Oracleが巨人IBMに“宣戦布告”-誰のための競争?


 「IBMよ、ハードウェアで競合できるのを楽しみにしている。Larry Ellison」――。Oracleがこんなメッセージの入った広告を打ち出した。Sun Microsystemsの買収計画を発表してから半年。これまでMicrosoft、SAPと競争意識をむき出しにしてきたOracleの次のターゲットは、ハードウェアからソフトウェア、サービスと全方位的に展開する“巨人”IBMとなった。真っ向から勝負する構えだ。

 Ellison氏は今年9月のシリコンバレーのフォーラムChurchill Clubで、「ソフトウェアではIBMを倒した。(Sunの)買収の許可が下りれば、次はハードウェアで倒すことになる」と語った。そして、10月11日からサンフランシスコで開いた年次イベント「Oracle OpenWorld 2009」では、SunとIBMのハードウェアを比較し、「われわれのほうが速く、IBMのは遅い。コストもわれわれの方が低く、IBMのは高い」と宣言した。さらにSunサーバーで、IBMの2倍以上のパフォーマンスを出せなければ、1000万ドルを支払うと言い放ち、その勢いはとどまるところを知らない。

 Oracleは、Sybaseなどデータベースのライバルを突き放した後、業務ソフトウェアとミドルウェアに照準を拡大。PeopleSoft、BEA Systemsなどライバルの買収を重ねて市場を制覇し、世界第2位のソフトウェア企業となった。ソフトウェアベンダーとして、最大手のMicrosoft、業務ソフトウェアで後を追っているSAPなどに挑戦的な言葉をぶつけることが多かったEllison氏だが、今年のOracle OpenWorldのメッセージは「打倒IBM」で一貫していたようだ。

 Oracle OpenWorldは、Sunを無事に手中に収めた後のOracleの方向性を示す重要なイベントだった。Ellison氏は顧客を前に、Solaris、SPARCなどのSun製品の開発を継続するだけでなく、Sun時代よりも投資額を増やすと約束したのだ。

 Ellison氏がIBMへの対抗心をむき出しにするのには、身売先を探していたSunを同社と奪い合ったという経緯だけでなく、もっと切実な問題もある。

 IBMは、OracleがSun買収を発表した後、Solaris/SPARCの将来に不安を抱くSunの顧客を狙った乗り換えキャンペーンを展開してSunユーザーの取り込みを図っている。欧州連合(EU)がMySQLの将来に懸念を示して買収承認を延期していることも、乗り換えを呼びかけるIBMやHPに有利に働いている。Oracleとしては、買収手続の完了まで、手をこまねいて見ているわけにはいかないのだ。

 では巨人IBMを倒すにあたっての、Oracleの戦略は何だろう? Oracleは9月、Sunハードウェアを採用したデータベースマシン「Oracle Exadata v2」を披露したが、ここにヒントがありそうだ。Exadataは最適化によるパフォーマンスが最大の特徴で、顧客は自分たちでコンポーネントを集める必要はなく、データベース実装の複雑さを削減するという。

 Oracleの共同社長、Safra Catz氏は「部品がばらばらにあるだけで、買った人は自分で組み立てなければならない」と今日のハイテク業界を自動車業界にたとえて批判したうえで、Oracleの目指すところは「顧客が自分で組み立てる必要がないようにする」ことだとInvesters.comに語った。Ellison氏もSunの買収時に「ワンストップショップを目指す」と述べており、これがカギになるのは間違いない。

 ソフトウェア企業であるOracleのアプローチは、あくまでもソフト中心だ。Investers.comによると、Ellison氏は「ハードウェア企業になることに興味はない。目指すはシステム企業だ。ハードとソフトを組み合わせることで、世界の企業に提供するシステムプロバイダになれる」と述べている。自社のソフトウェアを容易に使ってもらうためにハードウェアのSunを手に入れる。これは、データベースから照準を広げてきたこれまでのOracleの戦略の延長線上にあるといえる。

 このビジョンの完成に向け、Oracleは来年、業務アプリケーションスイート「Fusion Applications」を登場させる。さらに統合アーキテクチャ「Application Integration Architecture(AIA)」を組み合わせることで、アプリケーションを柔軟に迅速に組み合わせてのシステム構築を可能にする。一方で、引き続き、ソフトウェア、ハードウェア、コンサルティングなどの分野で買収を重ね、ポートフォリオを強化していく計画という。

【お詫びと訂正】
初出時、Fusion Applicationsを誤ってFusion Middlewareと記載しておりました。お詫びして訂正いたします。

 The Wall Street Journalは、調査会社Altimeter Groupのアナリストのコメントを紹介しながら、IBMを狙うOracleの動きを「論理的な選択」とする。ハードとソフトの両方を持つベンダーは数少ないが、顧客はこうした調達形態にシフトしつつあるという。とりわけIBMは、両方を兼ね備えて長期的にワンストップショップとしての地位を築いてきたベンダーだと指摘する。

 一方、InformationWeekは、Oracleが打倒IBMにこだわってハードウェアに進出することが、比較的良好な関係を築いてきたHPとの関係に変化をもたらすと予想。HPがSAPに好意的に動くようになるとみている。

 こうしてOracleは、IBM、HP、SAP、Microsoft、Dell、Cisco Systems、さらにはsalesforce.comなどを相手にゲームを展開する。しかし、その戦略には顧客への視点が欠如していると指摘する声もある。

 InformationWeekのBob Evans氏は「Larry Ellison氏への公開書簡」と題した記事で、「(ハードウェアでIBMを負かすことが)Oracleの顧客に、なぜ、どのように価値を提供するのかについてまったく触れていない」と批判。競争に目を向けるあまり、顧客のことを考えていないのではないか、と警告する。

 良い例が冒頭で紹介したキャンペーンだという。Oracleは「Sunの顧客へ」として、SPARC、Solaris、MySQLへの投資増を約束しているが、「勝つために進む。IBMよ、ハードウェアで競合できるのを楽しみにしている」と結んでいる。こうなると、顧客のためよりも、単にIBMと戦うことが目的化したように見える。

 一方でSunでは、MySQLの取り扱いが大きな争点となっている。Ellison氏は、MySQLがOracle Databaseとは競合しないとして、継続を約束したが、MySQLの共同創業者らが分離を求めるなど、MySQLユーザーには先行きが見えない状態が続いている。また、10月20日になって、Sunが従業員3000人規模の解雇を計画していることも明らかになった。

 打倒IBMという派手な目標に目を奪われている間にも、Oracleには多くの課題が突きつけられている。


(岡田 陽子=Infostand)

2009/10/26/ 09:05