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デル・メリット社長、「日本における投資をさらに加速する」


 4月にデル株式会社の代表取締役社長に就任したジム・メリット氏。就任以来、約2カ月の間に、顧客、パートナー、そして社員と積極的にコミュニケーションを図り、実に、1000人以上の人たちと面会したという。パワフルな活動を見せるメリット新社長は、果たして、日本におけるデルの成長戦略をどのように描いているのだろうか。単独インタビューの形で日本のマスコミに登場するのは今回が初めてとなるジム・メリット社長に話を聞いた。


社長就任2カ月間の仕事は、お客様の声を聞くこと

代表取締役社長 ジム・メリット氏
―今年4月に日本法人社長に就任してから、どんな活動を行ってきましたか。

メリット氏
 一番最初に行ったのは、お客様の声を聞くということでした。デルの強みはなにか、評価されている点はなにか、これから向上できる部分はどこなのかを、顧客の声を通じて聞くことができました。2カ月の間に、約70社のお客様にお邪魔させていただいています。

 また、日本のマネジメントチームとも徹底した話し合いを行いました。日本法人のマネジメントチームはどういう能力があるのか、そして、日本におけるビジネスチャンスはどこにあるのか、また、日本法人が機能している部分と、改善できる部分はどこにあるのか、そして、どこに対して投資が必要なのかといったことを、双方向の話し合いから知ることができました。さらに、従業員とも各部門ごとにミーティングを行い、現在のビジネス環境や、競合他社との関係、そして、私が目指す方向性などについて、積極的な意見交換を行いました。この1週間で、9回のミーティングを社員と行っていますし、宮崎や中国・大連のカスタマーセンターの社員、韓国の社員とも、直接情報交換を行っています。社員からも数多くの質問があり、どこが問題なのか、どこを改善しなくてはいけないのか、どの部分を維持しなくてはいけないのか、といったことを共有できました。

 そして、マイクロソフト、オラクル、インテル、EMCといったパートナー企業各社とのミーティングを通じて、パートナーシップが効果的に機能しているのか、改善する部分があるのか、といった点をお互いに確認しました。この2カ月間で、1000人を超える人たちとお会いしていると思いますよ。これらの話し合いを通じて、顧客、社員、パートナーのそれぞれが強いパッションを持っていることを感じることができました。この2カ月間は、大変有意義な期間であり、大きな成果があった、と自己評価しています。


―日本法人の強みと弱みはどんなところに感じましたか。

メリット氏
 強みは、まず顧客基盤が強固で盤石であるという点です。それと、日本法人の社員は、勝ちたい、成功したいというパッションを強く持っている。これが、デルが日本のマーケットで成功する原動力となっている。こうした基盤の上で、継続的な投資を続けていきたい。特に顧客満足度の向上という領域に対しては、ますます投資を増やしていく考えです。カスタマーサポート、テクニカルサービス、DPS(デル・プロフェッショナル・サービス)に対する投資は最重点項目です。これらの分野においては、約400人の増員を予定しています。これによって、顧客に対する価値を高め、満足度をあげることができると考えています。


―米国では、デルのブランドが家庭の主婦にまで浸透している。しかし、日本ではそこまでは浸透していません。このブランド力の差についてはどう感じていますか。

メリット氏
 その差は確かにあります。しかし、日本でも、米国でも、「デル」というブランドは、強いブランドであることには変わりがありません。日本においては、コンシューマ、コマーシャルにおいても、さらにブランド力を高めるための取り組みを行いたいと考えています。最も重要なのは、コンシューマにおいても、コマーシャルにおいても、価値のあるサービスを行うことに対し、継続的な投資を行うことです。それによって、マーケットよりも高い成長を遂げることができ、ブランド力を高めることができます。

 日本法人は、この第1四半期は、業界平均よりも5倍の成長を遂げています。また、シェアも前年同期比に比べて2.5ポイントも上昇させることができた。これは、デルが価値を提供できていることの証です。


