バリューチェーンの再構築で挑むネットワン、吉野社長が戦略語る


代表取締役社長の吉野孝行氏

 ネットワンシステムズ株式会社(以下、ネットワン)は7月1日、事業戦略説明会を開催。代表取締役社長の吉野孝行氏が2008年度の結果と総括、中長期的な市場展望、および2009年度の注力分野などについて説明した。

 同社が2008年度に掲げた事業戦略は、ユニファイドコミュニケーション(UC)とプラットフォーム・仮想化事業に注力するというものだった。吉野氏はその結果を振り返り、「UCでは、専用検証施設の設置やデモルームの活用によって前年度比で約4倍の案件を獲得できた。日本のユーザーにおいてもコミュニケーションの改善とそれによる生産性向上に注目が集まったと感じられる。ただし、案件や理解が深まったのは喜ばしい一方、経済変動のあおりで金額的には4倍とならなかった。そこにネットワンとしての反省点があると考える。これに対し、プラットフォーム・仮想化事業では前年度比83%の売上増、仮想化関連に限れば前年度比約4倍の業績となった。800台のサーバーコンソリデーション案件など大規模事例もあり、非常に好調だったといえる」とした。

 中長期的な市場環境については、「クラウド」を主眼とした展望を描く。「過去に並列コンピューティングやグリッドコンピューティングもあったが、仮想化技術や10Gbpsのネットワークによって、クラウドコンピューティング環境が実現しつつある。このアーキテクチャでは、従来のバックプレーンは存在し得ないと考えている。PCでいえばPCIバスはやっと8Gに到達したレベル。一方でネットワークは100Gの製品も登場し始めている。今後のクラウドコンピューティングでは、こうしたネットワークそのものがバックプレーンとなり、ネットワーク経由でリソースが一元管理される。つまり、これまで当社が注力し続けてきた“ネットワーク”がキーソリューションとなるわけだ。今後ますます注目されるキーワードとして展開していくのではと期待している」(吉野氏)。

日本のIT業界の影響力が低下しつつある
クラウドに対する取り組み。ネットワーク・仮想化技術の取得を促進
継続した成長のためのバリューチェーン再構築

 また、世界に対する日本のIT業界の影響力が低下しつつある点に触れて、「米国や欧州などと比べても日本のIT成長率は著しく低い。外資系の企業もたくさんあるが、特定の企業をのぞいてほとんどの企業が、本社に対する貢献度を下げている。日本にはNGNなど先進的な取り組みもあり、かつ安価なコストで利用できるようになっている。問題はコンテンツの内容と量だ。今後5年間に世界でもっとも伸びるのはコミュニケーションツールとしてのビデオという調査結果もあるが、その伸び率を見ても日本が最低」と発言。その理由は、「日本の経営者には、新技術を何のために使っていくという発想や視点に欠けているためだ」とし、「日本の競争力の低下をとても危惧(きぐ)している。日本があらためて世界での競争力を身につけられるように、多少なりとも貢献したいというのが、ネットワンの事業戦略だ」と述べた。

 その一例として、通信・放送向けの方針をこう語る。「通信・放送では“縦割り”の現行法制を“レイヤ構造”へと転換する情報通信法(仮称)として一体化する動きがある。同法では、伝送インフラとコンテンツ、さらに課金やユーザー管理などのプラットフォームなどがレイヤを超えて統合され、連携が原則自由となる。現在のクラウドサービスモデルには、プラットフォームに対応する層が存在しない。これまでネットワンでは、伝送インフラやコンテンツ事業者の支援などに取り組んできたが、今後はプラットフォーム事業者の支援などに足を踏み入れていくつもりだ」。

 現在は、クラウドに対する同社の取り組みとしては、環境構築に必要なネットワーク技術と仮想化技術の取得を促進している。すでにCiscoの最上位認定資格「CCIE」を保有するものは66名、そのほかJuniperやVMware、Citrix、EMCなどの技術資格取得者を着実に増やしており、「現在、クラウドを称すサービスが増えてきているが、わたし自身はまだ仮想化によるコンソリデーションを進める段階だととらえている。当社としては、将来のクラウドコンピューティング環境構築に必要な技術力を確実に身につけていくことが急務」(同氏)と述べている。

 喫緊の2009年度の事業戦略と注力分野としては、1)ネットワーク事業における差別化、2)サービス事業の拡充、3)UC事業の促進、4)データセンター・仮想化案件の獲得を挙げる。これにより、「顧客満足度の向上」と「継続した成長」を実現するのがゴールだ。

 こうした事業戦略を達成するのに重要な柱となるのが、バリューチェーンの再構築。「顧客満足度向上を目指し営業体制を再構築し、各営業グループが顧客とのバリューチェーンを実現する一方、新たに商品開発グループも設立し、ベンダーとのバリューチェーンも構築。顧客とベンダー間でのシームレスなつながりを提供する」(同氏)という。

 営業体制としては、既存のセグメントのほかに、2008年に創設したネットワンパートナーズが新たに一端を担う。ネットワンではこれまで直販事業とパートナー事業を1社で展開してきたが、パートナー事業をネットワンパートナーズに特化させることで、市場カバレージの拡大やユーザーニーズへの迅速な対応が可能になるという。「ネットワンパートナーズでは、年間売上高1000億円以上、または従業員規模1000名以上の日本企業に訴求すると同時に、これまであまり手掛けられなかった病院などの新業種にアプローチするための武器にもなる」(同氏)。

 一方、パートナー事業を切り離したネットワンでは、直販における付加価値を高めるための営業推進グループも新設し、「ネットワングループ全体から、お客さまに最大のバリューを提供する」(同氏)方針。これらにより「日本のICTを強くする“New Platform Enabler”へ」。これが、同社の新たな戦略となる。


(川島 弘之)

2009/7/1 14:34