マイクロソフト株式会社の新社長にダレン・ヒューストン氏が就任して、約1カ月を経過した。就任から30日以内に、日本法人の新たな事業方針として、今後3カ年にわたる「PLAN-J」を策定。それに向けた事業計画を推進する体制づくりに余念がない。また、今年から来年にかけて、主要プロダクトの投入が相次ぐだけに、それを見据えた成長戦略も大きな鍵となる。ヒューストン社長に、マイクロソフト日本法人の抱負を聞いた。
■ PLAN-Jは実現可能な目標
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マイクロソフト株式会社 代表執行役社長兼米Microsoft コーポレートバイスプレジデント ダレン・ヒューストン氏
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─就任から30日以内に、3カ年計画のPLAN-Jを発表しましたが、新方針を短期間にここまでまとめたのには驚きました。
ヒューストン氏
前任のマイケル・ローディングが取り組んできた計画をそのまま継続的に実行するという部分もありましたし、就任以前から約3カ月間にわたって日本市場の状況について学習し、準備してきたことも理由のひとつです。この間、大手ビジネスパートナー、政府関係者、教育機関の関係者、大手企業ユーザーなど100人を超える人たちとミーティングを行いました。そして、就任後には、仙台で日本法人のシニアリーダーシップのメンバーと徹底したミーティングを行い、3年後にマイクロソフトの日本法人がどうなっているべきかといったビジョンを設定し、これを達成するためにはどうすべきかという議論も行った。そこで完成したのがPLAN-Jです。高い目標だという人もいますが、私は実現可能な目標だと思っています。
─PLAN-Jでは、人材投資をはじめとした日本への投資拡大、技術革新の促進、政府や教育機関および産業界とのより深いパートナーシップの確立という3つの方針を掲げ、さらに5つのゴールのイメージを示しましたが、具体的な数字には言及しませんでしたね。
ヒューストン氏
確かに対外的には数字は示していませんが、6月に行った社員総会では、ビジョンを定量化し、具体的な数字にも言及しています。IT産業は、これまでの成長に比べて、さらに高い成長を遂げると予想されていますし、今年から来年にかけては当社から新たなプロダクトが続々と登場することになる。いままでの成長の延長線上の伸びでは留まらないでしょうね。それにあわせて現在2000人の社員をさらに増加させていくことになります。私自身の役割は、PLAN-J達成のためのコミュニケータであり、実際にこれを実行していくのは社員です。みなさんもご存じのように、当社の会長であるビル・ゲイツは日本が大好きですし、日本の状況をよく知っている。このPLAN-Jの達成にも強い関心を寄せています。プレッシャーがかかりますよ(笑)。
─PLAN-Jの初年度のキーワードはなんですか。
ヒューストン氏
Initiateです。Initiateには開始するという意味がありますが、スタートという言葉のようにゼロから始まるという意味ではありません。これまでの蓄積の上で、新たなプランに着手するという意味です。
─着任してから、日本法人の印象は変わりましたか。
ヒューストン氏
ワールドワイドのチームで仕事をしていたときに、日本法人の社員の働きぶりの良さは知っていました。実際に日本法人を率いてみても、世界中で最も勤勉だといえる国のひとつですし、エグゼクティブから末端の社員まで、チームが協力的な関係を築いてビジネスを行っていることを感じました。その点では、いい意味で驚いています。
─課題はありませんか?
ヒューストン氏
プロセスや仕組みを改善しなくてはならないところがありますね。日本法人の社員が何かをやりたいといった時に、マネージャーに話があがって、それがレドモンド(米Microsoft本社があるシアトルの都市名。Microsoftでは本社を指す意味に使う)にあがって、そこから別のマネージャーに話がわたり、そこで議論して、その結果が日本に帰ってくる。これでは、時間もかかるし、本来伝えたいことのすべてが確実に伝わっているとは限らない。この部分は解決していかなくてはならないですね。
一方、日本はITの利用率という点では世界規模でとらえても先進的ですが、カスタマイゼーションが多くオープンスタンダードのメリットに対する認識が浸透しきれていない。サーバーもそうですし、携帯電話もそうです。これには正直驚きました。ただ、これは見方を変えれば、大きなビジネスチャンスがあるということにもつながります。
─携帯電話を例にあげれば、欧米ではスマートフォンの領域で高い実績を持っていますね。しかし、日本では実績がありません。
ヒューストン氏
日本は品質の高いネットワーク環境と、優れた高性能な端末がある。しかし、日本は、キャリアがサービスを提供するだけでなく、端末機までも取り扱うので、他の国とは状況が違います。さらに、日本標準が国際標準にはなっていない。日本は、米国本社のエグゼクティブが普段使っている携帯電話を持参しても、その電話が使えない数少ない国のひとつです。私も米国で使っていたスマートフォンには、電話番号やインターネットアドレスといった連絡先だけでなく、つきあいがある個人の情報や、自分のスケジュール、これからやるべきことのリストなどが記されている。これを日本で使えないのは残念です。スマートフォンではどんな使い方ができるのか、それが、日本の利用者にもどんなメリットがあるのか、今後、1~2年をかけて、できる限りプッシュしていきたいと思っています。これから2年後には、日本にもスマートフォンの世界が確立したといえるようにしたいと考えています。