信頼に値する会社を目指す

―メリット社長体制になって、デル日本法人はどんな企業になりますか。

メリット氏
 私は、まず第一に、顧客にフォーカスすることを考えています。顧客がビジネスをやりやすいように、それを支援する企業であること、そして、顧客の技術的ニーズに応えられ、顧客のリスクを最低限に抑えるお手伝いができる企業を目指します。顧客満足度に関しては、安定した評価を得られる地盤ができあがっていますし、さらにこれが着実に前進していると考えています。また、デルは、新しい製品や技術に対する投資も行っています。ラップトップ、デスクトップ、サーバーでも、新たな製品投入やサービスの提供を予定していますし、EMCとのパートナーシップによる新たなストレージ製品の投入やパートナーシップの強化もある。これによって、顧客に大きな価値と幅広い選択肢を用意することができます。われわれは、顧客に一番に選択される企業でありたいと考えています。

 2つめに重視したいのが社員へのフォーカスです。社員にとって働きやすい、安定して働ける職場環境を作りたい。仕事のなかで学んだり、望むようなキャリア育成ができるようにしたいんです。企業が成功するには、人が大切です。社員が高い目標に対してチャレンジしていく風土を実現することが、顧客に対する満足度の高い企業の実現につながります。

 これらの部分にフォーカスすることを改めて強調したのは、その部分がいまの日本法人に足りないというわけではなく、成長する企業の条件であると私が認識しているからです。これは、日本でも、米国でも、企業が成功するための基礎になるものだと考えています。

 デルは、お客様にとって、信頼に値する会社でありたいと考えています。良いときも、悪いときも、デルに頼っていれば大丈夫だと思っていただけるような企業にしていきたいですね。私は、これまで、顧客との接点で仕事をする機会が多かった。顧客とのリレーションシップを強固なものにするには、やはり信頼関係が大切です。私は、それを身をもって体験してきました。デルが日本においても、一層、信頼される会社になることを目指したい。


―ところで、ご自身の性格はどう判断されていますか。それが、デル日本法人の経営にどう生きますか。

メリット氏
 私自身は、仕事に対して責任を持ち、真剣に取り組む性格です。そして、社員の教育に対しても熱心に行うことを目指す。また、コミュニケーションを大切にすること、そして、勝利するということに対して、強いパッションを持っています。

 私は、82年に米IBMに入社し、16年間にわたり、サーバー製品のセールス、マーケティングを担当していました。その後、米デルに入社し、7年が経過しています。デルでは、主にグローバル・セールスを率いてきた経験があります。これまでの経験によって、エンタープライズビジネスに関するノウハウを持ち、この事業をどう伸ばしていくかを知っています。また、エンタープライズビジネスまわりのサービスや、ストレージ、サーバービジネスの成長に対しても、どうすればいいのかを熟知しています。こうした経験を生かすことで、高い成長を維持し続けることができるでしょう。

 デルには、高い成長を目指すという文化があるが、それをさらに強化していきたい。顧客に対して価値を提供すれば、おのずと競合他社に勝利でき、何倍も成長ができる。そして、社員も自分の仕事に自信がもてる。会社にとっても、個人にとってもいい結果を出すことにつながります。


―負けず嫌いの性格ですか?

メリット氏
 その通りです(笑)。一方で、楽天的でもありますよ(笑)。ただし、物事を細かく見ないのかというとそうではない。実際に大丈夫だと思えば、細かいところは見ずに、下に任せるということになるが、なにか問題がありそうだと思ったときには徹底的に検証します。


―日本法人社長就任に当たって、デル会長、ロリンズCEOからはどんなことを言われましたか。

メリット氏
 社長就任に当たって、マイケル・デルとも、ケビン・ロリンズとも会い、いろいろな話をしました。日本の社員のことや、日本のマーケットの重要性、そこにおいて、継続的な投資をしていくこと、そして、日本の顧客の声を聞くことの重要性などについて、話をしました。マイケルも、ケビンも日本が大好きですから、きっと、頻繁に来日すると思いますよ(笑)。実は、ケビンは2週間ほど前に来日し、社員と情報交換を行いました。2人とも、日本の顧客、社員、マーケットのことを大変気にしていますので、私としてもとてもやりやすいですね(笑)。


