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シマンテック木村社長、「安全・安心・信頼できるITを提供」


 シマンテックとベリタスソフトウェアとの統合によって、新生シマンテックがスタートした。ストレージソフトウェアとセキュリティソフトウェアのリーディングカンパニーの統合によって、企業の情報資産の保護・管理を一元的に提供するソリューションカンパニーが誕生したといえる。日本において、陣頭指揮を執るのは、ベリタスソフトウェアで社長を務めた木村裕之氏。新生シマンテックは、日本でどんな展開をするのだろうか。


パートナーや大手ユーザーも統合をおおむね歓迎

代表取締役社長の木村裕之氏
―一般的に2つの企業が統合するにはさまざまな問題が発生しますが、シマンテックとベリタスの統合はどんな進ちょく状況ですか。

木村氏
 ベリタスはハイエンドのマーケットを対象とした企業。それに対して、シマンテックはミッドレンジからコンシューママーケットを対象に成長してきた企業ですから、お互いに育ちが違う部分があるとよく言われるのですが、実はかなり似た雰囲気がある企業なんですよ。どちらもシリコンバレーに本拠を置く企業ですし、お互いに高い成長を続けている企業でもある。米国本社は車で10分で行き来できる距離にありますからね。ですから、会社の雰囲気という点では、マージしやすいといえます。一方、製品という観点で見ると、補完するようなものが多く、領域が重なるものはないといっていいくらいですから、これもマージしやすいといえる。こっちの部門を潰して、むこうに統合するといったような統合の仕方をしないで済みますからね。


―ただ、コンシューマ製品の経験がない木村社長が、黄色い箱のパッケージ(ノートン・インターネットセキュリティ)を扱うことに戸惑いはありませんか(笑)。

木村氏
 確かに、その分野は勉強しなくてはならないですね。経営層も社員も、お互いが持っていなかった領域の製品について勉強する必要はあります。先日、年末商戦の量販店を回ったんですよ。店に黄色いパッケージがずらっと並んでいるのは圧巻ですね。これまで、パソコンソフト売り場を経営者として見たことがなかったので最初は驚きましたが(笑)、コンシューマ事業はとにかく「元気」が必要だと感じました。あの迫力というのは、エンタープライズ事業にはないものです。エンタープライズ事業は、地道にやっていく地上戦のようなものですが、コンシューマ向け製品は空爆のように一気にやる。店頭でこの様子を見て、空中戦の手法は意外と自分にあっているんじゃないかと思いましたよ(笑)。年末の商戦期はとくに大切な時期ですから、一日一日、注意深く動向を見て、見誤らないようにする必要はありますね。


―パートナー会社から統合を不安視する声はありませんでしたか。なかには、これまでは補完関係にあったパートナーだったものが、いきなり強力な競合になってしまったという例もありますが。

木村氏
 11月に、ユーザーカンファレンス「Symantec VISION*Xchange 2005」を開催し、直接、パートナーや大手ユーザー企業の方々とお話する機会を得ましたが、おおむね歓迎していただいています。これまでシマンテック、ベリタスの双方と取引があったパートナーやユーザーは、窓口が一本化されること、提供されるソリューションが強化されることを歓迎していますし、いずれかの製品を扱っていたパートナーも、必ずアベイラビリティの強化、セキュリティのさらなる強化という点での課題を持っており、今回の統合がプラスに働く場面が多い。もちろん、今回の統合によって競合分野が出てきたパートナーもあります。しかし、新会社になって、当社と取引をしていないパートナーを探す方が難しくなった。なにかしらの関係を持っているわけです。ひとつひとつの分野では競合があるかもしれないが、大きな意味では補完できる部分が大きい。競合というよりも協力関係が強まった部分が多いといえます。


統合後の新製品は来年後半に

―統合は、大きく3段階のフェーズに分けていますね。

木村氏
 第1フェーズは、7月から12月までの半年間ととらえていますが、ここではまずジョイントソリューションという観点での取り組みを行ってきました。双方の製品を組み合わせることで新たな価値を提供する。その第1弾として、Symantec Email Security & Availabilityソリューションを発表しましたが、こうした新たな価値を既存製品との組み合わせによって提案していくことができるようになった。また、8月には、都内にシマンテックジャパンエンジニアリングセンター(JEC)を開設し、製品統合に関する検証や、ローカライズチームの一本化、サポートチームの一本化などに取り組みました。製品に関する統合、検証、サポートといった点での施設が早い段階で稼働したことは大きな意味があります。日本のユーザー、パートナーに対して、品質の高い、最適なソリューションを早いタイミングで提供できるようになる。組織の統合よりも、製品の統合の方が早く進んでいます。


