Enterprise Watch

企業IP電話サービスの選び方 [前編]


企業IP電話比較・検討・導入ガイド

 企業IP電話に対する注目が集まっている。しかし、企業IP電話の導入形態は、目的や既存環境により大きく異なり、どれを選択すればいいか迷っているのではないだろうか。今回、企業IP電話の導入の実例を紹介するムック「企業IP電話比較・検討・導入ガイド」(インプレス発行)より一部を抜粋し、企業IP電話の選択肢とそれぞれの特徴を紹介する。前編では、企業IP電話の選択肢について触れる。





 企業IP電話にはいくつかの選択肢がある。おもな選択肢は、IP外線電話サービス(企業向けIP電話サービス)、IPセントレックスサービス、自営VoIPゲートウェイ、自営IP-PBXである。これら4つの選択肢には、それぞれに一般的なメリットとデメリットがあり、一概にどれが優れているという言い方はできない。どれを選択するかは、導入企業の状況や導入目的によって異なる。また、1つではなく、複数の選択肢を併用できる場合もある。

 「IP電話では、これまでのPBXをすべて捨てなければならないのか」という質問がよくある。しかし、この4つのどれを選んだとしても、従来型のPBXと組み合わせて使う方法はある。

 特にIP外線電話サービスと自営VoIPゲートウェイのどちらかを使う際には、従来型のPBXは1台も撤廃されない。IP外線電話サービスでは、従来型のPBXをIP電話サービスにつなぐことで、外線通話コストの低減を狙う。自営VoIPゲートウェイでは、PBXをIPネットワークにつなぎ、特定の拠点間の通話コストを減らす。つまり、既存のPBXを前提として、IP電話の利用により内線通話コストを削減する。自営IP-PBXでも、一部の拠点だけIP-PBXに代えることが可能だ。IPセントレックスサービスでも、従来型のPBXを組み込めるようにしているサービスがある。


選択肢1 IP外線電話サービス

IP外線電話サービス(企業向けIP電話サービス)
 多くの場合、「企業向けIP電話サービス」と形容されるこの種のサービスは、個人向けのIP電話サービスと基本的に同じ形態のものだ。いままで一般加入電話サービスを使っていた外線通話を、IP電話の仕組みに切り替えることで、外線通話料が安くなる(右図)。

 企業向けに提供されているIP外線電話サービスは、従来型の電話機やPBXを、そのまま使い続けることが前提である。そしてこれらに「VoIPゲートウェイ」と呼ばれる機器を接続して音声信号とIPデータの変換を行い、データ通信サービスを通じてIP外線電話サービスの事業者と接続する。

 サービス事業者からはIP電話用に050番号を割り当ててもらい、これによって、IP電話経由の外線発着信を行う。個人向けサービスと同様、同じ事業者のサービスを利用しているユーザ同士の通話料は無料となる。一般固定電話や携帯電話にかける場合は、従量料金がかかる。一般固定電話への通話料はサービスによって若干異なるが、たとえば国内一律3分8円、つまり市内通話料金と同程度だ。携帯電話への発信はたとえば1分20円、国際通話料金も、米国で1分6円などである。したがって、国際電話や長距離電話、携帯電話への発信が多い事業所では、明確に外線通話料を削減できるという期待が生まれる。

 IP外線電話サービスを利用すれば、少なくとも外線電話への発信については、一般加入電話を使うことなくすべてIP電話で行うことができるようになる。これまでの一般加入電話回線は、既存電話番号での受信や緊急番号発信の用途に限定できる。したがって、契約回線の数を減らすことができる。

 ただし、IP外線電話サービスはほとんどの場合、特定の企業向けデータ通信サービスと組み合わせて提供されている(例外もある)。組み合わされるIP通信サービスとしては、個人向けよりも通信品質に優れたものを使っている場合もあるし、消費者向けと同じ場合もある。いずれにしても、通常はIP電話サービスとデータ通信サービスに、別の事業者を利用することはできない。

