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日本SGI和泉社長、「コンテンツが主役の時代に最高のフォーメーションを確立する」


 日本SGIの和泉法夫社長は、「日本SGIは、米SGIとは経営体制で一線を画している。だが、その一方で、創業者であるジム・クラークの理念を最も持ち続けている企業ではないか」と切り出す。日本SGIの株式の21.4%を持つ米SGIがチャプター11を申請するという、マイナス要素とも見られる事態が表面化する一方、ソニーとの資本提携や米SGIの海外法人との提携強化など、日本SGIならではのダイナミックな動きも見せている。果たして、日本SGIはどんな方向へ向かおうとしているのだろうか。日本SGIの和泉社長に、今後の日本SGIの取り組みについて聞いた。


代表取締役社長の和泉法夫氏
―今年5月、米SGIが、日本の会社更生法にあたるチャプター11を申請しましたが、日本SGIに対する影響はどうですか。

和泉氏
 日本SGIへの出資比率は約20%ですから、経営面での影響はまったくないといっていいでしょう。もともと日本SGIは、日本で独立して事業が推進できる体制を追求し、NEC、NECソフトのほか、キヤノンマーケティングジャパン(旧キヤノン販売)や、ソニーといった企業が出資しています。確かに、取引先のなかには、当社に関して、ご心配をいただいた例もありました。これは、むしろこれまでの私どもの説明不足が原因だったと思っています。日本SGIは、日本で事業を推進するための独自性を維持していますから、これまでの戦略にはなんら変更がないことをご理解いただきたい。一方で、米SGIのチャプター11に関しても、私は前向きな判断であると考えていますよ。


―それはどういう点ですか。

和泉氏
 チャプター11を申請したのは、米SGIのCEOにデニス・マッケナ氏が就任してわずか4カ月後です。これをどう判断しますか。裏を返せば、就任を前後して、すでにチャプター11の検討が進んでいたという推測が成り立ちます。また、一般的に、CEOが交代した矢先にもかかわらずチャプター11を申請するというのは、復活に向けたシナリオがしっかり用意されていなくてはあり得ない話です。その点だけでも、私は、米SGIの今回のチャプター11の申請は、前向きにとらえることができる内容だと考えています。これから、米SGIがどんな風に復活するのか楽しみですよ。


―一方で、日本SGIには、ソニーが新たに出資しましたね。そのほかにも、提携戦略が相次いでいる。世界市場をにらんだグローバルアライアンス事業推進本部も新設した。これらの取り組みはどうとらえればいいですか。

和泉氏
 日本SGIは、これから到来する「コンテンツが主役となる時代」において中心的役割を担う企業であることを目指しています。日本SGIの出資および提携戦略は、すべて、この基本方針をベースとして、相互にメリットがある企業と手を組んでいる、ということになります。

 例えば、日本SGI独自の取り組みとして、コンテンツ・ライフサイクルマネジメントに関するソリューション体系として「SiliconLIVE!(シリコンライブ)」を展開しています。ここでは、コンテンツ制作ソリューション、著作権管理ソリューション、情報資産管理ソリューション、コンテンツ配信ソリューション、インターフェイスソリューション、セキュリティソリューションといったコンテンツのライフサイクル全般にかかわる数々のソリューションが求められる。しかも、インターネットに普及によって、一般の企業や大学、研究所、官公庁など幅広い分野でデジタルコンテンツの活用が求められている。こうしたコンテンツに関わるソリューションをあらゆる領域で展開していくには、シナジーを生み出すことができる企業との提携や出資関係が不可欠です。例えば、ITの雄であるNECと、イメージングの雄であるキヤノンマーケティングジャパン、コンテンツや放送機器分野の雄であるソニーは、それぞれの企業同士では競合する分野が出てくることになり、実際に激しい競争を繰り広げている。だが、日本SGIが間に入って、コンテンツに関するライフサイクルマネジメントソリューションを提供するという観点でとらえると、これらの企業同士のシナジーが発揮できる。いわば、コンテンツが主役の時代に最適なフォーメーションが完成できるともいえるのです。このような最適なフォーメーションを確立した上で、強固な協業関係が欠かせない企業に対しては、出資をしていただくという手法を前提としています。

 一方、そこまでは必要がないが、重要なソリューションやソフトウェアを持つ企業とは提携関係を結んでいく。アドビシステムズとの提携は、企業におけるコンテンツ管理においてAdobe LiveCycle Policy Serverと、キヤノンマーケティングジャパンのネットワーク複合機ImageRUNNERとの組み合わせによって、SiliconLIVE!によるドキュメントセキュリティソリューションを提供するためには、提携まで踏み込んだ関係づくりが必須だと判断したからです。

