インテルにとって、エンタープライズ分野は重要な市場となっている。先頃、米国で開催されたIDF(インテル・デベロッパーズ・フォーラム)でも、エンタープライズ分野に向けた2006年までの製品ロードマップが示され、長期的な視点からもエンタープライズ市場に対してコミットしていく姿勢が明らかになった。では日本におけるエンタープライズ分野への取り組みはどうなのか。プラットフォーム&ソリューションズマーケティング本部・町田栄作本部長に話を聞いた。
■ マーケット創造による成長がインテルの基本スタンス
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プラットフォーム&ソリューションズマーケティング本部 本部長 町田栄作氏
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―インテルは日本のエンタープライズ市場をどのようにとらえていますか。
町田氏
調査会社などの資料を見ますと、日本は米国に次いで第2位のIT投資規模を誇る国です。全世界の10%強を日本が占めている。金額にして、年間10-12兆円規模の市場があるわけです。また、そのうち、2002年のサーバー市場は7700億円程度になっています。出荷台数という点で見ると、IA(インテルアーキテクチャ)サーバーは87%という高いシェアを持っているのですが、金額にするとインテルのシェアは3分の1で、残りのうち3分の1がメインフレーム、そして、また3分の1がRISCとなる。金額の観点で見ると、まだまだやらなくてはいけないことがありますし、言い換えれば大きなビジネスチャンスがあるわけです。今年は全世界においては、金額ベースでもRISCを追い抜くと予想されています。日本でも早く同じような状況に持っていきたいと思っています。
―企業の情報投資意欲が抑制され続ける一方、サーバーの価格が大幅に下落しています。こうした市場環境を見ると、インテルにとってエンタープライズ分野のうまみは少ないのでは。
町田氏
ご指摘のようにサーバーに関するIT投資比率は年々減少傾向にあります。いまは、サーバー・ハードウェアの金額がIT投資全体に占める割合は6%程度でしょうか。このように年々縮小傾向にあるのは、サーバーの価格下落が大きく影響しているのは周知の通りです。一方、企業のIT投資も今年から徐々に上向いているといわれるものの、この投資額が爆発的に拡大するわけではない思われます。
では、決まった投資額のなかで、ユーザーはどこに投資しようとしているのか。それはやはりサービスやソフト、ソリューションといわれる部分です。いまや、サービスに関しては、投資額全体の40%程度を占めています。もちろん、この部分の投資が増えても、直接インテルの収益増にはなりません。しかし、インテルでは、エコシステムという考え方を示しています。ハードウェアサプライヤー、ソフトウェアベンダー、サービスプロバイダ、システムインテグレータ、セキュリティベンダーなどがお互いに連携しあって、ユーザーに価値を提供するとともに、市場を創造し、拡大する。もともとインテルの手法は、常に「マーケット創造」にあるのです。例えば、かつて、コンシューマPCが秋葉原の家電量販店で販売されるようにするために、インテルは市場創造のための支援活動に積極的に乗り出したという経験があります。
そうした意味で、ご理解いただきたいのは、インテルは単なるチップベンダーではないということです。この考え方は、エンタープライズ市場に対する取り組みでも同様です。当社は、Pentium Proプロセッサからエンタープライズ市場にフォーカスした取り組みを開始しましたが、常にOSベンダーやソフトウェアベンダー、ハードウェアベンダーとの連携のなかで製品を提供してきました。ハード、OS、ミドルウェア、アプリケーションソフトが揃って、初めてユーザーに完成されたソリューションが提供できる。こうした連携の結果として、IAサーバーを選択していただくことになれば、当社にとってメリットが出る。例えば、あるデータによると、SAPを新規に導入するユーザーのうち、IAサーバーを選択していただいたユーザーは、1995年にはわずか15%でしたが、今年第1四半期では65%に達しています。ユーザー企業の間では、コストリダクションに対する要求や、セキュリティに対する要求が高まっています。また、ブロードバンドやワイヤレスといった最新のインフラを活用した新たな利用提案を求める声や、顧客へのサービスを向上するためのシステム構築への投資を増大させる傾向にあります。こうした環境のなかで、IAサーバーの採用が促進できる状況をエコシステムの協力会社とともに確立したいと考えています。
■ ITの先進ユーザーとしてのノウハウを強みにする
―インテルの強みはパートナーとの協業にあると。
町田氏
もうひとつあげるとすれば、インテル自身がITの先進ユーザーとしてノウハウを確立している点も強みだといえます。インテルは全世界で約8万人の社員がおり、全世界50か国で事業を行っています。クライアントPCは全世界で10万台以上にのぼり、メールのトランザクションは一日400万通以上に達します。しかも、24時間365日で稼働している。まさに、エンタープライズの大きな実験場ともいえます。いかにコストリダクションにつなげるか、ワイヤレス環境を導入することでどれだけのメリットがあるのか、セキュリティはどうしたらいいのか、将来に向けたIT計画はどう策定すべきか、といったことを具体的な事例としてユーザー企業に公開しています。
