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富士通フロンテック海老原社長、「最先端技術と匠の技術が同居する金融・流通ソリューションカンパニーを目指す」


 富士通の関連子会社である富士通フロンテック株式会社は、金融・流通分野に高い実績を持つ富士通グループの1社。だが、その一方で、手のひら静脈認証機能を搭載したATMや、RFIDを活用したソリューション提案、そして、ロボットであるenon(エノン)などの最先端技術を採用した製品を数多く持つ。近い将来の実用化が見込まれるカラー電子ペーパーも、富士通フロンテックの製品である。さらに、金型成形技術にも長年の実績を持つのも同社の特徴。匠の技ともいえる技術力と、ロボットなどの最先端技術とが同居する不思議な雰囲気を持った会社でもある。今年6月に、富士通フロンテックの社長に就任した海老原光博氏に、同社の事業戦略などについて聞いた。


代表取締役社長 海老原光博氏
―富士通フロンテックとはどんな会社ですか。

海老原氏
 当社の基幹事業は、銀行などで利用されているATMを中心とした金融システム事業、スーパー、コンビニエンスストアで活用されているPOSシステムを中心とした流通システム事業。そして、羽田空港第2ターミナルのフライト情報表示システムや、せり市場向けのオークションシステムなどに代表される産業・公共ソリューション事業になります。こうした事業に加えて、ここ数年、ソフト・サービス事業の拡大に力を入れており、特に店舗向けATMを対象にしたアウトソーシングサービスが急拡大しています。金融機関が、コンビニエンスストアをはじめとする各種店舗に、無人出張所としてATMを導入するといった動きが活発化していますが、このATMの運用、管理を一括して当社が請け負うというものです。東京スター銀行や、サークルKサンクスなどを対象に、全国41の都道府県に展開していますが、この事業は、これから拡大していくことになりそうですね。

 一方で、新規ビジネスとして位置づけ、取り組んでいるのが手のひら静脈認証やRFIDです。手のひら静脈認証はセキュリティに対する需要が高まるとともに事業が拡大していますし、RFIDも来年度以降には事業が本格化するでしょう。

 2003年から2004年の前半にかけては、新札券の発行により、ATMの特需があり、売上高は過去最高を記録しましたが、その後の反動も当然予想できました。その反動を埋めるという意味で、これらの新規ビジネスへの投資は重要だと判断しました。短期的には、ソフト・サービス事業の買収によって、約200億円の売り上げ増があり、ATM特需の反動をほぼカバーできましたが、中長期的には新規ビジネスの拡大が重要だととらえています。これからも新規ビジネスに対する投資は継続していこうと考えています。

 また、当社には数十年以上にわたる金型成形技術があり、この技術に代表されるように、メカに対するノウハウを蓄積していることも強みとなります。メカとエレキの両立、あるいは精密加工技術と要素技術とでもいいましょうか、こうした異なる2つの技術を蓄積していることは当社の特徴のひとつだといえます。ATMの開発でも、紙幣を確実に識別して、搬送し、格納する。また、それを取り出して、正確な枚数で排出する。これは、メカとエレキの技術が高いレベルで融合しなくては実現しえないものです。

 そうしたなかで、当社は、この数年に大きな転換期を迎えたといえます。


―転換期とはなんですか。

海老原氏
 かつての富士通機電の時代には、どうしても富士通の開発、製造の一部を受託するという構造がありました。しかし、2001年から2002年にかけて、富士通の熊谷工場を当社の新潟工場へ統合したのに続き、富士通厚木開発センターを当社本社工場に統合。さらには、昨年2月に、富士通の流通ソフトおよびサービスを担当していた富士通ターミナルシステムズを買収し、富士通グループのATMやPOSシステムに関するハード、ソフト、サービス事業を当社に一本化しました。つまり、富士通から一部受託するという関係から、一貫した形で受託する形に変化したのです。事業の効率化、ローコストオペレーション、固定費の削減といったことまで含めて、金融システム、流通システムに関する開発、製造は、すべて任されることになりました。昨年2月には、富士通から出向して3年以上を経過した社員530人が当社に転籍となり、富士通フロンテックに骨を埋める覚悟で、また、背水の陣ともいえる気持ちで、当社の事業に取り組んでくれている。つまり、名実ともに、当社が自立して、事業が行える体質が出来上がったともいえるのです。この変化は極めて大きいといえます。


―社長就任に際して、社員にはどんなことをいいましたか。

海老原氏
 4つの方針を掲げました。ひとつめは、従来ビジネスへの継続的な取り組み強化と、新規ビジネスへの対応です。従来ビジネスでは、金融分野向けのATM、流通分野向けのPOSが主力となります。ここでは、SE体制の強化や、ATMに関するアウトソーシングビジネスといった新たなビジネスモデルにも積極的に取り組んでいきたい。アウトソーシングでは、先にも触れた店舗向けATMサービスが核になります。同サービスは、Fsasなどの富士通グループ企業と連携しながら推進していくことになります。また、新規ビジネスでは、投資のメリハリをはっきりとつけて、必要なところに投資を図っていきたい。


enon
―新規ビジネスでは、RFIDやカラー電子ペーパーなどの最先端技術が目白押しですが、それぞれの事業性をどうとらえていますか。

海老原氏
 この分野は、まだまだ試行錯誤ですね(笑)。RFIDは、リネンタグという切り口での提案をはじめました。熱や水にも強いという特徴を生かして、おしぼり業者などにも活用してもらうという可能性もありますし、富士通の営業部門と連携してさまざまな提案を行っていくということになります。

