「ICTでの授業が子供の学習意欲を向上」-マイクロソフトなどが実証

教育のICT化を考えるNEXTプロジェクト成果

 マイクロソフト株式会社は5月22日、教育現場における1人1台のPC環境の可能性を探る「NEXTプロジェクト」の成果報告会を開催。小学校の授業でICTを活用することで、生徒の学力・学習意欲や教員の指導力が向上することが実証されたと発表した。

ICTでの授業が子供の学力や学習意欲を育てる

マイクロソフト 執行役 常務 パブリックセクター担当の大井川和彦氏

 NEXTプロジェクトとは、2006年6月より3年間をめどに、独立行政法人メディア教育開発センター(NIME)とマイクロソフトが進めてきたプロジェクト。小学校の授業にタブレットPCなどを活用することで「学力の向上」「校務の効率化」「保護者・地域との連携」を実現することを目的に、港区立青山小学校や立命館小学校、和歌山市などと協力して研究・実践を行ってきた。

 その成果として、ICTの活用が「新しい教育モデルの提示」「コミュニケーションの質を向上」「教員の指導力向上と児童の学習意欲向上」の3点の効果が実証された、とマイクロソフト 執行役 常務 パブリックセクター担当の大井川和彦氏は語る。

 一例を挙げると、「Microsoft Office OneNote 2007」というデジタルノートを活用することで、従来の「清書するノート」から「考える・議論するノート」を実現。「自分の考えを議論する全員参加の授業を行えるようになり、これが生徒の学習意欲と学力の向上に大きく貢献することが分かった」(大井川氏)という。

 また「プレゼンテーションソフトを授業で使うことで自分で調べて考えをまとめ、説明する能力が育ち、立命館小学校の5年生が、2009年2月に開催された『世界子供環境ポスター展』という大舞台でプレゼンテーションをやり遂げることができた」ほか、「授業アンケートなどを行うための学校ポータルを導入したところ、コミュニケーションのパスを作ることで、普段は面と向かって話せない生徒ともコミュニケーションが可能となり、いじめなどの悩みも早め早めに先生にフィードバックが行くようになった」(同氏)とも話す。

 こうした効果は生徒の実感としても表れており、和歌山市が児童約1万人に行ったアンケートでは、タブレットPCと小学館の手書き学習教材による漢字学習を多く行った生徒ほど、「漢字の学習が好き」と回答。「反復学習に便利」「漢字の間違いが減る」「もっと学習したい」「漢字を覚えるスピードが上がる」などの回答も、ICT授業の回数が多いほどに増加したという。また教員においても、ICT活用を重ねるほどに指導力が向上したという結果が得られたと紹介。

 「いつでも身近に活用できるICT環境を整えることで、学習意欲や学力、教員の指導力が向上するということが、NEXTプロジェクトから分かってきた。日本の教育が大きく変わる最初のきっかけになるのでは。効果の流れがきちんと見えたということで、納得いただける成果が得られたのではないか」と総括した。

OneNote活用で、自分の考えを議論する全員参加の授業が実現タブレットPCによる漢字の学習を行えば行うほど、漢字の学習が好きという回答が増加

学習に興味を持てなかった生徒も楽しめた

青山小学校の曽根節子校長

 報告会には、青山小学校の曽根節子校長も登壇。同校の取り組みと具体的な効果について、現場からの視点で説明した。

 同校が取り組んだのは、基礎学力向上のための「手書き学習教材」、校務効率化のための「学校ポータル」、学力向上のための「タブレットPC」の採用。2年生の授業では電子黒板を使って発表を行ったが、担任の教員からは「はじめのうちはハードウェアの問題が多く、途中で使えなくなったり、思い通りに動かなかったりして、子供たちにストレスを与えてしまったが、使い慣れてくるとさすが現代っ子で教員よりも使いこなすようになった。これまでドリルなどの紙ベースでは学習に興味を持てなかった子が、ICTを使うと集中して楽しんで学習できた例もあり、それぞれの良さを生かして授業作りをしていくことが大切だ」との感想が上がったという。

 また「4年生が行った公開授業では、テレビ会議システムを使って和歌山市の小学校と交流学習を実施。東京都について調べたことを和歌山市の6年生に伝え、質疑応答するなどの中で、表現したい、相手に伝えたいという相手意識や目的意識を持った学習ができた」ほか、「6年生のメールによる文字だけのコミュニケーションを考える情報モラルについての学習では、タブレットPCのペン入力の良さを授業に採り入れたことで、手を挙げていうより思っていることを表現できたと感想で書いた児童もいた」(同氏)とした。

 総じて児童の学習意欲向上に高い効果があったとのことで、曽根校長は「子供たちは目を輝かせてICTに触れていた。学校に活力が生まれたように感じる。今後も継続してICTを活用し、生徒が自主的になれる授業を行っていきたい。そして港区全体にこの成果を発信し、東京全体にも広げていきたい」と発言。成果報告を終えて一層の意欲をのぞかせた。

6年生のタブレットPCを使った情報モラル学習の様子マイクロソフト樋口社長も公開授業に参加し、情報ネットワークの利点と怖さを語った

今後もICTと学力向上の関係を分析・実証を

 今後の取り組みとして大井川氏は、「NEXTプロジェクトは一応一段落となるが、今後もICTと学力向上の関係についてはさらなる分析・実証を行うつもり。そのためにまず今回の成果を普及していくことが重要で、当社がワールドワイドに展開している、21世紀型の教育を目指して学校を改革していくプログラム『Innovative Schools Program』に、日本からも参加を予定。国内でも教育の情報化に関する成果を普及していきたい」と述べた。



(川島 弘之)

2009/5/22 15:54