ベンダー混在でも楽に印刷、統合プリンタドライバ「BMLinkS」の利点を聞く


統合プリンタドライバから各ベンダーのオフィス機器へ印刷指示

 「BMLinkS」というものをご存じだろうか。Business Machine Linkage Serviceの略で、いわば、各ベンダーのオフィス機器をまとめて利用可能にする「統合プリンタドライバ」である。便利な反面、十分に浸透しているとはいいがたく、開発元の社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA) BMLinkSプロジェクト委員会でも、本格普及に力を注いでいる。そこで今回は同委員会に、BMLinkSとは何か、どんなメリットがあるのかを聞いた。

 オフィス機器のマルチベンダー環境には「各社のドライバを全PCに展開する煩雑さ」「機器入れ替え時に設定やアドレス帳の移行する面倒くささ」といった課題がつきまとう。これらを解決すべく、現在、キヤノン・グレープシステム・コニカミノルタ・シャープ・セイコーエプソン・東芝テック・ビッグバレー・富士ゼロックス・ブラザー工業・リコー・理想科学工業の11社で推進するのが、BMLinkSプロジェクト委員会だ。

 その歴史は古く、1998年5月にBMLinkSプロジェクト委員会の前身となる「JBMIA OAシステム機器プロジェクト委員会」が創立。BMLinkS標準仕様の策定、接続性テスト、統合プリンタドライバの開発、ネットワークスキャン・ストレージ機能の共通化、デバイス管理仕様の公開などを行った第5期までの活動(1998年~2008年)を経て、現在は第6期(2008年~2010年)として「応用と拡大」に向けた活動が行われている。

ドキュメント流通インフラの概要図

 統合プリンタドライバであるBMLinkSが実現するのは、「ドキュメント流通インフラ」だ。これまでに公開済みのソフト群「BMLinkS 統合プリンタドライバ」「BMLinkS ストレージサービス」「BMLinkS ドキュメントビューア」「BMLinkS 機器検索サービス」を使うことで、1つの印刷設定画面から、各社の機器に印刷を指示することが可能。スキャンデータをPCに保存し、機器側からPC上のデータを読み出して印刷する「ネットワーク保存・印刷機能」も、ベンダーの垣根を越えて利用可能となる。

 さらに機器の状態監視、ネットワーク/アドレス帳の設定取得、コピー/スキャン/FAX履歴の取得も各社の機器にまたがって、「マルチベンダーデバイス管理」も実現。従来のMIB(Management Information Base)では、ベンダーごとに「プリントジョブ」と「プリンタ状態」に関する仕様しか公開されておらず、「コピー/スキャンジョブ」「アドレス帳」「スキャナ状態」に関してはブラックボックスだったという。「BMLinkSでは、管理体系を一元化することで、これらのプロトコル技術を標準化する狙いもあった」とBMLinkSプロジェクト委員の丹羽雄一氏は述べる。

オフィス機器管理SDKのプレイヤー相関図

 SIer向けにも11月17日に「オフィス機器管理SDK」が公開されており、「部門課金やエラー情報収集などの管理ソフトを容易にマルチベンダー化できる環境も整っている。技術資料、オフィス機器エミュレータと複数のプロファイル、管理ソフトのサンプルなどが含まれているので、SIerはBMLinkS対応機器を実際に用意することなく開発・評価することが可能」(丹羽氏)となっている。

 第6期の活動では、文書セキュリティ標準化にも取り組んでいる。すでに実現済みの「ユーザー名・パスワードによる認証」「SSL通信」などのほか、「“コピー禁止”などのフラグを立てたQRコードを文書に付けて、社外秘文書などの複写を防止する機能を、2010年5月までに標準化する。このQRコードには複写追跡情報なども付加でき、万が一の漏えい時に誰が複写したか追跡することも可能」(同氏)という。

【お詫びと訂正】初出時、QRコードを利用した新機能の搭載時期について2015年5月としておりましたが、正しくは2010年5月となります。お詫びして訂正致します。

 ベンダーごとにプリンタドライバを切り替えなくてもいい状況を想像してみてほしい。いろいろと便利なBMLinkS。対応機種も、2009年10月末時点でキヤノン・コニカミノルタ・シャープ・富士ゼロックス・リコーの413機種に広がっている。一方で、2009年にダウンロードされた目的の41%が「内容を知るため」だったり、教育関係者からは「普及してないよね」と直球で指摘されたり、十分な浸透にはまだ遠いのが現状だ。

 この理由を同氏は、「ベンダーに責任があったと思う」と語る。「これまで独自のドライバで顧客を囲い込みたいがために、営業的にあまりBMLinkSをアピールしてこなかった。カタログなどを見ても、BMLinkS対応という表記は目立たないところに小さく書かれているだけなのだ」。

 しかし、オフィス機器環境のマルチベンダー化も進むことで、「機器入れ替え時に困るユーザーが増えてきている」(同氏)という。印刷やコピーは確かに面倒くさい作業だ。用紙は頻繁に切れるし、席を何度も立ち上がらなければならない。その上、ベンダーごとにプリンタドライバが異なるとなれば、天を仰ぎたくなる。「そういう場合は、一度、BMLinkSを使ってみてほしい」。

 BMLinkSプロジェクト委員会でも、普及に本腰を入れ始めている。SIer向けの管理SDKで「応用」も可能となり、ドキュメント流通インフラの環境は整った。今後は「拡大」として、BMLinkSプラットフォーム上での価値拡大をめざしていく。その第一弾として、文書セキュリティ標準化に取り組む一方、「11月17日の管理SDK発表時にも、実際にSDKを使ったデモに高評価を得られた。エンドユーザーの方々にも使っていただきたいが、このSDKによる開発も広まってほしい。現在、数社に採用の検討をしていただいているが、ほかにもご興味あればJBMIAまで気軽にお問い合わせいただきたい」(同氏)と、SIerなどに広く利用を呼びかけている。



(川島 弘之)

2009/12/24 11:00