバーが搬入されてから、実際にサーバーを運用するまでに、1週間もかからないようだ。


第四世代のデータセンターは建物不要

第四世代のデータセンターは目標としては、屋外での運用を計画している
第四世代のデータセンターで使われるIT PAC
IT PACは標準化されているため、一人が4日で作り上げることができる

 ダブリンやシカゴのデータセンターは、大きな建物を建設して運用している。これは、既存のラックサーバーとコンテナサーバーを共存させているからだ。しかし、第四世代のデータセンターは、すべてをコンテナ化(IT PACと呼ばれている)して、空き地に置くような形になるようだ。

 第三世代のコンテナサーバーは40フィートのコンテナを使っているが、第四世代のIT PACは20フィートとコンパクト。IT PACには9×45U(405U)のサーバーが入っており、250KWで動作する。コンパクトでも、最新のマルチコアCPUなどを採用することでパワフルなサーバーシステムとなっている。

 IT PACは、各種のモジュールをスタンダード化することで、一人の人間が4日間で1台のIT PACを組み立てることができるのが利点だ。コンテナサーバーと比べ、スピーディにくみ上げることができる。

 また、寒冷地に屋外設置のコンテナサーバーを置くことで、サーバーの冷却に自然冷気をそのまま利用することもできる。水を利用すれば、コンテナ内部を水冷で冷やすことも可能だ。水に関しては、飲料用の浄水ではなく、工業用水でも、リサイクル水でもOKなので、データセンターの設計をうまくすれば、リサイクル水を使用することもできるだろう。

 なによりも、電源とネットワークさえあれば、低コストでデータセンターが設置できるのは魅力的だ。ダブリンやシカゴのデータセンターでは、建物を建設したため時間もコストも相当かかる。実際、シカゴのデータセンターは、昨年のリーマンショックによる不況でコストが抑制されたものの、約500億円ほどかかっている。

 もう一つのメリットは、コンパクトであるため柔軟な運用が可能という点だ。必要なときに簡単に増強でき、需要が増えている地域にエッジサーバーとしてIT PACを複数台持ち込んで運用するといった、フレキシブルなデータセンター運用を実現できる。

 PDC 09の展示会場で展示されていた20フィートのIT PACをみると、非常にコンパクトにまとまっており、水冷と自然空冷で十分に運用は可能と感じた。


PDC 09の展示会場に持ち込まれたIT PACの現物IT PACの裏側は、メンテナンスしやすいように、ラックごとにドアがついている
IT PACの電源ソケット。480Vの表示がある冷却水のための配管

IT PACのドアも自然冷却が行いやすいようにスリットが空いているIT PACに積まれているサーバー中央の柱の内部に冷却水が通っている。もちろん、監視カメラもついている

 ただし、こういった自然冷却型のコンテナを使用するには、データセンターの場所を寒冷地にする必要があるだろう。また、サーバーの密度が高いと、サーバーにトラブルが起こったときのメンテナンスをどうするのか疑問だった。しかし、現物のIT PACを見ると、多くのサーバーがモジュール化されているほか、電源や冷却水の循環パイプなどもモジュール化されているため、メンテナンスも簡単にできるようになっている。

 MicrosoftではWindows Azure Platformに関して、ユーザーが自社のプライベートクラウドとしてシステムが構築できるようなソフトウェアキットは提供しない。しかし、Windows Azure Platformに関するリクエストが高まれば、IT PACなどのハードウェアの形で、Windows Azure Platformをプライベートクラウド用に販売する可能性もあるとしている。ただ、そのときでも、システムの管理に関してはMicrosoftが行うというのが基本ポリシーとなるようだ。

 もう一つ、日本のユーザーにとって気になるのは、日本国内にWindows Azure Platformのデータセンターを設置するかどうかだ。現状では、香港とシンガポールにアジアのデータセンターは集約されている。日本法人のスタッフも、日本のユーザーは日本国内にデータセンターがほしいというリクエストがあることは分かっている。とはいえ、データセンターを設置するには、コストがかかるため、日本国内である程度Windows Azure Platformが普及しなければならないだろう。

 しかし、IT PACのような第四世代のデータセンターシステムができあがれば、メガセンターとはいわなくても、IT PAC数台で運用するようなエッジのデータセンターが日本国内に置かれる可能性もある。そういった意味でも、日本国内にWindows Azure Platformのデータセンターができるかどうかは、日本国内でどれだけWindows Azure Platformが受け入れられるかにかかっているだろう。



(山本 雅史)

2009/12/24/ 00:00