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シトリックス大古社長、「MetaFrameから情報インフラの総合ベンダーへ」


 全世界16万社、日本で1万1000社を超える導入実績を持つCitrix Presentation Server(旧MetaFrame)。同製品を主軸に事業を拡大しているのがシトリックス・システムズ・ジャパン株式会社である。ここ数年のシステム統合の動きや情報保護の観点から、改めて同社製品に注目が集まってきたのが、その成長を支えている。成長戦略を描くシトリックス・システムズ・ジャパンの大古俊輔社長に、事業戦略を聞いた。


売上20%増の目標は確実にクリア

代表取締役社長 大古俊輔氏
─Citrix Presentation Server事業が好調な伸びを見せていますね。

大古氏
 私が就任した時点では、国内のユーザーが約9000社だったものが、現在では1万1000社にまで増加していますから、四半期ごとに1000社ずつ増加している計算です。UFJ銀行をはじめとする金融機関、和歌山県庁や鳥取県庁といった官公庁、シャープのような大手民間企業にも続々と採用されていますし、その一方で、中堅、中小企業での導入も促進されている。これまでは、営業やマーケティングの目が、どうしても大手企業に行きがちだったものが、ここにきて、中堅、中小企業にもきちっと目を配った手立てが打てるようになった。これが、当社の成長をしっかりと支えているといえます。力があるパートナー企業との連携も、大きな戦力となっています。現在、パートナー企業は220社に増え、幅広いソリューション提案が可能となっています。


─ユーザー企業の状況、あるいはシトリックス自身に、なにか変化があったのですか。

大古氏
 先ごろ、ある調査会社が、「ユーザー企業は、エンタープライズシステムのどこに関心があるのか」という調査結果を発表しました。これによると、最も関心が高いのがセキュリティ、2番目がTCO削減、3番目がシステム管理の強化でした。シトリックスが提供するソリューションは、このすべてにマッチしたものだといえます。この点でも、ユーザー企業がシトリックスに対して高い関心を寄せているといえます。とくに、この第3四半期(7~9月)は大型の商談が出てきていますし、5000台以上のクライアントを対象にした大規模商談もありました。年初に掲げた前年比20%増という目標は確実に達成できると考えています。


─日本では、今年4月からの個人情報保護法の完全施行に伴って、その解決の手段としてシンクライアントを導入しようという動きも出ています。これもシトリックスのソリューションに注目が集まる要因のひとつになっているのではないですか。

大古氏
 シンクライアントに対する関心が高まっているのは強く感じます。そして、90年代にはやったシンクライアントが、ハードウェアコストの削減だけに焦点が集まっていたのに対して、最近のシンクライアントでは、それだけに留まらず、管理、運用、継続性といった点に注目が集まっているのが特徴で、その点でも当社のソリューションが、従来以上に注目を集めています。

 例えば、当社のソリューションを導入した富士市役所の場合、130カ所の分散した拠点に対しての運用、保守が大変な問題になっていた。なにかトラブルがあるたびに、直接出向いてサポートしなくてはならなかったからです。だが、これをシンクライアントと当社のソリューションとの組み合わせによって、3人ですべてをカバーする体制が構築できた。これまで支援にとられていた人材も、住民サービスの強化の方に回すことができるようになった。こうした成果があちこちで見られるようになってきた。

 Citrix Presentation Serverによって、管理性と、性能性を高めた環境が実現できるようになり、さらにTCOの削減も実現できる。クライアントPCを入れ替えなくても、最新の機能をクライアントで実現できる。最低限の投資で、ビジネススピードを加速することもできる。こうした事例が相次いでいます。もちろん、情報保護という観点からの案件も増加しています。


─Citrix Presentation Serverへとブランドを変更したものの、ユーザーの間では、依然として「MetaFrame」という言葉がよく使われていますね。新ブランド戦略がうまくいっていないのでは。

大古氏
 私自身もMetaFrameという言葉を、たまに使っちゃいますからね(笑)。いや、お客様がそう言っていただくのならば、それでもいいかと。慌てて、新ブランドを浸透させなくてもいいと思ってますし、そんなに目くじらをたてて、「MetaFrameではなく、Citrix Presentation Serverです」というつもりもありません。徐々に、ブランドが浸透していけばいいと思います。MetaFrameは、すでに定着していた言葉ですから、なかなか変わらないと思っていますよ。MetaFrame以前にはWinFrameという名称もあって、その時も同じようなことを言われましたからね(笑)。

 ただ、私どもの考え方としては、先頃買収したNetScalerなどの例にもありますように、事業の幅が広がっている。アクセスプラットフォーム、ゲートウェイ、オンラインサービスというように、情報インフラの総合ベンダーへと脱皮している。シトリックス自身が、MetaFrameという製品名では留まらないものを提供する形になってきたといえます。10月に米国で開催したCitrix iForum Global 2005では、プロジェクトTarponが発表され、クライアント/サ-バー、アプリケーションの仮想化・Webアプリケーションの最適化、デスクトップアプリケーションのストリーミングを可能にする当社ならではの特徴を生かした差異化戦略が打ち出されました。これもMetaFrameという製品カテゴリーだけではとらえきれないものだといえます。

