セールスフォース・ドットコムが好調な業績をあげている。米本社が発表した第1四半期(1~3月)の業績は、純利益で前年同期比約10倍という伸び。また、日本においても、受注金額で前年同期比3倍という伸張を見せている。CRM、SFAをはじめとするアプリケーションを、ASP方式で提供する同社のビジネスモデルが、いよいよ日本でも受け入れはじめたといえよう。セールスフォース・ドットコムの取り組みについて、同社・宇陀栄次社長に聞いた。
■ 「やめたい時にやめられる」ことがオンデマンドのよさ
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代表取締役社長 兼 米Salesforce.com上級副社長 宇陀栄次氏
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─業績が好調ですね。
宇陀氏
第1四半期は、受注金額で3倍の伸びとなりましたが、まだ、「ありんこ」が3倍になったようなものですから(笑)、大きさもたかがしれている。いまは、きちっとした体制を整えて、社員の高いモチベーションさえ維持できれば、成長できる段階。むしろ、これからが勝負だと思っています。
─ASP方式でアプリケーションを提供する新たなビジネスモデルが定着しはじめたと判断するのは早いですか。
宇陀氏
私は、IT(インフォメーション・テクノロジー)革命という言葉に疑問があります。Windows 95の登場は、確かにIT革命だった。だが、その後をドライブしてきたのは、まぎれもなくCT(コミュニケーション・テクノロジー)革命であり、その最たる例がインターネットです。インターネットの劇的な進化と普及が、いまのITを支えている。そして、これからは本格的にITC革命という時代に入ってくる。ただ、ここで気をつけなくてはならないのは、「T」にフォーカスするのではなく、「C」や「I」にフォーカスすることです。ここにフォーカスしない限り、マネジメントは変化しない。当社が提供するビジネスモデルは、経営者が、Tの部分に振り回されるのではなく、本来マネジメントが求めているCやIの強化という部分に力を注ぐことができる。その点では、少しずつ当社が提供するモデルの意味やメリットが理解されはじめてきたといえます。どこかに出かけるのに、自家用車を買うという手もありますが、タクシーで出かければ、手軽に済むし、ガソリン代や保険料、駐車場代などは気にしなくて済む。ITにも、これと似たような選択肢が用意された、という認識が少しずつ定着してきたのはないでしょうか。
─宇陀社長がかつて在籍した日本IBMでは、「オンデマンド」という言い方でユーティリティモデルを提案していますが、それとセールスフォース・ドットコムが提供するASPモデルとの違いはどこですか。
宇陀氏
残念ながら、IBMが提案するオンデマンドは、初期投資が膨大にかかる。また、いったん導入すると、なかなかやめられない、という問題もあるのではないでしょうか。それに対して、セールスフォース・ドットコムは、初期導入のハードルが低く、いつでもやめられる。オンデマンドは、必要なものを必要な時に使えるべきであり、これは裏を返せば、やめたい時にはやめられるものでなくてはならないのです。実は、やめられるというのは当社のビジネスにとって大きな差別化ポイントになっています。とにかくやってみよう、そして駄目だったらやめればいい、という判断ができる。トライ&エラーができるということは、導入する側にとっても、ハードルが大きく下がる。そして、導入の判断を早めることもでき、結果として経営革新の速度をあげることができるのです。
■ 「チェンジマネジメント」への貢献が情報システム部門には必要
─情報システム部門では、ASP方式の導入やアウトソーシングの導入によって、これまで蓄積した技術の流出や、今後のノウハウ蓄積が遅れることなどを懸念材料としてとらえる動きもありますが。
宇陀氏
情報システム部門にとって重要なのは技術の蓄積ではなく、いかに「チェンジマネジメント」に貢献できるかという点です。また、運用、保守に工数を取られ、本来やらなくてはならない戦略的な投資や経営改革、ビジネスの革新に力を注げない状況が続いているという点も、早急に解決しなければならない大きな問題点です。ASP方式を採用することで、こうした問題を解決できるのは明らか。さらに、情報システム部門が流出させてはいけない知恵の部分や、戦略の部分は社内に蓄積しておくことができる。これは、情報システム部門がIやCを重視するのか、それともTを重視するのか、といった根本的なテーマを取り間違わなければ、自ずと答えは出るのではないでしょうか。
─日本のユーザーは、カスタマイズをしたがる傾向にあります。その点でASP方式には柔軟性がないという指摘もありますが。
宇陀氏
