ひとつのラインで1日150台を生産-富士通がPCサーバーの生産工場を公開


富士通アイソテック 外観

 富士通株式会社は、パソコンサーバーを生産する富士通アイソテック株式会社を報道関係者向けに公開した。

 富士通アイソテックは、富士通の国内向け全パソコンサーバー、デスクトップパソコン、ドットマトリックスプリンタを生産している。製品の生産以外に、パソコンの修理、情報機器全般のリサイクル事業を展開し、「パソコンのライフサイクルすべてにかかわる事業を持っている製造工場は、ほかにあまりない、当社ならではの特色」(富士通アイソテック代表取締役社長の増田実夫氏)となっている。


東日本リサイクルセンターでは、情報機器のリサイクルを行っているため、通常のリサイクル施設のようにトラックの重量で計量するのではなく、パレットごとに計量を行っている。なお、需要拡大にともない、2008年9月工場2棟を新設し、3棟体制となったノートパソコン解体サンプル集まったリサイクル品は人の手で分解され、プラスチックだけで20種類と詳細な分類が行われる
データが残っている可能性があるHDDについては、機密保持の観点から別室で磁気破壊装置とHDDクラッシャーによる物理的破壊と二段階の処理が行われる。金などレアメタルを含む基板部分は、売却できる部分は売却する。取り扱う基板のうち金を最も多く搭載しているのは携帯電話の基板だという
プラスチックもリサイクルに回されるが、ロゴシールなどの部分をはがさなければ資材としての価値が落ちるため、手作業でシールをはがすなどの手間がかけられている粉砕後のプラスチックは80%が資材として売却され、うちわの骨部分やボールペンとしてよみがえり、残り20%は有料で買い取ってもらう

分類されたプラスチックは機械によって粉砕されるプラスチックから生まれ変わったクリアファイル

 2008年度のサーバーの生産実績は8万台で、2009年度は12万台の生産を目標としている。「調査会社のIDCによれば、2009年度上期のPCサーバー市場は22万台規模で、富士通はそのうち18%を占める4万台。経済環境の厳しい時期ではあるが、他社に比べれば伸長している」(増田社長)

富士通アイソテック代表取締役社長の増田実夫氏

 富士通が2010年度の目標として掲げる、ワールドワイドでPCサーバー50万台を出荷し、うち20万台を国内で出荷するという目標値を実現するため、富士通アイソテック側でも生産体制を強化。「トヨタ生産方式を取り入れ、世界で戦える製造コストを実現する効率的な生産体制を実現しながら、製品品質についても世界トップレベルを目指す」(増田社長)

 トヨタ生産方式を取り入れた生産革新がスタートしたのは2005年から。導入前と現在を比較すると、製造にかかわる手順はパソコン、サーバー共に6割削減を実現した。生産性についてもパソコンは2.4倍、サーバーは2.2倍向上し、棚卸し残高はパソコンが53%削減、サーバーで35%削減した。

 増田社長はこの結果に対し、「改善前と後では、数値的な改善効果が大きくなるが、改善が進んだこれからは大きな数値効果は現しにくくなる。今後はより質の高い改善が行えるよう、評価方法の見直しなどを行いながら生産改善を進めていく」と話している。


パソコンサーバーの生産工程

 パソコンサーバーの生産工程は、1)外部からの部材搬入、2)部材を倉庫で一時格納、3)各部材のキッティング、4)組み立て、5)試験、6)試験に合格した製品の梱包、7)富士通の各拠点に向けての集荷、という大きく7つの行程からなる。

 生産革新前はこれだけの行程にかかるリードタイムは28時間/4日間かかっていたが、現在のリードタイムは11時間/2日間へと大幅に短縮した。

 これは、各行程から行程へのフローが複雑になると、生産の途中で物がたまりやすくなり、無駄な時間が生まれるといった問題を見直し、作業にかかる無駄を取っていく作業を進めた結果実現したものだという。

 各行程についても見直し、例えば別々に実施していた試験を統合するといった改善を進めた。

 「細かな改善も進め、作業者の歩行数を減らしてリードタイム3秒削減といったことを積み重ね、2007年度と2008年度を比較しても生産性は1.2倍に向上し、1ラインに従事するスタッフの数も12人から10人へと削減することに成功した。今年度(2009年度)は目標生産台数12万台を実現するため、1ラインあたりの生産性を2倍にして、一日あたりの生産台数を75台から150台とした。この生産性向上にともない、ライン数は従来の5本から4本となった」(増田社長)


生産するサーバーの部材は、一台ずつ台車に乗せられて運ばれてくる台車は隣の台車と接続され、そのまま組み立て台として利用される。部材は生産ラインの上部に置かれて、組み立て作業がスタートする

公開されたのは1Uのラック、マウント系のサーバーを組み立てるライン。一人当たりの組立作業時間はわずか3分ほど生産ラインで作業が滞るなどの異常が起こった際には、エラーを知らせるサイレンが鳴り、ランプが点滅する仕組みとなっている

生産ラインのすぐ隣が試験スペース。組み立てが完了したサーバーは台車で試験スペースに移動し、即試験が行われている。試験スペースの作業台は固定化され、台車の上部台のみを動かすだけで済む試験は自動化を進めており、組み立てラインに比べると携わるスタッフの人数が少ない

工場で行う試験は、以前は3つに分割されていたが、ランニング試験とインストール試験を統合するなど省スペース化を進めている。エージング試験のようにどうしても作業時間がかかる試験スペースについては、設置スペースを集約することで少ないスペースで大量の試験が行える環境を作っている

試験が終わったサーバーは最終的に人間の目によるチェックが行われる人の目によるチェック終了後は即梱包され、集荷スペースで全国の拠点に配送されることになる

 11月末現在で3ラインについては一日あたり150台、1ラインでは75台の生産が可能となっている。

 年間20万台出荷が実現した際には、1940平方メートルのスペースに6つのラインを作り、73人体制で生産を行う準備が整い、「大きな投資をしなくても、対応できる体制が整った」(増田社長)という。

 こうした生産革新に加え、2007年9月から富士通が開始したサーバーにケーブルなどの配線、ソフトのインストール、設定などを実施した上で顧客に届ける「ITインフラデリバリーサービス」を実現するための、インフラ工場をサーバー生産工場の隣に設けた。

 「これまでサーバーの各種設定は、客先にスペースを設けてもらって実施していた。これはスペースが必要となる上、不要な梱包材の処理、設定にかかる時間ロスといった問題があったが、生産後すぐに設定を行うことで、お客さまは稼働までの時間を大幅に短縮できるというメリットがある」(増田社長)

 インフラ工場は、顧客個別の情報を扱うことから、生産ラインとは異なるセキュリティの徹底などをはかっている。

 今後はこうした生産工場としての機能拡充だけでなく、ドイツのサーバー工場富士通テクノロジー・ソリューションズとの連携なども進める計画だ。


昨年からスタートしたインフラ工場は、従来は客先で行っていた製品の組み上げ・配線、ソフトなどのインストール、ラックなどへの固定といった作業を、工場に隣接するスペースで行うサービス。30~40人程度の工場スタッフと、SE十数人が作業を担当するインフラ工場でセットされたサーバーは、角に段ボール、クッション材をまとった最小限の梱包で客先に運ばれる。



(三浦 優子)

2009/12/11 00:00