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NEC矢野社長、「NGNを柱に事業を推進、来年以降の業績には心配がない」
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■ 構造改革、財務改革を経て経営改革へ
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代表取締役 執行役員社長の矢野薫氏
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―社長就任から8カ月が経過しました。就任以来、どんな点に取り組んできましたか。
矢野氏
ここ数年、NECは改革の連続でした。前々任の西垣浩司さんの社長時代は、まさに「構造改革」のフェーズ。過剰な設備、過剰な人員となっていたものを、捨てるものと、伸ばすものとに選別し、伸ばすべきところを伸ばしてきた。
これが、前任の金杉明信さんのフェーズでは、「財務改革」となった。3年前のNECの自己資本比率は8%。これをどうするかが最大の課題だったわけです。3年たったいま、自己資本比率は21%にまできている。バランスシートの改善に成功することができた。西垣さんの時代、金杉さんの時代とやってきた改革が、なんとかここにきてカタがついてきた。ITバブル崩壊の後の傷を癒やす時期がいよいよ終わろうとしている。だから、これからは「経営改革」であると。
僕が、就任会見で、「攻めの経営」といったのは、こうした改革に取り組んだ地盤の上で、いよいよ攻めに出られると判断したからです。NECには優秀な社員と、すばらしい顧客がいる。NECグループの15万4000人の社員がその気になったら、それは、すごい力になりますよ。
―すでに「攻めの体質」に変わったという認識はありますか。
矢野氏
社員の気持ちは変わったと思っていますよ。社員もNECの強みを再認識しはじめている。いま、私は社内に対して、こんなことを言ってるんです。「NECの遺伝子はなんだったか。もう一度思い出してくれ」と。私は、NECが培ってきた遺伝子とは「品質」だと思っているんです。これまでのNECの歴史を振り返って見ると、常に品質ではナンバーワンだった。社員は、これを忘れていたんじゃないかと。なぜ、自動車メーカーがNECから半導体を購入するのか、日本を代表する通信事業者がなぜNECにシステムインテグレーションを依頼するのか。それは、NECが他社に比べて品質がいいからなんです。オープンシステムだって、半導体だって、他社に比べて品質は1桁いい(笑)。「品質は、いまだっていいんだぞ。自分たちのまわりをよく見てみろ。そして、NECのDNAをしっかりと認識してくれよ」。こんなことを繰り返し言っているんです。
―ここ数年、残念ながらNECは「強い会社」といえる状況ではなかった。いまはどうですか。
矢野氏
いや、まだ、NECは強い会社にはなりきっていない。チャレンジャーもいいところだ。一周遅れだと指摘する人もいるが、そこまではいかないまでも、確かに遅れた。ただ、1年前と違うのは、まず気持ちが強くなってきたこと。NECには、ラグビートップリーグにNECグリーンロケッツというチームがある。あのチームのゴールラインディフェンスの強さはスゴイ。あの粘り強さのようなものが、いまのNECにはある。ただし、すぐに結果が出るわけではない。結果を問うのは、もう少し待って欲しい。
―2つの課題事業がありますね。
矢野氏
そうです。カタがついていない課題が2つある。ひとつは、半導体事業。これは、昨年度になって急激に事業が悪化した。金杉前社長もあまりにも急すぎて手が打てなかったというのが正直なところだったはずです。この事業に関しては、すでに社長を交代し、人事をカンフル剤にして、方針を変えるという荒療治を、金杉さんが行った。まだ十分に成果が実ったとはいえないが、着実にいい方向には向いてきている。
その成果のひとつが、「NECグループの半導体事業の柱はシステムLSIである」という方針を改めて明確にしたことです。システムLSIで、強いプロダクトを作ろうと。Platform OViAや、ALL FLASHマイコンなどがそれに当たります。
また、システムLSIは、「部品ができたから、どうぞ買ってください」という商売ではない。まだ製品ができていない段階から、顧客に一緒にやりましょうと持ちかける。こうしたことを徹底してやりはじめた。半導体事業の回復スピードが遅いとの指摘は、その通りだと思いますよ。だが、システムLSIは、お客のところに設計フェーズから入り込んでやっていかなくてはならない。だから、3年ぐらいは必要。「弾込め」に時間がかかりますから、そんなに一気によくなるものではない。私自身も、長い目でみないといけないとは思っています。半導体事業は、まだ赤字だが、来年度は大丈夫だと思っていますよ。
