「新しいデータの時代には数字のオタクが成功のカギを握る」米SASコリンズCTO


 SAS Institute Japan株式会社は、BI(ビジネスインテリジェンス)ソフトや関連ソリューションを提供する企業として有名だ。単純な分析だけでなく、その先までを分析する“予見力”を強みにしており、さまざまな業界に特化したソリューションを展開している。実際、リーマンショック以降の低迷する景況感の中、同社の予見力を生かそうとする企業が増えている。

 今回、来日した米SAS Institute上席副社長 兼 最高技術責任者(CTO)のキース・コリンズ氏に、ワールドワイドでの動向、日本国内での展開などを伺った。

米SAS Institute上席副社長 兼 最高技術責任者(CTO)のキース・コリンズ氏

―リーマンショック後、景気が大きく低迷しました。顧客企業の動きを見て、どのような印象をお持ちですか?

コリンズ氏
 ワールドワイドで見ると、リーマンショックからしばらくは弊社製品の導入サイクルが長くなっていました。しかし、全体的には底を打った印象は受けています。特に、企業経営の俊敏性を高めることを目的として、法人からの需要が高まっています。不動産業なども復調傾向にありますね。

 アジア太平洋地域についても同様で、現在は良好な状態にあります。特に日本市場がけん引役になっています。

 SASは、景気の下降期でも上昇期でも価値提案をできるのが強みです。特に下降期では、利益を守る、顧客の解約率を下げる、といったことを重視する経営になりがちですが、SASはこれらに対するソリューションを提供できます。


―投資傾向に変化は見られますか?

コリンズ氏
 ビジネス上の問題解決にフォーカスしていますね。具体的な問題にフォーカスしていますし、実装自体も迅速に行いたいというニーズが高まっています。

 例えば、金融業を見ると、リスクの回避や不正使用の防止といった点を重視しています。政府の場合、経済の刺激策を行ったり、税金をどう回収できるかという点に関心を示しています。また、コンテンツプロバイダーの場合、他社との明確な競争力を得るための投資にフォーカスしています。

 こうした変化はSASにとって大きな機会になります。

 実際、危機が起きる前は、ERPだけ入れれば課題は解決できると考えていた企業が、今は問題解決になにが必要なのかを真剣に検討し、変革を進めています。1年前と比べ、質の高いソリューションが求められています。


―実際に案件が増えているのですか?

コリンズ氏
 問い合わせは増加していますね。日本の場合、ここ1~2カ月の間で問い合わせ件数が非常に増えています。

 昨晩、レセプションを開きましたが、そこには企業の経営層が180名以上参加していただきました。話を聞いていると、SASに対する関心の高さと、期待の高さを感じましたね。SASが信頼されるアドバイザーとして認めていただけるよう努力していきたいとおもいました。


―具体的に、どのような製品やソリューションに注目が集まっていますか?

コリンズ氏
 やはり、信用やオペレーションなどリスク関連に注目が集まっていますね。金融機関などでは、クレジットカードの不正使用を防止するため、フロード自動検知機能などに関心を示しています。

 また、キャンペーンの効率化や市場最適化を実現するソリューションにも関心が高まっています。SASが持つ分析力を高く評価していただいていますね。


―導入企業の多くが、こうしたゴールを最初からイメージされているのでしょうか? それとも、不正防止など現実の問題を解決することをきっかけに導入されているのでしょうか?

コリンズ氏
 どちらもあります。われわれは、まず導入される企業の経営層と話して幅広いビジョンを提示します。その後、ROIの高いものから導入を進めています。一度に導入するわけではなく、段階的に行います。顧客獲得ソリューションを導入された企業が、そのあとでキャンペーン自動化ソリューションを導入するという感じです。

 もちろん、企業により理解の深さに差はありますが、リーダーシップと企業文化が成功のための大きなカギといえるでしょう。ビジネスアナリティクスに対し、一般企業の理解が深まっているのは確かですね。


―ビジネスアナリティクスへの理解が不十分な企業は、対象外になっているのでしょうか?

コリンズ氏
 そんなことはありませんよ。例えば、「われわれは独自の企業文化を持っている」という企業に対しては、視点が内向きになっていることを説明するようにしています。つまり、お客さまをみていないため、独自だといってしまうわけです。こうした企業に対しては、リーダーシップが企業内のどこにあるかを見極め、準備ができているところを探し出してアプローチしています。

 実は、こうした企業のほうが大きく伸びる可能性を秘めており、われわれとしてもチャンスなんです。


―独自であるという企業は日本に多そうですね(笑)。だから、日本市場が大きく成長しているということですね(笑)。

コリンズ氏
 いえいえ(笑)。


―最後に、読者に対してメッセージがあればお願いします。

コリンズ氏
 私がお伝えしたいのは、プロジェクトマネージャーに対して、予測型マネジメントの教育をしていただきたいということです。

 現在、新しいデータの時代に突入しており、この新しいデータの時代には数字のオタク、つまり統計専門家が成功するといわれています。勘ではなく、適切な分析が企業に必要となっています。

 これまでのようにトランザクションではなく、そこから発生する情報が重要な時代になっています。予測型マネジメントを浸透させることで、どのようなテクノロジーが必要になるかも明確になります。その結果、ビジネスとの連携を強化できるようになります。


―ありがとうございました。



(福浦 一広)

2009/8/11 11:00