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EMCジャパン・エドワード社長、「眠っていたEMCジャパンがいよいよ始動しはじめた」


 ストレージ専業メーカーであるEMCの業績が好調だ。先ごろ発表した2005年第3四半期の決算でも、純利益では前年同期比2倍の成長を遂げるなど、9四半期連続でのプラス成長を達成している。なぜEMCは、これだけ好調な業績を維持できるのだろうか。そして、今年1月に就任したナイハイゼル・エドワード社長による経営体制で、EMCジャパンはどう変化したのだろうか。


代表取締役社長のナイハイゼル・エドワード氏
―EMCの業績が好調ですね。

エドワード氏
 ワールドワイドの業績は、順調な伸びを見せています。これにはいくつかの理由がありますが、最大の要素は、EMCの位置づけがストレージを提供するハードベンダーには留まらなくなってきた、という点ではないでしょうか。この4年ほどの間に、EMCは大きな変化を遂げています。もともとはハイエンドストレージの専業メーカーであったものが、ミッドレンジストレージや、NASやCASの分野にまで範囲を広げ、それに関連するソフトウェア製品群の品揃えが可能になった。また、コンテンツマネジメントやバーチャライゼーション、ネットワークマネジメントの分野にまで幅を広げてきた。こうした動きを見ても、ストレージのハードウェアベンダーという範囲ではとらえきれなくなっているのが明らかです。


―確かに、ここ数年は相次ぐ買収戦略が目立ちましたね。

エドワード氏
 バックアップ/リカバリツールのLegato Systems、コンテンツ管理のDocumentum、仮想化技術のVMware、レポート管理技術を持つAcartusといった企業を相次いで買収してきましたし、最近でも8月にはNAS環境の仮想化技術を持つレインフィニティRainfinityを、10月には入力管理ソリューションのCaptivaをそれぞれ買収するなど、まだまだ買収戦略は加速しています。ただし、いまの時点で、当社が提案するILM(情報ライフサイクル管理)を実現するひと通りの製品が揃ったというようには考えています。

 いまEMCでは、ILMを実現するために、6Cの観点から具体的なソリューションを提示しています。それは、「Consolidation(統合)」「Continuity(継続)」「Compliance(コンプライアンス、法令遵守)」「Content Management(コンテンツ管理)」「Comprehensive BURA(包括的なバックアップ、リカバリ、アーカイブ)」「Classification&Policy Service(データのクラス分けとポリシーサービス)」です。これらはハードウェアだけでは実現できないものばかりで、ハード、ソフト、サービスのすべてが揃うことで初めて実現できるものです。企業が求める情報ライフサイクルの世界をトータルソリューションとして提案するEMCは、この数年でストレージハードウェアベンダーの領域を超えた体制を確立したといえます。


―とはいえ、当然この先にはテクノロジーコンサルティング、ビジネスコンサルティングの領域もあるかと。

エドワード氏
 その分野に対してEMCがどう手を打っていくかについては、今後の検討課題でしょうね。パートナーシップでいくのか、それとも買収戦略、あるいは資本提携戦略でいくのか、方法はいろいろあると思います。むしろ、日本においては、これまでの買収成果をきちっと、業績につなげていくことが先決でしょう。ワールドワイドのビジネスに比べて、日本はソフトウェアの販売比率が低いですから、買収した企業のソフトウェアのローカライズを積極的に進めてソフトウェアの比率を高めていく必要もある。まだまだEMCジャパンでは、やることがたくさんあります。私はむしろEMCジャパンは、この数年の間、眠っていたと思っているんですよ。


―それはどんな点から感じますか。

エドワード氏
 例えば2001年のITバブル崩壊後、EMCの業績は全世界的に悪化した。だが、その1年後からは、米国をはじめ全世界でEMCは成長戦略に転換した。それをドライブしたのは、先にも触れたようにEMCがハードベンダーから脱皮し、ILMというユーザーが求めるソリューションを提案することが可能な、情報のライフサイクル全体にわたる総合ベンダーへと変化したからです。しかし、残念ながら日本だけが成長が鈍かった。いや、日本だけがマーケットシェアを引き下げていたのです。世界のなかで、EMCジャパンだけが3年前の写真の姿のままに留まっていたともいえます。