■ Office、Server、Windowsの3大ビジネスすべてが新しくなる
─2005年から2006年にかけては数多くの製品が登場しますね。
ヒューストン氏
Windows VistaやSQL Server 2005、Visual Studio 2005などのほか、Office 12、Xbox、さらにMSNでの新たな検索サービスなども開始されます。非常にエキサイティングなタイミングに入ってきます。CEOのスティーブ・バルマーは、Office、Server、WindowsがMicrosoftにとって大きな3つのビジネスだといいますが、それらのすべての製品が新しくなります。次世代バージョンの開発に莫大な投資をしてきた成果を、いよいよ、みなさんにお見せできることは最大の喜びです。
Windows Vistaは、これまでのWindowsのリリースのなかで最もセキュアで、安全なものとして提供できる製品です。また、PCそのものの大きな進化にあわせ、成長を遂げたOSだということもできます。PCは、HDDの大容量化、プロセッシング能力の向上、さらにはコストの低下によって、さまざまなシーンで活用できるようになった。例えば、音楽CDやDVDで提供されるコンテンツもどんどんHDDのなかに収録し、自分で撮影したデジカメの画像もそのなかに入れる。デジカメの画像だけで数千枚のデータが蓄積されているというように、数々のデータが大量に蓄積されている。Vistaでは、こうした蓄積された大量のデータのなかから必要な情報を的確に見つけることができる。さらにこれらのデータを活用して新たな楽しい使い方が提案できる。
インターフェイスも、たくさんのウィンドウを開いても、後ろにあるウィンドウを透過する形で見ることができる。いくつものアプリケーションや大量のコンテンツを取り扱うには最適な環境ができるのです。これまでのPCはプロセッシングの強化をもとにしたアプリケーションの利用やインターネット端末としての利用が中心でしたが、これからはPCをライブラリとして利用することができる。ホームライフスタイルを変えることができるOSになると信じています。きっと、我々の生活にとって、革命的な変化を及ぼすOSになりますよ。
■ SQL Serverが与えるインパクトは極めて大きい
─エンタープライズ分野における変化はどうでしょうか。
ヒューストン氏
それに関しては、やはりSQL Server 2005の投入が一番のポイントです。いまや、SQL Serverは、ユニットベースでは、DB2やOracleをあわせた数よりも多くの導入実績がある。ユーザー企業がデータベースとしてSQL Serverを選択することが多くなっている。しかし、2000年以降、SQL Serverでは、新しいバージョンを投入してこなかった。新たなバージョンでは、その間、蓄積したさまざまなノウハウや新たな技術を搭載し、ユーザー企業が求めている機能を的確に提供できるようになる。新たなユーザーインターフェイスを採用しながら、セキュアであり、そしてスケーラビリティへの対応、インターオペラビリティの強化など、新たな価値を提供できる。高いレベルへと進化したデータベースであり、日本の企業ユーザーに与える価値、社会に与えるインパクトは極めて大きいといえます。
一方、Visual Studio 2005は、オープンスタンダードでの開発を促進するツールとして大変有効なものになります。日本では、Windows環境の上で、あるいは.NET Framework上でもっとシステムを作りこみたいというユーザーが多い。これらのユーザーに対して提供する最適なツールということになります。
─話は変わりますが、日本の夏はどうですか? 暑すぎて帰りたくなっていませんか(笑)
ヒューストン氏
シアトルやバンクーバーは、夏は大変過ごしやすいところですからね(笑)。ただ、日本は、夏は暑くても、秋と春が非常にいい季節ですから、それを楽しみにしています。かつて、アトランタにいたこともありますし、その時に夏の厳しい暑さは経験していますから大丈夫です。それに、いまは、帰りたいなんて少しも思わないですよ(笑)。日本では、これから大変エキサイティングなことが起こる。しかも、それに対して、マイクロソフトはアグレッシブに取り組んでいくことになる。それが楽しみですからね。
─自らを楽観的な性格だと表現されましたが、その性格は日本法人の舵取りにどんな影響を及ぼしますか。
ヒューストン氏
マイクロソフトが常に高い成長を遂げている要因のひとつは、自らをきちっと評価、批評できる目を持っていることにあります。悪いところは、きちっと直し、しかも、短期間でそれを成果に結びつける。これを完璧なまでにこなします。しかし、あまりにも完璧すぎるのもどうかな、と思うときもありますよ(笑)。その時には、一歩下がって、物事を判断することも必要です。完璧主義ばかりではなく、楽観主義をうまく融合させることが必要だと。むしろ、そうした物の見方をした方が、困難を乗り越えられることもある。そこに私の性格が生きると思いますよ。
いま、マイクロソフトやIT産業は大きなターニングポイントを迎えている。新たな製品によって、新たなウェーブが起ころうとしている。日本法人の社員、そして、全世界のMicrosoftとの協力体制によって、このウェーブに一丸となって挑んでいきたいと考えています。
■ URL
マイクロソフト株式会社
http://www.microsoft.com/japan/
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( 大河原 克行 )
2005/08/05 00:00
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