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弥生・飼沼社長、「『ライブドア事件』で、弥生に対する信頼を実感」
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ライブドアの前社長である堀江貴文被告が逮捕されたことに伴い、弥生の社長だった平松庚三氏がライブドアの新社長に就任。平松氏いわく、「自分の時間の120%をライブドアの経営に当てざるを得ない」状況となった。平松社長に代わる社長が必要となった弥生だが、6月12日付けで取締役副社長だった飼沼健氏が代表取締役社長に昇任。代表取締役会長の平松氏、代表取締役社長の飼沼氏の2人で経営を進める体制となった。
社長交代だけでなく、弥生は大きな転換期を迎えている。これまで従業員30人以下の小規模企業をメインターゲットとしてきた弥生だが、新たに中規模事業所をターゲットとした「弥生 NEシリーズ」を2005年に発売。小規模事業所だけでなく、中規模事業所に対しても弥生ブランドの訴求を進めている。
企業としての転換期に社長に就任した飼沼氏は、2008年度に売上高100億円という目標を掲げている。昨年度の売上高は72億円、今年度の売上高予想が80億円の弥生はどのように売上高を伸ばしていこうとしているのか。飼沼新社長に聞いた。
■ 「事件」でも揺るがなかった弥生ブランド
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代表取締役社長の飼沼健氏
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―最初にいわゆる「ライブドア事件」についてうかがいたいのですが。業務ソフトは、「企業としての信頼性」を最も必要とするジャンルの製品だと思います。親会社であるライブドアが粉飾決算事件を起こしたことは、ビジネス的に大きな影響を及ぼしたのではないですか。
飼沼氏
今年1月の強制捜査は、我々にとっても寝耳に水のことで本当に驚きました。強制捜査当日は自分のPCに触ることも禁止され、3、4時間は社内に足止めを食らい外出も規制されるような状況でした。その時にはビジネスにもマイナス影響が出てくるだろうと覚悟しました。「これで今年の弥生のビジネスは駄目になった」と正直なところ考えました。
ところが、量販店での弥生製品のシェア推移を調べてみると、強制捜査後に売れ行きが落ち込むことは一切ありませんでした。それどころか、3月には初めて本数シェアが50%を突破するなど、むしろシェアが上がっているんです。
―それは正直なところ、意外な結果ですね。厳しい時期にもかかわらず、なぜ、シェアを上昇させることができたのでしょう。
飼沼氏
おそらく、「ライブドア」というブランドよりも、「弥生」というブランドの印象の方が強かった。弥生という製品に対する信頼であり、期待を感じるユーザーさんがそれだけ多かったということだと思います。考えてみると、企業としての歴史もライブドアよりも、弥生の方がずっと古い。以前から弥生製品を使っていただいていたお客さまが、「弥生は信頼できる製品だ」と感じてくれたからこそ、事件が起こってもシェアが変わらなかったのでしょう。
―弥生では、会計事務所、税理士事務所をビジネスパートナーとしています。会計のプロからは厳しい批判の声はなかったのですか。
飼沼氏
それも覚悟していたのですが、蓋を開けてみると、コールセンターに届いたクレームの電話は1~2件にとどまりました。実際に弥生PAP(Professional Advisor Program)を解除されたのも1件だけでした。むしろ、「こういう時だから、余計に頑張れ」と励ましの声を多数いただきました。これも弥生という製品の信頼性が高かったからこそのことだと思います。
―ライブドアとの合併時点では、ライブドアの持つ金融サービス事業との連動や開発での協力関係が築けることがメリットだという説明がありました。こうした事業の協力関係は今回の騒動でどう変わりましたか。
飼沼氏
ローンについてはそのまま続けております。弥生をお使いの皆さんのデータを預かるデータリレーションサービスについては、ライブドアとはまったく別のデータセンターを使っているので問題はありません。一番、連動があったのは開発部分ですね。中国の大連にある開発センターです。大連には(英極軟件開発有限公司という)ライブドア100%子会社があり、弥生の開発の一部もこの会社を活用しています。ただ、ライブドアはこの子会社で主にファイナンスのシステム開発を手がけていました。ファイナンスのシステム開発のエンジニアと、弥生の開発に必要なエンジニアとは同じ技術者といっても質がまったく異なります。そのため、同じ会社ではあるが、担当するエンジニアはまったく別だったんです。騒動後はそれをさらに明確にしています。
