SOAの伝道師に聞く、失敗しないSOA導入の“ツボ”

金融危機の今こそSOAで既存IT投資を生かす

「SOA Adoption for DUMMIES(誰でもわかるSOA導入)」は、イベントなどで配布されるほか、同社サイトにおいてPDF版を無償ダウンロードできる

 企業のIT予算の7割が既存システムの管理に使われていると指摘されるように、既存システムの維持が大きな負担になっている。100年に一度の危機といわれる現在、投資対効果の向上は企業が生き残るための必須条件だ。それも新規投資を極力減らし、既存システムをいかに有効活用するかが課題となっている。

 そのひとつの解がSOA(Service Oriented Architecture)だ。しかし、SOAはキーワードが先行してしまった結果、求めていた成果が出ないといった問題も浮き彫りになっている。このSOA導入を成功させるために、必要となる具体的かつ実用的な手法を解説したのが「SOA Adoption for DUMMIES(誰でもわかるSOA導入)」だ。これは、SOA各種製品を提供しているソフトウェア・エー・ジー株式会社が無償で発行している書籍だが、人的要素をいかに考慮しながらSOAを導入するかをポイントにしているのが特長だ。

 今回、同書籍の著者の一人である独Software AG バイスプレジデント兼最高戦略責任者のミコ・マツムラ氏に話を伺う機会が得られたので、SOA導入の“ツボ”を中心に話を伺った。


小規模スタートで効果を可視化しよう

―「SOA Adoption for DUMMIES」では、SOAはシステム統合だけでなく人的な統合も実現するものと書かれているのが印象的でした。このあたりを具体的にお聞かせいただけますか?

独Software AG バイスプレジデント兼最高戦略責任者のミコ・マツムラ氏

ミコ氏
 今までのSOAプロジェクトが困難な状況に直面したのは、人的要素を考慮しなかったためです。

 たとえば、企業内の2つの組織がそれぞれデータセンターを運営していたとします。効率性だけを考えれば、1つのデータセンターに統合して運営するのが一番ですよね。しかし、ほかの組織のデータは信頼性を保っているのか、どちらか一方が利用しすぎて負荷をかけるようなことはないか、たいていそういった不安を感じるでしょう。効率性を改善しようとしても、そういった複雑性が発生するものです。もちろん、法規制への対応方法の違いなども考えられます。

 つまり、こういった組織自体が抱える要素を考慮しないでSOAを導入しようとしても成功しないということです。これまでのSOAプロジェクトは、効率性の改善にばかりフォーカスしていました。しかし、人的要素を考慮しないと、根本的な改善にはならないため、結果的におもったような状況にはならないのです。


―指摘されているとおり、人的要素を意識するのは重要です。しかし、どこから手を当てればいいのかわからない企業も多いのではないでしょうか?

ミコ氏
 難しく考える必要はありません。たとえば、企業内の2つのビジネスユニット間で導入するといった小規模な形でスタートし、人的要素で制限を受けていることを可視化するといいのではないでしょうか。成功事例を可視化することは重要ですから。

 弊社の製品の中には、企業内でどのようなサービスを利用しているかを検知するものもありますので、こうした製品を使ってインフラがどのように使われているかを診断して、改善することも可能です。

 SOAは全社規模でスタートする必要はありません。少しずつ進めながらプロジェクト単位でROIを出していき、理想的なSOAの姿に結びつけていけばいいとおもいます。


―SOAがキーワードとして先行してしまった結果、現実には使えないといった誤解も多くもたれています。こうした誤解を解く鍵はどこにありますか?

ミコ氏
 御社のようなメディアが、SOAを正しく取り上げていただくことが解決策のひとつですね(笑)。

 それ以外には、既存のIT投資がどれだけの価値をビジネスにもたらすのかを評価すれば、SOAが使えないものだという誤解は解けるのではないでしょうか。

 企業内には冗長かつ相互にアクセス不可能なシステムが存在するものです。これを書籍の中では“サイロ”と呼んでいますが、このサイロを利用する人たちも存在します。これを私は“部族”と呼んでいます。ビジネス視点で見た場合、ひとつのプロセスが2つのサイロを使うことになるわけで、これはIT投資の価値という面でみると無駄です。

 企業のIT投資の価値を高めるには、こうしたインフラ上に存在するサイロを取り除いていかなければなりません。これまでは、システムを統合するという視点だけで対処していましたが、これでは成功しません。それぞれのサイロを実際に使用している部族が存在するわけですから、共有化されたサービスを実現するためにそれぞれの同意をとらなければいけません。ここがSOAを成功裏に導入するために重要なことです。


規模の利益を得られるのがSOAのメリット

―金融危機の影響を受けている企業にとって、追加投資を行うのは難しいでしょう。そうした現状でSOAは受け入れられるのでしょうか?

ミコ氏
 アメリカのエコノミストは、今回の金融危機を心臓発作を起こした状態にたとえています。つまり、心臓発作を起こした人は、その後の人生を見直すものです。同様に、企業家も何をすべきか自問自答しているでしょう。その答えを与えてくれるのが、SOAになるのではないでしょうか。

 SOAは、すでに投資したITを生かし、ビジネス価値を最大化します。

 SOAのために追加投資が必要だから導入しないと考えるのはどうでしょうか。SOAはサービスの共有化を実現できるメリットがあります。つまり、データやインフラを統合し、共有化できるわけですから、統合メリットだけでも大きなものがあります。また、個々のユニットごとにIT予算を持っていた従来型のやり方を変革することも可能です。一元化することで、IT予算を一括管理して効率性を向上できますし、購買の面でも一元化することでコスト効果が高まります。規模の利益が発生するということです。


―現状のシステムを見直すことで効率性を向上できるというわけですね。SOAはそのための重要な役割を担う存在であると。

ミコ氏
 そうです。SOA導入を考えていない企業は多いでしょう。しかし、企業は既存のIT投資を生かして、ビジネスの価値を最大化するにはどうすればいいかを自問自答していただきたいのです。そうすれば、SOA導入という答えが出てくるでしょう。

 ITインフラをきちんと理解していなければ、SOAでの成功は得られません。われわれはさまざまなツールを提供していますので、利用していただければ効果が出ることでしょう。


―ありがとうございました。





(福浦 一広)

2009/6/12 00:00