今年、サイボウズは「第2の創業」を打ち出した。独自エンジンを搭載したフレームワークから、オープンソースを活用したフレームワークへと移行。それを搭載した製品の投入とともに、これまでの中堅・中小企業をターゲットとした戦略から、大手企業までをも視野に入れた戦略を加速する。さらに、「世界戦略」に向けても本格的な一歩を踏み出すことになるという。
その陣頭指揮を振るうのが、今年4月に社長に就任した青野慶久氏だ。「ITベンチャーは、10%の成長率で満足していては意味がない。今後は前年比20%増、30%増を目指す」と、意欲的な成長戦略を描く青野社長に、サイボウズの「第2の創業」における戦略を聞いた。
■ 日本のチャンピオンで満足するのではなく、世界と戦える製品開発をやりたい
|
サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久氏
|
-サイボウズの「第2の創業」とは、なにを指すのですか。
青野氏
ひとことでいえば、売上高で前年比20~30%増の成長を維持する企業への回帰です。サイボウズは、2003年1月期には、サイボウズOfficeのダウンロード販売の頭打ちなどを背景に、初の減収減益となりましたが、それ以来、成長を維持している。しかし、私のなかには、この程度の伸びでいいのかという気持ちの方が強い。成熟した企業ならまだしも、ITベンチャー企業であれば、もっと高い伸びを維持しなくてはいけない。そのための組織づくり、製品づくりに取り組むというのが、第2の創業が意味するところです。
-2005年1月期の実績で29億2300万円。30億円というのは、パッケージソフトメーカーにとっては、ひとつの壁だといえますが。
青野氏
ここを飛び越えることができるかどうかは大きな挑戦だと思っています。実は、創業のときに「情報サービスをとおして世界の豊かな社会生活の実現に貢献します」というスローガンを掲げたのですが、このなかで「世界」という言葉を使っちゃったんですよ(笑)。いまは、世界に出ていませんから、この創業時の目標を達成したわけではない。日本発で、世界標準となるソフトウェアを出していきたい。
30億円という壁が仮にあったとしても、この壁は通過点に過ぎませんし、これからは世界で戦える製品も開発したいと考えています。サイボウズが日本で戦ってきた製品は、Lotusであり、Exchangeであり、いずれも世界で通用する製品ばかりです。局地戦では決して負けなかった。これを世界の舞台でもやっていきたい。
-世界をターゲットとした製品開発はすでに開始しているのですか。
青野氏
いま準備をしているところで、近々、その詳細をお話しできると思います。いま、話せるのは、創業メンバーであり、開発のリーダーである畑(=同社・畑慎也最高技術責任者)を、世界に通用する製品開発に専念させること、それに向けた新たな組織を作るということです。
-どんな分野の製品になるのですか。
青野氏
情報共有の製品です。ここから軸足は移しません。日本は、情報共有するという文化が定着している。ここにこそ、日本のノウハウや技術的な強みが発揮できると考えています。これまでのグループウェアというジャンルだけに留まらずに、ブログとの連携など、情報共有をもう少し幅広く捉えた製品になるでしょう。また、世界戦略で取り組む製品は、オープンソースになる可能性もあります。最終的な製品のコンセプトは畑に任せていますが、半年後には、なんらかの成果を出してくれると信じています。
一方で、私は、いまの日本のソフトウェア技術者は孤立しているのではないかと感じています。やりたいことができない優秀な技術者が多く、その優れた技術が生かされていない。そうした技術者にサイボウズで活躍してほしい、とも考えています。日本のチャンピオンで満足するのではなく、世界と戦える製品開発をやりたい。
■ 1から作り直したサイボウズガルーン2
-一方で、日本でも新たな取り組みを開始していますね。ここにも、第2の創業の意欲を感じますが。
青野氏
6月30日に、サイボウズガルーン2を出荷しました。この製品は、2002年9月に、大手企業をターゲットとして投入したガルーンの後継製品となりますが、いわば、これまでの成功と失敗の経験を生かした製品といえます。初代の製品は、2年半で700社27万人に導入されましたが、ガルーン2は1年で500社を目指す。売上高構成比は現在21.7%ですが、中小企業向けグループウェアのサイボウズOfficeと同等ぐらいの売上規模にまで引き上げたいと考えています。
-どんな点で失敗の経験が生きているのですか。
青野氏
初代ガルーンを発売した当時、私が営業担当をしていたのですが、売り始め数カ月で、この製品には限界があることに気がついた。大手企業を相手にした場合、中小企業向けの製品の延長線上では通用しないことがわかったのです。
例えば、大手企業の場合は、どうしてもカスタマイズの要求が多い。これに対応するのに独自のフレームワークを採用していては受け入れられない。また、データベースも独自のものでは、拡張性にも限界が生じる。加えて、数百台、数千台という規模における管理をどうするかということも、もう一度見直す必要があった。
2003年3月には、社内にガルーン2のプロジェクトを発足し、3人で次期製品の開発をスタートした。この時に前提としたのが、新たな製品を2年以内で作ってくれ、そして、これまでの独自フレームワークを捨ててくれ、ということでした。もちろん、一部の開発者からは、これまでの資産を捨てることに反発する声もありました。しかし、これまでリーダーとして独自フレームワークを開発してきた畑自身が、このフレームワークに限界を感じていた。そこで、何度も検討を重ねた結果、データベースをMySQLとし、スクリプトもPHPとした。こうすると大手企業も社内の技術者がカスタマイズできるようになり、システムインテグレータも、同様にカスタマイズをしたり、アプリケーションを開発したりといった仕掛けができるようになる。スケーラビリティも変わってくる。これまでとはユーザー、パートナーの反応が違うのです。
