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日本SGI和泉社長、「Silicon Graphics製品にこだわらず、あくまでソリューションを提供する」


 日本SGIはNEC、NECソフトとの資本提携を経て、大きくその路線を変えてきた。グローバリゼーションの流れの中にあって、唯一日本のマーケットに向けて逆行しているようにさえ見える。そのように舵を切ったのは、5年前、当時のコンパックから単身日本SGIに乗り込んだ和泉社長だ。日本SGIの中にあって、和泉社長は、その強烈なリーダーシップで何を目指そうとしているのか。


日本SGIはSilicon Graphicsの日本法人ではない

代表取締役社長 和泉法夫氏
―和泉さんは最近、ソリューション・インテグレーターということを盛んにおっしゃっていますね。かつて日本SGIは、米Silicon Graphics社の日本法人として、米本社の圧倒的に優れた製品を国内に販売してきたわけですが、その路線を変更するということですか。

和泉氏
 日本SGIを米Silicon Graphicsの100%子会社だと思っている人がまだいるようですが、しかし今Silicon Graphicsは日本SGIの資本の40%しか持っておらず、NECが40%、NECソフトが20%という構成になっています。つまり、日本SGIはSilicon Graphicsの日本法人ではなく、日本の企業ということです。しかも連結決算上はNECの子会社という位置づけですが、独立して事業を展開させてもらっています。ですから、当然どこかの製品に特化して売るということではなく、ソリューション・インテグレーターとしての立場を前面に掲げているわけです。


―具体的に、注力している分野は。

和泉氏
 これはもう明確に打ち出しているのですが、私たちは3つのコア・コンピタンスということをいっています。ビジュアライゼーション、スケーラビリティという言葉に代表されるスーパーコンピュータ、そしてブロードバンドの3つです。この3つの世界に特化して、Silicon Graphicsの製品にこだわらずお客様が必要とされるソリューションを提供するというのが私たちの立場です。ですから、最近はSilicon Graphicsの製品の売上げは全体の30%を切るところまで来ています。


―Silicon Graphics製品にこだわらないということになると、反対に日本SGIとしての強みが失われるのではないですか。

和泉氏
 そんなことはありません。私たちはSilicon Graphics製品を日本市場で独占的に販売する権利を持っています。ですから、その意味での強みは何ら変わりません。しかしそれだけに留まるのではなく、お客様のニーズに合わせて他社の製品も組み合わせてソリューションを提供するということです。その時にキーとなるのがさきほど申し上げた3つのコア・コンピタンスです。あくまで3つのコア・コンピタンスが先にあり、その市場に向けてSilicon Graphicsの製品がよければSilicon Graphicsの製品を、他社の製品がよければそれをインテグレーションして提供するということです。
さらに今後は、3つのコア・コンピタンスに加え、必要であればSilicon Graphics社以外からも独占的な国内販売権を取得して提供しようと考えています。その第一弾として、先日ブロードバンド事業の強化策として、米On2テクノロジーズ社から低帯域映像コーデック製品の独占的な販売権を取得しました。


お客様のために日本企業に

―米国のSilicon Graphicsはクレイ買収以降、業績不振からなかなか脱却できないでいるようですが、そうしたことも日本SGIがNEC、NECソフトの資本を得た背景にあるのですか。

和泉氏
 いや、Silicon Graphicsも特定の分野で見れば圧倒的に優れているのですよ。たとえば、スーパーコンピュータの分野では依然として市場をリードしていますし、最近のLinuxのAltixサーバーは他社の製品と比べても圧倒的に優れた性能を示しています。グラフィックスのOnyxも他の追従を許していません。国防関係のビジネスは好調ですし、ストレージもよいソリューションを持っています。しかし過去、いろいろなところに手を出しすぎたので適正規模ではなくなり、それが全体の業績を引っ張っているということだと思います。ですから今、Silicon Graphicsは大胆なリストラを進めており、今後立ち直っていくとは見ていますが…。まあ、子会社ではないので、ちょっと評論家的ないい方になってしまいますが。


―最近では、マイクロソフトやサン・マイクロシステムズの社長が日本人から外人の方に替わったこともあり、グローバリゼーションの中でどんどん外資の力が強くなっているという印象を持っています。そうした動きに対して、最近の日本SGIの動きは逆行するように見えます。

和泉氏
 IT産業としては逆行のように見えるかも知れませんが、お客様から見ればそんなことは関係ありません。お客様はグローバリゼーションというより、地に足着いたサービスを求めているわけです。ある日突然トップが替わり、そして日本市場に対する方針まで変わるという事態はもちろん望んではいないと思います。かつては、米本社の方針で、突然日本法人が営業停止をしたという会社もありましたが、そうなってはお客様が一番困るわけです。

 ですからお客様も、箱を売っているメーカーより、ソリューション・インテグレーターの方を見ているわけです。メーカーの日本法人から製品を買うのではなく、そのメーカーの日本の販売代理店なりSIerとコンタクトを取ろうとされています。むしろ、お客様は箱にはこだわらず、価格を問題にされるところはホワイトボックスでもよくて、的確なソリューションを要求されているわけです。ですから私たちは、これからは箱売りではなく、人を売るといっているわけです。