―もうひとつの課題は携帯電話ですね。2006年度上期の業績でも、モバイルターミナル事業の売上高は前年同期比25.4%減。携帯電話の出荷台数が4割減。赤字決算という厳しい内容でしたが。
矢野氏
携帯電話事業は、海外における第3世代携帯電話ビジネスの拡大を前提とした取り組みが裏目に出た。われわれが思ったように、第3世代にはシフトせず、第2世代、あるいは2.5世代と呼ばれるものが継続した。海外市場の見通しを明らかに誤った。
では、第2世代に戻るのか。一度切った舵はなかなか戻らない。しかも、例え舵を切り直せたとしても、後追いであるのに加え、技術が成熟した市場だからどうしても価格競争に陥る。つまり、戻そうにも戻せない状況だったのです。加えていうならば、海外にリソースを投じた分、比較的好調だった国内向けのリソースが薄くなった影響も出ていた。国内で強い商品が投入できなくなり、シェアも落とした。これも赤字に影響した。でも、私は、携帯電話事業は、それほど心配はしていないんですよ。
―どうしてですか。
矢野氏
まず海外を思い切って縮小するという手を打った。顧客がいるからゼロにすることはできないが、この縮小は、かなり思い切ったものとした。この成果として、下期中には、海外の携帯電話事業を適切に管理できるところまできた。だから、来年はもう大丈夫。
その一方で、国内にも一気に力を注いできた。ここにきて、ようやく商品が強くなり始めたと思っていますよ。デザインとか、使いやすさも、僕から言えば合格点。「Nはダサイよね」といわないで、ぜひ、Nの商品を見てくださいよ(笑)。結構いいですよ。702iDのデザインは斬新だし、903iは断然使い勝手がいい。また、902iX HIGH SPEEDによって、HSDPAに対応した高速データ通信モデルもいち早く市場に投入した。僕は、海外にいくことが多いので、薄い601iを使っているけど、これもいい。商品は強くなってきましたよ。まだすべてのラインアップができあがっていないが、すべての製品ラインで強いものを出しますよ。どんなものが出てくるのか、僕自身も楽しみにしている。
携帯電話事業は、全体的には、1年ぐらい遅れたかなぁという反省があります。だけど、遅れたのは、ああやったらどうだ、こうやったらどうだ、と考えた末のこと。これをやってみたけど駄目だったということもあった。だけど、僕らがこれでいいと思ったことはやってきたわけだし、そこで学んだことも多かった。だから、それならばら仕方がないなぁ、とも思っている。
海外を縮小するために一時的に費用がかかるため、通期の業績は厳しいが、この下期は、そこそこの水準でいけるし、来年度からは黒字基調でいけることが見えている。だから、あまり心配していないんですよ。
―矢野社長から見て、PC事業は課題事業ではないのですか。国内トップシェアでありながら、黒字化に時間がかかっていますね。
矢野氏
PC事業は、欧州のパッカードベルの売却がいよいよ決まり、構造改革も進んでいる。いま、PCは課題事業なのかと問われれば、それは課題事業ではないと言い切れる。収益性があがったり、下がったりしているが、マクロにみれば、NECにとって貢献度が高い事業だといえるからです。
―外から見ると、スピード感や柔軟性といった点で遅れが感じられますが。
矢野氏
スピード感があるのか、あるいは市場の変化に柔軟に対応できているのか、と言われると、確かに辛いところがある。変化が大変激しい分野ですから、体質を変えるのには時間がかかる。実は、いまやっていることがある。内容は、いろいろあって言えないが、とにかくPC事業は、課題事業とは考えていない。
■ NGNはNECが最も得意な分野
―本業ともいえるITネットワーク事業は、現状をどう把握していますか。
矢野氏
着実に利益を出せるという状況にきたと考えています。これまでは、失敗プロジェクトといわれるような、赤字のSIプロジェクトがいくつもあったが、昨年度の段階で、だいたい大きいものは処理できたかな、と思っている。また、仕組みややり方を大きく変えることで、再発防止もできている。これから、大きな失敗プロジェクトが出てくることはないと言い切れるところまできた。
―改めてお伺いしますが、NECのITソリューションの強みはなんでしょうか。
矢野氏
