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日本HP樋口社長、「2極化戦略を加速、新組織で強い会社になる」


 日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)は、今年から、ボリューム戦略とバリュー戦略の2極化戦略を明確に打ち出している。旧コンパックが得意とした低価格路線を追求する一方、旧HP、旧DEC、旧タンデムコンピューターズがもっていた付加価値製品群とソフト、サービス事業をベースに、新たにアダプティブエンタープライズ(AE)戦略を推進している。社長就任から半年を経過し、「11月には樋口カラーによる組織体制をスタートさせたい」と語る同社代表取締役社長兼COOの樋口泰行氏に、同社のエンタープライズ戦略を聞いた。


ボリューム戦略は合併効果が最も発揮できた部分

代表取締役社長兼COO 樋口泰行氏
―今年1月に打ち出したボリューム戦略、バリュー戦略の2つの取り組みは、どんな成果があがっていますか。

樋口氏
 ボリューム戦略は、昨年の旧HPと旧コンパックの合併効果が最も発揮できた部分だといえます。サーバー製品は、今年1月から、すでに5回の価格引き下げを行い、競合他社に対する価格競争力という点では十分なレベルに達したと考えています。当社のボリューム戦略は、ダイレクト販売のメーカーに対し、ディーラーなどのパートナーがどう対抗していくのかという点を視野に入れたものといえます。昨年来、パートナーがダイレクト販売のメーカーと競合するケースが非常に増えてきた。そのときに、コストパフォーマンスが高く、競争力を持った製品がパートナーにはなかった。日本HPの価格引き下げは、パートナーと一緒に戦いましょう、というスタンスで取り組んできたものなのです。ハードウェアビジネスは大変厳しいのは明らかです。しかし、必死になって食らいついていくしかない。他社が仕掛ければ、当然それに追随していくだけの覚悟があります。4-6月のデータを見ますと、金額では2位、台数では3位になった。金額ベースではデルコンピュータの上に行きましたから、一応の成果は出たと思っています。ただ、ちょっと「価格」、「価格」と言い過ぎた嫌いはありますね(笑)。どうも、低価格メーカーというインパクトばかりが先行してしまった。これからは、もっとバリュー戦略を前面に打ち出さなくてはいけないと思っているのですが(笑)。


―バリュー戦略のひとつとして、アダプティプエンタープライズ(AE)戦略を打ち出しましたね。

樋口氏
 今年度に入ってから、メインフレームの呪縛から逃れたいというユーザーが増えてきました。実際にユーザーに出向いてお話しをすると、7-8割の人がそう話します。音を立てて、オープン化の方向に流れ始めたという実感を受けます。その背景には、景気の状況もあるでしょうし、硬直化したメインフレームでは、経営層から現場までが欲しい情報をタイムリーに手に入れることができないという問題に直面している実態もあります。また、COBOLエンジニアが定年を迎えるといわれる2007年問題も、オープン化の流れを加速させていると感じます。そうしたなか、ユーザー企業は、ITのライフサイクルをどうするべきかという点を真剣に考え始めています。より柔軟性が高く、セキュリティや信頼性の高いシステムを求めるようになっている。AEは、そうしたユーザーに対して、最適なソリューションを提供できると考えています。


―AEを活用した結果のひとつの提供形態として、UDC(ユーティリティ・データ・センター)がありますね。この実績は日本では出ているのですか。

樋口氏
 こうしたオンデマンド型の提供形態は、すでに日本でも実績がありますが、具体的なユーザーの名前が公表できないのが残念です。一方、欧米では、9月末に、オランダのフィリップスがUDCによるシステムを導入したという発表をしました。これからは日本でも、UDCの活用が増えていくと考えています。


―ただ、国産ベンダーや日本IBMに比べると、コンサルティング面での差を感じる部分があります。とくに上流コンサルティングに関しては、自社対応が図れていないという点がマイナスにはならないのですか。

樋口氏
 確かに競合各社が、ビジネスプロセスなどの上流コンサルティング分野に力を注ぎ、収益が出始めているという実態も知っています。しかも、日本HPは、テクノロジー分野に特化したコンサルティングに留まっているというのも事実です。しかし、この分野に関しては、日本HPがやるのではなく、アクセンチュアなどのこの分野で高い実績をもつパートナーと手を組むことで、よりよい成果を得られると考えています。この施策は当面、変えるつもりはありません。


