再上陸したNAVERが目指す“第3極”-ネイバージャパン森川社長に聞く


 「Eビジネスマイスターに聞く!」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」と称し、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。今回は、7月1日に満を持して韓国No.1検索エンジン「NAVER」を日本に再上陸させた森川氏に、そのサービスの特徴を伺うと共に、これまでのビジネス経験を伺います。


Eビジネスマイスター:森川 亮
ネイバージャパン株式会社 代表取締役社長


1989年筑波大学卒業後、日本テレビに入社。システム部門配属後、メディア事業に携わる。1999年青山学院大学大学院MBA修了。2000年ソニー入社。新規モバイルコンテンツ事業、ブロードバンド事業担当。2003年ハンゲームジャパン株式会社(現、NHN Japan株式会社)入社。2007年10月にNHN Japan 代表取締役社長就任。同年11月ネイバージャパン株式会社代表取締役就任(NHN Japan 代表取締役と兼務)。


―森川さんは、学生時代に何かビジネスをされていたんですか?

森川氏
 実は子どものころタレント活動をしていまして、その後音楽の世界に入ってジャズバンドとして活動していました。ライブもやったり会社のパーティの演奏をやったりしていたんですよ。


―筑波大のご出身なんですね。僕は筑波大出身の知人から田舎がゆえに活動の幅が狭くネガティブな印象を聞かされていましたが、そのような学生もいたんですね…。

森川氏
 筑波には、外資系の会社も多くてパーティなんかも多かったんです。そういうところに出向いて演奏していました。それに僕が筑波にいたころは万博が始まる年で街全体がとても盛り上がっていましたし、建築が好きだったので有名な建築家が建てた建物がたくさんあって楽しかったです。でも万博が終わると急に街が静かになりましたけど(笑)。


―大学卒業後は日本テレビに入社されたと伺いましたが…。

森川氏
 はい。バブル期だったということもあって早々に内定が出て、卒業までは音楽活動をしていました。日本テレビに入社した後も音楽番組のミキサーをやりたいと思っていたんですけど、専攻がコンピュータということもあり、当時のテレビ局にはあまりコンピュータに詳しい人がいなかったので違うシステム部門に配属されました。当時はアナログで、キーボードを打てる人自体ほとんどいなかった時代ですからね。


―希望とは違う部署だったということですが、どんなお仕事をされたんですか?

森川氏
 そこからコンピュータの勉強を真剣にやりました。コンピュータ関連の資格をとり、当時まだメインフレームが主流だったころにクライアントサーバー型の新しいシステムを作りました。それがオラクルさんに評価され、いろいろなところで講演をするようにもなりました。そういった経緯で業界でも注目をされたのでコンピュータも悪くないなと思いました。それならいっそのこと転職しようと思ったのですが、ちょうどインターネットが世の中に出てきて、会社からも「やりたいことをやらせるから残ってほしい」と言われ、社内でインターネットの部署を作ることになりました。


―日本テレビに入社されているときに、青山学院の大学院にも通われているんですね。それからどういうきっかけでソニーに転職されたんですか。

森川氏
 大学院で教わっていた先生が、ソニーの経営企画をされていたんです。当時、ソニーが出井さんを中心に大きく変わろうとしようとしていたときで、端末とコンテンツを含めてネットワーク技術をやろうとしていたころ。それで「一緒にやらないか」と声をかけられました。日本中から、映画関連の仕事をやっていた人や人材系の仕事をしていた人まで、いろいろな人が集まっていろいろな部署を立ちあげたんです。


―さまざまな事業を立ち上げたんですね。

森川氏
 最初はモバイルの事業を手がけたんですが途中でストップがかかり、ブロードバンドの事業をやらないかと昔からの知り合いに声をかけられました。そこでAII株式会社を立ち上げました。3年くらい立ち上げを手伝っていました。


―それで、どういった経緯でハンゲームジャパンに入社されたんですか。

森川氏
 ブロードバンドの仕事をやっていたころ、日本での展開はまだまだインフラ的にも厳しいものがあると思いました。ブロードバンドは韓国が一番進んでいると知り、そのときにハンゲームやNAVERの存在も知りました。(旧)ネイバージャパンの社長である金 亮都氏(当時:現在はネイバージャパン関連会社であるNHST代表)とも以前から知り合いだったこともあり、職場の雰囲気や経営者との相性が良くてなぜか吸い寄せられるように入社したんです(笑)。


―「吸い寄せられる」とは?

