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EMCジャパン中山社長、「直販体制からパートナー戦略へ移行する」


 EMCジャパンの社長に中山隆志氏が就任して、2カ月半を経過した。就任直前の挨拶では、「3カ月で会社の方針を決める」と宣言、早くも新たなEMCの確立に乗り出している。それは、中山社長の言葉を借りれば、「ビジネスモデルの改革」。核となるのは、直販中心の体制から、パートナー戦略への移行だ。日本IBMでは自ら直販営業を担当し、サン・マイクロシステムズでは、間接販売に尽力した中山社長は、EMCでは間接販売を選択した。来年1月5日には設立10周年を迎えるEMCジャパンは、いま、大きく生まれ変わろうとしている。新生EMCの方向性を中山社長に聞いた。


ビジネスモデルそのものにメスを入れる

代表取締役社長 中山隆志氏
─社長就任の第一声はなんだったのですか?

中山氏
 就任の前々日に、米本社のジョー・トゥッチ会長が来日し、全社員を集めたミーティングがありました。そこで、挨拶をしろという話になって。就任前に、挨拶をするという異例の事態でしたよ(笑)。そこで、私は、「今後3カ月で全社の方針を決める」と宣言しました。EMCはビジネスモデルそのものにメスを入れる必要があると感じていましたからね。


─ビジネスモデルとは。

中山氏
 これまでは直販が軸でしたが、EMCのプロダクトの特性や、日本国内での市場性、習慣、文化を考えると、それだけでは限界がある。もちろん、ハイタッチと呼ばれる直販体制はいいところもあるのは熟知している。メーカーが顧客に直接接点をもって、担当する顧客に対して、ビジネスプランを提示するといった入り込んだ営業ができる。顧客も安心して当社に任せていただける。だが、人的資産にも限界があるし、メーカー1社の提案だけでは広がりがない。今後の成長においても限界があるし、IT業界において、メジャープレーヤーになることはできないんです。パートナー戦略に移行することで、実際のリーチは、何倍にも、何10倍にもなるわけですから、戦略の幅も広がる。そう考えています。


─これまでにもパートナー戦略は行っていますが。

中山氏
 パートナー戦略においての重要な鍵は、そのパートナーが、当社の製品をファーストチョイスの製品にしてくれるかどうかなのです。百貨店でも、棚のどの場所に置くかで売れ行きが決まる。いくら扱ってもらっていても、いい場所に置いてもらわないとそこそこしか売れない。それと同じで、パートナーが扱う複数のプロダクトのなかでも、最も目立つ場所で扱っていただきたい。そういうパートナーとじっくりと手を組みたいと考えているのです。


─そのためには、EMCとしてどんな手を打ちますか。

中山氏
 パートナーにとって利益がとりやすい、教育や支援体制を厚くするという施策もあるでしょうが、最終的には、パートナーの要望を具現化するような製品仕様、クオリティレベル、価格を提供することが必要です。パートナーが、こんな商売をしているので、こうした製品が必要だとなれば、EMCとしてそれに合致した製品を供給する、というのが究極の形です。マーケティング戦略でもジョイントプログラムを随時展開して、メーカーとパートナーが一緒になって、それぞれの特性を生かした市場アプローチができる体制を構築したい。


─EMCジャパンから米本社に対して、日本のパートナーがこういう製品が欲しいから仕様を変えてほしい、という要望が通るのですか? まだ日本法人はそこまで発言力があるようには見えませんが。

中山氏
 要望は通ります。確かに、これまでそういう前例はない。だが、日本法人のニーズとして、しっかりとしたビジネスプランを提示すれば、それは実現が可能です。これはやるべき取り組みであり、それができる土壌がEMCにはあると考えています。


─パートナーの数は、これから急拡大していくことになるのですか。

中山氏
 現時点でのパートナーの数はまだ不十分だと思っています。しかし、やみくもに数を増やそうとは思っていません。先ほども触れたように、ファーストチョイスをしてくれるパートナーとじっくりとお付き合いをしたいですからね。まずは、新たに3社ぐらいとパートナー契約を結びたいと思っています。全国展開できるところ、地域特化ができるところ、大企業をターゲットにしているところ、中小企業を対象にしているところというようにセグメントを決めてやっていきたい。大手パートナーであれば、EMC製品のための専門部隊を組織していただき、パートナー自身の事業に組み込んでいただけるようなところ、お互いが踏み込んで事業をできるところと手を組みたい。1、2年の結果を求めるのではなく、長い間、パートナーシップを組める関係を築きたい。