―日本HPのエンタープライズ分野における強みはどこにあると。

樋口氏
 最大の特徴は、グローバルスタンダードにフォーカスし、シンプル化、オープン化、ITの効率化に寄与できるソリューションをユーザーに提供できる点です。また、意識的にどこかの領域にフォーカスした展開ではなく、顧客の用途に応じて、さまざまなアプローチができるという点も当社の強みです。しかも、メインフレームに対するしがらみもないですから、オープン化に向かって、思いっきりアクセルが踏める。メインフレームからUNIXに移行したいユーザーや、ローエンドUNIXからIAサーバーに移行したいユーザー、さらにはLinuxを検討しているユーザーにも最適なシステムを提供できる。また、OpenViewといった優れた管理ソフトもありますから、異機種間接続環境でもトータルな信頼性、柔軟性を提供できる。ただ、この半年間に、エンタープライズユーザーを訪問して感じたのは、「信頼できる製品を出し続けられるのか」ということとともに、「いざとなったときに逃げない男なのかどうか」という点の信頼感だと。エンタープライズの企業だと当然のことだといわれるかもしれないが、これを強く感じましたね。カスタマーサポート部門にも営業部門にも、そして、マーケティング部門にもこういう感覚をしっかりと植え付けることが大切だと。ボリューム戦略は、パートナーとの信頼感、製品の信頼性という点も大切だが、価格戦略とマーケティング戦略次第でホームランを打つことができる。だが、バリュー戦略は、顧客との信頼感という目に見えないものが、ジワジワと浸透していくことでようやく成果につながる。信頼を勝ち取るには「逃げない」ということが最大のポイントだと思います。


「樋口色」を出した組織体制で強い会社に

―樋口社長が就任して約半年を経過しました。就任当初から、「お客様第一主義」「スピード」「結果重視」「オープン」「日本市場への浸透」といった5つのテーマを掲げましたが、これらテーマの社内への浸透度を自己評価するとどうですか。

樋口氏
 旧コンパック時代から感じていたのですが、外資系企業の場合、米国本社のスローガンをそのまま日本でも掲げるケースが多い。だが、それでは、日本法人の社員には、なかなか心に響かない。日本法人の社内に、わかりやすい言葉を掲げる必要があったのです。また、もともと4つのITカンパニーがひとつになったわけですから、波長をひとつにする必要があった。さらに、昨年の合併前後は顧客満足度の低下という事態に陥ったことは否定できません。これを回復させなくてはいけないという早急の課題もあった。そのために、日本市場に根付いた事業展開をする必要性を強く訴えたかった。5つのテーマに関しては、まだまだ目指した段階まで到達しているとはいえません。これからも繰り返し、繰り返し社内に浸透させていきたいと考えています。


―顧客満足度の回復にはどんな手立てを考えていますか。

樋口氏
 例えば、UNIX製品に関する問い合わせに関して、旧コンパックの社員が聞かれたときに、十分な回答ができているかというとやはり問題があった。また、窓口が一本化しきれていなかったという問題もあった。これは早急に見直そうと思っています。合併して2年度目に入る11月以降に、カスタマーサポート窓口の一本化などを含めた改革にも取り組んでいたいと思っています。


―そうした意味でも、11月は、樋口社長就任化に半年、新生日本HPの設立から1年という節目ですね。

樋口氏
 実は、11月1日付けで大幅な組織改革を予定しています。5月に就任した時点では、いまで言えばジャイアンツの堀内新監督のような心境で(笑)、経営トップとしては、右も左もわからない状態でしたが、この半年間、いろいろと社内、社外を見て、どういうように変えていくべきかということがわかってきた。また、力を最大限に発揮するためにはどんな仕組みをつくるべきかという検討にもずいぶん時間を割いてきました。その結果として、いよいよ「樋口色」を出した組織体制を確立したいと考えています。今年5月に、私だけが若返っていましたから(笑)、まずは全体的な若返りも図りたい。そして、営業部門の活性化を図りたい。例えば、営業の値引き申請についても、これまでの各社ごとのやり方が残っていたり、手続きが煩雑でスピードのある決裁ができていなかったという問題があった。この点も見直したいと思っています。昨年の段階で、形の上では、営業部門の統合を図ってはいましたが、やはり、どうしても、旧HPとか、旧コンパックという意識が残っていたんですね。今回の組織改革では、ひとつのプロセス、ひとつの仕組み、ひとつのマインドによる組織体制とすることで、これまで根強く残っていた旧HP、旧コンパックの意識を一掃したいと考えています。また、活性化、フラット化、若返りを新たな組織づくりのポイントにしたい。具体的には、「テレコム」「製造」「金融その他」の3インダストリー別体制を軸にした営業組織へと一本化するとともにし、直販部門と間接販売部門の協業体制も図ります。また、プリセールス部門、コンサルティング&インテグレーション部門も、営業体制の一本化にあわせて、同様に「テレコム」「製造」「金融その他」の3つのインダストリー別体制に再編し、営業体制を支援するバリューチェーン型の仕組みとします。本番はこれからですよ。ますます強い会社、そして、強い営業体制への脱皮を図っていきます。


―最後にEnterprise Watchの読者にひとこと。

樋口氏
 日本HPは、オープン化への取り組みや、アダプティブエンタープライズといった施策によって、業界に新風を吹き込んでいきます。11月には新組織体制となり、こうした展開にも、ますます力を注ぎたいと思っていますので、ぜひご期待ください。



URL
  日本ヒューレット・パッカード株式会社
  http://www.hp.com/jp/


( 大河原 克行 )
2003/10/06 10:32

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