森川氏
 当時はソニーで成果主義のもと厳しい環境で働いていました。競争の中で勝ち抜かなければならないといった企業文化だったのですが、ハンゲームジャパンは昔の日本企業のような文化があり、いろんな意味で社員同士の仲がいい会社だと思いました。もちろんすごく成長していたので可能性も感じましたね。

 私は、インターネットサービスは「育てる事業」なのですぐに利益を出せるものではないと考えていましたが、メーカーだと初年度から利益を出さないといけないという考え方が根強く、私のような考え方はなかなか理解されにくかったんです。それが、インターネットを本業にしている会社であれば仕事がしやすいと思ったんです。


―韓国系企業ということで、韓国人の方が社内に多くて苦労されることも多いんじゃないですか。

森川氏
 当時のハンゲームジャパンは、社員のおよそ2割が韓国人で、ほとんどが日本人の社員だったので、私のなかでも韓国系企業に就職したという感じはなかったですね。サービスの内容も日本と韓国では違いますから、実質的にはほとんど日本で意思決定していましたし。


―韓国人と日本人の違いを感じたことってあるんですか。

森川氏
 強いていえば韓国人の方がお酒をよく飲むことですかね(笑)。お酒を飲んで仲良くなろうとしますね。


―そうそう、私も中国企業との付き合いではビジネスよりも人間関係が重要視されていると感じました。お酒ばっかり飲んでますもんね(笑)。

森川氏
 欧米人は物事の考え方がロジカル。ソニーは欧米経験者が多かったので会社全体の考え方がロジカルでしたね。それに比べて韓国や中国や日本を含めたアジア人はどちらかというと人間関係を重視。個人的には人間として大事にされた方が仕事もやりやすいと思っています。


―じゃあ森川さんもよく飲みに行くんですか。

森川氏
 ええ。部下ともよく飲みに行きますよ。先週末もチームワークを高めるための合宿をしていたんですが、そこでもよく飲みましたね。日ごろパソコンを相手に仕事をしていると、メールなどでしかコミュニケーションをとらなくなってしまいますが、そもそもインターネットは人と人とをつなぐものなので、そういった人同士のコミュニケーションをとることも大事なことだと考えています。その点、われわれの会社では頻繁に飲みに行ったりご飯を食べに行ったりするようにしているので一体感がありますね。


―ところで、ネイバージャパンが2007年11月に設立されたときのことを記憶しているのですが、今回のリリースまではどんな活動されていたんですか?

森川氏
 やっぱり「サービスコンセプト」や「企画」ですね。2005年に一度撤退していましたし、すでにYahoo!やGoogleも新しいサービスを展開していたので、韓国のサービスをそのまま導入するだけでは成功するとは思っていませんでした。NAVERのコンセプトは「探しあう検索」。人と人とがつながり合う検索という意味ですが、ただ、今回このサービスをどう展開すればユーザーに利用してもらえるかということを特に重視しました。


―個人的にはもっと早くオープンするのではと思っていましたが…。

森川氏
 早くオープンすることで、ポジティブな環境をうめるのであれば早くと考えますが、既に市場としては最後発ですので、時間をかけてでも、より良いサービスを作ろうということを考えていました。いくつものバージョンを開発し、社員が実際にNAVERを使いながらどういったカタチにしていくかを考えていきました。自分たちが使えないものを公開しても無理ですからね。一度撤退していますからとにかく検討を重ねました。もちろんまだ足りない部分はたくさんあると思いますけど。


―クローズドベータ版を6月15日に公開して、正式リリース(オープンベータ版)が7月1日ということであまり時間がなかったように感じますが、この2週間はどのような状況だったのですか?

