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SAP藤井社長、「市場を拡大する真のオープン化が2004年のキーワードだ」


 ERPで30年以上の実績を持つSAPは、日本においては特にパートナー企業との連携を軸に、トータルで3,000億円に達する巨大マーケットを作り上げた。そして、そのERPで断然のシェアを築き上げたSAPは、いよいよ統合アプリケーションプラットフォームの「NetWeaver」を前面に掲げ、ソリューションレベルでの標準基盤を打ち出してきた。SAPジャパンの藤井社長は、ソリューションの世界で、従来のオープン化の枠を超えた新たなスタンダードを確立しようとしているようだ。


NetWeaverがソリューションの司令塔

代表取締役社長 藤井清孝氏
―SAPは当初、「R/3」でERP市場を切り開いてきたわけですが、今ではCRMやPLMなどへとそのソリューションの幅を広げていますね。

藤井氏
 私たちは、企業の目的に合わせてきめ細かいソリューションを提供したいと考えています。基本的に、私は企業の目的は3つあると思っています。ひとつは新しいものを作るというイノベーションです。もう一つは顧客をつかんで離さないという顧客との関係、3つ目はインフラやリソースの効率的な運用です。ERPはその3番目のリソースの効率運用を担うものですが、顧客との関係ではCRM、そしてイノベーションではPLMソリューションが必要となります。

 われわれは会社のベーシックな部分として当初ERPを提供してきましたが、それを基盤に顧客との対応、そしてイノベーションもカバーしましょうという考えです。そうしたニーズにすべてSAPが応えていくというイメージです。そのため、私たちは「NetWeaver」という統合アプリケーションプラットフォームの提供を開始しました。


―導入する場合は、やはりERPからということになりますか。

藤井氏
 企業の目的に合わせてどのレベルから導入してもいいですが、私たちはSuiteという考えを持っています。トータルで相乗効果を発揮しようという考えです。そのときは、もともと同じルールで作られたものの方が、インターフェイスの構築も廉価にできますからメリットがあります。そのSuiteを実現するのがNetWeaverのポータルです。

 今、家庭の居間にはTV、ビデオ、DVDなどいろいろな機器があり、そのひとつひとつにリモコンがついていますね。そのとき、別々のリモコンを使うのは面倒ですから、その司令塔が必要になります。その司令塔となるのがNetWeaverです。ビデオカメラで撮った映像をDVDに落としたりプラズマTVで見たり、携帯電話に送ったりというフローをはじめに定義しておいて、統一したリモコンでやりましょうという発想です。


―NetWeaverによって、バラバラだった業務システムも統合されるということですか。

藤井氏
 そうです。企業においても、今までは各ソリューションが独自のGUIを持ち、業務にまたがって煩雑になっていたわけですが、それを定義し直し、ポータルで相互につないでいきましょうというのがNetWeaverです。これによって、ユーザーから見た場合、いろいろなシステムを横切っている業務をSuiteという形で統合することができます。TVだけ見たい人は必要ないかもしれませんが、TVとDVDとビデオカメラを結びつけて何かをやりたいという場合はそれが必要なわけです。


スピードに対応できる中堅企業を作る

―さて、新たな2004年を迎えるわけですが、日本のITマーケットにとってはどのような年になりそうですか。

藤井氏
 IT投資は若干増えるでしょうね。SAPジャパンのビジネスでいえば、当初は大企業中心でしたが、今では中堅企業に推移してきています。まず、その流れが加速するのがこの2004年だと思います。しかし、中堅というのは競争が激しいところです。情報の流れをきちんとしないと差別化できないというところですね。昔であれば、それなりの商圏でそれなりに儲かっているということが許されたのですが、2004年からはそれが変わってくると思います。


―中堅企業にも、二極分化が起きてくるということですか。

藤井氏
 中堅企業といっても、グローバルで頑張っている会社やe-businessモデルにフォーカスしている会社と、ドメスティックなビジネスで苦しんでいる会社があります。前者のような会社は、SAPのような使い方を自分の競争力の源泉というように捉えられていて、SAPの導入にも積極的です。


―グローバルなビジネスを展開しているところでは、SAPのソリューションが有効に働くということですね。

藤井氏
 そうですね。トップが経営課題に対して何をすべきかということが分かっている会社です。それと、こうした企業では、取引先がシステムをWeb化したりERP化したりという動きがあり、それと連携しなければならないという状況も出てきています。そのとき手作りのシステムでは対応できません。それはいわば外圧ですが、生き残るためには避けて通れない投資になるわけです。


―もう一方の、差別化に苦しんでいる企業に対しては。

藤井氏
 こうした企業はERPを自動化のツールとしては考えるのですが、競争力をつけるために使いこなそうという意識があまりありません。私たちが提供しているソリューションは、お客様の使い方によって価値が上がったり下がったりしますから、使い方のイメージがつかめない会社は、SAPの良いところを十分に活用できないのですね。

 しかし、このどちらの中堅企業も最終的な方向性は決まっていると思うのです。それはスピード経営ということです。今潜在的なニーズであっても、それがいつ顕在的なニーズになるかわかりません。こうした動きを素早くつかむことが業績につながってくるわけです。

 全体的な潮流は決まっています。標準化、パッケージ化、オープン化です。企業がよっぽどのコアコンピタンスを持ち、差別化要因を持っていなければ、それに逆らうことはできません。ですから、それに対応できるスピードが問われており、ERPのようにその企業の仕組みのどこに無駄があるかを教えてくれるようなシステムが必要なのです。