いままでのERPやCRMには、その点で失敗があったと認識しています。また、その一方で、ASP方式で提供されるアプリケーションについても、柔軟性には制限があるという誤解もあるようです。当社は、春、夏、冬と年3回の機能強化を実施し、これまでに18回ものバージョンアップを行っています。そのなかで、CRMアプリケーションにカスタマイズ機能を提供するツール「Customforce」の提供など、カスタマイズにも柔軟に対応できるようなツールを用意してきました。多くのユーザーがカスタマイズをして当社のASPモデルを利用しています。さらに、最新の機能強化となるSummer05では、「Multiforce」という機能を提供して、各種のアプリケーションを連携し、オンデマンド型で利用できるようになる。私は、ASP方式は、日本のユーザーにこそ最適なプラットフォームだと考えています。また、先頃、携帯電話と連携したサービスの提供を発表しましたが、これも日本が先行している「ケータイ」というインフラを利用したモデルです。日本のユーザーにとってメリットのあるサービスを今後も提供していくつもりです。米国本社も製品開発にあたっては日本の意見をどんどん取り入れていますよ。
■ ASPモデルの優位性を理解していただく努力を継続する
─日本法人としての成功を推し量るバロメータはどこに置きますか。
宇陀氏
これまでのITビジネスとは手法が違いますから、単に売上高を追求すればいいというものではない。ASP方式の場合は、一度契約すると、毎月収入が入ってきますから、単月の売上高というのではなく、受注金額というとらえ方が大変重要です。また、解約率という指標も大切にしなくてはならない。現在、解約率は1%を切っていますから、一度利用していただいた方には満足度を提供できていると判断しています。もともとITのビジネスは、売るときにはモチベーションが高いが、売った後にはそれが下がる。しかし、ASP方式は売った後の方が大切なビジネスです。ユーザーに当社の良さが認められれば、ボタンひとつで追加オーダーをいただけることもできる。法人版のヤフーとでもいえばいいでしょうか。インターネットを活用した新たなビジネスモデルを定着させたいですね。
米国では、カスタマーサクセスフォーラムと呼ばれるイベントが行われています。ここには、セールスフォースのユーザー約2000人が、2泊3日の日程で参加し、自らがセールスフォースを導入して成功した体験などをそれぞれに公開する。期間中は、連日のように熱い議論があちこちで行われますから、どこかのユーザー会にありがちな、慰労会のような雰囲気はカケラもない(笑)。これを日本でも、ぜひやりたいと思っています。
─急成長を続けるセールスフォース・ドットコムにウイークポイントがあるとしたら。
宇陀氏
サービスモデルの確立が、まだ未熟であるという点でしょうね。サービスそのものは常に進化を続けていきますから、言い換えれば、常に発展途上にあるともいえます。ただ、その一方で、ユーザーが増加するのに従って、24時間365日、安定したサービスを提供できるインフラの整備、レスポンスを落とさずに満足度の高い環境を維持することに取り組んでいかなくてなりません。それと、依然として、このモデルがマジョリティにはなり得ていないことを変えなくてはならない。多くの事例を紹介して、このモデルの優位性を理解していただく努力を続けていきたいと考えています。
─これまでのリース、あるいは売り切り型のビジネススタイルを持っているシステムインテグレータは、ASPモデルの販売には積極的ではないということもウイークポイントに見えますが。
宇陀氏
確かに指摘されたような側面があるかもしれません。ただ、複写機ディーラーやサービス/サポートプロバイダーのようにストック型のビジネスに強い企業もありますし、ストック型ビジネスの良さを理解している企業も少なくない。当社のビジネスモデルの優位性にいち早く気がついている販社は積極的に取り扱いはじめています。いま、受注件数が急拡大していますから、当社の営業が外に出なくてもビジネスができるという状況も生まれている。私は、むしろ、この点の方が心配ですよ(笑)もっと外に出て営業をやってこい、とハッパをかけています。
─今年はどの程度の伸びを想定していますか。
宇陀氏
第1四半期は前年同期比3倍でしたが、年内には単月で前年同月比10倍をぜひやりたい。そのためには、携帯電話やブロードバンド、検索エンジンなどに関する最新技術をいかにサービスのなかに盛り込み、ユーザーに最適化したサービスを提供できるかが鍵だといえます。昨年社長に就任し、最初の1年は勉強の期間としていましたが、今年は新しいことに積極的に挑み、実行に移す年だと考えています。今年は、いろいろな手を打っていきますよ。
■ URL
株式会社セールスフォース・ドットコム
http://www.salesforce.com/jp/
( 大河原 克行 )
2005/06/17 17:03
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