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企業IP電話サービスの選び方 [後編]
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企業IP電話に対する注目が集まっている。しかし、企業IP電話の導入形態は、目的や既存環境により大きく異なり、どれを選択すればいいか迷っているのではないだろうか。今回、企業IP電話の導入の実例を紹介するムック「企業IP電話比較・検討・導入ガイド」(インプレス発行)より一部を抜粋し、企業IP電話の選択肢とそれぞれの特徴を紹介する。後編では、企業IP電話それぞれの特徴について触れる。
前回紹介した企業IP電話の導入理由に基づいて、これら4つの選択肢を大まかに比較した場合、それぞれがどの導入理由に対してどのように貢献することができるかをまとめたのが下記の表である。
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IP外線電話サービス |
IPセントレックスサービス |
自営ゲートウェイ |
自営IP-PBX |
通信コストの削減 |
拠点間通話料の削減 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
外線通話料の削減 |
◎ |
◎ |
× |
× |
広域データ通信網を整理・統合する効果 |
○ |
○ |
◎ |
◎ |
電話システム運用コストの削減 |
電話システム購入/リース料削減 |
× |
○ |
× |
△ |
PBX保守コストの削減 |
× |
◎ |
× |
△ |
構内配線コストの削減 |
× |
○ |
× |
○ |
電話移設コストの削減 |
× |
○ |
× |
○ |
オフィス賃貸料の削減 |
× |
× |
× |
△ |
IP電話による生産性向上効果 |
電話のIT戦略への統合 |
× |
△ |
× |
◎ |
電話機から人への移行による業務環境の活用 |
× |
× |
× |
△ |
個人留守番電話機能の活用 |
× |
△ |
× |
○ |
電子メールとボイスメッセージ、ファクスなどの統合 |
× |
△ |
× |
○ |
コールセンター業務の高機能化と効率化 |
× |
△ |
× |
○ |
業務システムへの音声アプリケーションの組み込み |
× |
× |
× |
○ |
■ 通話コストの削減
4つの選択肢のいずれの場合も、拠点間通話コストの削減は可能だ。まず、自営のIP-PBXとVoIPゲートウェイに関しては、別途構成する広域データ通信網を利用して音声通話を実現するため、拠点間の通話に関しては完全にゼロ円となる。
IP外線電話サービスでは内線を構成できないので、他の事業所を050番で呼び出す。しかし、これらの事業所が、同じIP電話サービス事業者を使うならば、相互の通話料はゼロである。IPセントレックスサービスの場合も、内線通話料はゼロ円だ。ただし、これらのサービスの場合には通話料と別に、月額の基本料金がかかることには注意が必要だ。IPセントレックスサービスの場合、IP電話機を利用するパターンでは、たとえば1台あたり1,000円などの料金がかかる。100台なら100,000円なので、それなりの固定費用がかかることになる。
外線通話コストが削減できるのは、IP外線電話サービスとIPセントレックスサービスだ。個人向けのIP電話サービスと同様に、一般固定電話や携帯電話への通話料も安くなる。自営VoIPゲートウェイや自営IP-PBXで外線通話コストも削減したいなら、IP外線電話サービスを併用することが考えられる。
ただし、IPセントレックスサービスでは、内線とは別に、外線の月額基本料金もかかる。IP外線電話サービスでも、サービス利用のための月額基本料金を支払う必要がある。その料金レベルはまちまちだが、接続チャンネル数(同時通話回線数)単位でかかってくるのが典型的だ。
この2つのうちどちらかのサービスを使えば、外線発信をIP電話に移行できるため、一般加入回線の数を減らすことができる。これによって電話会社に支払う回線基本料金を削減できる。
外線通話料の削減というと、非常にキャッチーな響きがあるが、実際にどれくらいの通話料削減効果があるのかは、ケースごとに見てみないと分からない。
全国に電話しなければならないアウトバウンドのコールセンター業務では、かなりのコスト削減が見込める可能性がある。しかし、発信先のほとんどが市内通話料金の範囲であれば、一般固定電話に対して全国一律3分8円という料金レベルには魅力はない。それに、少しでもまとまった通話料金が発生していれば、どの企業でも電話料金で何らかの割引を受けているはずだ。大口契約では、かなりの割引率になる。それを考えると、外線通話料の削減効果は、非常に限定的なものに留まるかもしれない。
一方、企業によっては、携帯電話とのやり取りが多いため、携帯電話への通話料が割安になることに魅力を感じるところがあるだろう。
■ 広域データ通信網整理・統合効果
コスト面から考えても、IP電話の導入は各企業における広域データ通信網の整備と不可分の関係にある。したがって、IP電話の導入を通信網整備の理由の1つにすることができるし、広域通信網整備をきっかけとして、IP電話を導入することもできる。
これは、実は重要なポイントだ。従来の広域データ通信網を整理・統合することによる通信コスト削減(あるいはコストパフォーマンスの向上)が、IP電話導入による通話コストの削減効果をはるかに上回ることは大いにある。データ・電話の双方について、企業の事業所間のコミュニケーション環境が改善することは、業務のスピードや質を高めるという別の効果を生み出す可能性がある。
