元祖早稲田大学発ベンチャー「ウタゴエ」園田社長、「P2Pで映像を格安・大量配信」
今回のゲストはウタゴエ株式会社の園田社長です。社名は非常に“和”のテイストですが、園田さんは学生起業家としてスタートし、非常に技術オリエンテッドなベンチャーを率いる、ある意味シリコンバレーのテックベンチャーのムードを感じさせる経営者です。
園田 智也 ウタゴエ株式会社 代表取締役社長・博士(情報科学) 2001年1月4日、早稲田大学の博士後期課程に進学した年に有限会社「うたごえ(現在のウタゴエ)」を設立。2003年03月に博士号を取得。 2003年08月に株式会社へ改組し、世界の人々の生活に密着した、新しい技術・価値を創造し提案することを目標に掲げ、現在に至る。 詳しいプロフィールはこちら http://www.sonoda.net/ |
■歌声による楽曲検索からスタート
小川氏
先日のセミナーではありがとうございました。簡単に御社のいまの事業内容をご紹介いただけますか?
園田氏
もともとは歌声による曲検索システム「うたごえ検索」を主力にしていました。携帯電話向けの音声による楽曲検索サービスです。いまは、それに加えて映像をネット上でテレビのように配信するサービスをメインにしています。iPhoneアプリもつくっています。
小川氏
簡単に経歴も紹介していただけますか。
園田氏
福岡出身で、早稲田大学に入るまでは福岡におりました。博士課程の1年のときに起業して、そのころは早稲田初のベンチャーといわれたりしましたが、10年以上たったいまでは、あんまりいってもらえなくなりました(笑)。
もともとプログラミングをやっていて、早稲田の研究室の先輩が日本で最初の検索エンジンである「千里眼」を作って、その先輩が卒業した後に僕がそれを引き継いだんですね。当時日本全国のHPが7MBくらいだった時代です。同じころに歌声から楽曲を探す仕組みを研究していた先輩もいて、その2つを合わせたら面白いサービスができると思ってウタゴエ検索を作りました。世界初のサービスだったので、世界7カ国で特許申請したんですけど、特許申請前に僕が論文発表してしまったこともあって、とれない国もあったり、その論文をみたほかの誰かが似たようなソフトを作ってしまったりなど、特許についてはちょっと後悔が多いですね。
とはいえ、事業としては順調で、2004年くらいから商用化しまして、各キャリアのCP(コンテンツプロバイダー)に採用していただいたり、キャリアさんからも直接採用いただけました。
小川氏
社名の由来はその検索からきてるんですよね。
園田氏
2003年に卒業し、そこで博士号いただき、株式会社化したときにつけました。最初は「うたごえ」と平仮名にしようと思ったんですが、ある記者さんからカタカナでやったら海外に出るときにいいよといわれてカタカナにしました。
そのときにウタゴエの意味を「コミュニケーションのシンボル」であると再定義して、世界中の差異を超えていくコミュニケーションの仕組みを作っていく会社という意味を込めました。言語や年齢、宗教が違っていても一緒に楽しめる、それがコミュニケーション手段としての歌だと思いました。
■映像の大量配信をP2P技術でコストカット
小川氏
今のビジネスモデルは?
園田氏
ウタゴエ検索以上に力を入れているのが映像配信サービスです。ほかにもできるところはたくさんありますが、うちは映像を低コストで大量配信できるのが特徴です。
もともと新しい事業のネタを探しているときに、ウタゴエ検索の機能を使ってIP電話を作ったらいいと考えたんですね、まだSkypeがないときです。IPによるテレビ電話を作って全世界でつなげるようにしようと。そのデモを愛知万博に出したところ、衛星放送系の大手さんに注目していただいて、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいにマルチキャストでテレビ電話を使いっぱなしにしたら面白いということで、共同実験を始めたんです。まあ、その実験そのものは途中で発展的解消となったんですが、ちょうど通信と放送の融合のようなキーワードが世間的に話題になるころだったので、投資会社からも声をかけていただいて、2006年12月に2億数千万円を調達し、いまの開発費にあてています。
小川氏
なぜ低コストで大量配信できるのでしょう。
園田氏
映像を大量配信しようとすると、とても高いんですよ。たかだか1万人に、わずか1MBの映像を配信したい、と思ったとしても、計算してみると1MB×1万人ですから、10GBの回線が必要になり、そのコストは現在の費用レベルで1000万円以上になります。1万人へのリーチで1000万円以上かけていいのか?という疑問がでるわけです。
そこで考えたのは、最初の数人だけ、うちのセンターから映像を配り、あとはユーザー同士がP2Pでリレーしてリアルタイムで再生したらいいじゃないかということです。それができる企業は世界で数社ないと思います。競合企業と比べて、コストはうちであれば99%カットできる、将来は1000分の1になると思っています。となれば、2~3万円で1万人に配信できることになります。今年は完全にウタゴエ検索よりも映像配信のほうが上になっているんですが、歌を歌うシーンより映像を見る機会の方が多いから市場は多いのは当たり前かと思っています。
小川氏
品質的には下がったりしませんか?