パートナーとWin Winの関係を

―中堅企業に対して導入を促進するためには、市場にある廉価なシステムとも競合することになるわけですが、それに対しても何か秘策があるのですか。中堅企業は、SAPのソリューションに割高感を抱いているようです。

藤井氏
 しかしそれはソフトウェアが高いか安いかということではなくて、トータルコストの問題だと考えています。導入のコストが安くならないといけません。そのためには、われわれ自身が導入を行って一定の水準を示していかなくてはなりません。


―SAPジャパンが自社で導入するケースはどのくらいですか。

藤井氏
 全体の10~15%くらいですね。製品はすべて直販で提供していますが、その導入については、この程度のものをSAPが直接行い、後はパートナーにお願いしています。新しい製品で市場がまだこなれていないというものや、新しい業種でSAPのソリューションが導入できるかどうか実証されていない分野、そうしたいわば布石になる分野は自分たちでやっています。レストランのフランチャイズのようなもので、キーとなるオペレーションは直営でやり、その他はフランチャイズでやるということです。しかし、中堅企業に普及するためにはパートナーが非常に大事ですね。


―まず、SAPジャパンが手本を示すということですか。

藤井氏
 たとえば、私たちが年間300件のシステムを導入するとすれば、こうしたケースではこのようにすれば価格はこのように収束するということが分かるわけです。しかしパートナー企業で年間10社ほどしかやらないということがあると、市場全体が読めないわけです。そのため、われわれは自社導入の経験、ノウハウを元に全体最適しようとしているわけです。

 中堅企業のディールにおいても、われわれはいわば元締めですから、唯一全体を見られるわけです。ですから、われわれは大きな方向性を出していこうと思っています。しかし、日本は世界のSAPの中でもパートナーとの関係は非常に良好です。SAPジャパンの売上げは600億円程度ですが、SAPの市場そのものは3,000億円ほどあります。それはわれわれの強みであり、600億と3,000億の取り合いをしても意味ないことですから。


導入するしないではなく、問題はいかに使うか

―しかし一方で、ユーザーの中にはROI、つまりIT投資に対して生産性がどのように向上したかがつかめないとして、導入に消極的になっているところもあります。

藤井氏
 たとえば、在庫が見えるようになり顧客へのレスポンスが早くなり、そのおかげでコストが下がって売上が上がるということを推し量るのがROIと見られているようですが、お客様はそれ以前のメリットでSAPの製品を導入されています。ROIを計算する必要もなく、それを圧倒的に上回るメリットがあるからです。工場でこうした製品を作ったらROIは年に7~8%になるとか、金利が何%だからIT投資を止めようかという世界ではないのです。ITというのは在庫が減るというような、細かいリターンを考えるというよう投資ではないのです。


―それでも、どのようなメリットがあるか分からないという企業もあります。それに対しては、どのようなメッセージを出されるのですか。

藤井氏
 商社がビジネスを遂行する場合、どこにどのようなリスクがあるかが見えないと致命傷になるわけですね。食品会社の場合、リコールが起こったらその食品の原料まで素早くトレースできないといけません。製薬会社では、新薬の開発では膨大な費用がかかり、バックオフィスにはお金を回せないという状況があります。必然的にERPということになるわけです。業種によって、もちろんその企業によってニーズは違うわけですが、ERPはインフラですから、それを導入する、しないかというレベルではなく、それをどう使うかということが今まさに問われているのだろうと思います。


―現在、世界でR/3の導入実績は。

藤井氏
 2万社です。


―R/3には、そうしたベストプラクティスが含まれているということですか。

藤井氏
 そうです。われわれのソフトは、導入した企業に対して「このようなことをやっていていいのですか」ということを問うようなソフトなのですね。ベストプラクティスが含まれているということは、「他の会社ではそんなことやっていませんよ」という話です。そこはERPでやりましょうということをひとつひとつ業務プロセスでチェックしていくようなソフトです。たとえば、伝票の形式が変わるだけでERPの導入を拒絶される企業もありますが、それは“慣れ”だと思うのです。その方法がよいというその会社なりのロジックはあると思うのですが、しかしそれを変えた方が情報を取りやすいということもあるわけです。そこでトレードオフが起きるわけです。現場を優先するのか、それを見て経営方針を決断する人の便利を優先するのかが問われるわけです。


―それでは最後に、2004年のキーワードをお聞きしたいと思います。

藤井氏
 オープン化ですね。今までいわれていたオープンはOSに依存しないとかハードウェアに依存しないというものですが、私のいうオープンはどのようなシステムがそこにあってもそれをつないでいけるという意味でのオープン化です。今までのような自分の世界に取り込んでいくようなビジネスモデルではなく、ひとつのプラットフォーム、SAPでいえばNetWeaverのもとでどんどん広がっていくような世界です。このような標準があると、その上でよりよいものが選択できるという市場原理が働きます。標準の上で複数のプレーヤーが競合し、結果としてコストが下がる世界が生まれてきます。ですから、それを実現するオープン化、そしてさらに加えれば標準化がこれからのキーだと思います。



URL
  SAPジャパン株式会社
  http://www.sap.co.jp/


( 宍戸 周夫 )
2003/12/26 00:00

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