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デル浜田社長、「エンタープライズは当社の中核事業」


 エンタープライズ市場を取り巻く環境は決して明るいとはいえないだろう。景気低迷、企業業績の悪化を受けてユーザー企業における情報化投資予算は抑制され、コスト削減を前提とした情報システム構築を余儀なくされているのが現状だ。だが、こうしたユーザー企業の投資抑制もいよいよ限界に近づきつつあるといえるだろう。一方で、景気回復の兆しが表れつつあることもひとつの要因として、通信関連企業や流通分野などの一部企業では活発な情報化投資を開始。さらに金融、製造分野でも徐々に情報化投資を拡大する傾向が見られ始めている。そして、e-Japan計画をベースに急ピッチで情報武装が進む公共分野も、エンタープライズ市場拡大の起爆剤となる可能性が強い。こうした市場環境のなか、主要ベンダーは、エンタープライズ分野に対して、どんな手を打とうとしているのか。Enterprise Watchの創刊を記念して、主要ベンダー各社のトップにインタビューした。まずは、「エンタープライズは、当社の中核事業」と言い切り、この分野で著しい成長を遂げているデルコンピュータ株式会社 代表取締役社長の浜田宏氏にご登場いただくことにする。


エンタープライズ事業はすでに中核事業のひとつに成長

代表取締役社長 浜田宏氏
―もともと企業のクライアントPCビジネスや、ダイレクト販売による個人向けへの取り組みといった印象が強いデルにとって、エンタープライズ事業は、どんな位置づけにありますか?

浜田氏
 ご指摘のようにデスクトップやノートパソコンといった企業向けのクライアントPCなどが、当社事業のベースとなっているのは事実です。しかし、これを住宅の1階とすれば、2階には、3Sと呼んでいるサーバー、ストレージ、サービスや、昨年来、力を注いでいるコンシューマ向けビジネスや、今後、力を注ぐ周辺機器事業などが入ってくることになります。1階という土台がしっかりとできあがったことで、エンタープライズやコンシューマといった分野にも積極的に力を注げるようになったと考えています。しかし、エンタープライズ事業は、すでに当社の中核事業のひとつである、と言い切れる事業規模にまで達しています。米国本社の発表ですが、すでに収益の20%以上をエンタープライズ事業が占めていますし、日本法人でも、比率は2桁の規模に達しています。今、全社員がエンタープライズ事業に関する社内試験を、必須の取り組みとしているんです。これはスキルアップという側面とともに、常に全社員がエンタープライズ事業を意識した取り組みを行っていこうという姿勢の表れでもあるのです。


―エンタープライズ分野におけるデルの強みはどこにあると。

浜田氏
 やはり、デルモデルによる製品、サービスの提供が可能であるという点につきます。ひとことでいえば、価格が安い製品を、お客様とデルが直接接点を持って提供できる点です。メーカーの技術者が直接対応できるのは他社にはない強みです。


―しかし、国産メインフレーマなどと比べると、対応できる業種や製品群などの範囲が狭いという指摘もあります。また、ディーラー網を活用した方が、きめ細かな顧客対応が可能という声もあります。とくに地方都市では、地域密着型のディーラーの役割は重要で、その差が大きいのでは。

浜田氏
 確かに、DTC(デル・テクノロジー・コンサルティング)サービスをとっても国産メインフレーマなどと比較するとまだ対応範囲が狭いのは事実です。しかし、当社が提供しているサービスでは標準となっている製品分野はカバーしていますし、その分野に関しては他社には負けないと自負しています。サービスに関する価格も明確に示していますから、ユーザーも安心して当社のサービスを利用できる。この点でも他社との差は大きいと思います。また、ディーラーのかゆいところに手が届くサポートは確かに重要ですが、ここにも間接コストが発生していることや、メーカーに対する要求が伝言ゲームになってしまって、結果として顧客の要求が製品やサービスに反映されないということも起こっています。電話やメール、Webを通じて、あるいは直接出向いてメーカーがダイレクトに対応できるデルの体制は、顧客の声を製品やサービスに直接反映できる強みがあると考えています。このほど、日本オラクルと提携しました。これは、両社のダイレクトモデルを融合して、直接顧客対応を行おうというもので、日本のみならず全世界規模で推進していきます。こうした提携も、顧客満足度の高い製品、サービスの提供を行うという点で重要な役割を果たすことになります。


デルは、現在市場が求める製品を提供するメーカー

―デルでは、最近、スケールアウトという言葉を使い始めていますね。

浜田氏
 当社が、エンタープライズ事業を推進する上で重要なキーワードになっています。これまでのスケールアップという考え方は、ユーザーのビジネスが将来どこまで伸びるだろうかということを想定して、システムの規模を決める。つまり、数年間は、実際の規模よりも大きなシステムを導入しなくてはならない。さらに、これが一杯になったら、ごっそりと買い換えましょうということになる。これはユーザーにとって無駄な投資や莫大な投資を強いることにつながる。