森川氏
 ユーザーの声を聞きながら正式リリースのタイミングを判断しようと思っていたのですが、われわれが当初思っていたよりも、今回のNAVERのコンセプトに共感できるという声を多くいただきましたので、まだ不十分な部分もありますが、それはオープンし、運営をしながら修正改善していこうと決めました。


―ユーザーからはどのくらい要望が集まったんですか。

森川氏
 6月15~30日の間に300項目くらいの改善提案をユーザーからいただきました。そのほとんどがすでに反映されています。NAVERのサイト内にある「ご意見・ご要望掲示板」やお問い合わせに寄せられた要望だけでなく、一般のブログや掲示板の書き込みなどもモニタリングして意見を抽出しました。

 一番多かったのが「NAVERまとめ」の使い方についてですね。あとは「こういう会社と提携してはどうか」と具体的な社名までいただくこともありますよ(笑)。今までの検索サイトはどちらかというとクールな感じだったと思うんですが、それに対してわれわれのサイトはユーザーが直接意見も言えるし、その意見が反映されるのが目に見えて分かるといったところがほかのサイトと違うところですね。


―では、今回満を持してリリースされたNAVERの特徴を教えてください。

森川氏
 通常の検索サイトだと検索ボックスにキーワードを入力して検索をします。このユーザーの行動は検索サイトが登場して十数年変わっていません。ただ、従来のこの検索スタイルでは、ユーザーの多様なニーズには応えきれないところがありましたので、NAVERはユーザーが知りたいことを多様なアプローチで提示します。

 例えば、「ドラゴンクエスト」と入力すると、通常はWeb検索の結果が表示されます。ネイバーの場合はWeb検索の結果だけでなく、動画、画像、ショッピングなど、多様なアプローチの検索結果を一度に表示して、ユーザーが「ドラゴンクエスト」に関連した、欲しいと思われる情報の選択肢を多様に表現しています。通常の検索の場合、一義的な答えしか検索結果には表示しませんが、ユーザーは検索する際に自分がどんな情報を知りたいのかを明確にイメージできているわけではないので、多様な答えを表示することで情報との偶然の出会いや発見を与えられるように工夫しています。


―タブ検索を活用すればある程度欲しい情報を検索できると思うのですが…。

森川氏
 ユーザーの検索行動を見てみると、タブ検索を使いこなしている人は少ないんですよ。実際は、Web検索だけで目的の情報までたどり着こうとするユーザーが多いんです。ただ、Web検索は極論すればドラゴンクエストというキーワードがそのページにあるかないかだけを照合して検索結果として表示しているだけ。われわれのサイトでは、そのページ内にドラゴンクエストというキーワードがなかったとしても、ユーザーが「このキーワードの関連するカテゴリ」に情報を追加することで、今後「このページはドラゴンクエストに関係があるページなんだ」と認識して、通常のロボット型検索では出てこないページであったとしても、検索結果に表示されるようになります。


―ふむ、特徴的な機能などあれば具体的に教えてくれますか?

森川氏
 「ファインダー」という機能があります。「人物」「グループ」「テレビ番組」「映画」「大学」「自動車」「ゲーム」などのカテゴリについて、キーワードを入れずに、いろいろな結果を見くらべることができる機能です。

 例えば「自動車」の場合、メーカー、発売年、価格帯、燃費など、条件を選択して、ノイズがないきれいなデータベースでさまざまな車種を比較することができます。Web検索の延長線上で、クローリングして最適化をかけてデータベースを構築しています。通常のWeb検索だと、ノイズが多いので、多くの検索を繰り返したり、複合キーワードで検索したりしてほしい情報にやっとたどり着きます。しかし、たどり着くまでにいろいろなサイトを見くらべながら行き来しなければならないといった手間があり大変でした。この「ファインダー」機能を使うと、同じ画面上で比較できるので使いやすいんです。このカテゴリは、順次増やしていく予定です。


―「NAVERまとめ」について教えていただけますか。

森川氏
 「NAVERまとめ」とは、見つけた情報を同じ情報を探す人と共有して、助け合うサービスです。例えば「おいしいラーメン」というキーワードで情報をまとめて、それをほかのユーザーにも共有できるという仕組みです。

 さらに、「マイまとめ」というユーザーごとに用意されている専用ページでは、自分が参加したまとめの趣味趣向によって円グラフが表示されるのですが、そこで「つながりユーザー検索」という機能を利用すると、自分と同じようなグラフを持つユーザーを見つけることができます。つまり、趣味趣向が似ているユーザーをネット上で探すことができるということです。そうなるとお互いで情報のやりとりを行うことができ、人を介した情報検索ができるようになるんです。


―へぇ~“まとめ”とはよくいったもんですね。「NAVERまとめ」は、なかなかなじみ深いサービスになるんじゃないですか?