NECの強みは、過去から積み上げてきた実績です。だから、NECのITソリューションの強みはなにかというと、第1点目には、メインフレーマーとして培った実績ということになる。ITソリューションはオープン化しているが、やはり信頼性という意味では、まだまだメインフレームの安定性、信頼性の方が上です。そのメインフレームのOSを自分たちで作ってきたベンダーは、日本ではNECだけですよ。大変な苦労して、揉まれながらOSを作ってきた人たちが、いまのNECのトップ層にきている。そういう人たちが引っ張っているITソリューションですから、他社との基本が違う。ここに強みがある。
そして、もうひとつの強みは、ITとネットワークが融合したソリューションを提供できる、ということです。通信事業に長年携わっているNECだからこそ、「ITとネットワークの融合」という言葉が自信を持っていえるんです。この分野における僕の仕事は、しっかりとした地盤が出来始めたITネットワーク事業をどう成長させていくか、利益率をあげるためにはどうするか、という成長戦略への挑戦です。それを具現化するのが、NGN(次世代ネットワーク)ということになります。
―矢野社長がトップに就任して以降、NGNに対する発言が急激に増えましたね。
矢野氏
外から見ると、「伝送畑出身の矢野が社長に就任すると、ああいうことを言い出すのか」と思うかもしれない。だが、社内の反応はまったく違う。僕は、4年ほど前から社内に委員会を作って、自ら委員長を務めながら、「これからNECは、NGNをやるんだ」と、ずっと言い続けてきた。これは、当然のことながら、当時の社長である金杉さんの了解をとって、副社長であった僕が推進してきたものです。これまで3年以上、ずっと積み重ねてきたことですから、社内では、「NECのこれからの方向はNGNである」というのは、当然の共通認識なのです。
では、なぜ、NGNなのか。それは、NECが最も得意な分野がNGNであり、その市場が大きく拡大することが明らかであるからです。
この10年を振り返ると、インターネットの登場はすごい革命だった。また、携帯電話の普及も大きな革命だった。さらに、ここにきて地上デジタル放送が登場して、放送の世界でも大きな進化が起きようとしている。こうしたバラバラに起きている革命を、いま一度俯瞰(ふかん)してみると、革命ともいえる技術同士を組み合わせることで、もっといいものができるんじゃないかという議論になってくる。IPをベースとした携帯電話と固定電話の融合などもそのひとつです。役者が変わったときには、舞台も大きく変わる。インフラも大きな変化が求められているのです。
インターネットは、いまや欠かすことができないネットワークとなっている。だが、その一方で不満もたくさんある。例えば、フィッシングとか、ウイルスやスパムメールなどがまん延し、安心、安全なネットワークとはいえない。多くの人がもっと安心、安全なネットワークを望んでいる。一方、ユビキタス社会という観点で見ると、携帯電話も、もっと便利で、快適な使い方への進化が必要です。WiMAX、3.5G、さらにはLTEといった高速データ通信環境が整備されれば、携帯電話でももっといろいろなことができるようになる。このように、みなさんが求めている安心、安全、便利、快適というネットワークを提供しますよ、というのがNGNなんです。
NGNの新しい時代に、インフラや端末をどう使うか、それに伴って、ITシステムはどう変わるか、といったソリューションが求められる。これはNECが得意な分野。しかも、通信事業者に納めるNGNのインフラも、そのほとんどがソフトであり、結局は、ITとネットワークが融合したソリューションで構成される。これもNECが得意としている。つまり、NGNという風を起こすのはNECだ、というわけですよ(笑)。
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NGNの事業領域
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―NGNは、通信事業者に対するインフラの提供が軸になります。そうなると、NECの顔が見えない事業が中心になる。言い換えれば、NGNを事業の中核に据えると、必然的にNECは黒子の存在になりますね。
矢野氏
