「グラフ共有サイトvizooであらゆるWebデータの可視化と分析を可能に」フィルモア・アドバイザリー森社長


 今回のゲストはフィルモア・アドバイザリー社長の森航介さんです。フィルモアはWeb上のさまざまな統計データを可視化し、豊かな表現を可能にする、Webベースのグラフ作成・共有サービス「vizoo(ビズー)」の運営会社です。この連載でも登場した動画編集・共有サイトのスプラシアにも似たモデルといえるかもしれません。


森 航介
株式会社フィルモア・アドバイザリー 代表取締役

みずほコーポレート銀行にてレバレッジド・ファイナンス業務、銀行統合プロジェクト等に従事。2006年に独立、フィルモア・アドバイザリーを設立。東京大学法学部卒/米スタンフォード大にてMBA取得。


金融データのグラフ作成と共有サービスvizooを公開

小川氏
 vizooの公開、おめでとうございます。


森氏
 ありがとうございます。5月13日にグラフの共有サイトとしてvizooのベータ版を公開できました。日経産業新聞でも「株価分析手軽に IR情報基にグラフ作成」との見出しでvizooを紹介していただけました。YouTubeのグラフ版のようなポジショニングになれればなと思っています。


小川氏
 基本的なサービスは、グラフの作成なんですよね。まず金融データにフォーカスした理由は?


森氏
 もともと僕を含めて、弊社のメンバーにはネット系ベンチャーにしては金融出身者が多いためです。そこで、企業の財務データや金利などのマーケットデータや、経済統計をわれわれがまずは用意して、ユーザーがいろんな切り口で作成して、データをグラフ化できるようにしてみました。Web上にはいろいろなデータがありますが、例えばGDP(国内総生産)一つをとっても、それを記事に使ったり、勉強に使うなどの使い方のニーズには違いがあります。ブロガーか投資家かジャーナリストかなどの立場によっても違いますよね。

 つまり、データが公開されているから、みんなが使えるということではないわけです。そこで、データをグラフにして可視化してあげれば、使い方が分からない人にも分かると思いました。データと使いたい人を結びつけるための触媒としてのグラフなわけです。


小川氏
 なるほど。まだ公開したばかりで事業としてマネタイズはこれからだと思いますが、起業してから今日までの2年半のキャッシュフローはどうしていたんですか?


森氏
 自分が興銀出身ということもあり、また、スタンフォードでのMBA取得というバックグラウンドもあり、日本株のリサーチを行って、海外のヘッジファンドに販売して売上をあげていました。でももうやってないです。いまではvizoo=フィルモアです。


小川氏
 そうですか。vizooの事業モデルをどう考えられているのでしょうか。


森氏
 課金モデルはまだできてないですね。いまのところvizooは完全無料です。今年の夏か秋には課金モデルを導入するつもりです。ブルームバーグやロイターなどが扱っている情報商品は1アカウントあたり20万円くらいで販売しているわけですけど、そのやり方を踏襲しようと思っています。欲しい情報についてグラフで検索結果を出したり、元データをExcelのフォーマットでエクスポートしたいなどのニーズに対する小口課金サービスなどを検討しています。


銀行勤務時代にスタンフォードでMBA取得。順風満帆なキャリアパスを捨てて起業

小川氏
 ベータ版でできることは?


森氏
 まずデータからいうと限られていて、株価・為替・金利と一部の上場企業の財務データに限られています。それらを自由自在に分析してグラフにして共有、というのが基本サービスです。サービス自体は会員制ですが、現状無料です。作られたグラフを見ることは会員でなくてもだれでもみられますが、作成は会員向けのサービスにしています。

 データを無数の切り口にする、一種のデータベースをいま、ぽんと出した状態ですね。夏秋に機能もデータも増やしていくつもりでいます。


小川氏
 ちょっと森さんご自身の話のお伺いします。元は興銀だとおっしゃいましたよね。


森氏
 そうです。法人営業や、銀行の統合プロジェクト、レバレッジファイナンスなどの担当をしていました。その後会社の派遣でシリコンバレーでMBAをとらせていただいたんですが、そこで起業に目覚めてしまい(笑)、卒業と同時に起業してしまいました。もちろんMBAにかかった費用は会社にお返ししました。


小川氏
 思い切りましたね、まあ僕が言える立場じゃないですが(笑)。


森氏
 そうそう、起業したときには何をやるかは決まってなくて、さっきも言いましたけど、株のリサーチで金を稼ぎながら、何をやるかを考えていたんですが、小川さんの「Web2.0 Book」は熟読させていただきまして、当時のチーム全員に教科書のように読むようにと勧めさせていただいていました。


小川氏
 ありがとうございます(笑)。


森氏
 2006年11月に会社を設立しまして、2007年の夏にvizooを軸として事業プランを作りました。運よくアメリカのVCから開発資金を調達できましたので、2008年にチームアップとシステム開発を始めました。

 いまは正社員が13名で、パートや契約社員、バイトで約20名ほどの陣容になりました。


小川氏
 エンジニアは?


