「ECサイトの売上向上のノウハウを深く知る伝道師」オイシックスECソリューションズ吉田社長


 今回のゲストはオイシックスの創業メンバーとして辣腕をふるい、いま新たな事業戦略の推進に挑む若き経営者、オイシックスECソリューションズの吉田卓司社長です。弱冠33歳の老練な起業家に、今のモノが売れない現在の不況下でのかじ取りについてお伺いしました。


吉田 卓司
オイシックスECソリューションズ株式会社 代表取締役社長
オイシックス株式会社 代表取締役副社長

1976年生まれ。2000年3月成城大学経済学部卒業。
同年6月オイシックス株式会社を創業し、代表取締役副社長に就任。
Oisix(おいしっくす)を立ち上げから月商数億円の有数のECサイトに育てる。
その経験・ノウハウを生かし、企業のECサイトの立ち上げ、てこ入れを手がけるオイシックスECソリューション株式会社を2007年6月に設立。同社社長も兼ねる。


Eコマースサイトの売上向上支援を事業化

小川氏
 オイシックスECソリューションズは、オイシックスの子会社という位置づけですね?


吉田氏
 そうです。

 オイシックスECソリューションズはもともと、オイシックスのお客さまや、投資していただいている皆さまから、どうやったらオイシックスみたいにECをうまく軌道に乗せられるの?とよくお問い合わせされることがきっかけで立ち上げました。オイシックスの事業である食品の分野以外にも、共通化した過去9年間のノウハウが生かせるはずだと考え、それをソリューションサービスとしてご提供しようじゃないかと考えたわけです。


小川氏
 はい。


吉田氏
 分かったことはネット通販をやりたい人は多いんですが、どうしていいか分からないという方も多いということです。その部分のガイド役をわれわれが担いたいと考えています。さまざまな新しい技術の通訳や案内役として働き、最終的にはお客さまが自分たちでできるところまで導く手伝いをしたいと。


小川氏
 お客さまの業種は?


吉田氏
 アパレルが今は多いですね。基本的に女性、というところをメインにしている大手の企業が多いです。今のところ弊社としては既存の事業で売上100億オーバーくらいの企業をメインにさせていただいています。具体的にアパレル以外にも百貨店や化粧品業などが多いです。


小川氏
 コンサル的なサービスなんですよね?


吉田氏
 私たちがやらせていただいているのは、戦略コンサルのレイヤーの高いところからメルマガの作成などの運用もやらせていただいているんです。

 最初のタイミングで現場の担当者と、事業計画を作るところから始まり、サービスモデルを構築しているなかでパーツとしてない部分もでてきたら、制作もお手伝いしたり、外注も紹介することもあります。トータルのプランニングであって、頭だけではなく手足も使うのがわれわれの特徴ですね。商品の撮影のような細かいこともやります。


SIPS系とは運用代行サービスで差別化

小川氏
 コンペティターは?


吉田氏
 あまりいないですね。レイヤーによって分かれるといったほうがいいかな。戦略的にはシンクタンク系の企業、例えば上場企業だとメンバーズさんなどが当たるんでしょうが、われわれは軸足がコンサルなんですね。例えばメルマガを書く運用代行までやるような会社はあまりないのです。ネットイヤーさんなども戦略系は強いが、そうしたメルマガ代行みたいな実務まではやらないのではないでしょうか? ビジネスストラクチャー構築までで、そのあとの手足動かす部分などはやってないのでは、と思います。われわれはそうしたタスクを一切外注しない、だから自分たちで対応できるのが強みで、即時性やクオリティコントロールまであるところが評価されていると思います。


小川氏
 例えば、コンビニが最近中国進出していることがニュースになりましたが、ノウハウを売るということをトータル的にやるということですね? 御社も海外にも進出できるんじゃないですか?


吉田氏
 そうですね。でもサービスが出来上がってない会社がまだいっぱい日本でもあるので、まずは国内に向き合いたいです。例えば、料理はおいしいのにトイレが汚いというレストランがありますよね。HPデザインはいいのに、課金系はぐちゃぐちゃ、というECサイトもまだまだあります。客はサイトやサービスを横軸で見てるのに、企業側は縦軸でみていてバランスがとれてないんですよ。私たちが注力しているのは横軸でお客さま目線で、また買いたくなるサービスを作ることです。


小川氏
 費用感はどのような感じでしょう?


吉田氏
 固定費としては運用コストですね、それに加えてコンサルは成果報酬で、EC売上の何パーセント、という取り決めをします。

 基本的にはEC全体のコンサルをさせていただいていて、部分的に改良するようなことやWeb診断、メルマガのROIを高めるような施策もやっていますが、メインではないです。


小川氏
 なるほど。

 ちなみにソリューションとして向かない業種とかありますか?


吉田氏
 やったことはないんですけど、卸の会社は難しそうな気がします。品ぞろえが豊富でロングテールはあるんでしょうが、商品の付加価値をつけるのが難しいのではないかなあ。メーカーさんが一番向いていますね。あとは親会社のからみで食品はお受けしていません。


小川氏
 PRやブランディングは?


吉田氏
 やってないですね。


自分たちも売上があがらないときは歯を食いしばってがんばってきた。その経験こそが生きてくる

小川氏
 成果報酬型の事業はリスクが大きくないですか?


吉田氏
 立ち上げのときはこちらの負担が大きいのでリスクはありますね。長期に売上があげていけばレベニューシェアができますが。

 それと、ECサイトの在庫が既存店との取り合いになるようなケースが一番怖いです。在庫は有限なわけで、ネットの店舗に在庫が回ってこないときがありますから。いくらうまくやっても商品がなければ売れません。


小川氏
 そうですね。最後に、ちょっとだけノウハウを教えてもらえませんか(笑)。


吉田氏
 うーん。われわれの仕事しては、3つのフェーズがあります。

 まずはプランニングというフェーズで、なにもないところから始まるので、それなりの予算と人が必要になります。経営陣に対して、担当者が起案するときの事業計画書を作るお手伝いをします。いくらもうかるの?いつペイして、回収できる?などを考えていきます。それがないと投資が通らないですからね。うまくいかないECで一番多いのは計画がないということで、何がいいか悪いかすら分かってないことが多いです。予算も場当たり的でアクセス数が多いのかどうかさえ判断する基準がなく、客単価さえ店舗とも比べていない、そういうケースも多々あります。だから、市場リサーチをしてお客の反応と世の中の市場チェックをして、ROIのジャッジができる資料を作ります。これは有料で3~6カ月かけて作成しますので、成果報酬ではなく、ソリューションの販売です。

 次が構築のフェーズ。これも有料で、事業計画書にOKが出たらシステム開発や、Web制作、カスタマーサポートの設計など、すべての歯車をくっつける作業をします。6カ月くらいかかりますね。

 最後が運用フェーズで、部署内でやるもの、うちがやるもの、外注するものを分けた上で、目標数字に対して売上をたてていくところまでやります。


小川氏
 最後のフェーズまで行かずに終わるケースもあるでしょう?


吉田氏
 いや、これまで運用フェーズまでいたらないケースはないですね。


小川氏
 仮に運用フェーズに入ってお客さまの売上の伸びがとまったら?


吉田氏
 オイシックスもそんな時期があったわけで、歯を食いしばってがんばってきたんですね。だからお客さまと相談しながら良い結果を出せるように全力を尽くすだけですよ。


小川氏
 分かりました。今日はありがとうございました!





小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコ ラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス 「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用 して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス) などがある。

2009/10/30/ 09:00