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インテリジェントウェイブ安達会長、「日本で最初に海外で成功したソフトベンダーになる」


 日本製ソフトは、ゲームを除き海外で成功したものはほとんどない。その現状を踏まえて、「なんとしても海外展開を成功させる」と息巻くのは株式会社インテリジェントウェイブの取締役会長の安達一彦氏だ。創業者である安達会長は、「これまではほとんど私のワンマン体制で事業を展開してきた」と自ら認めるとおり、同社の経営をリードしてきた。しかし、「日本での事業展開を任せる体制が出来上がった」と判断。日本で開発、販売してきたオリジナルパッケージソフトを海外で販売するための体制作りを進めている。「現在、頭の中にあるのはほとんどが欧米での事業」と話す安達会長に、海外事業の展望と同社の今後について聞いた。


設立20年で3つの事業体制が確立

取締役会長 安達一彦氏
―2006年がスタートしました。2006年のインテリジェントウェイブは、どんなビジネスを目指していますか。

安達氏
 海外での事業を確立させるための基礎作りです。実際の収益になるのは2007年になってからだと考えています。そのための基盤となる体制を構築するのが2006年ですね。


―日本のソフトメーカーで、海外に収益基盤をもつ会社は少ないと思いますが。

安達氏
 そうなんです。だからこそ、海外で実績をあげたいと考えているのですが、私がなぜ海外での収益にこだわるのかについては、会社の成り立ちから説明した方がいいように思います。

 インテリジェントウェイブは、1984年に私が設立しました。現在では、クレジットカードシステムを事業とするカードビジネス事業、システムソリューション事業、セキュリティシステム事業という3つが事業の柱となっていますが、この3つの事業が設立当初からあったわけではありません。

 私は外資系企業で仕事をしてきましたので、同じようにやればうまくいくかなと思っていました(笑)。だが、実際はそんなにうまくはいきません。そこで、設立したばかりの頃はソフト会社のよくあるパターンですけど、まず社員を派遣で出して、お金を稼いだ。次に始めたのが受託開発の仕事です。派遣、受託で決まったお金が入るようになって、ある程度資金的に余裕ができたことから、オリジナルパッケージソフトの開発を始めました。

 オリジナルのパッケージソフトは、売れれば大きいですが、開発には時間がかかって、その間は売り上げはまったくない。派遣のときのように毎月、決まったお金が入ってくるわけではありませんから、ある程度、資金的に余裕ができなければ手がけることはできない。しかし、海外のソフトメーカーはみんなオリジナル商品をもって事業展開をしている。他の産業にしてもそうです。みんなオリジナル商品をもっている。当社もオリジナル商品が欲しいと考えて、1989年に開発したのが「NET+1」です。


―この商品はどういう商品ですか?

安達氏
 NET+1は、クレジット会社というバーチカルマーケット(特定市場)向けの商品です。この商品が多くのクレジット会社に導入されたので、当社の存在を金融機関に認知してもらうことができました。

 バーチカルマーケットを狙ったことで、他社にない当社の強みを作りあげることに成功したのです。しかし、バーチカルマーケット向けの製品であるがゆえにひとつの限界も見えてきました。マーケットが限られてしまうのです。

 そこで、開発したのがセキュリティシステムのCWATです。


―セキュリティは特定業種だけがターゲットではなく、全業種がターゲットとなります。大きなマーケットを狙うことができますね。

安達氏
 そうです。ところが、同じパッケージソフトといっても、CWATはバーチカルマーケット向けのNET+1とは宣伝方法も販売方法もまったく異なる。ターゲットとするマーケットが大きくなる一方で、新しい宣伝方法、販売方法を確立する必要に迫られました。そこでCWATとNET+1では、担当する事業部を分けて取り組んでいます。


特徴もったセキュリティソフトは欧米でも販売可能と確信

―CWATの特徴はどんな点にありますか。

安達氏
 米国製セキュリティ製品は、外部からの侵入を防ぐものはたくさんあります。しかし、情報漏えいの実態調査をすると7割から8割が内部からの漏えいによるものです。それを防ぐための製品としても、ログ解析やメールの分析といった細かいものはいろいろあります。だが、情報漏えいを一元的に、しかもリアルタイムに管理する製品は米国製のものも含めて存在しません。よく、「日立の秘文がライバル」という言い方をされますが、当社としては競合製品だとは考えていません。もちろん、一部競合してくる部分は出てきますが、協調してビジネスをすることもできます。


―情報漏えい対策は、2005年4月に個人情報保護法が施行されたことで脚光を浴びました。2003年にCWATを発売したのは、このタイミングを狙ってのことですか。

安達氏
 確かにタイミングはよかったけれど、たまたまですよ(笑)。ただ、おかげで注目も集まってメリットはありました。現在販売代理店が大手を含めて30社揃い、営業マンも90人体制となりました。当社側の宣伝やマーケティングもようやく習熟してきたので、2006年には営業マンの数を200人にまで増員したいと考えています。

 ただ、日本での事業展開については私自身はあまりタッチしない。3つの事業それぞれに責任者を決めて、ジャッジはそれぞれがする体制ができました。だから私自身は米国と欧州でのCWATを販売する体制を作っていくところに注力したいと考えています。


―欧米市場でCWATが受け入れられると考える要因はなんですか。

安達氏
 先ほどお話ししたように、欧米にも競合製品がないことです。反応が非常によいので、製品の品質的には手応えがあります。ただし、例えば米国は日本とはまったく販売スタイルが異なる。米国流の販売スタイルをいかに構築していくかがポイントです。


―日本と米国で販売スタイルが違う象徴的なところはどんな部分でしょうか?