エンタープライズ事業がビジネス基盤を形づくる

―ここ数年、デルにとって、エンタープライズ事業が重点課題となっていますが、メリット社長の経験からも、エンタープライズ事業がさらに加速することになりそうですね。

メリット氏
 そうですね。エンタープライズ事業が、われわれのビジネス基盤を形づくるものだといえます。この基盤があってこそ、デルの長期的な成長が見込めます。これからも、サーバー、ストレージ、そして、DPSによる事業の成長に取り組んでいきたい。特に、DPSによって日本の顧客に高い価値を提供することができれば、エンタープライズ事業のビジネスはますます伸びていくと考えています。日本におけるエンタープライズ事業は、前四半期の実績では、市場の平均成長率よりも4~5ポイント高い成長を遂げることができましたし、ストレージに関しても大きく伸張した。そして、DPSに関しては前年同期比2倍という成長を遂げています。


―今後のエンタープライズ事業のキーワードはなんでしょうか。

メリット氏
 フレキシブルなソリューション提供を可能にするスケールアウトによる提案や、レガシーシステムの統合をはじめとするマイグレーションといった取り組みは継続していきます。顧客がエンタープライズシステムに求めているものは、普遍です。それは、よりオープンであり、よりフレキシブルなものである、ということです。この実現に向けて、パートナーとの協業を強化していきたい。特に、EMCとの協業は、大手企業向けのソリューションを含めて、さらに加速させていきたいですね。


顧客の要求に応えるためOpteronを採用

―先ごろ、デルは、AMDのOpteronを搭載したサーバー製品の投入を発表しました。これは日本のエンタープライズビジネスにどう影響するでしょうか。

メリット氏
 デルがAMDの採用を決断したのは、それを顧客が求めていたからです。AMDの技術を採用したサーバーによって、顧客の要求に応えることができ、同時に、幅広い選択肢を提供できる。幅広い選択肢を用意するというのは、デルにとって、顧客との重要な約束事項でもあります。Opteronサーバーが日本に導入されれば、この技術を利用して、顧客の問題解決に役立ててもらえるようになるでしょう。

 私は、デル社内の組織をインテルサーバー専任と、AMDサーバー専任とに分けるつもりはありません。サーバーのサービスを提供するチームはひとつにしておきたいですからね。


―AMDは、サーバー領域で20%のシェアをとりたいと宣言しています。デルにおいても、同様の構成比となりますか。

メリット氏
 それはわからないですね。顧客がどう選択するかでしょうね。AMDも、当社同様に、競合他社よりも高い成長を遂げたいと考えているでしょうから、それを顧客がどう評価するかにかかっていると思います。


―コンシューマ分野は、不得意ですか(笑)。

メリット氏
 いやいやそんなことはありませんよ(笑)。私は、米IBMで最初に携わった仕事がPCのデザインなんですよ。それにコンシューマ分野での経験も長いですよ。私は、PCは大好きですから。企業向けも、コンシューマ向けもね(笑)。

 デルにとっても、売上構成比の15~20%がコンシューマ分野ですから、それは重要なビジネスです。日本においては、ハイエンドエンターテイメントPCであるXPSシリーズへの投資を強化しますし、近いうちにその新製品投入も控えている。カスタマーセンターである宮崎の拠点や中国・大連への投資も、もっと増やしていき、コンシューマビジネスの基盤をさらに強いものにしたい。