園田氏
阪神タイガースの試合や競馬中継をやらせていただいてますが、1MBから2MBの映像だと、意外にキレイですよ。それなりの品質は担保できると思います。
将来的にプロバイダーの回線がめちゃくちゃ安くなれば、うちの技術でなくてもよくはなるだろうが、回線はそう簡単に安くならないですよ。
小川氏
安くなれば、画質をあげようと思うから1MBが10MBになっていくでしょうしね。
この配信技術の特許は申請したんですか?
園田氏
今回は基礎技術はしましたが、取得まではしていないんです。取得してもお金にならないことは身をもって知ったし、自分たちで売り込まないとね。
TwitterでもFacebookでも特許はとってないでしょうしね。
■映像配信サイトへの集客保証と属性判断技術によってYahoo!動画やニコニコ動画に競り勝つ
小川氏
資金調達は間に合ってますか?
園田氏
いま、またしているところです。
携帯電話の世界ががらっと変わっているから、ウタゴエ検索にしても映像配信にしても、今後はそこが主戦場だと思います。そこにいきたいので、そのための調達です。
ケータイでもP2Pが使えるようになると思いますし、iPhoneやスマートフォンはWi-Fiでならもうできますから。WiMAXもこれからもりあがりますしね。
小川氏
社員はいま何人?
園田氏
10人くらい。半分技術者です。営業がいないので僕がやっています。
小川氏
うちは9名ですが、同じように僕自身がセールスマンですね(笑)。
競合は少ないと言ってましたが、技術的な競合はなくても市場の競合はあり得ますよね?
園田氏
そうですね。技術ではコンペは少ないけど、サービスとしてはニコニコ動画がやはり最大手になりますね。
人気アーティストのイベントなど、数万人に配信しようとしたときに、そのコストを回避するのにYahoo!動画やニコニコ動画を使うお客さまが多いわけです。お客さまの払うコストを、Yahoo!さんやニワンゴさんが(技術ではなく財力で)負担してしまえば、やろうと思えば弊社と同じ料金体系でサービスを提供できますから。しかし、ウタゴエならお客さまブランドのサービスサイトで映像を配信できます。そこが強みになりますね。
しかし、それでも値段勝負なら勝てると思っています。ただ、ユーザーベース、どうしたらユーザーを集めてくれるんですか?といわれるのがいまは弱いんですね。
小川氏
そうですね、確かに。
園田氏
集客保証型ライブ配信、というのができれば強いですよね。このイベントに1万人集めてください、ということを保証した上での映像配信なら、うちに頼まない理由がなくなります。普通の配信会社は、ユーザーが集まらない方がありがたいわけですよ、コストがかからなくてすむから。
小川氏
そうですね。ストレージサービスもそうですけど、お金だけ払っていただいて実は使ってない状態が一番もうかりますからね。歩留まりが悪い方がもうかるのが面白いところです(苦笑)。
いまの料金はだいたいどのくらいですか?
園田氏
うちでは100円/CPC(クリック数あたり)くらいが平均ですね。
この金額で集客を保証できれば強いですよ。普通はWebは非同期メディアだから、同時に同じサイトをたくさんの人がみるというのは少ないわけです。だからライブや記者会見はよほどのことがないと、その時間にたくさんの人を集めるのは難しい。でも、それを集めるという保証をすれば代理店はレポートを書きやすいわけです。
そこで、うちはサービスの裏側でマッチングエンジンを持っていまして、あるユーザーがあるブログに訪れたときに、あらゆるブログに対してそのコードを埋め込んでいただき、どんなユーザーがアクセスしたかをグラフでだせるようにしました。例えば、コスメサイトに(ライブ配信の)広告をはるとアクセスが多くなるのは当然として、その割合をあらかじめ計測しておくことができるんです。この機能を使って、ブログサービスの提供者と提携することが集客の早道かと思っています。そのために、ロカリサーチさんとも協業しています。
小川氏
なるほど。その辺のアルゴリズムの正当性が認知されれば、面白いサービスになりますね。集客保証にも確かになるかもしれません。
園田氏
この技術はけっこう使い道があると感じています。そこで、訪問者の属性解析のツールだけ切り離して売り出そうとしています。サイトに訪れているユーザーが男か女か、何歳くらいかまでを推測できます。前後に訪れていたサイトやコンテンツを調べることで、だいたい25歳の女性がよくみるサイトやコンテンツをみている人は、おそらく同じくらいの年齢だろうと考えていくことで、属性を浮き出させるわけです。このサービスをUGマーケティングというベタな名称にして、今後は売り込んでいこうと思っています。
2009/8/4/ 09:00