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ジャストシステム浮川社長、「2006年はxfyの年に」


 ジャストシステムが大きな転換期を迎えようとしている。それは、XMLドキュメント作成・編集テクノロジーの「xfy(エクスファイ)」の投入によってもたらされる転機だ。日本市場よりも、むしろ米国市場で高い評価を受けている同製品の投入によって、徳島から生まれ、日本の代表的ソフトメーカーとなった同社が、いよいよ全世界を相手に戦いを挑む。だが、その一方で、「ジャストシステムのすべては一太郎にある」と初心に立ち返る気持ちも忘れない。ジャストシステムの浮川和宣社長に、ジャストシステムのいまを語ってもらった。


国際標準の上で勝負できる「xfy」

代表取締役社長の浮川和宣氏
─最近は、米国出張が多いようですね。

浮川氏
 今年は、ほぼ毎月のように海外出張していますよ(笑)。来年は、さらに海外出張、とくに米国出張が増えそうです。いま、本社がある徳島に帰ることが少なくなり、東京にいることが多いのですが、数年したら、日本よりも米国にいることが多い、ということになるかもしれませんよ。


─それは、やはり、xfy次第ということですか。

浮川氏
 そうです。11月に米国でXMLコンファレンス&エクスポジションというXML開発者向けのイベントが開催されたのですが、そこでもxfyは高い関心を集めました。イベントそのものは約500人が参加するという、本当に限られた人たちのものなのですが、そこで当社がパーティーを開いたら、200人以上が訪れた。こちらがびっくりしてしまいましたよ(笑)。今年1年を振り返ると、いくつかの米国でのイベントに参加しましたが、そのたびに、我々の予想を超える反響となっている。多くのXML技術者、Javaの技術者が、この製品の登場に期待していることをヒシヒシと感じました。そして、xfyをフロントエンドに利用できるため、どんなベンダーともコンペティションがない。あらゆるベンダーと手を組めるというのもxfyの特徴のひとつです。XMLコンファレンスでも、米IBMと共同で、xfyとDB2を連携したネイティブXMLアプリケーション用プラットフォームのデモンストレーションを行いましたが、これも米IBM側からお話をいただき実現したもので、まさに強い関心が集まっていることがわかると思います。これまでは、XMLのクエリーを作るのに、多くの技術者が莫大な工数をかけ、苦労をしていた。しかし、xfyを使えば、ウィークリー、マンスリーとかかっていたものが、ミニッツ単位で出来るようになる。さらに、多様なXMLボキャブラリーを一元的に操作することもできる。こんな製品はほかにはありません。


─xfyはどんな経緯で開発されたのですか。

浮川氏
 もともと96年に「将来の一太郎を設計しよう」ということを社内に打ち出しました。いまの事業の収益とはまったく別のところで新たなアイデアを出して欲しい、ということで、社内から意見を募りました。さまざまなアイデアが出ましたが、そのひとつとして、翌年になって、具体的な取り組みのひとつとしてスタートしたプロジェクトが、いまのxfyの前身だといえます。当時は、「なにを言っているんだ」、「そんなものできるのか」といわれ、理解できる人も少なかったですし、CPUパワーなどを考えるととても実現できるものではなかった。これは、99年に一太郎Arkという形でひとつの完結を見ましたが、ゴールはまだ先だ、もっとアイデアがある、として再スタートを切ったのがxfyです。当初は、社内で「Ark2」という呼び方をしていたのですが、世界に通用し、わかりやすい名前にしたいということで、xfyとしました。


─立案から製品化まで10年をかけた製品ということですね。せっかちな浮川社長が、よく待ちましたね(笑)。

浮川氏
 本当に待ちに待ちましたよ(笑)。自分でも関心するくらいに。確かに、途中段階では、「もうそろそろ出そうよ」という気持ちも少しはありましたが(笑)、これは完全に世界を視野に入れた製品ですし、しっかりとしたものを世の中に出したかった。製品の意味、そして可能性が大きいから待てたんですよ。この技術のすばらしさは、本当に見ていただければわかる。10年前に描いた「夢」や「理想」が、いよいよ「現実」になった製品だといえます。


─ジャストシステムが世界を視野に入れた理由はなんですか。

浮川氏
 一太郎とWordとの戦いでは悔しい思いをしました。ジャストシステムは、日本語という文化をPC上に移行してきた会社です。この領域に対して、常に新たな技術を投入して、方言までしっかりカバーできるというのは、やはり日本の会社だからこそできることです。