―それは、日本のユーザーに対して、ILMの考え方が浸透しにくかったことの裏返しとはいえませんか。

エドワード氏
 日本の市場の特殊性は十分理解しています。SIerの立場ひとつをとっても米国とは異なり、大手コンピュータメーカーの系列化が浸透していますし、とくにストレージで実績を持つベンダーの系列SIerこそが力を持っているというケースが目立つ。いわば、EMCはビジターとしての戦いを余儀なくされている市場であります。しかし、ILMの考え方は、日本のユーザーにとって、決して特別なものではありませんし、むしろ、ブロードバンド環境が浸透し数多くの情報を取り扱う日本のユーザーにこそ有効なものだといえます。問題は、これを提唱しても、それを提供できる新たな戦略や体制が、EMCジャパンにはアプライドされてこなかったことにあります。だから、私はEMCジャパンは眠っていたという表現を使っているのです。就任以降、私は社内に対して「Coming to life!」という言葉を使っているんです。


―眠ってしまった結果、どんなことが起こっていると。そして、その対策にはどんな手を打ちますか。

エドワード氏
 例えば、シェアの話をしましょう。EMCは全世界で20%台中盤のシェアがあります。米国はもとより、欧州でもナンバーワン、アジアでは7カ国において、ナンバーワンのシェアを持っている。韓国では実に40%を超えるシェアを獲得しています。しかし、日本でのシェアは約10%。そして、EMCの前には国産メーカーが走っている。ミッドレンジでは、さらに苦戦をしています。だが、その状況を前向きにとらえれば、EMCジャパンの売上高は2倍以上にできる可能性があるともいえます。

 では、そのためにはどうするか。先にも触れたように、欧米ですでに投入しているソフトウェア製品を日本市場向けにも積極的に投入していく必要があります。日本でも、ユーザー企業の関心は、アーカイブやバックアップから、リカバリ、コンティニュティへと移行している。そうしたソリューションを、信頼性の高いハードウェアとソフトウェアの組み合わせで提供したい。この分野の提案ができるのはEMCの強みでもあります。

 そして、2つめには技術者をもっと増やしたい。国産ベンダーとの差は、技術者の差であるとも感じています。来年末までには、技術者を中心に現在の陣容を20%程度増やしたい。それだけでなく、ここ数年、契約社員を増やす傾向が強かったものを一新し、現在の契約社員を正社員として採用することも積極化していきたい。やはり、EMCジャパンを支えてくれるのは人なんです。ですから、社員にはどんどん投資をしていきたい。社員のトレーニングもこれまで以上に積極化します。ユーザー企業から、「技術力という観点で見て、国産ベンダーに比べて遜色(そんしょく)がない」といわれる体制を早急に確立しなくてはならない。

 また、パートナー戦略も今後の課題です。今年春からパートナービジネスに経験がある人材を採用して、専門組織としてスタートしました。エンタープライズ分野における実績はあがってきていますが、これからコーポレート分野、つまりミッドレンジ分野をどう強化していくかが鍵になります。


―この1年で、EMCジャパンはどう変化してきたと自己評価していますか。

エドワード氏
 ひとことでいえば、EMCジャパンに自信が戻ってきた。我慢の時期は終わった、という認識です。ビジネスプロセスが大きく変わり、社内のコミュニケーションが積極化し、チームワークを発揮したビジネスができるようになった。さらに、新たな製品群が続々と日本市場に投入される。EMCらしいビジネスができる基盤が整ってきたのです。ただ、私は100mダッシュをするようなビジネスをするつもりはありません。マラソンのように、長距離で勝てるビジネスを前提とし、そこでリーダーシップをとる。ただ、早いタイミングでワールドワイド並のシェアにまで引き上げる必要があるとは考えていますけどね。



URL
  EMCジャパン株式会社
  http://www.emc2.co.jp/


( 大河原 克行 )
2005/11/18 00:00

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