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マイクロソフト・ローディング社長、「エンタープライズ市場に大きなビジネスチャンスがある」


 マイケル・ローディング氏が日本法人社長に就任したのが今年7月1日。就任発表後、初めて報道関係者の前に姿を見せたのが、正式就任直前となる6月25日に開かれたWindows Server 2003の製品発表だった。業界筋では、エンタープライズ事業のテコ入れがローディング社長体制での最重点課題といわれていただけに、まさに象徴的な登場の仕方だったともいえよう。では、マイクロソフトはエンタープライズ分野にどんな形で取り組んでいこうとしているのか、マイケル・ローディング社長に生の声を聞いた。


メインフレームからWindows Serverへの移行が現実のものに

代表取締役社長 マイケル・ローディング氏
―ローディング社長は、マイクロソフトのエンタープライズ事業に対して、どのような認識を持っていますか。

ローディング氏
 ひとことでいえば、エンタープライズ事業は、当社にとって、最重点事業のひとつだという認識です。


―外から見ていると、Windows NT Serverでは、日本市場が世界各国に先駆けて普及しましたが、その後はむしろ欧米に比べて普及が遅れたという印象があるのですが。

ローディング氏
 かつてWindows NT Serverが普及した時代には、ちょうどPCベースドネットワークへの大きな転換期にあたり、数多くのインストールベースを獲得することができました。いま、このシステムの老朽化が進んでいる一方で、メインフレームやUNIXで構築されたエンタープライズシステムに対しても、コストプレッシャーへの要求が高まっています。さらに、セキュリティ性に優れ、堅牢な次世代インフラが求められています。先頃発表したWindows Server 2003によって提供される64ビットの世界は、エンタープライズユーザーが求める要件を実現するものだといえるでしょう。つまり、ここにきて、ここ数年に比べるとはるかに大きなビジネスチャンスが訪れているといえます。Windows NT Server 4.0からWindows Server 2003への移行や、Active Directoryによるサーバー統合、.NET対応基幹アプリケーションの展開によるメインフレームからの移行といったことが現実のものとなりつつあります。なかでも、当社がエンタープライズ分野への取り組みを最重点課題とする上で、Windows Server 2003によって実行されるパートナー企業との数々の協業は、極めて重要な施策だといえます。


中小企業のITリテラシー向上に力を注ぐ

―ローディング社長は、以前から日本の企業は欧米に比べてITをうまく使っていないという発言をしていましたが、その見方には変化がないですか。

ローディング氏
 日本を代表するようなグローバルカンパニーにおいては、世界的に見ても先進事例が数多くありますし、ITを効果的に活用しているといえます。ただ、CIOの役割に大きな違いがありますね。欧米では、CIOの権限が強く、ユーザー企業が推進する事業戦略と業界の技術動向を見極めた上で、情報システム投資を決断することができる。つまり、CIOに権限が集中している傾向にある。だが、日本の企業の場合は、分権体制が進んでおり、例えば、CIOが事業戦略のディシジョンメイキングまで口を挟むことは少ないですね。ITの活用部分にだけ口を出すという程度にとまっている。これはどこかで仕組みを変える必要があるのではないでしょうか。

 もうひとつ例をあげるとすれば、中小企業のIT活用では欧米の企業とは大きな差があると感じています。日本の中小企業は、ITの活用において、もっと工夫の余地があるのではないかと。今後、中小企業におけるITリテラシーの差は、大きな差になって表れると思います。日本の中小企業は、かつてのように特定の大手企業との結びつきによって成長してきた時代を脱し、低コストで価格競争力をもった外部企業との熾烈な競争のなかにあります。さらに、今後10年は、ますます厳しい環境のなかに置かれることは明白です。そうした中で、ITが中小企業のバイタリティをサポートするであろうことは、誰もが知っているはずです。当社としても、中小企業のITリテラシーの向上という点に関しては、社会的責任のひとつとして力を注ぎたいと考えています。


―実際に、マイクロソフトでは、約2年前から中小企業市場の開拓に向けて、先行投資ともいえる取り組みを積極化していますね。

ローディング氏
 中小企業のIT化推進に関する取り組みは、すで2年半を超えていますが、これからもますます力を注ぎたいと思っています。具体的には、2001年11月に全国IT推進計画を打ち出しましたが、ここでは、4つの取り組みがあります。1つは、中小企業向けソリューションを提供するパートナー各社によるIT推進全国会の組織化、2つめはWebのポータルサイトである「経革広場」の提供、そして、3つめには中小企業の経営者に対して、ITを利用した経営革新をテーマに全国各地で開催するIT実践塾や、移動式のITトレーラーを用意し、小さな市町村まで出向いてキャラバン形式で開催するセミナー。そして、最後に各パートナーが開発した業種別ソリューションなどを全国規模で紹介していく取り組みです。今後10年の日本の経済成長を考えるのあれば、中小企業のIT化を強力に進める必要性は多くの人が感じるはずですが、まずはそのために中小企業の方々に、ITの有効性を知ってもらおうというわけです。