また、今回の製品では管理面についても徹底的に強化した。これまでのサイボウズは、利用者には優しかったが、管理者には決して優しい製品ではなかった。これを大幅に見直したのです。
-販売体制にも変更はありますか。
青野氏
これまでは10社のパートナーを通じて販売してきましたが、販売パートナー制度を見直して、プラチナ、ゴールド、シルバーの3段階の契約内容とします。プラチナ、ゴールドの販社に対しては、年間の販売数量や支援内容、専任者の配置などをコミットして、これまで以上に強固なパートナーシップを結びます。
-新製品には、これだけ大幅な変更を加えたわけですし、むしろ1から作り上げたともいえる製品です。そこに「ガルーン2」という名称は、似合わないのでは。
青野氏
フレームワークは完全に1から作り上げましたから、初代ガルーンの後継という言い方は、確かに似合わないですね。しかし、情報共有ツールというユーザーの利用局面でとらえれば変化はない。そう考えて、あえてガルーン2としました。ガルーン2のフレームワークに使われている「CyDE2(サイド2)」は、将来的には、サイボウズOfficeにも採用する予定です。
-これまでは、「グループウェアのサイボウズ」という言い方をされてきましたが、第2の創業を迎えたサイボウズが目指すのはどんなイメージですか。
青野氏
情報共有カンパニーのサイボウズですね。
-グループウェアにはこだらないと。
青野氏
いや、グループウェアについては引き続きやっていきます。しかし、これまで当社がやってきたのは社内における情報共有だった。これを社外でも情報共有の枠を広げていきたい。しかも、それをビジネスパーソナルと呼ばれる領域にも落とし込んでいきたいと考えています。
当社では、ビジネスユーザー向けポータルサイトである「サイボウズNET」を提供し、1日18万人のユーザーが訪れています。まだこれは試験段階なので、18万という数字にはこだわっていません。これを8月には大幅にリニューアルします。現在のような情報をリンクして提供するようなものから、ビジネスパーソナルの立場で情報発信ができる場を提供したい。ここからが勝負です。100万人のユニークユーザーの利用がひとつの目安です。いろいろな発信の形態は考えられますが、ブログはそのひとつだといえます。
■ 毎日ブログでメッセージを発信、「有効な営業ツールになる」
-企業内で、個人が業務時間内にブログをやっているといろいろな問題が起こりそうな気がしますが。
青野氏
電子メールも最初はそうでした。会社で電子メールをやっていると、どうしても遊んでいるように見えた。しかし、いまはどうでしょうか。電子メールがなくては仕事ができないですし、それを遊んでいるというように見ている人はもういない。
ブログも同じようになります。ITベンチャーの多くの経営者が自分のブログを持っていますが、それが重要な情報発信ツールになっている。企業の姿勢や、経営者の考え方がわかり、その企業に愛着を持ったり、経営者のファンになったりといったことも起こっている。これが管理職や一般の社員にまで広がってくると思います。営業部長が魂のこもったブログを発信し続けていれば、それは有効な営業ツールになる。一般社員も心を込めてブログを書き続ければ、取引先からその個人が認知される。もっと個人が表に出る環境を作るのが、サイボウズの新たな挑戦のひとつだと思っています。私も今年3月から毎日欠かさず、午前9時30分に私の社長ブログにメッセージをアップしていますが、その効果を感じていますよ。
-いま、社内にはどんなメッセージを投げているのですか。
青野氏
一致団結という言葉を今年のテーマにしています。これまでは商品ごとに縦割りの組織で、その弊害が出てきていた。例えば、製品の試用期間ひとつとっても、ある製品は60日なのに、ある製品は45日間。なぜ、これが統一できないのか。ユーザーにしてみれば、混乱するだけです。価格体系、ユーザーインターフェイスなども統一感がなかった。今年に入ってから、これを崩して、複数の製品を横断的に見る体制を作った。この体制で、もう一度、一致団結してやろうというわけです。下期は、まずガルーン2を売りまくる。中堅、大手企業の領域で、サイボウズの存在感を出したい。また、サイボウズNETのリニューアルによる新たな提案も大きな鍵です。
-M&Aは考えていますか。
青野氏
欠けているところを補完するという観点から、M&Aも必要だと考えています。サイトの運用ノウハウや、顧客のニーズを反映してカスタマイズをするといった部分が必要になるでしょうから、このあたりがひとつのポイントになります。
-社長として3カ月が経過しましたが、経営トップとしての仕事は楽しいですか。
青野氏
私は、子供の頃には、Z80を使って、アセンブラでプログラムを書くという根っからのパソコンマニアでした。ですから、将来はスーパーエンジニアになることを夢に見ていました。でも、大学時代に畑に出会って、「こいつにはかなわない」と思った。子供の頃からの長年の夢がこの時に吹っ飛んでしまった(笑)。それ以来、私はエンジニアではなく、営業、マーケティングの道を選んだ。エンジニアの夢は、自分が作ったものを多くの人に使ってもらいたいということなんです。これをサポートしたい。それは社長になっても同じです。次の成長に向けての戦略を描いて、エンジニアをバックアップする。多くの人にエンジニアの開発した製品を使ってもらいたい。そして、サイボウズに期待するお客様もたくさんいますから、これらの期待に応えたいと思っています。こうした仕事ができることは本当に楽しいですよ。
■ URL
サイボウズ株式会社
http://cybozu.co.jp/
青野氏のブログ「3日ボウズ日記」
http://blog.cybozu.net/aono/
( 大河原 克行 )
2005/07/08 15:55
|