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シスコ黒澤社長、「シスコは世界と日本における生産性向上のTrusted Advisor」


 ルータやスイッチの老舗として知られるシスコシステムズがいま大きく変わろうとしている。「いまではシスコは世界と日本で生産性向上のTrusted Advisorです」と黒澤保樹氏(シスコシステムズ株式会社 代表取締役社長)にいわしめるほど、元気のなくなった日本企業に生産性向上とコスト低減で国際競争力を取り戻させようと、新たなビジネス展開をめざしているのである。その強力な武器となるのが「NVO(Networked Virtualized Organization)」だ。NVOは、その企業のコア部分を自社で強化しながらも、コンテキストとなる部分は他社に任せるという、まさに生産性向上とコスト低減を生み出す極めつけの戦略である。一方で、IPテレフォニーやセキュリティなど「アドバンストテクノロジー」分野を強化し、その売上げ比率を、従来からの同社十八番であるルータやスイッチ分野と五分五分にしようともしている。さらに、これに加えて品質もワールドワイドの戦略にすえるなど、いまシスコは“難攻不落の砦”を着々と築きつつある。


ルータ/スイッチのベンダからTrusted Advisorへの変貌

代表取締役社長 黒澤保樹氏
―いま標榜されていますTrusted Advisorの観点から、ビジネス戦略の基本コンセプトをお聞かせください。

黒澤氏
 5つの柱があります。第一に「カスタマードリブン」。お客様がいま何を望んでおられるか、今後何が必要になるか、を最優先します。

 第二が「マーケットトランジション」で、技術であれビジネスモデルであれ変化し続けていますが、この変化は誰にとってもビジネスチャンスがあります。よく変化を先取りするとか、変化に追随していくとかいう企業がありますが、これではいけません。例をあげますと、回線交換からパケット交換への推移をはじめボイス・データ・ビデオの統合化が大きなトランジションです。まずこれらトランジションをつくることが必要です。

 第三が「シスコウェイ(カルチャー)」。これは当社の企業文化そのものが戦略であり、これを生かしてカスタマーサクセスのために我々ができること、そしてその方法を提供させていただきます。スピードやオープンコミュニケーションなどがそうですね。

 第四が「インターネットエキスパート」。これは、我々自身がエキスパートであり、かつ同時にユーザーでもあることです。もともとが当社がビジネスいたしましたルータは、歴史をさかのぼれば社内で作って効果が見出せることを確かめて製品化しました。IPテレフォニーやワイヤレスなどもそうで、これらによるメリットをお客様に還元させるというスタンスです。これはインターネット社会における新しい組織の概念「NVO(Network Virtual Organization)」を我々自身が実践することにほかなりません。

 そして第五が「ネットワークアーキテクチャ」です。ここで大切なのは、スイッチやルータなどいわゆる製品ではなく、パフォ-マンスやインテリジェント、そして投資をムダにさせないことです。


―その5つの柱から成る基本コンセプトによってユーザーはどのような恩恵を受けることになりますか。

黒澤氏
 「生産性の向上」と「コスト削減」です。我々自身もインターネットビジネスソリューションを駆使することによって、ワールドワイドで年間2000億円に相当するコスト・セービングを実現しています。重要なことは、シスコ製品のご購入によって、お客様の仕事におけるプロセスを変えていただくことです。そうすれば、その会社のカルチャーも変わります。このことがとりもなおさず生産性を向上させ、生活水準も上げてくれます。この向上比率は何%という小さな桁ではなく、何倍という大きな数字になってお客様に還元されるはずです。


―その面からみますと歴史的に、シスコ自体が大きな変貌を遂げてきているのですね。

黒澤氏
 確かにシスコの昔をご存知の方からみればそうかもしれません。初期のころは、ルータを売る会社でしたし、買収によりルータに加えてスイッチを売るようにもなりました。この時点までは、製品を供給するベンダそのものでしたね。その後、エンドトゥエンドでネットワークを稼働させるようにし、さらにボイス・ビデオ・データをインテグレート、そしていまNVOを柱としたビジネス展開に移っていきました。この結果、現在では単にルータを購入したいとおっしゃるお客様はおられなくなりました。いまでは、ネットワークを使ってIT投資をするとどのような御利益があるのか、といった考え方にお客様も変わってこられたのです。いまシスコは、ネットワークドソリューションのTrusted Advisorであることをめざしています。


これからはアドバンストテクノロジーを強化

―具体的にシスコの技術が他社と異なる点はどこですか。

黒澤氏
 たとえばVoIPを考えてみましょう。ここで使う電話機は一般的にはIP電話(機)と呼ばれています。それは、従来のPBXをIPに置き換えて、音質向上をねらい、かつ低価格のものを投入しようとするベンダの意図があるからです。もちろん、これでは生産性は上がりません。しかし、シスコの考え方は大きく異なっています。同じ電話機であってもIPテレフォニーと呼びます。それは、情報端末だからです。シスコの目標は、IP用の電話機であれ、携帯電話機であれ、あるいはPCであれ、さまざまなアプリケーションが同じアプライアンスで利用できるようにすることです。すなわち、いつでもどこでも通常の業務ができれば生産性が向上するのであり、これがシスコがめざすIPテレフォニーのねらいです。


―シスコのソリューションは企業のパワーアップをはかる、ことにも貢献していますね。

黒澤氏
 いま、日本企業は国際的な見地からしても元気がありません。そこでシスコは日本企業の国際競争力を取り戻すために、ハードウェアとこの上で動くアプリケーションにより生産性を向上させたり、コストを低減させたりすることで、お手伝いをさせていただきます。そのビジネスモデルがシスコシステムズそのものなのです。シスコは、もともとルータとスイッチの会社であり、現在でもその売上げは80%であることが実態ですが、残り20%が「アドバンストテクノロジー」です。シスコは、生産性をさらに向上させるために、ここに最大の力点をおいています。そのため、アドバンストテクノロジーには、40%に相当するR&D投資まで行っています。


