富士通、クラウド分野に1000億円の投資計画

IAサーバーの国内出荷は目標に到達せず、2009年度決算は減収増益

 富士通株式会社は4月30日、2009年度連結業績を発表した。その席上、富士通の山本正己社長は、新体制や、経営戦略における中期的な事業方針を明らかにし、2011年度に営業利益2500億円の目標を堅持すること、2010年度にクラウド関連分野の投資に1000億円を計画していることに言及した。


チーフ・ストラテジー・オフィサーを設置、社内外へ戦略を発信

富士通の山本正己社長

 山本社長は、「社長に就任して以来、70社のユーザーを訪問した。今後も積極的にユーザーを訪問し、ニーズを把握し、事業の方向性に反映したい」と現場主義による経営姿勢を強調した。また、5人の副社長、2人専務の執行体制とすることで、激しく変化するICT業界において柔軟に対応し、事業部連携を推進することができる。また、「CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)と呼ばれる経営戦略全体をみる役割をアサインしており、外からは富士通の経営戦略が見えないという声に対応し、今後は社内外に向かって、経営戦略を打ち出していきたい」とした。

 また、構造改革に対しては「成長に向けた足がかりはできた。だが、構造改革のスピードを緩める気はない。構造改革というと切り捨てるという印象が強いが、そうではなく、利益を生み出すための構造改革をやる。基本的な施策として、グローバルに事業領域を拡大すること、新たなビジネスを創造するという2つに取り組み、富士通が持つ高い品質を生かしながら、利益と成長を追求する。これまで富士通は、サービスとプロダクトを両輪としてきたが、優れたテクノロジーとプロダクト、ソリューションを総合的に利用してもらう形で進化していく。新たなビジネスとしては、クラウド分野があり、医療、農業、教育、エネルギー、交通といった領域に、安心、安全を提供していく。10年間のビジョンとして、ヒューマンセントリックインテリジェンスソサエティを掲げていくつもりだ」などと語った。

 さらに、これまで3つの起点として掲げていた「お客さまのお客さま起点」、「グローバル起点」、「地球環境起点」については、「さらに磨きをかける」(山本社長)とし、お客さまのお客さま起点では、「お客さまの資産をクラウド環境に移すことができるのかという点などについて、お客さまをよく知っている富士通の強み、お客さまとリレーションをとる富士通の強みを生かしたい」としたほか、グローバル起点では、「日本では企業向けクラウド戦略を今年2月に発表したが、今後は米国、ドイツ、英国、シンガポール、オーストラリアの5か国にデータセンターを設置するなどの施策に取り組む考えだ。中国、アジアに向けた展開も強化する」とした。地球環境起点では、「環境への取り組みは新たな付加価値になる。富士通はすべての技術を環境基点で考える」と位置づけた。


2011年度に営業利益2500億円の目標を堅持

 一方、中期的な計画については、2011年度の営業利益目標である2500億円を堅持する姿勢をあらためて強調。「営業利益率5%を目指す。真のグローバルICT企業という観点では、この程度の利益率は不可欠となる。5%の営業利益率を達成する上ではクラウドビジネスのグローバル展開が鍵になる。ここでは富士通が持つ垂直統合の強みが生かせるだろう。また、オーストラリアのようにすでに6%の営業利益率を達成している地域もある。2010年度は、海外売上比率を、2009年度の37%から40%に引き上げる」とした。

 2011年度に関しては、クラウド関連分野に1000億円の投資を予定していることを明らかにし、「既存クラウド領域で500億円、新規の領域で500億円を想定している。農業や医療などの新たな分野での実証実験などを含む分野への投資、クラウドコンピューティングの基盤をグローバルに展開するの5か国へのデータセンターの投資、フラッグシップであるスーパーコンピュータへの開発といった次世代への開発投資を行っていく」とした。

 さらに、「必ずしも、富士通のグローバル戦略が一気通貫でできているとは思っていない。私の使命は、日本発のグローバル展開を推進することにある。その一例として、クラウドコンピューティングは、日本で培ったものを、日本発でグローバルに展開していくものになる」などと語った。

 なお、7月には新執行体制における中期経営計画をあらためて発表するとしている。


2009年度連結決算は減収増益、最終黒字930億円

 2009年度連結業績の売上高は前年比0.3%減の4兆6795億円、営業利益は37.2%増の943億円、経常利益は372.7%増の711億円、当期純利益は前年度1123億円の赤字から、930億円の最終黒字となった。

富士通の加藤和彦執行役員上席常務

 富士通の加藤和彦執行役員上席常務は、「デバイス事業は第3四半期から回復し、世界的な価格下落の影響に対しても、コストダウンがそれを上回る形で推移した。だが、欧州市場での回復が遅れていること、欧州地域におけるリストラ費用などが影響している」とした。

 セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上高が前年比1.4%増の3兆1210億円、営業利益は19.2%減の1524億円。そのうちサービス事業は売上高が3.4%増の2兆5104億円、営業利益が19.7%減の1311億円。システムプラットフォーム事業の売上高は6.0%減の6106億円、営業利益は16.0%減の213億円。