森川氏
 そうですね。新しいサービスなのでユーザーからも「どのように使ったらいいかわからない」という質問をいただくことが多いですが、実際のところ、どのように使ってもらっても構わないのですが、まずは検索をしてみて、自分と趣味趣向が似ている人を見つけられると、ネット上で人と人とのつながりを感じることができるようになります。

 ちなみにNAVERでは、ユーザーからの「このことについてまとめてほしい」という要望に応じて、まとめを作成してくれる「おまとめマン」がいるんです(笑)。7月7日に試験的にリリースしてから2週間弱(取材時点)ですが、すでに30以上の要望に応えてきました。まとめたものを表示することでさらにユーザーに楽しんでいただいています。


―ほかにおすすめの機能はありますか?

森川氏
 「NAVERツールバー」ですね。検索エンジンにはそれぞれ個性があるので、使い分けたいというユーザーもいます。ただ、いろいろなサイトごとに配布されているツールバーを入れていくと、何段にもなって使いづらくなるのですが、NAVERのツールバーを一つ入れておくだけで、見たいサイトをすべて比較することができます。ページ単位で検索順位が何位なのかといったページのランキングも表示されます。さらに、画面キャプチャ機能があるので、プレゼン資料を作るときにも役に立ちます。ユーザーからも評価が高く、社内でも利用率が高いですね。


―オーバチュアやGoogle Adsenseといったリスティング広告などを導入することは考えていないんですか。

森川氏
 当面は自サイト内での広告掲載を考えていませんね。まずは「ユーザーを集めること」に集中するつもりです。具体的には、検索の品質を向上すること、サービスのレベルを上げること、ニーズにこたえることに集中するべきだと考えています。ただ、広告をやらないといっているわけではなく、まずはユーザーが使っていただける環境を整えることですね。


―とはいえ、何か面白い次の展開は考えていらっしゃるのでは?

森川氏
 そうですね。「NAVERまとめ」自体をネットワーク化して、別のサイトのプラットフォームとして使っていただければ、そのサイト自体の利用率も高まるし、ユーザーがNAVERまとめの使い方に慣れてくるのではと考えています。


―NAVERは本当に「人と人とのつながり」を感じるサイトですよね。

森川氏
 そうなんです。人の血が流れているサイトだと思いますよ。社員に金子という人間がいるのですが、ユーザーからのご意見に対応するために24時間張り付いているんです。そのうちユーザーの間では、私よりも彼女の方が有名になってしまいました(笑)。改善提案をいただいた際には、テンプレートで一辺倒な返答するのではなく、改善結果や感謝の気持ちを直接伝えるようにしています。


―狙うはやはり検索エンジンシェア1位ですか。

森川氏
 われわれはYahoo!やGoogleに次いで第3位を目標にしていると申し上げているのですが、正しくは「第3極」を目指しているんです。検索サイトがGoogle、ポータルサイトがYahoo!なら、サーチコミュニケーションプラットフォームはNAVERとなることが目標ですね。

 そういう意味では検索シェアはあまり気にしていません。というのも、われわれのサービスモデルが他社と違っていますから。


―今後の目標や目指すところを教えていただけますか。

森川氏
 NAVERは「新しい検索サービス」であるというところが特徴なので、まずはそこを評価していただきたいですね。ディレクトリ検索やロボット検索ではなく、新しい「人を介した検索」つまり「探しあう検索」ということです。われわれはこれを「サーチコミュニケーションプラットフォーム」といっているのですが、まずはNAVERというサイトを認知してもらって評価をいただいたうえで、数字がついてくればいいと思っています。


―なるほど、お話をお伺いしてサーチの世界も、一般ユーザーにとってどうか?という視点に様変わりしたのだと気がつきました。これまでのイノベーターやビジョナリー向けではないということですよね。

 ぜひYahoo!やGoogleを脅かす存在となりユーザーオリエッテッドなサーチとなることを期待しています。本日は、ありがとうございました。


今回のキーワード:サーチコミュニケーションプラットフォーム
従来の検索サービスが持つ、キーワード検索によるシステム型のアプローチに加えて、従来のキーワード型の検索では解決できない、ユーザー参加型による人の経験や知識・嗜好(しこう)性を生かしたアプローチを融合させることにより、総合的かつ多様な検索体験を提供していく検索モデル。これまで技術一辺倒であった検索サービスの中で、従来のディレクトリ型検索・ロボット型キーワード検索に次ぐ“第3のモデル”として注目されている。




聞き手:木村 誠
1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』として ITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサル ティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES- Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタ ルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

2009/7/30/ 09:00