マイクロソフトvsグーグル、使える企業向けメールサービスはどっち?【第一回】

全世界200万社が導入する「Google Apps」

 マイクロソフトは2月23日、クラウドサービス「Azure」を国内で本格的に展開すると発表した。2009年からMicrosoft Online Servicesといったサービスも積極的に展開しており、2010年を“クラウド元年”にすると宣言している。

 一方、グーグルも2009年秋より企業向けにGoogle Appsのプロモーション活動を大々的に行うなど、企業ユーザーに対して積極的な取り組みを行っている。

 企業にとって、スパムメール・ウイルスメール対策、増加するメール容量など、メールサーバーの運用負荷が高まっており、“メールサービスのクラウド化”は関心の高い分野だろう。そこで、今回よりメールサービスを中心に、マイクロソフトおよびグーグルのクラウドサービスを紹介する。

 初回は、グーグルが提供するGoogle Appsにフォーカスする。


Google Appsはこんなサービス

Google Appsの管理コンソール。ユーザーの追加・削除のほか、メールやカレンダーといったサービスごとの詳細設定が行える

 Google Appsは、メール(Gmail)やスケジュール(Googleカレンダー)、ワープロや表計算ソフトといったオフィスアプリケーション(Googleドキュメント)のほか、メーリングリストやビデオなどの機能が用意されたクラウドサービスだ。

 Google Appsで用意されているGmailやGoogleカレンダーなどは、コンシューマ向けに無償提供されているものと基本的には同じもの。異なるのは、Gmailを独自ドメインのメールアドレスで使える点や、メールボックスの容量が大幅に増加していること、また稼働保証のサポートなど、企業での利用に最適化しているところだ。

 このGoogle Appsは、最大50ユーザーまで無償で利用できる「Google Apps Standard Edition」、企業利用に適した有償の「Google Apps Premier Edition」などが用意されている。提供される機能はほぼ同じだが、Premier Editionでは、1ユーザーあたり25GBのメールボックス、99.9%のメールサービスの稼働保証などがサポートされている。Premier Editionの価格は、1ユーザーあたり年間6000円。


Google AppsのGmail。基本的にはコンシューマ向けと同じものGoogle AppsのGoogleカレンダースプレッドシートアプリケーションなども利用できる

巨大なメールボックス、運用コストなどでGoogle Appsを選択

 Google Appsは全世界で200万社以上(2009年10月時点)の企業で採用されており、現在も利用企業は増えている。国内でもGoogle Appsを提供するパートナーの数が50社を超えるなど、ビジネスとして順調に成長している。

 国内での導入状況などを、グーグル株式会社エンタープライズプロダクト マーケティングマネージャーの藤井彰人氏に話を伺った。


―Google Appsを導入する企業は、中小企業が多いのでしょうか?

エンタープライズプロダクト マーケティングマネージャーの藤井彰人氏

藤井氏
 もともとは、自社サーバーを持たない企業、例えば起業早々の企業などが利用するイメージでしたが、今は大規模企業での採用も増えています。海外ではロサンゼルス市、国内ですとJTBなどで採用していただいています。


―なにをきっかけとして、Google Appsを検討する企業が多いのでしょうか?

藤井氏
 多いのはメールボックス容量の不足ですね。IMAPサーバーの場合、一人あたり100MBレベルという企業は多いので、Gmailで提供する巨大なメールボックスに関心を示しています。

 また、スパム・ウイルスチェックについても関心が高いですね。スパムメールやウイルス対策は多くの企業で苦労していることですから、Google Appsを利用することで解決しようと考える企業は多いです。

 そのほか、運用コストや稼働率といった観点でも評価されています。自社でメールサーバーを運用するよりも、Google Appsを利用したほうが、運用コストを大幅に削減できますし、稼働率という面では、定期的なメンテナンス・計画外のメンテナンスなどが自社運用では起こりますが、Google Appsであればそういった停止はありません。


―どのようなメールシステムからの移行が多いのでしょうか?

藤井氏
 いろいろですよ。ただ、導入企業数が多いということもあり、Lotus NotesやExchange Serverからの移行が多くなっています。


―移行作業は、大変ではないですか?

藤井氏
 そうでもないんです。自社でシステムを構築する場合はキャパシティプランニングなどが必須ですが、Google Appsなら不要ですから、純粋に機能そのものの評価をしていただくだけです。移行作業も併存期間を設けるなど、業務に支障をきたすことなく移行できます。実際、6000名規模の会社の場合、3カ月でGoogle Appsに移行されたところもありますから。


―SaaSに対してよくいわれるのが、「社外に自社データを置くことへの不安」があります。Google Appsを選択された企業にもありましたか?

藤井氏
 話としてよく聞きますが、感情的な気持ち悪さだけですよね。自社といっても実際に置いているのはデータセンターであったりするわけですから。また、Google Appsは巨大なデータセンターで運用しており、データそのものも完全に難読化しています。各種セキュリティ基準にも対応していますから、そのあたりを丁寧に説明するようにしています。


―Google Appsの中で一番使われているのは、やはりGmailですか?

藤井氏
 はい。使い方としてはメールが一番ですね。

 ただし、Google Appsはユーザー視点のイノベーションありきのサービスだと考えていますので、どのようにサービスを受けるかが本当はポイントなんです。他社も似たサービスを提供していますが、(既存システムをそのままクラウド環境に置くという)サーバー仮想化の延長になっています。Google Appsはそうではなく、あくまでもサービスによるイノベーションを重視したサービスです。Gmailそのものが革命的なインターフェイスを採用していることからも理解していただけるのではないでしょうか。

 われわれとしては、分散している情報をGoogle Appsで一元化することで、作業を効率化できると考えています。これが本当のメリットです。


―確かにGmailなどを利用すると、新しい使い方が求められているのは理解できます。しかし、企業で導入する場合、従業員に対して新たなトレーニングの負担が発生するのではないでしょうか?

藤井氏
 そうですね、トレーニングは必要です。従来のメールソフトと違い、メールそのものがデータベース化しているので、検索して探すといった使い方を徹底する必要はあるでしょう。

 一方、トレーニングは不要という考え方もあります。というのも、Gmailそのものがコンシューマ向けに提供されているサービスであり、直感的に使えるようになっているからです。若い人などコンシューマ向けのGmailの経験がある方は、すんなりと使えているようです。


―Google Appsというと、昨年末に大規模なキャンペーンを実施していましたね。品川駅にキャンペーンポスターを掲示するなど、アナログな取り組みが印象的でした。

藤井氏
 おかけさまで、「Go Googleキャンペーン」は予想以上の成果が得られました。実は、Google Apps=Gmailとおもわれている人が意外に多く、Gmailならすでに使っているといった声が聞かれていたんです。このキャンペーンでは、独自ドメインが使えるだとか、シングルサインオンにも対応できるといった、Google Appsとしての機能をあらためて紹介できました。


―Google Appsには、30日間試用可能なサービスが用意されていますが、独自ドメインが必要ですよね。

14日間試用できるサンプルアカウントの申し込みページ。メールアドレスを入力するだけで、すぐに試用できる

藤井氏
 そうですね。この試用版は本番環境での利用を前提としたものですから、独自ドメインは必須となっています。

 試用という意味では、無料のサンプルアカウントを用意していますので、こちらを使うのが最適でしょう。14日間と半分の期間しか利用できませんが、管理者向けの各種ツールなどもそのまま体験できます。Google Appsの導入を検討されている方は、まずこちらで試すといいでしょう。





 次回は、マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Online Services」を紹介する。





(福浦 一広)

2010/4/2/ 09:00