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i2佐藤社長、「最大のライバルはExcel、新世代SCMで日本特有の問題をクリアする」


 外資系ITベンダーの社長には、複数の企業の経営者を経験した人材が登用されることが多い。しかし、2006年7月1日付けでi2テクノロジーズ・ジャパンの社長に就任した佐藤年成氏は、長年、ユーザーとしてi2製品を利用してきた実績が評価され、日本法人の社長に就任することとなった。その経験から、「日本でのライバルは、いわゆるSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)ソフトを販売している企業ではない。最大の競合ソフトはマイクロソフトのExcel」と指摘。自社製品については、「新世代SCMへ移行すべき時期になった」と断言する。同社が目指す新世代SCMとはどんなものなのか。佐藤社長に聞いた。


ユーザー時代に日本には欧米型SCMをそのまま導入する難しさを実感

代表取締役社長 佐藤年成氏
―まず、最初に日本でのSCMを取り巻く現状について、うかがいたいのですが。

佐藤氏
 数年前にはSCMのブームがありましたが、今はそのブームも一段落した段階です。

 私が友人にi2に行くと言ったら、そのうち8割が「なぜ、いまさらSCMの会社に行くんだ? もうSCMブームは終わっているだろう」と言いました。わざわざブームが終わったSCMの会社には行くことはないというんです。

 でも、ブームが終わったといってもSCMの役割がなくなったわけではありません。お客様はSCMを必要としています。SCMとは企業活動そのものであるといってもいい。

 むしろブームが終わったことで、「流行だからSCMが欲しい」という企業はいなくなって、本当にSCMを必要とするお客様が残ってくれている。SCMにとってはよい状況ではないかと思います。

 i2が提供するソリューションも、新世代SCMとなってきました。われわれとしてはこの新世代SCMを日本のお客様にあわせて提供していきたい。


―昨年、佐藤さんが社長に就任した際のニュースリリースには、「単純な欧米流のプロジェクト推進やパッケージソフト導入だけではSCM改革を実現できないということを、身をもって体験しました」という一節がありました。外資系ベンダーの社長らしくない一節だと印象に残りました。

佐藤氏
 i2テクノロジーズ・ジャパンに入社したのは昨年の4月ですが、実はこの日本法人ができる前からi2ユーザーだったんです。もう12年前のことになります。当時、私が在籍していた東芝の半導体事業部でSCMを導入することになり、他社製品と比較検討した結果、i2のソリューションを導入することを決めました。

 i2以外のベンダーのERPやCRM導入も手がけました。主なアプリケーション、ほとんどにユーザーとして関わったと思います。

 そうやってユーザーとして10年以上苦労しましたから、ベンダーのキレイなセールストークだけでは、実際にはうまくいかないことも身に染みてわかっている。特に日本は組織のあり方が異なるので、欧米型SCMをそのまま導入してもうまくいかないんです。


―日本の組織というのはそんなに独特なんですか?

佐藤氏
 「グローバルで在庫を削減していく」という命題を解決するといっても、日本企業の場合、「組織の壁」というものが必ず存在するんですよ。例えば、工場と事業部は仲が悪くて、スムーズに連動しないとか。


―例えがリアルですね(笑)。

佐藤氏
 同じアジア企業でもサムスンは欧米型SCMをそのまま導入できる組織体になっています。それと同じことが日本企業にできるのかと考えると、決してそういうわけにはいかないでしょう。

 日本企業にSCMを導入する際には、欧米型のSCMをそのまま導入するのではなく、日本企業に合わせて提供しなければ、導入効果は出てこないというのが本当のところでしょう。


新世代SCMはファースト&シンクロナイズドPDCA

―先ほど、「i2が提供するソリューションも、新世代SCMの時代に入った」という指摘がありました。新世代SCMとは、どういうものなのですか。

佐藤氏
 ワンワードで説明すると、「ファースト&シンクロナイズドPDCA」。SCMの中で、どの部分はよく、どの部分がだめだったのかをきちんと把握し、さらにそれがひとつの企業や部門にとどまらず、関わるすべてのデータが同期し、PDCA(Plan・Do・Check・Action)を回していく。