 だが、このビジネスに留まっていては、日本のローカルな取り組みだけで終わってしまう。日本だけでやっていては、発展性も厳しい。私自身も、これまでの経験から、どうしても日本への取り組みに目が行ってしまう傾向があった。だからイメージトレーニングを何度も繰り返した。理想を実現する製品、そして世界に打って出る製品に対して、どんなディシジョンをしていくのか。世界の標準となるXMLに対して、どのようなアプリケーションでも対応可能な製品を投入することで、どんなビジネスモデルを構築するのか。xfyは、これまでの一太郎とWordの戦いというものではなく、国際標準の上で勝負できるものであり、しかも、競合がないという新たな世界の製品だといえます。


ジャストシステムの原点は「一太郎」

─とはいえ、国内では、やはり一太郎のビジネスは欠かせないですね。

浮川氏
 それは当然の取り組みです。毎年2月に新製品を投入していますが、そのたびに大きな進化を遂げている。来年2月に発売予定の一太郎2006も、大きな進化を遂げています。最近、感じているのは、「やっぱり一太郎だよね」といってくれている人が増えているということですよ。また一太郎に帰ってきたという人も多いですね。一太郎に採用しているアイコンを巡る松下電器との特許訴訟では、確かにダメージを受けた部分もあったが、ユーザーの方々からは、「一太郎がなくなったら困る、ということを改めて実感した」という声をいただいています。いままで一太郎が無くなるなんて考えたことがなかったのだが、いざそれを考えてみたら心配になったと(笑)。社内的には、リスクマネジメントを強化するという教訓になりましたが、ユーザーさんにとっては一太郎という製品を改めて強く意識する機会になったようですね。一太郎は、まだまだ進化しますし、やることもたくさんありますよ。これからもその進化に期待していただきたいと思います。


製品発表会で一太郎2006を手にする浮川社長
─一太郎2006の製品発表会見では、「やっぱりジャストシステムの原点は一太郎だと、改めて実感した」と言われていましたね。これはどういう意味ですか。

浮川氏
 一太郎は、我々にとって事業の柱であるわけですが、改めて振り返ってみると、ジャストシステムが持っている、いまのすべての技術、製品が一太郎から派生しているのです。花子やラベルマイティといったパッケージ製品はもちろん、ConceptBaseも一太郎の技術やノウハウが元になって開発されている。そして、xfyも同様に、一太郎のエディタの技術や、言語を処理するというノウハウから出てきたものだといえます。ジャストシステムの軸であり、すべての製品の軸、技術の軸が一太郎だといっていいと。その点を言いたかったのです。


将来的にはすべての製品がxfyプラットフォームに

─今年度の通期決算見通しでは赤字を見込んでいますが。

浮川氏
 xfyへの開発投資が影響しています。しかし、来年はxfyの本格的な出荷が始まりますから、心配はありません。

 それとナレッジマネジメントの分野では、ConceptBaseが、FAQシステムなどのコンタクトセンターソリューションとしていくつもの実績をあげてきた。もともとConceptBaseは、あらゆる領域での応用が可能な製品ですが、逆に絞りきれなくなっている部分があった。これが、ここ数年で、コンタクトセンターの分野で評価され、その実績によって、我々も自信をつけてきた。ConceptBaseの能力の高さが、ユーザーの間に浸透しはじめたといえます。

 また、文教市場、官公庁、自治体といった公共分野もしっかりと押さえています。市町村合併によって環境は変化していますが、それでも当初の計画通りの実績をあげています。

 それに加えて、当然、一太郎、花子、ATOKといった強い製品もある。

 ただ、私自身は、2006年はxfyの年になると思っていますよ。一太郎をはじめとする国内を中心としたこれまでの製品群は、現場の社員がきちっとやってくれていますから、私は、xfyの事業に没頭できる。来年は、私の頭のなかの9割ぐらいはxfyになってしまうんじゃないかなぁ、と思っていますよ(笑)。

 将来的には、ジャストシステムが提供するすべての製品が、xfyプラットフォームの上で作られることになります。一太郎も花子も、すべてがxfyをベースとして展開することになる。それによって、世界標準環境のなかで事業ができるようになる。米国に拠点を開設しましたが、まだ陣容を強化しなくてはなりませんし、ブランドの認知を高めることも必要です。


─久しぶりに浮川社長の楽しそうな顔を見ましたよ。

浮川氏
 いや、本当に楽しいですよ。これだけ、強い製品が自社にあり、多くの方々から評価されている。しかも、それが全世界に通用する製品である。可能性はこれまで以上に大きい。これをきっかけに、グローバルに展開するソフトベンダーとして、ITメジャーの仲間入りをしたい。きっと、これからは、もっともっと忙しくなりますよ。でも、それが楽しみで仕方がないんですよ。



URL
  株式会社ジャストシステム
  http://www.justsystem.co.jp/


( 大河原 克行 )
2005/12/09 00:00

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