 カラー電子ペーパーは、まだ量産化技術を確立できる段階にはありません。もう少し時間がかかるでしょうね。ただ、電源が不要、カラーである、フィルム液晶なので曲がるという特徴を生かした用途は幅広く想定されますから、あわてずにやっていきます。

 ロボット事業に関しては、一部店頭での案内用などでの導入が始まっていますが、さらなるコストダウンに取り組んでいかなくてはなりません。ただし、2007年度には、単年度黒字へと転換できると予想しています。

 手のひら静脈認証に関しては、これから一気に需要が拡大すると予想しています。国内でも、三菱東京UFJ銀行や駿河銀行、池田銀行などの導入に加え、企業における入退室管理で、手のひら静脈を採用する動きが出ています。2007年から2008年にかけては、金融端末で1万3000台、ログイン端末として18万5000台の合計19万8000台の需要を見込んでいますし、そのうち海外が12万台を占めると予想しています。


―2つめの方針はなんですか。

海老原氏
 2つめは、顧客志向の姿勢を持つということです。当社は、開発者のおもいや夢を大切に育ててきた。これは今後も継続していきたい。しかし、顧客志向での視点をもっと取り入れていく必要があると考えています。


―それは裏を返せば、顧客志向の視点が弱かったということですか。

海老原氏
 その点での反省はあります。例えば、ある店舗に導入したPOSシステムで、データを送信するのに無線障害が発生した。だが、機械を調べてもその理由がどうしてもわからない。現場に出向いて調べると、店舗の近くに自衛隊の基地があり、強力な電波が発信されているのが影響していたことがわかった。また、コンビニエンスストアで利用されている発注用のハンディターミナルは、肩からかけて利用しているが、それをかけたまま椅子に座ると端末が机にドンとぶつかってしまう。それに、高価な端末だからといって、丁寧に扱ってくれているとは限らないんです(笑)。こうしたことは、現場にいかないとわからない。どんな使われ方をしているのかを目で見て、初めてわかるんです。

 また、現場からはさまざまな要求があがってきます。それを肌で感じて開発するのと、そうでないのとでは大きな差が出てくる。当社では、表示システムや金型製品といった自主営業製品と呼ばれる製品領域では、自前の営業部隊があったが、主力の金融システムおよび流通システム製品については、富士通の営業部門が担当していた。そのため、どうしても現場の声が入りにくい、声が遠い、というきらいがあった。この改善は喫緊の課題です。

 今後は、富士通の営業部門との連携を図ったり、新たなパートナーとの連携や、自主営業体制を広げるといったことによって、これまで以上に顧客のことを知る努力をしていく。また、設計者がどんどん現場に出てくることも大切だと。それが、良い製品を開発、製造し続けることにつながると思います。


―現在、パートナー会社は何社ですか。

海老原氏
 2002年の段階では約20社でしたが、それが現時点では48社となっています。現時点では、表示装置などの自主営業領域でのパートナーが中心ですが、新規ビジネス分野を含めて、パートナービジネスは積極化していきたいですね。


―3つめの要素はなんですか。

海老原氏
 3点目は、富士通フロンテックを、強い、骨太の会社にするということです。そのためには、個人のスキルを高めていく必要がある。530人が富士通から転籍したことで、そのベースはできた。転籍してきた社員に対しては、従来の年金制度を断ち切って、当社独自の年金制度の導入と充実した福利厚生を用意できたとも考えている。社員が安心して力を発揮できる仕組みの上で、強い会社を作り上げていきたい。富士通がくしゃみをしたら、子会社は風邪をひくという体質ではだめです。親会社に頼らない体質を作らなくてはならない。それにはやはり社員が大切です。当社には、大変優れた人材が揃っていると自負しています。約2800人の社員が、自立した新たな富士通フロンテックの文化を作ってくれると期待しています。

 そして、4つめには、利益を生み出すことができる会社であるという点です。また、事業活動全般にわたって、社会正義や公正のルールを絶対に踏み外さないということです。


―ところで、第1四半期の業績は、厳しい内容でしたね。今年度は、過去最高となる売上高を目指していますが、大丈夫でしょうか(笑)。

海老原氏
 2003年度に1029億円と過去最高の売上高を記録していますが、今年度はこれを1億円上回る1030億円を目指しています。確かに、前年比20.5%増という大幅な伸びが必要であり、第1四半期の売上高は前年同期比4.0%減の155億円、営業利益も11億円の赤字という内容にご心配される方もいるでしょう。

 しかし、これは折り込み済みです。第2四半期以降、ソフト・サービス事業の増収が見込めるのに加え、2006年度後半からは、流通分野向けPOSシステム、あるいはATMのリプレース需要が想定される。特に、韓国における新券対応によるATMおよび関連ユニットのリプレース需要は大きなプラス要素となります。国内の金融関連でも、いかに導入コスト、運用コストの低減を図るかといったことが課題となる一方、セキュリティを強化するといった動きもありますから、次世代ATMに対する需要も期待できます。

 富士通は、自動ATMで約25%、営業店端末で約39%、POSシステムで約17%といったシェアを持っていますし、金融機関向けのトータリゼータでは51%という圧倒的なシェアを持っています。今年2月に投入したPOSシステムのTeamPos3000や、ユニバーサルデザインを採用したATMのFACT-Vなどの戦略的製品のほか、ATMにおけるソリューション展開を行うパートナー向けにSDKを用意し、これらを国内および海外に展開していく考えです。

 いま、当社は、しっかりと利益を出せる会社へと体質転換を図っています。すべてを親会社に頼るのではなく、自立した、存在感を持った会社に変化していく考えです。



URL
  富士通フロンテック株式会社
  http://www.frontech.fujitsu.com/


( 大河原 克行 )
2006/08/11 14:15

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