 サービス事業は、アウトソーシング事業は安定的に推移したものの、ソリューション/SIが企業の投資抑制の影響により、製造、流通、金融分野を中心に減収。海外では、FTSの連結子会社化した影響があり、22%の増収となったが、子会社化および為替の影響を除いた実質ベースでは4%の減収となっている。また、年度末に一部プロジェクトで採算性の悪化が顕在化。海外では景気低迷の影響を受けて減益となった。

 システムプラットフォームでは、サーバー関連での企業の投資抑制や低価格化の影響を受けたほか、携帯電話基地局などの所要一巡の影響を受けた。だが、下期から北米における光伝送システムやUNIXサーバーの回復が見られているという。

 システムプロダクトの売上高は、前年比2.5%減の3178億円。「市場全体は20%減という状況だが、FTSのサーバー事業が加わったことで、減少幅が少ない」(加藤執行役員専務)としている。

 富士通では、2010年度にIAサーバー全体で50万台、国内で20万台という戦略的な目標を掲げ、2009年度に国内12万台の計画を公表していた。だが、実績は海外20万台、国内10万台にとどまり、2011年度の達成に向けて黄色信号が点った状況だ。

 山本社長は、「厳しい市況環境が大きく影響している。だが、国内では前年比27%増となるなど、競合他社に比べて大きく成長している。2010年度の50万台達成に向けた旗は降ろさない」とした。

 ユビキタスプロダクトソリューションは、売上高が前年比3.2%減の9187億円、営業利益が前年度の5億円から229億円へと急拡大した。PCおよび携帯電話の売上高は前年比20.5%の8231億円。

 PCは、Windows 7の登場や教育用PCの需要拡大により、販売台数は増加したものの、低価格化の影響を受けて減収となったほか、海外におけるコンシューマ向けのPC事業を絞り込んだ影響もあり、市場全体の伸びを下回る実績となった。携帯電話は普及価格帯のモデルの売り上げ増加などが影響した。

 なお、PCにおいては、連結子会社化したFTSのPC事業が、ドイツでPCに課される私的複製補償金について権利者団体との和解による見積もり費用の一時的な減少があったことなどが影響している。

 PCの販売台数は前年比23.5%減の563万台、携帯電話の販売台数は10.2%増の518万台。PCおよび携帯電話は、国内においては、PCおよび携帯電話ともに、当初計画を上回る販売実績となっているという。

 また、「PC事業については黒字化している」(加藤執行役員専務)とした。

 デバイスソリューションでは、売上高が前年比6.9%減の5472億円、営業損失が前年度の719億円の赤字から631億円の大幅な改善となったものの、87億円の赤字となった。フラッシュメモリなどが減収になったという。


クラウドコンピューティング時代に向け戦略投資を加速

 一方、2010年度の業績予想は、売上高が前年比2.6%増の4兆8000億円、営業利益は96.0%増の1850億円、経常利益は138.9%増の1700億円、当期純利益は2.1%増の950億円とする。営業利益率は3.9%となる。

 「2009年1月に発表した計画では、2010年度は2000億円の営業利益としていたが、クラウド分野への投資を優先し、あえて慎重に判断した」(山本社長)とした。

 HDD事業の譲渡により、約800億円の減収影響があるが、サーバー関連やLSI、電子部品、オーディオ・ナビゲーション機器などのハードウェア関連の所要が回復するほか、下期以降はソフトウェアの開発分野にも所要の回復が波及すると見込んでいる。また、テクノロジーソリューションの増益が貢献するとみている。クラウドコンピューティング時代に向けた戦略投資を加速させる一方で、ICT関連投資の下期からの回復による増収効果、欧州の富士通テクノロジー・ソリューションズとの開発や購買の一元化により、サーバー関連を中心にコスト削減を進めることなどのリストラ効果、グローバルでの採算管理の強化などが増収要素としている。

 テクノロジーソリューションの売上高が前年比4.1%増の3兆2500億円、営業利益は41.0%増の2150億円。そのうちサービス事業は売上高が3.6%増の2兆6000億円、営業利益が29.6%増の1700億円。システムプラットフォーム事業の売上高は6.4%増の6500億円、営業利益は111.0%増の450億円。

 ユビキタスプロダクトソリューションは、売上高が前年比9.7%減の8300億円、営業利益が前年度の12.9%減の200億円。PCは国内が横ばい、海外は2けた増の販売台数を見込むが、採算重視を継続し、台数は絞り込む方針だという。

 PCの販売台数は3.2%増の580万台、携帯電話の販売台数は0.4%増の520万台と見込んでいる。

 デバイスソリューションでは、売上高が前年比17.0%増の6400億円、営業利益は黒字転換し、300億円の黒字を見込む。

陳謝する山本社長

 なお、決算会見の冒頭、山本社長は、「元社長の野副氏の件では、ステイクホルダーの皆さんにご迷惑とご心配をおかけしたことをおわび申し上げる」と陳謝。「業績に対する懸念もあるが、本業への影響はない。ビジネスに対して真摯(しんし)に取り組み、実績をあげることで応えていきたい」としたほか、「野副氏の件に関しては、これ以上、新たなものが出てくるとは考えておらず、第三者による調査委員会を設置する予定はまったくない」とした。





(大河原 克行)

2010/5/1 00:00