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今年夏に本格始動する次世代のSerial Attached SCSI [後編]

HBAやRAIDコントローラの登場が待たれるSASシステム

マックストア サーバ・プロダクツ技術・戦略マーケティング・グループ インタフェース・アーキテクチャ・イニシアティブ マネージャーでSCSI Trade Association担当副社長を兼任しているマーティ・チェカルスキー氏
 完全シリアル化されたSerial Attached SCSI(以下、SAS)の概要が明らかにされたのは2003年だが、2005年に入って製品のアナウンスも聞かれるようになった。SASインフラの本格的なローンチは今年夏を予定しており、SASが身近な存在になるのもあと少しだ。

 そこで、今回はマックストア サーバ・プロダクツ技術・戦略マーケティング・グループ インタフェース・アーキテクチャ・イニシアティブ マネージャーでSCSI Trade Association担当副社長を兼任しているマーティ・チェカルスキー氏にSASの技術および製品の最新動向をお聞きした。最終回となる後編では、SASの製品動向と将来のロードマップを取り上げる。


4回のPlugfestを経て、各社は本格的にSAS製品を投入し始める

 SASの実用化に向けた動きは急ピッチで進んでいる。昨年には、ニューハンプシャー大学において、異なるベンダの製品間で相互運用性を検証するイベント(Plugfest)が2月、5月、11月の3回にわたって開催された。ここでは、プロトタイプのHDD、ASIC、RAIDコントローラ、バックプレーン、システムアセンブリなどを相互に接続し、さまざまな動作検証を行った。何らかのトラブルが発生したときには、その原因を探り、ベンダ間で解決に努める。ここでは、ベンダ間の技術的な情報交換も盛んに行われたという。

 そして、今年4月には4回目のPlugfestが開催された。ここでは、HDDベンダに加え、システムベンダ、テスト機器ベンダ、インフラストラクチャコンポーネントベンダなど、20社以上が参加している。ここでいうインフラストラクチャコンポーネントとは、主にエキスパンダを指している。中編でも取り上げたように、エキスパンダはSASに柔軟なトポロジを提供する上で必須のコンポーネントだ。「エキスパンダを利用することで、100台以上ものHDDから構成された大規模のディスクサブシステムを設計できます。こうした複雑な環境でも高い信頼性を得るためには、Plugfestでの検証が欠かせません(マーティ氏)」。

 そして、4回目のPlugfestを終えた現在、多くのベンダではようやく製品を発表できる目処が立った。「今年中旬には、SASの基本的なビルディングブロック、例えばHDD、HBA、RAIDコントローラ、ディスクサブシステムなどが順次出荷され始めるでしょう。また、今後数カ月以内には、多くのサーバーベンダやシステムベンダからSAS HDDを内蔵したラックマウントサーバー、ブレードサーバー、アタッチサブシステムなどが発表されます。ただし、直近の半年間はパラレルSCSIが標準、SASがオプションとして扱われるでしょう。SASが標準となるのは来年初めに新しいCPUプラットフォームが発表されてからになります。SASへの対応はIAサーバーから始まり、そのあとに大型サーバーへと広がっていく見込みです(マーティ氏)」。

 SCSIデバイスを愛用する個人ユーザーの中にもSASに注目している方が多いと思われるが、現時点ではHDDのみがかろうじて入手可能な状態にある。一方、HDDの接続元でもあるHBA(SCSIカード)やRAIDカードは、発表されている製品自体がごく少数に限られている。当然ながら、まだ入手できるような状況にはない。HBAやRAIDカードの登場は、SAS対応のIAサーバーがいつ一般ユーザーに向けて出荷されるかにかかっている。原則的にはOEM市場から立ち上がり、次にチャネル市場へと広がっていく。このような流れを考えると、ショップ店頭でSAS製品が潤沢に出回るようになるにはまだ何カ月かかかりそうだ。


4回目のPlugfestに参加したベンダ一覧。HDDベンダに加え、システムベンダ、テスト機器ベンダ、インフラストラクチャコンポーネントベンダなど、20社以上が参加している(出典:日本マックストア)。
SAS製品が登場するまでのロードマップ。4回のPlugfestを終え、どのベンダもようやくSAS製品を発表する準備が整った(出典:日本マックストア)。