―これまでの統合への取り組みは順調といってよさそうですか。

木村氏
 確かにいろんなことがありますが、ここまでの段階を見ると極めて順調といっていいのではないでしょうか。統合作業への評価点は、私の学生時代の成績よりも上ですよ(笑)。


―年明けからの第2フェーズはどんなことを考えていますか。

木村氏
 ここでは、日本法人そのものが大きく動くことになります。2月半ばに組織を統合し、本社を移転します。さらに、4月1日付けで法人を設立することになります。米国では先に統合が行われていますから、そのルールに則って新会社を作り上げることになります。米国本社に対して、日本からの要求が通る環境をしっかりと作りたいですね。


―第2フェーズでの懸念事項はありますか。

木村氏
 あえて挙げるとすれば、お互いの成功体験をぶつけ合わないようにするということでしょうね。どちらも成功してきた企業ですから、どうしてもその成功体験をもとにしたやり方がベースになる。新たな会社ですから、その成功体験が通用しないということもあるのです。まずは、お互いに原点に戻って物事を考えることが必要でしょうね。ビジネスで成功することばかりを考えるのではなく、バラバラのITシステムを統合し、安全に稼働させるために、新生シマンテックは、ユーザー企業やビジネスパートナーに対して、どんなお手伝いができるか。そのためにはどんなやり方をすべきか。そこから考えていく必要があると思います。


―第3フェーズでは、新たな製品が登場するということになりそうですが。

木村氏
 2006年7月以降のフェーズ3では、統合した技術をもとに新たな製品を提供する予定です。これまでにない、まったく新たなソリューションを提供できるようになります。


―どんなものになるのですか。

木村氏
 まだ詳細をお話できる段階にはありませんが、ひとことでいえば、データの安全性を保つことができる環境が提供されるようになります。私は、ITの世界に求められているもの、あるいは期待されているものと、IT業界が世の中に提供しているものに大きなギャップがあると感じているんです。いまや、ITは社会の基盤になっており、ITなしには企業活動もままならない。しかし、ITは、安全か、安心か、そして、信頼できるものなのか、というと多くの人が首を横に振る。ここにギャップがある。ITは止まってしまっても、許される風潮がまだ残っている。基盤であるからにはそんなことは許されない。IT業界が社会の基盤を担っているということをもっと自覚し、業界全体のレベルを引き上げていかなくてはいけないんです。

 今回の統合は、こうしたITが社会から求められるものに対して、IT業界がどう回答を出すのか、という動きのひとつともいえると考えています。ITそのもののレベルを引き上げるためには、新生シマンテックのような会社が求められる。そして、そこからもっと安全に、安心して利用できるITソリューションが提供されるようになる。いまは歴史的変化の段階にあるともいえ、新生シマンテックの誕生は、成熟したIT産業に脱皮するためのひとつの動きといっていいのではないでしょうか。


ITの安全を提供するトータルソリューションで勝負

―セキュリティベンダー各社が買収によって、事業を拡大しています。戦いの舞台が大きく変わりますね。もちろん、マイクロソフトとの戦いということも視野に入っているとは思いますが。

木村氏
 確かに競合という側面では、そういう見方もあります。しかし、いまお話したように、IT業界に求められているものが変化し、一段高いレベルへと踏み出さなくてはいけない段階に来ている。セキュリティベンダーの一連の動きはそれをとらえたものだといっていいわけです。あえていうならば、コンピュータ・アソシエイツも、トレンドマイクロも、もっとこっちの領域に来ていただき、そこで競合しましょう、といいたい。Windowsのバックアップソリューションだけとか、セキュリティソリューションだけという戦い方ではなく、社会に対して、ITの安全を提供することができるトータルソリューションを提供するといった部分でしのぎを削ることが大切ではないでしょうか。そして、マイクロソフトにも、もっとWindowsの安全性を高めてほしいと思っています。


―例えば、Windowsの安全性が高まれば、シマンテックの事業領域は縮小しますね。

木村氏
 誤解を恐れずにいえば、シマンテックの役目は減ってほしい、と考えています。それが、社会基盤として安心して利用できるインフラとしてITが認知されることにつながるのではないでしょうか。ただし、それでシマンテックの事業が縮小するとは考えていません。次の役割がシマンテックには必ず出てくる。もっと深いところ、あるいは一段レベルが高いところで事業をやっていきたい、そう考えています。



URL
  株式会社シマンテック
  http://www.symantec.co.jp/


( 大河原 克行 )
2005/12/22 00:00

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