―米国で行われているPCの製品企画に対して、日本からの要求が反映される仕組みはさらに強化されそうですか。

メリット氏
 ノートPCに関しては、日本のユーザーの声が最先端であると考えていますから、これまでも、日本のユーザーの声をベースにした開発を行ってきました。デスクトップもオールインワン型の製品に関しては、日本のユーザーからの声を参考に作られたものだといえます。すでに、日本のユーザーの声を反映して、コアプロダクトの製品開発に役立てるという仕組みができあがっていますし、それが、今後のトレンドやイノベーションにつながることも熟知しています。けさも、米国本社の製品関連チームとミーティングして、日本からの要求を提案していたところです。


―日本人社長から、米国人社長に代わったことで、米国本社に対する発言力が高まるということはありませんか。

メリット氏
 デルの文化は、オープンであり、ダイレクトであるということに尽きます。つまり、誰が社長であっても、その文化は変わらないでしょう。ただ、私は、オースティン(デルの本社がある場所)からきましたから、米国本社の製品グループのエグゼクティブたちをよく知っています。その点では、日本の顧客の要件やニーズを伝えやすいということはあるでしょうね。


―ところで、米国では、デルモデルの限界という問題が指摘されはじめていますね。第1四半期では、出荷台数が業界平均を下回ったという状況にも陥っている。この点はどうとらえていますか。

メリット氏
 デルの最新四半期の決算内容を巡っては、さまざまな記事が掲載されていることは知っています。中には、デルモデルが限界に近づきつつあるという記事も出ています。しかし、デルのビジネス自体は順調ですし、高い利益を生むことができている。そして、米国以外の市場において、どういう結果を出しているかを見てもらいたい。日本においては、市場全体の成長と比較しても、5倍の成長を遂げていますし、中国やインド、南米、東欧といった市場においても、高い成長率を遂げています。成長のチャンスは、米国よりもそれ以外の地域にあります。

 デルモデルをそろそろ変えた方がいいという指摘もあるようですが、私はそうではないと考えています。こうした世界各地で見られている結果こそが、証拠になる。デルモデルが全世界でどれだけ成功しているのか、という点をとらえていただきたい。デルは、デルモデルの継続と、顧客満足度を高めるための投資を継続していきます。すでに全世界で1万9000人もの社員を増員し、顧客満足度を高めるために1億ドル近い投資を行っています。この姿勢は変わりません。


―その最新四半期の決算では、ケビン・ロリンズCEOが、「低価格戦略に打って出る」ということも明らかにしましたが。

メリット氏
 デルにとって大切なのは、成長と利益のバランスを保つことです。そして、同時に、顧客に近いところでビジネスを進め、顧客に対して高い価値を提供しつづけなくてはならない。これは変わりません。ただし、状況によっては、価格面での競争性を改善しなくてはならないということもあるでしょう。しかし、価格はひとつの要素であり、すべてを満たす要素ではない。顧客とのリレーションシップの上で、製品の特徴や機能の強化、サービス、サポートを含めた全体のバランスを見て、最高の価値を提供することが大切です。


―1年後には、デルの日本法人は、果たしてどんな会社になっていますか。

メリット氏
 顧客のビジネス上の問題を解決するために一番最初に選ばれる会社がデルでありたい。それが1年後のデルの姿です。顧客がビジネスをやりやすい環境を提供する会社として、信頼される会社になりたい。社員にとっては、業界のことや顧客のことを学び、プロフェッショナルへと成長できる会社でありたいと考えます。その結果として、シェアが伸び、エンタープライズビジネスでの存在感が大きくなる。

 デルは、今後1年の間に、顧客満足度を高め、サービス、製品のクオリティをさらに引き上げるために、多くの投資をする予定です。シェアという観点で見ても、デルの現在のポジションは大変いい位置にいます。ただし、むやみにトップシェアを追求することは考えていません。順位が、いつ、どうなるか、ということは、結局はお客様が決めることです。デルが高い価値を提供しつづければ、いずれナンバーワンになるときがくると思います。デルの仕事は、顧客に対して、価値を提供することであり、そのための投資を積極化します。デルの成長をぜひ楽しみにしていてください。



URL
  デル株式会社
  http://www.dell.com/jp/


( 大河原 克行 )
2006/05/26 14:00

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