エンタープライズ向けHDDのインターフェイスは順調にSASへと移行

SASは、パラレルSCSIをほぼ完全に置き換え、Fibre Channelの一部にまで進出する。また、SATAに対する上位互換性によって、SASの活躍範囲はかなり広がるものと予想される(出典:日本マックストア)。
 ある調査会社の調べによれば、エンタープライズ市場におけるHDDのインターフェイス比率は、パラレルSCSIが75%、Fibre Channelが22%、残りがATAインターフェイス(主にシリアルATA)であるという。そして、近い将来にはSASが主力のインターフェイスとして躍進してくる。具体的には、パラレルSCSIの大部分がSASに切り替わり、Fibre Channelの一部がSASに取って代わられる。SASとシリアルATAの互換性を踏まえると、HDDはシリアルATAであってもバックプレーンはSASのものである可能性も考えられる。ディスクサブシステムがサポートするインターフェイスにまで話を広げれば、SASの活躍範囲はかなり広いものになる。

 SASは、プロトコルの観点ではSCSIであり、インターフェイスの観点では完全なシリアルインターフェイスである。このため、エンタープライズストレージで実績のあるSCSIの高いパフォーマンスや信頼性を享受しながら、シリアルインターフェイスの利点も同時に享受できる。エンタープライズストレージアプリケーションにおいてSCSIは最も汎用的なインターフェイスなので、SASを利用することで、内部的にはSCSIプロトコルを使用しつつも、インターフェイスのシリアル化を同時に推し進めることが可能だ。

 「大規模なエンタープライズSANおよびNASの環境では、依然として内部と外部インターフェイスにFibre Channelが使用されるでしょう。この傾向は今後も大きく変わることはないと思います。ただし、今後2~3年以内にはハイエンドを除くFibre Channelの領域は徐々にSASへと置き換わっていきます。また、SMB市場ではディスクサブシステムなどでSASの採用範囲が急速に広がるものと予想されます。このとき、バックエンドの接続にはSASもしくはiSCSIが用いられます。特にコスト効率の高さを武器としてiSCSIの割合が増えるのではないでしょうか(マーティ氏)」。


主にボックス内部の接続に用いられるSAS

 SANに接続されるディスクサブシステムの中には、SATA HDDを内蔵しながら、外付けのインターフェイスとしてFibre Channelを備えるものも増えつつある。これは、大容量データのアーカイビングやバックアップ、D2D2Tに代表されるステージングなどで、コストパフォーマンスの高いディスクストレージが求められているからだ。そして、今後は内部接続のインターフェイスとしてSASを採用した製品も登場し始める。「内部のSATAと外部のFibre Channelを変換する機構は意外と複雑で高価です。内部接続をSASとすることで、特別な機構を用意することなくSAS HDDとSATA HDDの両方に対応できます。また、同じSCSIオブジェクトを持つSASとFibre Channel間の相互変換は容易ですので、内部をSAS、外部をFibre Channelとしても変換プロセスは比較的安価に実現できます(マーティ氏)」。

 一方、SASはファイルレベルもしくはブロックレベルといった観点で、SANやLANを置き換えるものではなく、原則としてボックス内の接続に用いられる。つまり、サーバーとストレージ間のネットワークを形成するFibre ChannelやEthernetを置き換えるものではなく、筐体内部のパラレルSCSI全体もしくはFibre Channelの一部を置き換えるインターフェイスということだ。中編ではSASがかなり柔軟なトポロジをとれると説明したが、だからといってFibre Channel SANやIP SANを置き換えるような存在となるわけではない。

 「もちろん、SASを筐体間の接続に用いることも可能です。ブレードサーバーなどがその代表例で、キャビネット内もしくはキャビネット間を結ぶインターフェイスとしてSASを利用するケースが考えられます。ブレード間もしくはブレードとストレージ間の接続にSASを使うソリューションは、今年末から来年にかけて一部のサーバーベンダから発表される見込みです。また、ブレードサーバーに関連して、クラスタ環境でもSASの導入が広がるでしょう。キャビネット内の各ノードで使用するストレージや各種モジュールの接続にSASを活用できるからです(マーティ氏)」。