■ 「儲かる」事業を徹底的に伸ばした
―売り上げ的には影響はなかったものの、弥生の社長だった平松氏がライブドアの社長に就任しました。
飼沼氏
1月の後半、平松がライブドアの社長に就任してから本人は、「自分の時間の120%をライブドアに費やしている。弥生の経営に費やす時間は5%しかとれない」と言っていました。ライブドアの社長業だけで100%を超える時間を使っているのですから、弥生の経営に費やす時間はほとんどなくなっていました。
―ということは、社長就任前から飼沼さんが弥生の経営を担当していたということですか。
飼沼氏
そうですね。平松と一緒に仕事をするのは弥生が3社目になります。今回も平松から声がかかって、2003年に弥生に入社しました。
―会長と社長との役割分担は。
飼沼氏
弥生の前に平松と一緒に働いていた時からですが、平松はフロントで、私は黒子です。
―黒子ですか。
飼沼氏
要するに平松が決めた方向を具現化するのが私の仕事でした。私が弥生に入社した2003年当時、弥生はインテュイットという社名でしたが、ちょうどMBOが成立し、米国インテュイットから独立した時期です。平松から、「利益を拡大させたい。そのためのスキームを考えて欲しい」というミッションを受けました。
そこで、手がけている事業の中で、利益貢献度が高い事業を割り出しました。その結果、最も利益率が高いのは保守サポート契約であるという結論が出ました。ところが、当時はサポート契約数が8万件弱で頭打ちになっていたんです。とにかく、「サポート契約者数を増大せよ」ということでプロジェクトが立ち上がったのが2003年です。
―当時、サポート契約者数が伸び悩んでいたのは、どういう理由があったのですか。
飼沼氏
新規加入者と、契約を辞める人の数が同じくらいという状態が続いていました。そこで新規加入者を増やして契約者数10万人とするという目標を平松が掲げ、私はそれを達成するための仕組み作りをすることになったんです。
―保守契約者を増やしていくためにどんな取り組みをしたのでしょうか。
飼沼氏
さまざまな方法で保守サービス加入をユーザーの皆さんにアピールしていきました。ダイレクトメール、アウトバウンドコールなどのマーケティング手法を実施して、その実績に応じて、どの方法がベストなのかを判断し、さらに登録加入を訴えていく。その繰り返しですね。最初にアタッチレートを伸ばし、その上でリニューアルレートを伸ばしていく。その結果、2005年の5月ごろには目標だった契約者数10万という数字を達成することができました。
―予定通りですか。
飼沼氏
タイムスケジュールでいえば、目標としていた時期を前に10万契約となりました。現在の契約者数は12万目前で、おそらく夏頃には12万という数字を達成できると思います。
―2003年度は62億円、2004年度は66億円だった弥生の売り上げが2005年度には72億円に拡大しました。これは保守契約者数増加の効果でしょうか。
飼沼氏
そうですね。保守契約をしてくださったお客さまの7割から8割の方がサプライ品を購入してくださっています。保守契約者数増加とともに、サプライ品の購入が増加していることも売り上げ拡大に寄与していると思います。サプライ品というのは、帳簿や伝票類を印刷する際に利用する専用用紙や封筒などを指します。帳票や伝票類を専用用紙に印刷すると、白い紙に印刷した時に比べかなり見やすく、見た目が良くなります。
―確かに白い紙に印刷された伝票を受け取るよりも、専用用紙に印刷された伝票を受け取った時の方が、その企業に対する印象は良くなります。
飼沼氏
ただ、それは実感してもらわないとわかってもらえないんですよ。だから、保守契約を結ばれたお客さまにサンプルの用紙を提供して良さを実感してもらうといった取り組みを地道に行い、サプライ品の利用者を増やしていくようにしています。
■ 2008年度に売上高100億円の達成を目指す
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社長から会長に退いた平松氏(左)と飼沼氏(飼沼氏の社長就任記者会見より)
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―6月に開かれた記者会見で、平松さんから「自分が社長だった時には言えなかったが、こうして立場が変わると、ぜひ2007年度には売上高100億円を達成して欲しい」ということばがありました。
飼沼氏
(笑)。社内では、「2008年度には売上高100億円を達成したい」という目標が掲げられていました。平松はそれを1年前倒しにして達成しろということでしたが、もともとの予定通り、2008年度に売上高100億円を目指したいと考えています。
