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マクロミル杉本社長、「インターネットリサーチを世の中に定着させる」


 インターネットによる調査事業などを手掛ける株式会社マクロミルは、4月11日に、東証マザーズから東証第一部へと市場を変更した。2000年1月の設立から3年後の2004年1月にネットリサーチ企業としては初の上場を果たし、それからわずか1年3カ月で、東証一部へと上り詰めたマクロミル。果たして、市場変更の狙いは何なのか。そして、今後はどんな成長曲線を描こうとしているのだろうか。マクロミル代表取締役社長兼CEOの杉本哲哉氏に話を聞いた。


東証一部への変更は「インターネットリサーチ」定着への1ステップ

マクロミル代表取締役社長兼CEOの杉本哲哉氏
─東京証券取引所市場第一部へと変更になった4月11日。この日をどんな気持ちで迎えましたか?

杉本氏
 いや、いつもと変わりがないですよ。目が覚めた時には、市場はもう動き出そうとしていましたから(笑)。


─そんなものですか(笑)

杉本氏
 東証マザーズの時には、ゼロからスタートしての上場でしたから大変な覚悟で挑んだ。しかし、今回の東証一部への市場変更は、以前からの延長線上で準備を進めてきた結果でありますし、しかも今回の市場変更では公募も伴わないので、これで資金調達をしようというわけではない。その点では、気持ちの持ち方はまったく違いますよ。


─東証一部への市場変更の狙いはなんですか。

杉本氏
 企業価値を高めるという点では、投資家に対するメリットを高めることができるという狙いがあります。また、その一方で、当社に対するメリットも大きい。例えば、インターネット調査業務に対する信頼性、中立性、そして認知度があがるという点が大きい。もともと当社は独立系の調査会社として、また、インターネットによる調査手法を用いた企業としてスタートしたが、当初はなかなか認知があがらなかった。ところが東証マザーズに上場してから、社会的信用度が一気に高まった。また、認知度も高まり、ビジネスも順調に進めることができるようになった。とくに、首都圏以外の地域での認知度が急激に高まったことには驚きましたね。

 それと、サービスや企業の紹介が、さまざまな形で取り上げられるようになった。財務内容の説明をしただけでも紙面に取り上げられる。上場前と上場後では、露出が倍以上になりましたね。東証一部への市場変更によって、露出が倍になるとは思いませんが、これまで以上に露出を増やすことにつながると思います。

 もうひとつ重要なポイントは、「インターネットリサーチ」というものを世の中に定着させていくためのステップだという点です。この分野で上場した会社はマクロミルだけです。だが、インターネットリサーチで成長した会社が、東証一部に上場できたということで、業界全体が認知されるようになる。我々が提供しているものは無形のサービスですし、まだまだ業界全体が発展する必要がある。ネットリサーチによって、調査の新たなマーケットが築き上げることができればいいと考えています。個人情報に対する意識も高まっていますから、信用を高めるという点で効果があるのではないでしょうか。


インターネット人口の拡大とともにインターネットリサーチへの認識が変わった

─これまでのマクロミルの成長の原動力はなんだと考えていますか。

杉本氏
 我々の施策がどうだ、というよりも、前提として、社会にインターネットリサーチそのものの特性が理解されはじめたことが大きいといえます。景気の不透明感を背景に、多くの企業は、マーケットの現状を知ろうとする。しかし、いざ調査をしようと考えると、調査にかかる費用も高いし、大手の調査会社と単発で契約することにも壁がある。しかも、景気の低迷で調査予算も限られているという状況にある。だが、インターネットリサーチを利用すれば、少ない経費で調査ができ、しかも、短期間に結果を得ることができる。だから、何度も繰り返し、リサーチを行うこともできる。景気の低迷が当社にとっては、むしろプラスに働いた側面があったともいえます。

 もともと当社では、調査利用がもっとも見込める広告代理店を対象にアプローチを行ってきました。これはこれで間違ってはいなかったが、あくまでも既存のリサーチ市場のリプレースでしかなかった。しかし、インターネットリサーチは、その利便性から直接クライアントが利用するという使い方で効果を発揮する。当初は20~30社程度の広告代理店が対象であったものが、現在では一般企業が直接当社のインターネットリサーチを利用するといったケースが増加し、いまでは約1400社のクライアントがある。売上高で見ても、約65%が一般企業からの直接取引となっています。食品、清涼飲料水、自動車、IT関連企業など幅広い企業が、インターネットリサーチを活用しています。


─インターネットリサーチがこれだけ活用されるようになった理由はなんでしょうか。

杉本氏
 インターネットリサーチは、限られたユーザー、偏ったユーザー層への調査になるという認識がありました。だが、それがインターネット人口の増大とともに、その認識が変化してきた。65歳以上、あるいは中学生以下という年齢層に対するリサーチではまだ弱いところもあるが、一方で、インターネットリサーチだからこそ、狙ったターゲットを、細かく絞り込んだ的確なリサーチができるという認知が高まってきた。2000年1月にマクロミルを設立し、インターネットリサーチの事業を開始した時には、ネット人口が減ると予測した人は誰もいませんでしたし、使いにくくなる、帯域が細くなっていくと予測した人もいなかった。それならば、インターネットリサーチは成り立つだろう、と見たわけです。


─マクロミル側の仕掛けも功を奏した?