森氏
 5名がフルタイムエンジニアで、契約で2名です。すべて自社開発をしています。


GoogleやAmazonの財務データのグラフ化は面白いコンテンツになる

小川氏
 サービスインしての反響は?


森氏
 まだサイトのユーザビリティが良くないんでしょうね、難しいとか何をしていいのか分からないというおしかりをいただくことも多いです。これから徐々に使い勝手をよくしていくつもりです。

 反面、今後データがどんどん増えてくればすごいことになるかもと言っていただけたり、うちの会社のデータのグラフ化に使いたいというようなありがたいお言葉もたくさんいただいています。また、今は金融データだけですけど、将来的には金融に限らない、陳腐な言い方かもしれないですがデータのポータルというか、ソーシャルアプリケーションのプラットフォームにしていきたいですね。データを規格化してグラフ化して、それらをAPI化していきたいと思っています。スポーツのデータなどのグラフ化はニーズが大きい気がします。


小川氏
 グラフ化にこだわる理由は?


森氏
 グラフ共有サイトは、アメリカにはいくつかあるんですよ。vizooを考案したときには僕はしらなかったですけど。当時は、ブルームバーグらをもっとイケてる感じにしたいな、と。データをそのまま渡すのではなく、人が編集することでグラフ化したら分かりやすいんじゃないかと考えたわけです。もちろんグラフにばかりこだわっているわけではないんですけど、いまはグラフ化サービスはブームかもしれないです。だったら、そこにフォーカスするのはいいだろう、Webメディアにはグラフが少ないし、ださかったり複雑だったりのどちらかの状態なので、それを変えたいと思いました。


小川氏
 ベンチマークになる相手は?


森氏
 B2Bの領域ではブルームバーグとかロイターですね、いまのところは。B2Cの領域ではまだ同じようなサイトはないですね。グラフ作成・共有サイトはさっきもいったようにアメリカにはありますが、データそのものをどう使うかまで考慮したサービスはないと思います。彼らはCGM的発想であっても、われわれのようにそのグラフをデータベースとしては考えていない気がします。また、Yahoo!ファイナンスで株価を調べることはあってもデータベースとして使うかというと少し違うでしょう。

 うちとしては、データをお持ちの人に新しいチャネルとしてvizooを使っていただけるとうれしいですね。実際にリサーチ会社とブレストさせていただいています。


小川氏
 C向けの課金の想定シーンは?


森氏
 明日のプレゼン資料を作っているときに、vizoo使って数百円?でグラフを作るとか。vizooでは誰かが作ったグラフに手を加えて編集もできるので便利ですから。


小川氏
 当面の課題と将来の展望を教えてください。


森氏
 いきなり個人のみなさんに盛り上がって、とは思ってないですね。やはり情報提供サイトなどが僕らのグラフをどんどん使ってもらいたいと思っています。vizooで作ったグラフはデータを更新すれば変わりますが、変えないように指定することもできますし、タグにも対応しています。

 個人向けにはPowerPointやWordに貼り付けるような機能が必要になってくると思いますが、今はまだありません。夏秋には画像で出すことはできるようになるだろうと思っています。作ったグラフをそうしてエクスポートしてオフラインで使う分には有料、オンラインでは引き続き無料にしようと思っています。


小川氏
 ブログパーツ的に使うことはできるんですね。


森氏
 もちろんです。そうしてバズ的に広めていただければとてもうれしいことです。vizooへのリンクがついているので、おお、これは面白いグラフだと読者が感じて、クリックしてvizooに誘導されるようなシーンが増えることを期待しています。


小川氏
 展望の方は?


森氏
 多言語化できるアーキテクチャになっているので、海外のコンテンツも取り込んでくることですね。今後は大手の企業やメディアと組みたいですね。例えば、IT系のネットメディアとは相性がいいと思いますし。

 GoogleやAmazonの財務データやIR情報なんて面白いじゃないですか、常にグラフ化されていたら。Amazon Webサービスの売上はいくらなの?とか、セールスフォースの売上はどうなの?というように、興味深いコンテンツを作りやすいと思うんですよ。あとは盛り上がるデータと盛り上がらないデータはあるので、盛り上がるデータは少し高めに設定するなどの工夫がいるかもしれないです(笑)。


小川氏
 なるほど。

 モディファイもテクノロジーを直接マネタイズすることを今期の最大目標にしています。データを扱って加工するという点でも似ています。ぜひ今後なにか協業できればよいですね。今日はありがとうございました。





小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコ ラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス 「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用 して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス) などがある。

2009/6/9/ 11:00