―売上高100億円を達成するには、保守契約者やサプライ品の利用を増やすといった試みとともに、新しい売り上げ基盤を確立する必要があると思いますが。
飼沼氏
ご指摘の通りです。弥生シリーズの最上位モデル「NEシリーズ」の顧客を増やしていくことが欠かせないと思っています。
―NEシリーズは、小規模事業所をターゲットとしてきたこれまでの弥生シリーズとは異なり、中規模事業所をターゲットとした製品になります。販売チャネルやサポート体制など、これまでとは異なるのでは。
飼沼氏
確かに、現在販売している「弥生シリーズ」とは販売チャネルが違います。これまでの弥生シリーズは、量販店の店頭などで販売される割合が圧倒的に高かった。それに対しNEシリーズは、企業を訪問して商品を販売する訪問販売ルートで販売されていく製品です。6月には、「弥生フォーラム」を開催しましたが、これも販売パートナーの皆さんにNEシリーズをアピールすることが目的でした。実は以前、(弥生の前身の1つであるミルキーウェイ時代に)「大番頭」という訪問販売チャネルで販売する製品を持っていましたので、まったく初めてのチャレンジというわけではないんです。
―しかし、「大番頭」を販売していた時代とは、PCを利用する環境も、マーケットも変わっているのではないですか。
飼沼氏
確かにマーケットは違います。そこにどう対応していくのかは、同じ業務ソフトを販売されているメーカーさんの例を参考にしながら、ちょっと違う方向を目指していきたいと思っています。弥生という製品の強みは、「簡単」、「やさしい」という点でした。PCにはなじみのない人であっても使い勝手の良い製品である点が他社との大きな違いであり、お客さまに信頼していただくブランドになることができた要因だと思っています。この良さは、NEシリーズでも変えてはいけないポイントでしょう。NEシリーズはネットワーク版ですから、これまでの弥生シリーズのようにスタンドアロンで使う業務ソフトとは異なり、会計のプロがユーザーになる場合だってある。しかし、そういった方も会計のプロではあっても、ネットワークやPCのプロではありません。やはり、弥生のコンセプトである「簡単」、「やさしい」と評価される使い勝手の良さは必要な要素だと思っています。
また、先行するOBCやPCAに比べ、「弥生シリーズのユーザー」の数の多さは大きな武器になると思っています。1990年代の後半、「業務ソフトのネットワーク化」というと、実現までの敷居が非常に高かった。それに比べ現在では、インターネットの普及によって「業務ソフトのネットワーク化」の敷居がだいぶ下がったと思うんです。「これまでスタンドアロン版の弥生を使っていたが、このタイミングでNEに切り替えてみたい」と考えるような企業さんもまだまだ出てくるでしょう。ネットワーク版のユーザー層はこれから拡大していくところではないでしょうか。
―売上高100億円を達成する時には、NEシリーズの売り上げにおける貢献度はどれくらいになりますか。
飼沼氏
2007年度段階で1割程度、2008年度には10~15%程度ではないでしょうか。先ほどお話しした保守契約のように、ソフトとしての売り上げがなくとも、お客さまから対価をいただくビジネスもありますので、売り上げ全体で見れば累積販売本数が多いスタンドアロン版の比率がどうしても大きくなります。
NEシリーズ以外にも、もともとはライブドアで作っていた、口腔画像を管理する歯科医院向けソフト「弥生デンタル」を弥生製品として販売を始めます。ライブドアグループ内で宙に浮いてしまっていた製品だったのですが、歯科医院の中にも弥生製品を使っていただいているところはあります。そこでこの製品を弥生で引き取ることになりました。弥生シリーズは業種を選ばない業務ソフトばかりですが、そこに特定の業種向け製品を組み合わせることで、お客さまにとっても、我々にとってもプラスとなるソリューションを提供できるのではないかと考えました。
―ということは歯科医院向けの製品を皮切りに、特定業種向けソリューションをそろえていくということですか。
飼沼氏
弥生デンタルの次はどうなるといったことはまだ決まっていませんが、ある事業を手がける企業向けの専用ソフトもビジネスチャンスの1つだと考えています。親会社であるライブドアグループでは、USENグループとの連携を指向していますが、これも当社にとってプラスメリットがあることだと考えています。有線放送契約者は弥生の顧客層と重なるところも大きいですし、これもビジネスにはプラスになると考えています。
こうしたプラスを積み重ねて、売上高100億円を達成したいですね。
■ URL
弥生株式会社
http://www.yayoi-kk.co.jp/
( 三浦 優子 )
2006/07/13 00:00
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