安達氏
 日本ではセキュリティのソフトであっても、システムインテグレーターが販売してくれるとなれば万事OKです。ところが米国ではシステムインテグレーターだけでなく、セキュリティコンサルティングを行う会社が認知してくれないとだめなんですよ。

 コンサルティング会社に仕事を頼むのは、セキュリティだけに限らず、システムインテグレーションに必須になっているようです。システムインテグレーションをひとつの会社に丸投げするのを避けるために、コンサルティングの会社も参加させて、内容の透明性を高めるという狙いのようです。

 また、製品を選択する際には調査会社が出しているレポートで評価されたものでなければほとんど相手にされないというのも、本格的に米国市場での展開準備を始めて、学んだことです。


―調査レポートに掲載されるための方法論みたいなものがきちんとあるということなんですか?

安達氏
 まず、調査会社が主催する展示会に参加するんです。そこで来場者に製品を見てもらって名前を知ってもらうことが第一ステップ。製品名が徐々に知れ渡っていくとレポートに名前を載っけてもらえるようになる。最初はこのサイクルがわからなくて苦労しましたよ。

 SOX法の施行で情報漏えいに対する意識が高まっていることも幸いしました。米国では、SOX法対策のためのコンサルティングの会社、弁護士事務所、われわれを含めたテクノロジーのベンダーが集まって中立的な立場でSOX法対策のためのソリューションを構築するアライアンスを組むことも決定しました。

 こういう状況を整えて、当社が米国で成功することができれば、日本のソフト産業にとってもいい刺激になるんじゃないかと思うんです。


販売方法がまったく異なる米国市場

―これまで日本企業が米国で成功できなかった原因はどこにあると分析していますか?

安達氏
 やはり米国での販売に関するメカニズムをきちんと理解していなかったということが大きいように思います。米国と一口にいっても、東部と南部と地域が違うだけでもカルチャーが違う。そういうところも踏まえてきちんと理解しないといけない。

 また、現地に行くとあらためてそうなのかとわかる部分も結構あるんですよ。例えば当社の米国オフィスはニューヨークにあるのですが、ニューヨークで優秀な開発者を雇用しようと思うと、案外コストは安くてすむんです。


―それは意外ですね。

安達氏
 ネットバブルがはじけて以来、人が余っているんです。家賃も安くて、むしろロンドンのオフィスの家賃の方が高いくらいですよ。

 米国の拠点というと、シリコンバレーとか西に置く会社も多いですが、金融機関を顧客にするために金融マーケットに近い場所にオフィスをもつ必要があると考えてニューヨークにオフィスを構えることにしました。

 スタッフも、これまでは日本人中心でしたが、これからは現地でスタッフを雇用していきます。


―スタッフはどれくらい増員しますか?

安達氏
 売り上げに応じてです。まだ米国のスタッフは5人体制ですが、10人分働いてもらっている(笑)。このスタッフがベースとなって、まず2006年に米国で販売代理店と、コンサルティング会社をそれぞれ30から40社作り、営業マンの教育をする。そうやって体制ができれば、2007年には収益が出る体制ができあがると思います。


―欧米での売り上げはどれくらいになりますか。

安達氏
 理想としては全社売り上げのうち8割を海外からとしたいですが、当面の目標は当社の売り上げの10%から15%を海外事業からとすることです。


東証一部上場も目標のひとつ

―日本でのビジネスはいかがでしょう。

安達氏
 当社はオリジナルパッケージソフトの開発、販売を行っているので、ひとつのソフトの売り上げが伸びれば、全体の売り上げもあがるし、営業利益も上がるんですよ。加えて、ターゲットのひとつである金融業が不調だったためにシステム投資が全面ストップするという時期がここ数年続いてきました。ようやく、金融業界が好調になってきたことで、当社の売り上げにもプラスに寄与する見通しです。だから、国内の事業の業績はかなりよい状況といっていいでしょう。

 株式についても、現在は株式をJASDAQに上場していますが、東証一部上場ができる体制を作りたいと思っています。


―5年後のインテリジェントウェイブという会社はどんな会社になっているでしょうか。

安達氏
 ワールドワイドで、アンチ・サーバー・クライム・ソフトウェアのナンバー1を目指します。セキュリティといっても範囲は広いですが、すべての範囲を狙うというのではなく、特定分野を狙うことで十分に世界で戦っていけることができると思っています。例えば、金融機関向けマネーロンダリングシステム対策のソリューションのようなものは日本にはほとんど存在しません。当社1社では対策ソリューションを構築するのは難しいですが、他社と連携することで対応ソリューションを提供していくための準備を進めています。

 すでに多くの企業が参入している市場にあらためて参入しても、ビジネスは厳しい。誰もまだ存在していない市場に乗り出していくことで、企業にとってメリットがあるビジネスができると思っています。

 それじゃそれはどんな市場かといったことを研究するために、IT業界の友人と、NEXTQという組織も作っています。常に尖った他にない市場を目指していかなければ入ることができない組織で、ここでは本当にいろいろな議論をしています。これからのITベンダーの経営者はもっと真剣にいろいろ考えないといけない時期になってきているんじゃないでしょうか。



URL
  株式会社インテリジェントウェイブ
  http://www.iwi.co.jp/


( 三浦 優子 )
2006/01/19 08:54

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