箱を売る時代から“人を売る”時代に

―その人を売るという話ですが、それだけの人材が日本SGIにいるということでしょうか。

和泉氏
 人材というのは、企業規模で決まるのではありません。さきほど申し上げたように、当社のコア・コンピタンスであるビジュアライゼーション、スケーラビリティ、そしてブロードバンドという分野では他社に比べてはるかに優れた人材がいるということです。たとえば、ビジュアライゼーション、つまり可視化の話だったら日本SGIにぜんぶ任せてもらいたいと思っています。私たちが中心になって、Silicon Graphics製品だけでなく他社のあらゆる製品を組み合わせて最適なソリューションを提供するだけの自信があります。

 スケーラビリティに代表されるスーパーコンピュータの世界でも、日本SGIはベクトルもスカラーも分かる唯一の企業です。かつて買収したクレイの、ベクトルに精通している技術者がそのまま日本SGIに残っています。当然、Origin、Altixのスカラーの世界が分かる技術者もいます。

 私たちは、ERPをやろうといっているのではありません。ERPに強いところはたくさんあります。しかし、可視化だったら日本SGIが強いですよ、スーパーコンピュータだったら日本SGIが強いですよ、ということをいっているのです。


―この3つのコア・コンピタンスはSilicon Graphicsというより、日本SGIが独自に築き上げたものなのですね。

和泉氏
 まさにそうです。ブロードバンドのソリューションでは、Silicon Graphicsの製品がまったく入っていないというソリューションもあります。この放送と通信の融合の時代に、IT企業の中で放送が分かるというところはほとんどありません。放送は放送で、それを営々と専門でやってきた会社がたくさんあります。日本SGIはそういうところともつきあいがありますので、IPマルチキャストをお客様に提供するときに、放送機器まで提供することができるのです。日本SGIのこうした分野に特化したソリューション・インテグレーターを目指しているわけです。


ブロードバンドの第2ステージ

―日本SGIは、たぶんブロードバンドという言葉を最初に提唱した会社ではないかと思うのですね。Silicon Graphicsが、1990年代はじめにフロリダのオーランドや日本の浦安でVODの実験を行ったこともあり、いち早くこの広帯域の世界に目をつけたのが日本SGIだったと記憶しています。そしてその後、さまざまな企業がブロードバンドという言葉を使うようになっていますが、その先駆者という意味で、これからはどのような市場が注目されるとお考えですか。

和泉氏
 日本SGIはこれまで、日本の先端的な研究機関や官公庁にソリューションを提供してきました。最近でも統計数理研究所の統計科学スーパーコンピュータ・システム、東大地震研究所のLinuxサーバー・システム、地球シミュレータの可視化システムをはじめ、東京慈恵会医科大学の医用VR、東大ヒトゲノム解析センター、理化学研究所のゲノム科学研究システムなど、次々と先端的なシステムを受注、納入しています。ですから、こうした研究所や官公庁の先端技術を民生に生かす一番近いところに日本SGIがいると自負していますし、2004年からは、こうした産学連携が本格的に進んでいくと思っています。

 日本SGIは、去る11月5日、6日の両日、恵比寿のウェスティンホテルで、プライベートショーの「SGI Solution3 Fair 2003」を開催しましたが、そこでのテーマは「すでにある未来へ」、英語ではThe Future of the Future is in Present.というものでした。つまり、技術革新も含めてすでに先端技術は現在すでに存在し、しかもリーズナブルな価格で手に入るところまで来ているということです。


―そうした先端技術が民間で活用され、花開くのが2004年だということですか。

和泉氏
 夢みたいな話をしているばかりでなく、それがこれから次々と実用化に向かってくると思います。Silicon GraphicsもかつてVOD実験をしましたが、当時は回線が整備されておらず、あくまで実験で終わってしまいました。しかし今では、ブロードバンドがこのように普及し、コンテンツの世界も広がるようになってきました。これと同じように、さまざまな先端技術が民間で生かされ、開花するのが2004年だと思っています。


―ブロードバンドの世界も次のステージに進むということでしょうか。

和泉氏
 Webの世界も一気に変わると思います。今のようにWebに写真を貼り付けるという形ではなく、FTTHになれば、クリックした瞬間に映像が流れるようになります。こうした技術がすでに揃っているということです。ユビキタスだって、その技術はすでにあるのです。なにも、RFIDだけがユビキタスではありません。監視カメラを使ってコンビニに入ってくる人を認識し、それをデータマイニングに使うとか、そのような技術がごろごろしています。私たちが「すでにある未来へ」というのは、こうした技術がこれから開花し、ビジネスの形態も大きく変わるという確信があるからです。私たちはERPを手がけませんが、大学や研究機関の研究だけでなく、産業界やビジネスの世界にも寄与することができると考えています。



URL
  日本SGI 株式会社
  http://www.sgi.co.jp/


( 宍戸 周夫 )
2003/12/05 00:00

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