米Borlandは、2004年9月に新しいアプリケーションライフサイクルの戦略として「SDO(Software Delivery Optimization)」を発表し、ITとビジネスをつなぐソリューションの提供に向けて始動している。現在では多くの企業がALM(アプリケーション・ライフサイクル・マネジメント)へ関心を高めているが、早い段階からALMに着目しているBorlandが何を目指しているのかを、同社の社長兼CEOであるデール・L・フラー氏に聞いた。
■ Borlandの新戦略「Software Delivery Optimization」

|
米Borlandの社長兼CEO、デール・L・フラー氏
|
─BorlandのSDOとは何でしょうか?
フラー氏
BorlandのSDO戦略は、企業のソフトウェアのビジネス価値を最大化することを目標にしています。ソフトウェア、サービス、収益性を1つのものとしてとらえます。それというのも、ソフトウェアは、企業にとって最も重要なレベルの1ポイントであると考えるからです。
─ソフトウェアのもたらすビジネス価値とは?
フラー氏
企業では、その規模にかかわらずソフトウェアを必要とします。特に株式を公開しているような企業では、ビジネスを効率化して高い収益を上げ、成長をけん引するために、ソフトウェアが非常に大きな意味を持っています。例えば全米No.1のデリバリチェーンであるウォルマートを考えてみてください。ウォルマートに行けば、何でも買えるわけですが、その仕組みを支えるのはソフトウェアです。ソフトウェアがなければ、ウォルマートの現在のビジネスは成り立ちません。またソフトウェアによって企業は大きく飛躍することもありますが、逆に使い方を間違えれば企業の崩壊を招くこともあります。
このようにソフトウェアはビジネスにとって、必要不可欠な触媒であるとBorlandは考えているわけですが、実際に適切なソフトウェアがきちんと導入されている企業はあまり多くありません。そこでSDOによって、ビジネスの価値を高めるソフトウェアの導入をサポートするわけです。
■ 企業はビジネスの変化に柔軟に対応できるソフトウェアを求めている
─適切なソフトウェアが導入されていない企業が多いとのことですが、企業はどのようなソフトウェアを求めているのでしょうか?
フラー氏
企業が求めているのは、ビジネスの変化に柔軟に対応できるソフトウェアです。ビジネスのITへの依存度が高まり、ビジネスバリューを意識した開発が注目されるようになりました。多くの企業は、人・プロセス・テクノロジとのギャップを埋める必要があると感じています。またあらゆるプロセスを改善しなければならないと感じているため、(ソフトウェア開発プロセスにおいて、組織的な能力発展度を判定する)CMMIをはじめとするさまざまな方法論やツールに投資する企業も増えています。
─適切なソフトウェアが導入されない原因はなんでしょうか?
フラー氏
現在ソフトウェアは非常に複雑化しています。以前のようなメインフレームから分散型のシステムになり、ソフトウェア開発も分散化されています。また、シングルプラットフォームから、マルチプラットフォームへと変わっています。このようにソフトウェアが複雑化されても、これまでソフトウェア開発の現場に大きな変化はありませんでした。そのため、開発プロジェクトの多くが失敗に終わってしまうのです。CHAOSという雑誌があるのですが、その2004年の調査によると、1年のITプロジェクトの3分の1は失敗に終わっているという報告が出ています。また米国では、ソフトウェアのエラーにより発生した損失が、1年で600億ドルにのぼっているというデータがあります。しかし、企業のITに対するコスト意識が高まり、IT投資に対する効果を気にするようになったことで、今後のソフトウェア開発は大きく変化しようとしています。
─プロジェクトの失敗の原因は、ITとビジネスのギャップにもあると言われていますが?
フラー氏
その通りだと思います。ITが考えている要件と、ビジネスの伝えた要件との間には乖離(かいり)があることが多いのです。これは、ビジネスとITの間にコミュニケーションギャップがあるためだと考えています。私はコミュニケーションに関して「ルール25:50:25」という持論があります。同じ言語で会話をする場合でも、お互いの言葉のうち25%は理解されません。50%は何を言っているか理解することができます。そして残りの25%は、本来理解されたいと思うこととはまったく違った解釈をされてしまうのです。これがルール25:50:25のコミュニケーションギャップです。同じことが、ビジネスとITのコミュニケーションの間にも存在していると考えています。
■ 「デベロッパーツールの観点」からIT全体をとらえる
─SDOはどのようにソフトウェアのビジネス価値を最大化するのでしょうか?
フラー氏
SDOは「人」「プロセス」「テクノロジ」を一体化し、ビジネスとITのギャップを埋めてビジネスバリューのあるソフトウェア開発をサポートします。SDOではソフトウェア開発のプロジェクトに対して、1)正しいソフトウェアプロジェクトを立ち上げているのか?、2)正しくエンジニアリングできているのか?、3)それをどのように確認するか?という3つの質問を投げかけています。これは、今作っているソフトウェアが本当に必要としているものなのか、そのソフトウェアは本当にビジネスのバリューにつながるのか、そして正しく希望通りのものが期待した期限と予算内でできているのかということです。
SDOでは、プロジェクトが進行してから、要件に変更が出た場合、あるいはコミュニケーションギャップによって要件が正しく伝わってなかった場合に、ソフトウェアを変更するために必要なコストを、変更する前に割り出すことができるようになります。どうしても譲れない要件であれば、多くのコストをかけてでも変更するでしょう。しかし、それほど重要でないなら妥協することもできます。つまりビジネスからの要求が、ITに対してどれだけのインパクトがあるのかを、ビジネスバリューの観点から判断できるようになるのです。これは、ITと密接にコミュニケーションがとれていなければ実現できません。かつてはERPを気にする経営者は非常に多かったのですが、これからソフトウェアにおいては、SDOが重要な定義となってくるでしょう。
─多くのベンダーがビジネスとITのギャップを埋める必要があると主張し、さまざまな製品をリリースしています。そんな中でBorlandの強みとは何でしょうか?
フラー氏
もともとBorlandは、デベロッパーツールを提供していたベンダーです。その後、ソフトウェアデザインとデベロッパーツールが上手に連携していないことに着目し、デザインツールとデベロッパーツールをきちんと連携する製品をリリースしました。さらに、アプリケーション開発の視点から、テストのソリューションや、構成管理、要求管理といったソリューションも提供することになったのです。
次にこれらの製品をアプリケーションライフサイクルという観点からグループ化してお客様に提供するようになりました。これにより、ソフトウェア開発の期間を大幅に短縮することに成功しています。このように、デベロッパーツールの観点から、IT全体をとらえた製品戦略を展開しているベンダーはほかにはありません。また、Borlandは、お客様にテクノロジーの選択を迫りません。J2EE関連のソリューションも、マイクロソフトのWindowsに関連したソリューションも提供できます。
─最後に、日本のソフトウェア市場をどのようにとらえていらっしゃいますか?
フラー氏
日本はソフトウェアに対して非常に成熟した市場であると考えています。ソフトウェアに対する意識が高く、プロセスの重要性も非常によく理解しています。今後のソフトウェア開発がビジネスドリブンになるかどうかが、日本のソフトウェア市場を大きく左右することになるでしょう。BorlandではビジネスとITのギャップを埋めるサポートをすることで、そのお手伝いをすることができます。今後のBorlandのSDO関連の製品を期待してください。
■ URL
米Borland
http://www.borland.com/
( 北原 静香 )
2005/04/22 00:00
|