 一方、スケールアウトの考え方は、いまのビジネスの大きさにあわせて導入して、ビジネスが拡大したら、もう一台追加して、拡張していきましょう、というものです。情報化投資が削減されている中で、スケールアップの手法は市場の要求にあったものだとは思えません。デルは、作りたいものを作っているメーカーではなく、また、将来ユーザーがこうしたものが欲しいだろう、というものを作っているメーカーでもありません。お客様がいま、一番欲しいものを作って、販売するメーカーです。先頃、当社のサーバーラインアップは、戦略的に8-Wayをやめて、2-Way、4-Wayに限定しました。これも、スケールアウトの手法に最適化した品揃えとするためです。技術の標準化が進み、小さい低価格のサーバーでも、つなぐことで大型サーバーを凌駕する性能を発揮できる。UNIXから、WindowsやLinuxを搭載したIAサーバーに移行するユーザーが多いのも、こうしたスケールアウトのメリットを知りはじめたからです。大型サーバーは一度導入したら逃げられないという怖さをユーザーは知っている。それがコストの増加につながることも知っている。スケールアウトがユーザーにとって大きなメリットがあることを、さらに訴えていきたいと思っています。


―3S(サーバー、ストレージ、サービス)事業の進捗状況はどうですか。

浜田氏
 IAサーバーは、価格競争が激化して、非常に風が強く吹いている分野ですが、年内にはトップをとれるのではないかと予測しています。サーバー事業は、一歩ずつ階段をのぼるように事業を拡大し、現在、国内第2位のシェアまできました。年内に、トップを取れなければ、当社の取り組みがまだユーザーに受け入れられていないということなんでしょうね。そのときには反省して、また改善をしていきます。無理にトップシェアを取ろうとは思っていませんが、シェアは通信簿と同じですから、ひとつの評価としてこだわっていきたいと思います。ワークステーションは、すでに50%を超えるシェアを獲得していますから、これを維持していきたいですね。


―サービス事業であるDTC(デル・テクノロジー・コンサルティング)サービスの実績は?

浜田氏
 すでにサービスを開始してから2年半を経過しましたが、累計の案件数は、1,000件近いところまできました。1件あたり数億円規模のシステムに関する案件も出ています。多くのメーカーは、ハードで儲からなくなったから、収益性の高いサービスで儲けようというスタンスですが、当社の場合は、あくまでもハードを主軸において、これを加速するためのターボチャージャーがサービス事業だと位置づけていますから、サービス、コンサルティングに関する料金も明確にし、しかも、自らがサービスを提供するという形を崩さない。これが高い信頼につながっているようです。


―ストレージ事業は、あまり拡大しているようには見えないのですが。

浜田氏
 いや、そんなことはありませんよ。数10%の高い伸び率を維持しています。むしろ、順調に伸びていると判断していますし、各国別に見ても、日本におけるストレージの伸びは高くなっています。上位製品はEMCとの協業によって、信頼性の高いストレージ製品を提供でき、下位の製品群は、中堅・中小企業向けにも1社で数10台単位の導入があるといった成果が出ています。ディザスタリカバリーに対する需要も高まっていますから、DTCやサーバー製品との組み合わせによって、ますます事業を加速したいと思っています。


日本の市場動向にあわせた独自の取り組みを増やす

―エンタープライズ分野において、日本独自の取り組みというのはあるのですか。

浜田氏
 例えば、Linuxにおいては、米国ではRed Hatと協業していますが、日本ではミラクルリナックスとの協業体制をとったり、日本オラクルとの協業も、米国に先駆けて日本で展開するという形になります。また、DTCのパートナーとして、野村総合研究所との協業体制をとったりといったことも日本独自の展開となります。コンシューマ分野における「デル・リアル・サイト」は日本独自の取り組みとして開始したものですが、同様にエンタープライズ分野でも日本の市場動向にあわせた独自の取り組みというものも増やしていきたいと思っています。


―最後にEnterprise Watchの読者にひとこと。

浜田氏
 難しく、高価だったシステムが、年を追うごとに技術が進化し、標準化されてきています。価格も急速な勢いで下落しています。米国では、「Easy as DELL」という言葉を使い、シンプルで簡単なコンピューティング環境を提供していくことを掲げています。日本でもこの考え方を推進し、他社にはないデルのメリットを、エンタープライズユーザーにも提供します。ぜひ期待していてください。



URL
  デルコンピュータ株式会社
  http://www.dell.com/jp/


( 大河原 克行 )
2003/10/01 10:03

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