自営ゲートウェイや自営IP-PBXの場合は、広域データ通信網構築とIP電話導入を別個に考えて実施することができる。しかし、IP外線電話サービスとIPセントレックスサービスの場合は、少数の例外を除くと、特定の通信サービスの利用が前提となる場合がほとんどだ。
これを前向きに捉えて、音声・データ双方に関する統合通信サービス提供企業を選定する方法もある。他のメリットが十分に大きければ、データ通信網とは別個に、音声のためだけに通信サービスを新たに契約するケースも考えられなくはない。しかし、二重の経費がかかり、コスト効率は悪い。
■ 電話システム運用コストの削減
IP外線接続サービスと自営ゲートウェイでは、これまでのPBXを活用してIP電話環境を構築する。PBXを撤廃しないので、これにかかわる保守・運用経費を削減する効果はない。IPセントレックスサービスでも、従来型のPBXをVoIPゲートウェイで接続する形態では、PBX関連コストの節約ができない。
自営IP-PBX、そしてIP電話機利用型のIPセントレックスサービスでは、従来型のPBXを撤廃する。オフィス内の配線から電話線を取り去り、LANケーブルに統一することで、新設・移設における配線コストを削減できるとされる。データネットワークに音声を送るのだからネットワーク機器は共通化できるという理屈だ。
音声とデータでできるだけ資源の共通化を図ることは、IP電話の基本だ。しかし、音声が伝送されているのと同じネットワークで、突然ファイル転送などの重いデータ通信が発生すると、音声通信は圧迫されるなどして不安定となり、実用に耐えがたいものになってしまうことがありうる。
これを防ぐためには、伝送データを種類分けして、この種類別に優先度を制御できるような機能を備えたネットワーク機器を利用するのが近道だ。それができない場合には、社内に音声専用のLAN(つまり配線)とデータ専用のLANを別個につくることになり、電話線を撤廃することからくるメリットが半減してしまう。
いずれにせよ、IP電話機を導入することで、スイッチなどのネットワーク機器に、より多くの接続ポートが必要になるため、ネットワーク機器のコストは上がる。
IP電話機では、社内における単純な場所の移動にPBX側の設定変更が必要なく、IP電話機を引越し先で挿し直せばいい。また、IP-PBXの設定画面が親しみやすく、専門家でなくとも設定できる。社員の異動や部署の統廃合が多い企業ほど、関連した作業料支払いや企業側の人的コスト、時間的コストが節約できる可能性が生まれる。
しかし、従来型PBXで払ってきた保守料分が節約できるかどうかは一概に言えない。特にIP-PBXでは、PBXの設定変更にかかる経費を削減できても、通信品質を含めたIP電話の安定的な運用を図るために、SI業者と保守契約を結ぶケースも多い。
IPセントレックスサービスでは、電話機の接続場所移動をはじめとした設定変更をユーザ企業が勝手に行ってもかまわないが、一部の設定変更には、たとえば1件1,000円といった料金がかかる。
■ オフィス賃貸料の削減
IP-PBXを導入した本誌特集1 PART 2のティージー情報ネットワークでは、各人に専用のノートパソコンとソフトフォン(IP電話の機能を実現するパソコンのソフトウェア)を与え、営業社員を中心にフリーアドレス(各人が専用の席を持たず、共用机を利用する形態)を導入して、オフィス賃貸料の削減を実現している。ソフトフォンを使えば、自分のIP電話機を常時持ち歩いているのと同じことになる。パソコンを開いたところが自分の机になるわけで、フリーアドレス化が非常にやりやすくなる。無線LAN接続が可能なIP携帯電話機が広まってくれば、これと同様なことが、より自然にできるようになってくるはずだ。
フリーアドレスの結果として、オフィススペースが節約でき、賃貸料を削減することもできる。賃貸料は数字として明確に表われるので、ここでも独立した項目として示しているが、裏のテーマとしては社員の生産性向上があることも無視することはできない。
■ IP電話による生産性向上効果
生産性向上効果は計りにくい。しかし、各個人の職務に応じて、最もやるべきことに力を集中させる、あるいは各人の知識や能力を組織として最大限に活用するための体制を整えることはできる。こうした使い方に踏み込むならば、IP-PBXが最も適している。IPセントレックスサービスの一部事業者も、今後各ユーザのための留守番メッセージ機能やIPコンタクトセンターサービスを拡充していくと考えられるが、定型的な付加機能に留まることは否めない。
生産性向上を目的とした活動の例としては、本誌特集1のPART 1で紹介したように、営業所への問い合わせや注文電話を1カ所に転送して受け付ける集中コールセンターを設置することで、各営業所の社員を外回りに集中させるという方法などが考えられる。ユニファイドメッセージングやその他のアプリケーション統合については後述する。
この部分は既存のPBXでは考えられなかった部分であり、単純なコスト比較では導き出すことができない。戦略的な投資であるため、導入企業の認識によって、効果に大きな差が出る可能性が高い。
■ 関連記事
・ 企業IP電話サービスの選び方 [前編](2004/04/27)
( 三木 泉 )
2004/04/28 0:00
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