 さらに、当社としてどうしても必要な技術を有し、それを囲い込んでおきたいという場合には、当社側から出資するという手法に取り組んでいます。

 カナダのCIC(コンテント・インターフェイス・コーポレーション)に日本SGIが出資し、さらに私が社長を兼務する形で日本CICを設立したのは、対話型リッチコンテンツ統合プレゼンテーション・ソリューションであるVizImpressのコアエンジンを開発しているという意味で、当社にとって欠かすことができない企業だからです。

 言い換えれば、キャピタルゲインを求めるという観点からの出資はひとつもありません。


―ただ、外から見ていますと、出資という強固な関係にあるNECやキヤノンマーケティングジャパン、ソニーとの具体的な連携効果というものが、まだ見えませんが。

和泉氏
 そうですね。まだ具体的な効果というものは外には見せていませんから(笑)。ただ、これからは、ますますコンテンツが主役となる時代がやってくる。そこに向けた準備を進めています。これから、その成果を、少しずつ、具体的なものとしてお見せできると思います。


―今年4月のNECの社長交代によって、同社社長がソリューション畑出身からネットワーク畑出身へと移行しました。日本SGIへの出資は、NECのソリューション事業のなかから決定した案件であり、今後、NECとの関係にも変化があるようにも感じられますが。

和泉氏
 確かに、NECグループからの出資は、ソリューション事業出身の西垣浩司元社長や、金杉明信前社長の時代であり、さらに、ソリューション事業部門で管轄しているNECソフトが出資していますから、そう見えるかもしれませんね。

 しかし、私は、NECの社長が代わっても、両社の強い関係には変化がないと考えています。矢野新社長は、ネットワーク事業の出身ですが、コンテンツが主役の時代には、ますますネットワークと深い関わりを持たなくてはならなくなる。矢野社長に代わってから、NECでは、NGN(次世代ネットワーク)事業への取り組みを強化する方向性を打ち出しており、そのなかでコンテンツは重要な役割を果たすことになるのは明らかです。私は、むしろ、NGNに軸足を据えたNECとの事業シナジーを楽しみにしています。その点でも、これまで以上に強固な関係が築けると考えています。


―現在、NECおよびNECソフトをあわせて出資比率は50%を超えていますね。NECグループの出資関係には変化がありませんか。

和泉氏
 例えば、今後、新たな提携先を増やすために増資をすることで、結果としてNECグループの出資比率が下がるということはあるかもしれません。しかし、基本的な出資関係には変化はありません。


―米SGIとの関係はどうなりますか。

和泉氏
 これも基本的には変わりません。ただ、私はこんなこと考えているんですよ。SGIというか、ここでは、シリコングラフィックスといった方がいいかもしれませんが、創業者であるジム・クラーク氏の精神というのは、全世界の社員や、多くのクリエイター、あるいは、シリコングラフィックスをスピンアウトした人たちの間に根付いている。コンピュータグラフィックスを生みだし、コンピュータの世界にクリエイターという言葉を定着させ、そして、映画の世界にも革命を起こした。こうした経験をしてきた人たちには、大きなパワーがある。こうしたジム・クラークの精神を受け継いだ人や、その人たちが運営している企業がお互いに連携すれば、コンテンツに関しての強いネットワークができあがる。

 今年4月には、SGI欧州の放送事業部門のビジネスユニットであったSilicon Graphics Broadcast Europeの独立にあたり、日本SGIが100%出資し、サイレックス・メディア社を設立しましたが、これもそういう側面がなかったとはいいません。私は、コンテンツが主役の時代になると、ジム・クラークのたいまつを引き継いだ人たちが、ますます重要な役割を果たすようになると思っているんですよ(笑)。


―日本SGIが、ジム・クラークの意志を受け継いだ人たちのハブになると。

和泉氏
 どこまでその役割ができるかはわかりませんが、少なくとも、そうした気持ちを持っていることは事実です。日本SGIの成功モデルを、SGIの海外法人が参考にしている。もちろん、米SGIそのものも、日本SGIのやり方に関心を持っている。米SGIのチャプター11をきっかけにして、SGI全体が生まれ変わろうとしている段階にあるともいえるのではないでしょうか。



URL
  日本SGI株式会社
  http://www.sgi.co.jp/


( 大河原 克行 )
2006/06/20 00:00

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