―ビジネスとしての成果は出ているのですか。

ローディング氏
 これは長期的なビジネスになりますから、2年で成果を判断するのはまだ早いと思っています。また、中小企業向けのビジネスは、われわれの事業という点で見ても重要な分野ですが、すぐに成果をあげようというつもりはありません。しかし、別の視点から見れば、ここ数年、マクロ経済が低迷している中では、中小企業の導入機運の高まりに関しては満足できる結果になっているとも判断できます。長期的な視点で見ること、そして、社会的責任という観点からも前向きに取り組んでいきたいと考えています。


「Trustworthily Computing」のもとに脆弱性の削減を推進

―一方で、セキュリティに対する問題を指摘する声が高まっています。マイクロソフトがエンタープライズ事業を推進する上では大きな障壁となるのではないでしょうか。

ローディング氏
 ウイルスやワームの問題では、多くのユーザーにご迷惑をおけかけしています。また、MS Blasterに関しても、多くのユーザーの方々が、コストと時間をかけて、保護、回復作業に迅速に取り組んでいただいたことに感謝しています。その点には関しては心からお礼を申し上げたい。私自身、脆弱性の数自体が多いという認識はありますし、もう少しなんとかできるはずだという気持ちもあります。技術者に聞くと、脆弱性がまったくないソフトを開発するのは無理だといいます。どんな技術者でも、専門家でも、侵入不可能なソフトの開発はできないと。しかし、脆弱性を劇的に減らすための努力はできるはずですし、いま、「Trustworthily Computing(信頼できるコンピューティング)」という考え方のなかで、これを推進しています。Windows Server 2003やVisual Studioのように、この新たなセキュリティコンセプトのなかで製品化されたものも出てきています。また、開発手法や設計手法を今のやり方にこだわっているのではなく、まったく違うやり方に変更するという選択肢も、脆弱性を大幅に削減することにつながる可能性もありますから、こうした研究にも投資をしています。

 ただ、誤解しないでいただきたいのは、重大な脆弱性というのは、Linuxなどに比べて、Windowsが多いわけではないということです。調査をすればわかりますが、重大な脆弱性や深刻な脆弱性は、Windowsの方が、むしろ少ないくらいです。しかし、全世界に幅広く普及しているだけに、悪意を持った人から狙われやすいという実態があります。私が強く訴えたいのは、ワームやウイルスの開発は犯罪行為であり、開発者は明らかに犯罪者であるということです。ご存じのように、米国ではワームの開発者が逮捕されたという例も出ています。今後も、こうした犯罪の取り締まりに関しては、米司法省をはじめとする関係省庁と協力していきますし、日本でも同様に、関係省庁と協力体制をとる考えです。


―Linuxが日本の中央省庁で注目を集めています。マイクロソフトにとっては大きな脅威ではないでしょうか。

ローディング氏
 確かに、重要な競合技術のひとつであることは間違いないと見ています。しかし、すぐに当社のビジネスに大きな影響を与えるものではないと考えています。


―ところで、今年7月の社長就任以降、社内に対して、どんなメッセージを発しているのですか。

ローディング氏
 いま、社員に向けては、「共感」することが重要だというメッセージを投げています。例えば、マイクロソフトには、いま取り組むべきいくつかの重要な課題があります。そのひとつが、顧客満足度をどう高めるかという点です。これまで以上に、顧客志向へと軸足を変えていくことに真剣に取り組んでいく必要があるでしょう。そのなかで、まず社員がこの考え方に共感しあうことが重要なんです。もうひとつは、「ワン・バイ・ワン」という言葉です。これは今年7月に米国で開催されたグローバルセールスミーティングの中で使われた言葉なのですが、個人個人の取り組みの集大成が、全体の大きな動きにつながるという考え方です。全員が一歩ずつ階段を昇るように成長していくことが、マイクロソフト全体を成長させることにつながると。こうした新たなメッセージは投げていますが、私が社長に就任して以降、大きく変化した部分はありません。社長に就任した7月1日以前から数多くの計画が走っていましたが、これに世界規模の新たなプログラムを付加して、社員との共感のもとに積極的に推進している段階です。今後も、Exchange Server 2003をはじめ、エンタープライズ分野にフォーカスした製品、サービスが続々と登場しますから、これからのエンタープライズ事業の取り組みにも期待してください。



URL
  マイクロソフト株式会社
  http://www.microsoft.com/japan/


( 大河原 克行 )
2003/10/02 10:45

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