SASはFibre Channelにも匹敵する複雑なトポロジをサポートしているが、原則的にはボックス内で用いられるインターフェイスとなる(出典:日本マックストア)。
Maxtorが発売しているエンタープライズ向けのパラレルSCSI/SAS HDD「ATLAS」シリーズ。回転速度が15,000rpmのATLAS 15K IIは容量よりもI/O処理性能を重視したモデル、回転速度が10,000rpmのATLAS 10K VはI/O処理性能と容量のバランスをとったモデルだ。また、Maxtorは、SASとSATAの互換性に注目し、大容量で信頼性の高いエンタープライズ向けのSATA HDD(MaxLineファミリ)も発売している(出典:日本マックストア)。

2008年に登場が予想される6Gbps Phyの次世代SAS

 最後に、SASのロードマップについて触れておきたい。2004年1月に公開されたSCSI Trade Associationのロードマップによれば、SASは3Gbpsからスタートし、2007年には6Gbps、2010年には12Gbpsへと高速化される。現在、SCSIの規格策定を行うT10技術委員会では、6Gbps Phyの仕様策定と技術検証を進めているところだ。6Gbps Phyを含む仕様は、次世代のRevision 2.0(SAS-2)となる方向で動いている。

 「SAS製品を開発しているベンダからのフィードバックを踏まえると、技術的な観点からは2008年前後が6Gbpsの登場時期ではないかと予想されます。それまでは、3GbpsのSASポートをマルチリンク化することで2008年までに必要とされる帯域幅を確保できるため、急いで6Gbpsに移行する必要がないというのが多くのベンダの意見です。また、6Gbpsの仕様では、6Gbpsのストリーム中に複数(2~3本)の3Gbpsストリームを多重化する機能も追加されます。これにより、3Gbpsに対応した現行のSASデバイスを6Gbpsシステム上でも効率よく運用でき、3Gbpsから6Gbpsへとスムーズに移行可能です(マーティ氏)」。


レートマッチングの仕組み。高速な伝送路に低速なデータストリームを流すときには、ALIGNプリミティブを挟むことで速度差を緩衝する。
 仕様面では、レートマッチングの仕様が引き続き盛り込まれる。SASの通信速度には、これまで説明した物理リンクレートに加え、実際の通信に関わる論理的な接続レートがある。例えば、3GbpsのPhyを利用した場合、物理リンクレートは通常3Gbpsとなるが、末端のデバイスが1.5Gbps Phyしか対応していないときには、接続レートが1.5Gbpsに設定される。そして、こうした物理リンクレートと接続レートの速度差を埋めるのがレートマッチングだ。レートマッチングは、dword(4バイト)ごとにALIGNプリミティブ、簡単に言えばダミー的な意味合いを持つデータを挿入することで速度差を緩衝している。

 例えば、同じディスクサブシステム上で異なる速度のPhyに対応したHDDを装着した場合には、レートマッチングで速度差の緩衝が行われる。1.5Gbpsと3Gbpsの両方に対応した現行のSASでもレートマッチングが実装されているが、6Gbps Phyが追加されれば、3種類のPhyに対するレートマッチングを行う必要がある。このレートマッチングがあるおかげで、高速なSASシステム内に遅いコンポーネントを接続しても、速いものは速く、遅いものは遅く通信が行われ、システム全体の性能が最適化されるのだ。

 本稿を執筆最中には、日本ヒューレット・パッカードが2.5インチSAS HDDを搭載したサーバーやストレージ製品を発表している。今後、SASに関する話題は次第に増えてくるだろう。これからのストレージを支える最新インターフェイスとして、ぜひともSASに注目していただきたい。



URL
  日本マックストア株式会社
  http://www.maxtor.co.jp/

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  ・ 今年夏に本格始動する次世代のSerial Attached SCSI [前編](2005/06/27)
  ・ 今年夏に本格始動する次世代のSerial Attached SCSI [中編](2005/07/04)


( 伊勢 雅英 )
2005/07/11 00:00

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