 また、これはあくまでも外線接続サービスなので、他の事業所との間で任意に設定する内線番号を使った内線通話を行うことはできない。同じIP電話サービス事業者を使っているユーザ間の通話料が無料になるという仕組みを使って、拠点間の通話料を無料にすることはできるが、IP電話の外線番号である050番号を使って、他の事業所を呼び出さなければならない。


選択肢2 IPセントレックスサービス

IPセントレックスサービス
 IPセントレックスサービスでは、事業者がユーザ企業に対して、内線通話の機能をIPネットワーク経由で提供する。このため、企業側では従来型のPBXを撤廃することができる。PBXを撤廃した事業所では、従来型の電話機の代わりに、IP電話機を導入する。そしてそれぞれのIP電話機が、IPネットワークを通じてサービス事業者のデータセンターで運用されるIP-PBXとやり取りをして、電話の発着信や転送を行う(右図)。事例で取り上げた日立ブレーンは、このサービスを利用している。

 この種のサービスでは、事業者はIP-PBX1台あたり複数のユーザ企業に対するサービスを提供することが多い。ユーザ企業1社あたり1台のIP-PBXが専用で割り当てられるのではなく、複数の企業で1台のIP-PBXを共用することで、サービス料金が安くなる。それでも、事業者の運用するIP-PBXでは仮想的に電話機をグループ化する機能があり、各ユーザ企業は任意の内線番号を利用することができる。自社で利用する内線番号が他のユーザ企業とぶつかるようなことを心配する必要はない。

 複数の事業所を持っている企業は、これらの事業所で1つのIPセントレックスサービスを採用すれば、場所にかかわらず1つの内線番号体系のもとに内線通話が行なえるようになる。同じIPセントレックスサービスを使う事業所間の内線通話料は無料となる。

 IPセントレックスサービスは、基本的には内線通話をIP化するサービスだが、ほとんどの事業者ではIP外線電話サービスも提供している。このため、IPセントレックスサービスを使って、内線通話、外線通話ともに通話料の削減を狙うことができる。

 ただし、IP外線電話サービスと同様、IPセントレックスサービスも、ほとんどの場合、特定の企業向けIP通信サービスの利用が前提条件となっている。

 IPセントレックス型サービスでは、導入拠点でPBXを撤廃するのが基本だ。しかし、サービスによっては、従来型のPBXの接続もできるようにしている場合がある。こうしたサービスならば、すべての拠点のPBXを同時に撤廃してIP電話機に入れ替える必要はなくなる。段階的に移行していくことができるのだ。

 IPセントレックスサービスにPBXを接続する場合は、外線番号でなく内線番号で相互に通話できる。これを利用して、IP電話機をまったく導入せずに、全事業所でPBXを残したまま、IPセントレックスを導入したのが、本誌特集1の事例で取り上げたトヨクニ電線だ。


選択肢3 自営VoIPゲートウェイ

自営VoIPゲートウェイ
 これは、企業が自社の事業所にVoIPゲートウェイを自前で設置し、運用する方法だ(右図)。以前からあるが、拠点間通話料を明確に削減できる方法の1つとして知られている。本誌特集1の事例に取り上げられている三越が選択したのは、この方法だ。

 VoIPゲートウェイ、つまり、電話の音声信号とIPデータとの変換装置を、企業の各事業所に設置し、それぞれをPBXおよびネットワークと接続する。これを使って、PBX間の内線通話をIPネットワークに乗せて流す。企業の事業所間が安定した通信品質のIPネットワークでつながっていれば、このデータ通信に「ただ乗り」する形で、音声通話を行うことができる。VoIPゲートウェイでつながれた事業所間の通話料はゼロになる。また、VoIPゲートウェイで接続された事業所は、すべて自社の内線番号体系に含めることができる。

 自営VoIPゲートウェイによるIP電話は、従来型のPBXを使い続けることを前提として通話料を削減するには、手っ取り早い方法である。

 大きな利点の1つは、自社の広域データ通信網を自由に構築できることにある。IP電話サービスを利用しないので、データ通信サービスについてはIP電話導入の都合に左右されることなく事業者を選択、導入することが可能だ。