―アドバンストテクノロジーには、具体的にどのようなものがありますか。

黒澤氏
 第一にIPテレフォニー、そしてワイヤレス、セキュリティ、SAN(Storage Area Networking)、オプティカル、そしてホームネットワーキングの6分野です。ゆくゆくは、アドバンストテクノロジーを50%にし、当社ビジネスのルータ&スイッチに次ぐ、第二の柱にしたいと考えています。


―アドバンストテクノロジーは、いつ頃50%になりますか。

黒澤氏
 ワールドワイドで、2005~2006年でしょう。また日本では、この分野は現在7~8%なので今年度末(2004年7月)までには15%にしたいと考えています。しかし、日本が50%ラインに到達するにはさらに時間を要するでしょう。なぜ日本は時間がかかるのかと申しますと、新しい技術を導入しにくい環境があるからです。と申しますのは、日本に新技術がやってきますと、どうしてもまず最初にこれは使えない、などといった批判から始まる風潮が根強いからです。ですが一方で、新技術に対する評論だけはかなり行われますね。歴史的には、オープンシステムやクライアント-サーバー、ERPなどが典型例でした。しかし、最終的には新技術を取り入れるようになりますが、ここに至るまでにはかなり時間がかかります。外国では、アーリーアダプタがいてそのようなことは起こりにくいですね。いま、IPテレフォニーがそのような状況下におかれていると思います。


NVO御旗のもとに。IT業界覇者の条件

―今後のシスコにおける具体的な製品戦略は。

黒澤氏
 3つのフォーカスポイントがあります。第一がルータやスイッチなど「コア」の部分です。この分野は今後もNo.1であり続ける覚悟です。当然技術のイノベーションにも積極的に取り組んでいきます。ここが、よくいわれるシスコのコンペは?の部分なのですが、実は当社がもっとも得意な分野であり、マーケットシェアは落としません。しかし大事なのは、こうしたハードウェアを組み合わせて、エンドトゥエンドで絶対に停止させず、かつボイス・ビデオ・データを統合させて生産性を向上させるためのアプリケーションを実現させるノウハウづくりです。これは1~2日でできうる技ではありません。これがシスコの、他社との差別化の部分ですね。第二が「サービスプロバイダ」の市場であり、各サービスプロバイダごとに強力な関係を築きます。そして、第三が先にふれました「アドバンストテクノロジー」です。


―「NVO」の役割と業界に与える効果は。

黒澤氏
 日本は昔から垂直統合ということで何でも1社でこなしていました。しかし、1社がすべてNo.1というコアコンピタンスはありえません。このモデルはコストが高すぎてすでに崩壊しています。シスコでは、自社業務を社内で価値を高める「コア」と、外部化を検討する「コンテキスト」に分類しています。同時に積極的にコントロールする「ミッションクリティカル」と信頼できるパートナに任せる「ノンミッションクリティカル」とにも分類します。このときコアかつミッションクリティカルな業務が、自社で価値を高めていくインハウス部分です。コンテキストかつノンミッションクリティカルな部分はアウトソーシング化をめざす部分です。そして、コンテキストかつミッションクリティカル、あるいはコアかつノンミッションクリティカル部分はアウトタスキングする部分です。会社という組織からみますと、これらは、インハウスであれアウトタスキング、アウトソーシングであれ、すべて1社で取り組んでいるかのごときプロセスでないといけません。それを実現させるのがインターネットであり、この上で動くデータベース、データアーキテクチャ、そしてアプリケーションが必要です。これがまさに、NVOです。実はe-Japan戦略IIでは、経済産業省から出された答申の中でも唱われているのです。とくにその中でITへの投資と使われ方によって企業をステージ1から4まで分類していますが、ステージ4に相当する会社はまさにNVOの考え方が基調になっています。いまステージ4の会社の80%が業績をあげています。NVOによれば、従来は5時間かかっていたものが、数分ですむなど、生産性は見事なほど向上させることができるのです。


―今後の目標は。

黒澤氏
 7~8年前までは、通信技術の本命はATM(非同期転送モード)といわれていました。いまでこそIPですが、このころ、IPが本命といっていますと、とんでもない、といわれたものでした。技術とはそのようなものです。シスコカルチャーの一つに、「No Technology Religion」がありますが、これは、技術を宗教にはせず、お客様にとって必要なことは何でもしますということです。確かに当社はIP中心のソリューションを提供していますが、お客様の状況によっては、いまでもATMにもフレームリレーにも対応できます。まさにカスタマードリブンたるゆえんです。また日本のお客様のニーズを満たすには、品質が重要ですね。昨年、成田に品質管理センターを開設しましたが、その効果も着々とあがっており、これを契機にシスコのワールドワイド戦略の一つに品質が加えられました。CEOのチェンバースも品質の重要性は理解しており、「日本のお客様にシスコ製品の品質をご満足いただけたら、世界でも通用する」とさえいっています。さらに私自身は、日本のセキュリティが投資面などでも遅れていますので、今後はこれを重点課題にしたいと思います。当社のアドバンストテクノロジーの一つであるセキュリティで、日本市場をリードするくらいのつもりで取り組みます。



URL
  シスコシステムズ株式会社
  http://www.cisco.com/jp/


( 真実井 宣崇 )
2003/10/07 09:57

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