例えば、インテルは、95年にはデスクトップパソコンで一人あたり9300ドル程度のTCOがかかっていたものが、2002年には2500ドル程度にまで削減しています。また、ノートパソコンユーザーでは4000ドル弱のところにまで、TCOが削減できています。それにはどんな取り組みをしてきたのか、といったノウハウを、Webや書籍、ホワイトペーパーなどを通じて、ユーザー企業にもお伝えしている。今年も、当社のIT導入効果に関するセミナーを全国20回程度、CIOや導入担当者を対象に行いました。
―失敗例もありますよね(笑)
町田氏
もちろんあります(笑)。実はそれも公開しています。かつて、TCO削減を目的に低価格のパソコンを全社規模で導入したことがあったのですが、OSの機能があがるのに対応できなかったり、新たな機能を使えないという問題が出てきた。結果として、業務の効率化が図れずに、わずか2年でパソコンを入れ替え、大きな再投資を余儀なくされたという経緯があります。
―インテルではコンサルティングサービスとして「インテル・ソリューション・サービス」も行っていますね。これも単なるチップベンダーではないという点につながってきますか。
町田氏
インテル・ソリューション・サービスでは、技術的な側面から、最新のインテルテクノロジーを活用した費用対効果の高いシステム構築の支援を行います。これはグローバルな組織体制となっており、日本でもますます強化したいと考えています。ただ、業種ごとに専門性が求められますから、すべてをカバーするというわけにはいきません。
―フォーカスする分野はあるのですか。
町田氏
世界的には9つの業種にフォーカスする体制にしているのですが、日本では、製造、流通、公共、金融という4つの業種と、横串の形でサーバー統合、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)にフォーカスしています。
―中小企業向けの分野に対してのアプローチはどうですか。
町田氏
中小、中堅企業の実態を分析してみますと、1台のパソコンを複数の社員でシェアして使っている比率が、欧米に比べて日本の方が高いという調査結果が出ています。さらに導入普及率も低い。つまり、まだまだ開拓の余地があるともいえます。こうしたなか、e-Japan計画やIT投資促進税制などの効果もあり、ますます中小企業のIT化は促進されることになるでしょう。現在、中小企業の市場に対して、どうアプローチしていくかといった点を検討している段階です。
―話は変わりますが、先頃米国で開催したIDFでは、エンタープライズ関連の発表が相次ぎましたね。
町田氏
IDFでは、2006年に出荷を予定しているTanglewoodや、2004年から2005年にかけて登場する予定のPotomac、Tulsa、DPサーバー向けプロセッサであるNoconaの後継に予定されているJayhawkなど、エンタープライズ市場にフォーカスした製品群に関しての発表がありましたが、これによって、2006年までのロードマップを明確に示すことができたと思っています。ユーザー企業に対しては、長期的な安心感を与えることができたと思っていますし、これをもとにIT投資に関する方向性を検討することもできるようになるのではないでしょうか。また、Centrinoモバイルテクノロジーによってクライアントの環境も大きく変わりますし、ここで実現された省電力テクノロジーは、サーバー製品にも応用され、データセンターなどにおける省電力化にも大きなメリットを提供できます。エンタープライズ分野において、技術に根ざしたコストパフォーマンスの高い製品を、確実に提供していくという当社の基本姿勢が示せたと思っています。
一方、吉田和正代表取締役共同社長からも本誌にメッセージが届いている。
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代表取締役共同社長 吉田和正氏
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この度の、「Enterprise Watch」の創刊、おめでとうございます。
インテルは、ビジネスにおけるコンピューティング環境の発展に長年、取り組み、生産性の向上に貢献しております。インテルPentium 4プロセッサやインテルCentrinoモバイル・テクノロジ搭載の高性能・高機能なクライアントPCの利用拡大による生産性向上の追及や、従来のRISC製品に比べ優れた価格性能比を提供するインテルItanium 2プロセッサやインテルXeonプロセッサなどのサーバー向けマイクロプロセッサおよびチップセット製品やネットワークプラットフォームの提供、そして、各種の先進的なコンピューティング技術を提供しています。
またインテルも、ITの先進ユーザとして、最新の技術・利用法を確立・推進しており、受発注業務など、社内の業務処理をコンピューティング技術で自動化する、“100% e-Corporation”を目指しています。
これからも、インテルの製品やテクノロジが、ビジネスの成功に必要不可欠なものとなるよう、努力して参ります。
■ URL
インテル株式会社
http://www.intel.co.jp/
( 大河原 克行 )
2003/10/09 10:02
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