 11月29日には、iForum 2005を日本でも開催しますので、そこでもさまざまな当社の最新のソリューションをお見せすることができると思います。ぜひ、楽しみにしていてください。


人・パフォーマンス・倫理観の3つの観点でビジネスを行う

─今年1月に社長に就任して以来、どんなことを社内に徹底していますか。

大古氏
 大きく3つのポイントがあります。ひとつは、「人」を重視する会社にしたいということです。我々の会社は、ソフトという目に見えないものを販売している。この目に見えないものを販売するという観点では、まず、当社の社員が、顧客からの信頼を得ないと話が始まらない。「社員ひとりひとりの力が、会社全体の力になるんだ」ということを示し、向上心を持って、スキルを高めることをお願いしました。

 2つめは、パフォーマンスの追求です。自分のコミットしたことに対してしっかりとやるということです。営業についていえば販売の数字ですし、サービスについてはサービス品質の維持ということになる。高いパフォーマンスによって、シトリックスの製品を販売し、サポートしてほしい。それを、しっかりとした目標を立てて、その達成に向けて事業を推進してほしい。ただ、これも、顧客に信頼性されるという前提があり、その上で実現しなくてはなりません。この順序にも意味があるのです。

 そして、3つめは、倫理観を持ったビジネスをしてほしいという点です。物事にはどうしても勝ち負けがある。ただ、負ける場合にも、きれいな負け方をしようと言っています。


─きれいな負け方とは。

大古氏
 そんなにしてまで商売をとりたいのか、ということを競合やユーザーに思わせるようなやり方はどうかと思います。例えば、最終的には商談を逃したが、それでも、ユーザーからは信頼を得るようなやり方をできたかどうかを重視したい。それができていれば、次につながります。また、外資系の場合、それまで対抗していたベンダーだったものが、親会社の買収戦略などによって、一緒にビジネスをやる立場に転じる場合もある。こうした時に、あの企業の社員と一緒にやるのは嫌だ、と思われてはM&A戦略の意味が薄くなる。きれいな勝ち方、きれいな負け方というのを徹底したい。


─3つの観点からの成果は出ていますか。

大古氏
 いや、まだ70点ぐらいですね。掲げた目標に対しては成果が出ていますし、倫理観を持ったビジネスという観点からもマッチしたものができている。ただ、マイナス点は、個々の力を総合力に高めることができていない。これは私の責任でもあるのですが、この力をひとつにまとめ上げることがこれからの課題です。


日本に根ざしたシトリックスに

─世界戦略でとらえた上でのシトリックス・システムズ・ジャパンの位置づけはどうなっていますか。

大古氏
 一般的に、ソフトメーカーの日本法人というと、マーケティングおよび営業拠点という位置づけが多いようですが、当社は、それとは異なります。例えば、テクニカルサポートという点では、日本法人独自で、専門的な技術的対応が可能なレベル2というスキルを持ったサポート対応が可能ですし、Citrix Presentation Serverの日本語化だけでなく、フランス語、ドイツ語、スペイン語対応も日本法人が担当しています。日本法人には102人の社員がいますが、社内には9カ国の人が働き、まさにいろんな言葉が飛び交っていますよ(笑)。営業、技術、サポート、カスタマイズというあらゆる機能を持った会社です。いつかは社名を日本にあわせたものにしたいと思ってみたりもするんですよ。


─えっ、社名変更ですか。

大古氏
 いや、具体的なプランというものではなく、あくまでも私見として聞いてくださいね(笑)。私たちは、日本で、日本のパートナー、日本のお客様を対象にビジネスをやっている。そこに向けての、日本のシトリックスとしてベクトルをひとつにする必要があると思いますし、そこに私の役割がある。売り上げだけでなく、チームデベロップメント、キャリアパスなどのマネジメントも、日本法人の社長には求められている。いまは、それぞれの部門が米国本社にレポートラインを持って仕事をしているが、日本の市場ということを見た場合には、やはり日本のシトリックスとして動かなくてはならない。しかし、そこはまだできていないと感じているんです。

 実は、私が社長に就任してから、ラインからプロフェッショナルまでを含めた全社的なキャリアマップを作り、役職の位置づけを統一化しました。日本にはこれまでなかったものなんですが、これによって、縦割りのキャリアパスだけでなく、横の組織を意識したキャリアパスが組めるようになった。マーケティングの社員、営業の社員、エンジニアリングの社員というように、縦割りの別々のキャリアしか考えられなかったものが、日本のシトリックスの社員として、いろいろなキャリアを経験してやってもらうことができるようになる。

 個人的意見ですが、カタカナの会社は日本にはなじまないと思うんですよ。やはり日本に根ざす、日本におけるシトリックスという意味を込めたいんですよ。繰り返しですが、具体的な話ではないですからね(笑)。ただ、いつかはやりたいと密かに思っているんですよ(笑)。

 それと、アジアパシフィックや米国本社に対して、日本法人から社員を出したい。これはなんとか在任中にやりたいですね。また、私の後継者も、ぜひ社内から出したいと思っているんですよ。世界で通用する人材の育成は、日本法人社長としての大きな夢ですね。



URL
  シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社
  http://www.citrix.co.jp/


( 大河原 克行 )
2005/11/02 09:00

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