 コストパフォーマンスの高いデータ通信サービスの利用環境が成熟しつつあり、こうした新しいサービスを利用して、自社の広域データ通信網を再構築しようとする動きが広まっている。以前のように2地点間を接続する回線の集合体としての広域網ではなく、全拠点間で網の目のような(メッシュ状の)通信を、しかも高速かつコスト効率よく実現できるようになってきている。VoIPゲートウェイによる音声・データ統合は以前からある方法だが、このようにデータ通信環境が大きく変化したことで、以前よりも非常にやりやすくなってきた。

 自営VoIPゲートウェイを使ったIP電話の実現手法は、拠点間通話料の削減が中心的なメリットだ。しかし、外線通話料についても一部削減できる可能性がある。これは「専公接続」あるいは「オフネット通話」と呼ばれる。

 たとえば大阪、福岡、東京に事業所を持つ企業が、この3事業所をVoIPゲートウェイで相互接続しておけば、まず相互間の通話が無料で行える。さらに、大阪事業所の社員が東京の顧客に電話したい場合、市外局番に03を指定すると、自動的に大阪事業所から東京事業所にIP電話で中継され、東京事業所のPBXから外線発信をするというテクニックが使える。するとこの場合、大阪事業所から東京の顧客への電話にかかる料金は、市内通話料金だけということになる。

 また、IP外線電話サービスを併用することも可能である。


選択肢4 自営IP-PBX

自営IP-PBX
 自営IP-PBXは、文字通りIP-PBXを自社に設置、運用するというものだ。導入拠点では従来型のPBXを撤廃し、IP-PBXとIP電話機を設置する。IP-PBXとIP電話機の間のやり取りは、ネットワークを利用して行う。IP電話機には電話線ではなく、LANケーブルを接続する(右図)。

 自営IP-PBXの場合も、自営ゲートウェイの場合と同様、事業所間のデータ通信網が整備されていれば、これを活用して拠点間通話料をゼロにすることができる。IPセントレックスやIP外線電話サービスのように、特定の通信サービスの利用を強いられることもない。一方、外線通話料に変化はない。外線通話料の削減を狙いたいなら、別途サービスを併用することが考えられる。

 IP-PBXを中心としたシステムの単価が、従来型の電話システムと比較して安価かといえば、必ずしもそうとは言えない。製品によっては、逆に高価になる場合もある。しかし、IP-PBXがIP電話機とのやり取りを、IPネットワーク経由で行なうことからくる利点がいくつかある。

 従来型PBXは、拠点ごとに配置されなければならない。一方、IP-PBXの場合は、理論的には安定した広域IPデータ通信インフラが利用できるなら、1事業所に設置したIP-PBXを、どの事業所からも利用できることになる。したがって、たとえば本社だけにIP-PBXを配置し、他の事業所ではIP電話機のみを導入するというパターンが考えられる。全社的なPBXの数を減らせることにより、全体としての初期導入コストを減少できる可能性がある。

 理屈から言えば、IP電話機は、安定したIPネットワーク経由でPBXに到達できるならば、どこにつながれていてもいい。内線電話番号はIP電話機のそれぞれに設定されているので、接続場所を変えても、同じ電話番号をそのまま使った発着信が可能だ。

 このため、ある部署がそっくり同じ事業所内で引越しをするなら、社員がそれぞれ自分のIP電話機を引越し先に持っていき、そこにあるネットワークにつなぎ直すだけで、何事もなかったかのように利用を再開することができる。従来のように、保守会社に設定変更を頼まなくてよくなり、時間とコストを節約できる。無線LANに接続できるIP携帯電話機も登場しつつあり、これを使えば、文字通り社内のどこにいても同じ番号で呼び出せる環境が作れる。

 IP-PBXでは、操作しやすい設定ツールが提供されている製品が多い。このため、簡単な設定変更は、保守会社に依頼することなく社内スタッフで済ませることができる。

 しかし、IP-PBXの最大の特徴は電話システムとしての展開の柔軟性とアプリケーション統合などを通じた生産性向上効果だ。この効果をどのように考えるかによって、IP-PBXの導入価値は大きく変わってくる。




関連記事
  ・ 企業IP電話サービスの選び方 [後編](2004/04/28)


( 三木 泉 )
2004/04/27 0:00

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2009 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.