NECは、NGNの時代に、黒子のままでいようとは思っていませんよ。NGNは、通信事業者を対象にしただけのビジネスではないんです。NGNとは、キャリアの新たなネットワークの上に、別の企業が参加して、新たなビジネスが創出できることに良さがある。NTTがNGNのトライアル参加企業を募集していますが、これは、NGNというこれまでのネットワークインフラとは違うものが求められていることの証でもある。とくに、サービスという点でNGNの広がりは計り知れない。かつてのネットワークは、サービスというと、電話による通話サービスだったから、それは電電公社がやればいいという話になる。だが、NGNの時代になると、Eコマースをはじめとする各種サービスが必要となり、複数の企業が参加しないと成り立たない。NGNは、企業が参加するものなのです。
NECの強みはNGNの分野において、一気通貫でソリューションを提供できることなんです。ユビキタスあるいはそれを実現するインフラであるNGNのすべてを端から端まで全部語れる企業はNECだけです。競合他社もNGNということを言っていますが、それは小さい部分だけを指したNGNです。NECが言っているNGNは、最も広いスコープなんです。
NGNにはさまざまなビジネスチャンスがある。そこに対して、最も広いスコープで語れるNECが、黒子になるはずがない。個人ユーザーにとって、NGNの世界のインターフェイスになるのは、携帯電話であり、PCであるわけですから、そこではNECは前面に出ることになる。NECは、NGNによって、社会が変わり、生活が変わるためのお手伝いをさまざまな角度から行っていく。人間の生活が豊かになり、仕事が楽になり、人生が楽しくなる。こうした世の中を作りたいから、NECはNGNという旗を振ってやっていくんです。
―NGNを表現する上で、矢野社長は、改めてC&C(コンピュータ&コミュニケーション)という言葉を使っていますね。NECにとっては重要なキーワードですが、意識的に使っているのですか。
矢野氏
C&Cは、小林宏治さんが会長時代の1977年に、アトランタで開催されたインテルコム77で初めて提唱した言葉です。今年はそれから29年。来年でちょうど30年になります。そのときに、小林さんが言ったのは「21世紀のはじめには、いつでも、どこでも、誰もが、高速通信を使って、豊かな生活ができる時代がくる」ということなんです。それが当時、NECが描いた夢なんですよ。だから、「小林さん、30年前に描いた夢が、ほぼ現実になりましたね。小林さんの夢を本当に現実のものにするために、いま、NECはがんばっていますよ」ということをいっているんです。ただ、これは社内に向けては言っている。わかりやすいから。だけど、外向けには使いません。C&Cというと、ちょっと古くさい感じもしますから(笑)。どうしても、C&Cから連想するのはハード先行のイメージになる。ITとネットワークの融合の世界では、ソフトが中心。NECのエンジニアも、80%がソフトのエンジニアですからね。
―いま、社員のモチベーションは高いと感じていますか。
矢野氏
高くなってきていますよ。私も、「常に元気で行こう」といっている。元気で行こう、なんて初歩的な話だが、それは大事なことなんです。僕は、あんまり誉めることが上手じゃないんだけど(笑)、社員を誉めることにこだわっている。社員とのコミュニケーションにも真剣です。毎週、日曜日に一生懸命、社長メッセージを書いて、社内のページにアップしている。開始当初には、事務局が書きましょうか、なんていっていたんですが、全部自分で書いて、それを毎週流している。そこで、こんなことがあった、あるいは、こうした方がいいんじゃないか、といったことをいう。自分では、結構まとまった文章だと思っているんだけど(笑)。また、事業場、支社、工場にいった時にも、短い時間でもいいからなるべく社員に集まってもらって、直接話をする。その時には、とにかく気持ちを込めて話をする。社員から見ると、「なんでこんなに熱が入っているのか」と思うかもしれないけど(笑)。NECの社員は本当に優秀ですよ。だから、ギリギリまで言わなくてもわかってくれる。僕が期待しているんだ、ということが伝わっていると思っていますよ。
いま、NECは、NGNという旗を立てて、ユビキタス社会に向けて進軍せよ、という号令をかけている。ITとネットワークとの融合ではダントツの技術を持っている。そして、品質もいい。なににも増して社員が良くて、顧客がいい。これだけ持っていれば、事業は絶対よくなるんですよ。その点はひとつも疑っていない。だから、いまは厳しいけど、来年以降は、あまり心配していないんですよ。まぁ、見ていてください(笑)。
■ URL
日本電気株式会社
http://www.nec.co.jp/
( 大河原 克行 )
2006/12/15 00:00
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