杉本氏
 当社では、「AIRs(エアーズ)」という自動ネットリサーチシステムを構築しており、これによって、クライアントの要求にあわせたアンケートが行えるようにしています。これを2003年5月に第2世代のものへと進化させた。これによって、モニター数の増加への対応や、多様なニーズにあわせたアンケートも行える体制を整えるとともに、セキュリティに関しても大幅に強化することができた。2003年のタイミングで、この仕組みを構築できたことは大きなことだったといえます。また、クライアントには、AIRsのデータ向けに、専用で用意したクロス集計ソフトを無償で提供していますので、これによって、クライアント自身でクロス集計が可能になる。2005年中には、AIRsをさらに強化する方向で、すでにその作業に入っていますし、同時にこのクロス集計ソフトも強化する予定です。


─AIRsは第3世代への進化ということですか。

杉本氏
 そうです。いまの段階では、詳細をお話しすることはできないのですが、第3世代のAIRsでは、昔ながらの調査手法に固執する人に対しても、インターネットリサーチの良さを理解してもらえるようなものとなります。また、現在のインターネットリサーチでは、全体の約8割の人たちをカバーできるといえますが、特定の尖った層に対するリサーチや、これまではあまり調査には協力的ではなかった人たちにもフォーカスできるようなものを目指しています。こうした工夫によって、クライアントの調査活用に対する敷居を下げていきたいと考えています。調査の市場規模は、日本の場合は、1500億円といわれています。この市場規模を拡大していくことが必要であり、そのために知恵を使っていきたい。


3年後には売上高100億円を目指す

─今年の重点課題はなんですか。

杉本氏
 当社は、これまでインターネットリサーチに特化してきました。特化することで、早くて、安くて、クオリティが高いサービスを提供することができた。この方針は変えません。会社の置かれた立場としては、高校生から大学生といったレベルにまで体力が育ってきたのではないかと思っています。ですから、そろそろ将来は何になるのかということを決めなくては行けない時期かもしれませんね(笑)。

 第3世代のAIRsによって、マクロミルは大きな変化を遂げることになります。より少ない人数で、高度な調査を行い、クライアントの要求にも柔軟に対応できる。そして、調査単価も引き上げることができる。ただし、その前段階として、これをしっかりと使いこなせるようにならなくてはいけない。そこに力を注ぐ時期です。

 また、グローバル調査にも本格的に乗り出したい。株式会社AIPと提携し、海外の企業が日本の市場をリサーチしたい、あるいは逆に日本の企業が、北米や欧州、アジア各国の海外市場をリサーチしたいといった要求に応えられるようになる。この仕組みを利用すれば、マーケティングの現場が年間予算を使ってブランド調査をするというだけに留まらず、経営に近い人たちが、単発でブランド調査をするといった柔軟な動き方もできるようになる。経営の意志決定に近いところでの調査がタイムリーに行うことが可能になるのです。こうした利用もアピールしていきたい。

 さらに、リクルートとの提携で開始した「Keyman's mill」では、キーマンズネットの会員を対象に、AIRsを活用して調査ができるようになった。IT関連製品の導入決定権を持った人などが対象になることから、IT業界の各社にとっては、有効なサービスだといえます。


─昨年の段階で、ネットリサーチ総合研究所を作られましたね。

杉本氏
 これは非営利組織として位置づけています。自動車メーカーや通信キャリアが次世代技術に積極的に投資して、それを最終的に民生利用へと転換させ、経営体質の強化へとつなげている。調査も同じで、先端技術を研究し、これを最終的なサービスへと生かすことが必要だと。基礎研究をしっかりとやることが、将来の成長につながると思っています。


─余談ですが、企業が市場調査を行う側として、気をつけておくべきポイントがあれば教えてください。

杉本氏
 一番注意しなくてはならないのは、自らの商品やサービスが、「良い」ということを前提にして設問を作らない、ということです。これをやっているクライアントが意外に多い。「良い」ということを裏付ける設問ばかりになって、調査によって、本来得なければならないことが得られないままということがある。これでは自分が立てた仮説のマスタベーションにしかならない。さまざまな角度からのリサーチを試みるという姿勢が必要です。実は、こういう時に、ネットリサーチは便利なんですよ。いろいろな角度から何度も調査することが容易にできますし、しかも短期間で結果を出せる、そして、なにしろ安い。市場調査の結果を、マスタベーションにしないためにも、インターネットリサーチを活用することができますと思います。


─東証一部上場で、社内の雰囲気は盛り上がっていますか。

杉本氏
 現場では、さらに仕事がやりやすくなったのではないでしょうか。ただ、会社も大きくなってきましたから、その弊害も出始めてきたと思っています。例えば、最近入ってきた社員は、先輩社員の成功事例を聞いて、その通りにやろうとしている。これでは駄目です。もっと社員全員がハングリーさを持たなくてはならない。成功体験がいつまでも通用するとは限らないですからね。競合会社も成長を遂げているし、相手が買収などによって一気に体力を拡大する可能性もある。だから、これまでは成功しているからとか、東証一部にも上場したから大丈夫ではなく、むしろ、社員は安心していてはいけないということを徹底したい。まだ、取引先は3倍以上に増加するでしょう。そのための仕組みを、第3世代のAIRsで構築します。そして、2008年度には、現在35億円の売上高(2005年6月期見通し)を、100億円にまで拡大したい。ネットリサーチ市場にはそれだけ成長する可能性がありますよ。



URL
  株式会社マクロミル
  http://www.macromill.com/


( 大河原 克行 )
2005/04/28 00:00

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