デルスモールビジネス賞優勝企業が語る“IT”との上手なつきあい方


審査員の一人でもあるデル執行役員 北アジア地域スモール&ミディアムビジネスセールス本部 統括本部長のケビン・オケイン氏から、優勝企業の三元ラセン管工業 代表取締役の高嶋博氏に記念の盾が手渡された
審査委員長を務めた、立教大学大学院ビジネス研究科 教授の笠原英一氏
三元ラセン管工業 代表取締役の高嶋博氏

 デル株式会社は9月30日、ワールドワイドで展開している「デルスモールビジネス賞」の国内部門優勝企業として、三元ラセン管工業株式会社を選出したと発表した。11月には、各国の優勝企業の中からグローバル部門の優勝企業が選ばれる予定。

 デルスモールビジネス賞は、IT技術の優れた活用でビジネスを成功させている革新的なスモールビジネス(中小規模企業)を賞賛することを目的として2004年に米国で設立されたもの。2008年にはワールドワイドに対象を広げ、2009年は13カ国で実施された。国内での参加企業は約50社、そのうち7社が最終選考に残り、三元ラセン管工業が優勝企業に選ばれている。

 日本での審査委員長を務めた、立教大学大学院ビジネス研究科 教授の笠原英一氏は、「革新的なIT活用を行っている企業を評価するという観点から、単にITを技術として使っているだけの企業は評価しないようにした。今回、優勝企業として選んだ三元ラセン管工業は、職人かたぎの会社であり典型的な中小企業。ビジネスモデルを変更する上で、うまくITを活用した点を評価した。なによりも三元ラセン管工業の例は、元気がなくなっている中小企業に元気を与えるもの」と紹介した。

 三元ラセン管工業が扱っているのは、ベローズ(一般産業用から真空機器、半導体、化学・医薬関連機器、宇宙関連施設、原子力関連の気体、流体の「気密封止」「漏えい防止」のシール用部材として使われている、伸縮可能な部品)と呼ばれる部品。このベローズの小規模注文に対応できるよう、自社のWebサイトを営業ツールとして活用しているというもので、IT活用方法としては非常にシンプルなものだ。しかし、注目に値するのが、ビジネスモデルの転換時にITをうまく利用したという点にある。

 三元ラセン管工業 代表取締役の高嶋博氏は、「ベローズは他社から引き継いだ事業なのですが、それまで取引のあった大手企業が、“工場が汚いから契約できない”といってきたんです。それまでベローズをやっていた会社の工場のほうが汚かったんですが(笑)、そういわれてしまうとどうしようもないんですよ。そこで、規格製品を大量生産するのではなく、受注生産に切り替えようと決意しました。とはいえ、どうやって営業すればいいのかわからず、会社案内で使っていたWebサイトを更新して個別の受注を受けられるようにしました。サイト更新から1週間で注文があったので、これだとおもいましたね」と語るように、危機感をバネにビジネスモデルを変更し、そこでITを活用した点が高く評価されている。

 IT活用だけでなく、ISO9001を独力で取得したり、従業員の資格取得を奨励するなど、自社の強みを高める努力もあわせて行ったという。「ISO9001を取得したおかげで、検討している企業の内側に入ることもできた。また、スキルの高さもアピールできるようになった」(高嶋氏)と、さまざまな変革を行ったことも紹介。

 ユニークなのは、ITありきの業務運営をしていない点。たとえば、製造業であればCAD・CAMを使うのがIT化のようにおもってしまいがちだが、従来手法で製造を行っているという。「技術力の高さは弊社の強みであり、手作りで製品を作っている。小規模ロットの注文では、こうした製造が有効。また、多能工化しているので、納期に関しても他社の半分程度にできている」(高嶋氏)と、すべてをIT化せず、得意分野は従来手法を生かしている点も優勝に選ばれた理由となっている。

 重要なのは、高嶋氏自身はパソコンに詳しくなかったというところにもある。「パソコンはやったこともなく、好きというわけではないが、好奇心が強かったのがうまくいった理由だとおもう。なので、やりたいことを絞ってITを導入しているので、失敗することもほとんどない」(高嶋氏)という。自社の強みを最大限にするために、ITを活用しているわけで、多くの中小企業にとっても参考になるところだろう。

 なお、優勝企業には2万5000ドル相当分のデルの製品・サービスが贈呈されるという。「従業員からは、あれもほしい、これもほしいって声はあがっていますが、使い道はまだ決めていません。正直なところ、使い切れないですね(笑)」(高嶋氏)



(福浦 一広)

2009/10/1 00:00