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日本IBM、顧客と開発製造部隊が“じか”につながる組織に改編


 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は7月30日、今年7月の製造開発部門(Asia Pacific Technical Operations)の組織改編についてプレス向け説明会を開催した。


部品・製品のコモディティ化で、製品開発の価値はシステム・ソリューションへシフト

日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役専務執行役員 開発製造担当 内永ゆか子氏
 特許保有数や出願数からみても、IBMの研究開発リソースは世界有数だ。この研究成果の製品へのインテグレーションには、いくつかのフェーズがある。HDDやLCDといったコンポーネントレベルで活用することで、これまで同社では価値を生み出していたが、これがコモディティ化するにつれ、その価値は薄れていく。現在ではコモディティ化がノートPCなどの製品レベルにまで進んでおり、同社では、さらにフェーズの進んだシステム、そしてソリューションのレベルでのインテグレーションでの価値提供へとシフトしている。

 IBMの基礎研究/製品開発に関する研究所は、ハードウェアではアメリカ中心だが、一方ソフトウェアは世界各地に点在している。こうした開発部隊は、グローバルで社内的な競争関係があり、それぞれのミッションを通じて常に切磋琢磨しているという。

 日本の大和研究所は、この両面の開発リソースが集中する世界でも唯一の存在となっている。4月に開発製造担当に就任し、8月1日より大和システム開発研究所長も兼任する日本IBM 取締役専務執行役員の内永ゆか子氏は、「製品へとインテグレーションする上で、R&D関連のすべてが集約されていることは強みになっている」とした。この点はグローバルでも評価されている。

 しかし従来は、基礎研究所、サーバー、ストレージ、ソフトウェアなどの研究機関が個別に研究所ごとの開発成果を顧客に提案していた。これを取りまとめて組織化し、サービスとして提供するのが、7月の組織再編で新設された「APTOソリューション開発」、「APTOソリューション・セールス」となる。


内永氏就任により7月に再編されたAPTO組織図 IBMの基礎開発研究拠点一覧。大和研究所はハードウェアとソフトウェアが集中する唯一の拠点となる

 これにより製品単体ではなく、ソリューションとして顧客へ価値を提供することが可能になり、提案そのものの効率化も図られる。またAPTOソリューション開発では、それぞれの顧客ニーズや案件に応じて、各研究所から、また海外にまでわたって必要な人材を確保できる構造が整った。

 内永氏は「グローバルR&Dのワンストップな入り口」とこれを表現し、ハードウェア、ソフトウェアをはじめ開発の各部門が大和に集中しているからこそ可能なこと」と述べた。そして「サービス部門に任せるだけでなく、製品開発の担当者が顧客を直接支援できる点を強みにしていきたい。これがAPTOに就任した一番のポイント」と語った。

 APTOソリューション・セールスでは、業種別の営業部門に担当者を配置し、顧客案件の早期支援や提案など、APTOの付加価値をソリューション・サービスとして推進していく。

 こうしたサービスの提供を別の面からみると「先進顧客のニーズは、製品化に役立てるアイディアの宝庫」ともなる。「開発研究部隊が、テクノロジードリブンではなく顧客の視点からいかにインテグレートするかにフォーカスした役割を持つことが大きなミッション」とした。

 こうした顧客からの先進的な要求は、製品にインテグレーションするにあたって、新設された「アーキテクチャ・ボード」でより一般化した形となるよう検討が重ねられる。アーキテクチャ・ボードはグローバルの各部門上位アーキテクトやIBMフェロー、ビジネススペシャリストなどで構成される開発の要となる委員会といえる。

 同氏はこうしたR&Dの集約を生かしたAPTOでの取り組みにより、「イノベーションとインテグレーションを推進し、お客様の成功に貢献したい」とした。


APTOソリューション開発では研究開発部門の人的リソースを生かして顧客を支援する APTOソリューション・セールスは、営業部内に配置され、個別案件を支援する 先進顧客のニーズを製品に取り込む検討の場「アーキテクチャ・ボード」

カーナビなどの組込機器向けのアーキテクチャも開発ミッションのひとつ

RFIDでは、バックエンドの仕組みも重要な課題だ
 また今後のAPTOの注力分野としては、特に日本が世界市場に対してアドバンテージを持つデジタル家電を挙げた。同氏は「小型化により集積されたコンシューマエレクトロニクスの分野では、サーバーと同等か、より高度な要求が出てきている」と述べ、「ITを製品化する上で、IBMが70年かけて培ったノウハウがこうした製品の製造メーカーに必要になってくる」とした。

 同氏はカーナビのシステムを例に上げ、「こういた機器では、これまでの機能追加により、OS2のレベルに匹敵する1000万ラインものコードで構成されている。これをメンテナンスするのは、正直リスクが高い」とした。またこれに応じてCPUパワーなども要することから熱処理の問題も加わり、「ハードとソフトが近い、まるで盆栽のような小さなデバイスのパッケージングは特に難しくなっている」とした。情報家電の機能がますます拡大していくなか、「どういうアーキテクチャでコンポーネント化すれば、クオリティを保証できるか、これを開発ミッションとして持ち、この分野の発展を支援していく」と語った。

 またユビキタス社会での“センス&レスポンド”を実現する上で、情報をセンスするツールである携帯電話などの端末やRFIDと、この情報にレスポンスするためのバックエンドをエンドトゥエンドで自動化する仕組みについてもフォーカスする。RFIDソリューションは同社の提唱する“オンデマンド・ビジネス”のなかでも大きな役割を担うとみられるため、「製造ラインでのRFIDリーダーライターの読み取り強度や設置角度などの実証実験も行う」とした。

 バックエンドの仕組みについては依然として広く利用されているレガシーシステムや、データのインテグレーションを、WebSphereなどのミドルウェアや、システム間接続のセンターとなるエンタープライズサービスバスの考え方などで対応するとした。

 またアクセスビリティ、ユーザーエクスペリエンスデザインといった分野の重要性にも触れ、「国内の顧客は使いやすさへの要求が高い。またコンピュータの利用層が広がったことからいかに簡単に使えるかがポイントになる」とし、「Webにタグを追加してコンテンツを自動的に拡大したり、音声読み上げツールなども開発している。これをグローバルに展開していきたい」と述べた。



URL
  日本アイ・ビー・エム株式会社
  http://www.ibm.com/jp/
  日本IBM社内報「COMPASS」2004年7月号 内永ゆか子 取締役専務執行役員インタビュー
  http://www-6.ibm.com/jp/ibm/compass/2004/07/feature.html


( 岩崎 宰守 )
2004/07/30 14:58

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