─直販はやめるのですか。

中山氏
 当社の営業部門はそのまま存続させます。その点では、直販体制は残るということになりますが、すべての案件をパートナーの販売に移行する。当社が商談を開始した顧客でも、当社が注文書をもらうということはしない。最適なパートナーに移管して、すべてのお金がパートナーに落ちるという形になります。


─中山社長自身、EMCジャパンの弱点はどこにあると感じますか。

中山氏
 これまで競合メーカーの立場や協業メーカーの立場で、EMCを見てきましたから、その立場では、悪い点にフォーカスする癖がつきます(笑)。ですから、EMCの弱点はいくつもわかっていますよ。実際に、社長に就任して、社内を見回した場合、過去の成功体験が足かせになる場合がありそうだと感じました。それが足かせになって、変わるべきタイミングに遅れるということが起こるかもしれない。ただ、この部分は、過去のしがらみがない私が判断すればいいと思っています。むしろ、過去の成功体験をうまく次の自信へとつなげることができる社内体質を作り上げたいと思っています。


─そこに中山カラーがでますか?

中山氏
 いま、全社員と話をする機会を設けているんです。7~8人のグループで約2時間ほどかけて、私の考えを話し、社員の声を聞きます。この2時間が終わると、本当にヘトヘトですよ(笑)。私自身、この時間は真剣に取り組んでいますからね。私は、パートナー、顧客、そして社員を大切にしたい。だから、社員と話す時は真剣勝負です。


ILMは継続して推進

─EMCでは、情報ライフサイクル管理(インフォメーション・ライフサイクル・マネジメント=ILM)を提唱していますが、この考え方は変わらないのですか。

中山氏
 ILMは、約1年前に発表したひとつのビジョンであり、コンセプトですが、この考え方はEMCの基本的なものとして継続的に推進していきます。企業におけるデータは年率50%以上で増加している環境のなかで、情報をいかに管理するかといったことが重要な課題になってきている。一方、製品技術の進化や、ネットワークインフラの整備が進展したことで、より効果的に、戦略的に情報を管理できる環境も整ってきた。こうしたなかで、当社が提唱しているのがILMです。一方、別の見方をしますと、ストレージは、情報システムという観点で見れば、ひとつのI・Oにすぎません。ところが、ネットワークという観点から考えると、ネットワークの次に何がくるかというと、情報を結ぶのに、ストレージが必要だということになる。ネットワークを通じてストレージを統合し、散在しているデータを統合するという考え方が進展してきた。だが、ネットワークにストレージを接続したのはいいが、すぐにでも取り出したい情報と、すぐには必要がない情報、あるいはほとんどアクセスしない情報が混在した環境で管理されている。すぐには必要がないデータまでもが、高速にアクセスできるストレージとネットワークに接続されているために、余計なコストが発生しているという問題にも直面している。こうした問題解決するのがILMであり、いわばネットワークをベースとした上で成り立つ考え方を推進する「変革」ともいえるものなのです。今後は、これが、アウトソーシングという形で、当社のビジネスが進展することになります。


─ILMの進展に伴って、コンサルティング事業も重要視されてくるのではないでしょうか。

中山氏
 確かに、これまではテクニカルコンサルティングが中心となっていましたが、ILMの浸透に伴って、ソリューションコンサルティングも重視されることになるでしょう。この部分は、パートナーと協業する事で解決を図りたいと考えています。来年1月5日には、設立10周年を迎えます。新たなパートナーも、今年度末(2004年3月)までにはある程度決定したと思っています。新年から新たなビジネスモデルに向けた体制を整えたいと思っています。



URL
  EMCジャパン株式会社
  http://www.emc2.co.jp/


( 大河原 克行 )
2003/12/19 00:00

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