 すでにコンセプト自体は、2年ほど前から提唱していましたが、ソフトウェア側も成熟してきたことで、実現しやすい環境が整いました。


―新世代SCM実現のために、どんなことが必要になってくるのでしょう。

佐藤氏
 いくつかの要点があります。まず、「同期化」です。これまでのSCMは「最適化」を進めてきました。生産体制しかり、在庫しかり。最適化はこれからも重要なキーワードではありますが、ひとつの部門で最適化が完了したら、次にやるべきことは連携している部門や企業間の最適化。つまり、一つの部門や会社を最適化してそれで完了ではなく、異なる部門や企業まで最適化していくためにはデータを同期させていく必要がある。同期化されたデータに基づいて、最適化を追求しなければ、本当の意味での最適化は実現しないのです。

 二つ目のポイントは、「システムに合わせる」のではなく、「システムを合わせる」という点です。ERPに代表されるように、「これがデファクトなんですから、システム側に組織やビジネスモデルを合わせてください」というのが、業務アプリケーションの最近のトレンドでした。しかし、SCMはそれではだめなんですよ。


―先ほど指摘があったように、日本の企業体は欧米型ソリューションをそのまま利用するにはそぐわないからですか?

佐藤氏
 いや、これはSCMとERPとの違いなんです。そもそも、何のためにSCMを導入するのか? ずばり、他社との差別化が目的でしょう? 他社と差別化するために導入したのに、システムに合わせてしまったら、他社と差別化どころか、同じになってしまうではないですか。

 SCMとは会社の戦略を実行するために導入するものです。つまり、会社の戦略をシステムに合わせるのではなく、システムを会社の戦略に合わせなければ意味がないわけです。

 それを実現するために重要な三点目のポイントは、i2という企業はソフトウェアベンダーではあるのですが、売るのはあくまでもソリューション。売り方もこれまでと変えていく。ソフトを持って行って、「買ってください」とお願いするのではなく、お客様のところに行って、問題を解決するお手伝いをすることをビジネスとしていかなければならない。場合によっては、ソフトを売らなくても、お客様の問題が解決する場合も出てくるでしょう。そういうビジネスをする企業に、変わっていかなければならない。


―「ソフトではなく、ソリューションを売る」ということを実現するためには、営業体制なども変更していく必要があるのではないですか?

佐藤氏
 営業のスタッフの数は昨年と変わりないですが、ソフトではなくソリューションを売ることができるスタッフへと全取っ替えしました。

 ただ、もともとi2という企業は、「お客様のために」というところからスタートしています。だから、1年という短い時間の中でほぼ半分くらいは目指すべき、サービス指向の企業に変身することができたのではないかと思っています。

 四つ目のポイントが、「見える化」。SCMは導入することが目的ではありません。しかし、これまではソフトを売れば終わりになってしまっていたので、SCMを導入したことで、何がどうよくなったのか、お客様自身もはっきりと把握できていませんでした。そこでこれからは、導入後の効果をきっちりと把握し、管理していくということを徹底したいと思います。いわば、SCMにおけるKPI(Key Performance Indicator)の提案です。


―SCMにおけるKPIとは、導入効果を指標ではっきりと把握するということですよね? 導入後の面倒まできちんとみていくことが重要ということでしょうか?

佐藤氏
 ソフトを売るだけでなく、販売後のフォローまできめ細かくやるという覚悟でお客様と対峙していかないとだめだと思うんです。

 ただ、これもソフトを持っているからこそできることでもある。お客様の問題解決を行う「提案」なら、コンサルタントでもできるでしょう。われわれはソフトを持っているので、提案をしながらもそれを実現するためのITインフラ導入のお手伝いができる。これがSCMベンダーであるわれわれの強みだと思っています。


日本特有の問題点を最新テクノロジーがフォロー

―日本でも、大手製造業などにはすでにSCMを導入している企業が多いと思います。それこそSCMブームの際に、SCMを導入すべき企業は導入を済ませてしまったのではないですか?

佐藤氏
 ある業種のトップ5企業には、ご指摘通り、すでにSCMが導入されている場合が多いです。ただ、6位から10位までの企業に関しては、未導入というケースが多いですね。だから、まだまだ新規でSCMを導入していただけるお客様も残っていると思います。

 しかも、すでに導入してはいるもののうまくいっていないケースもある。やはり、ソフトありきで導入したケースはうまくいっていません。最初に戦略があり、それを実現するために導入されたお客様というのはうまくいっているんです。

 SCMを導入したものの成果があがっていないというお客様をフォローしていくことも、われわれの重要な業務になってきます。


―製造業でSCMを導入した場合、「予測」と「実際」の差が大きく、「導入したものの、成果があがらない」という声もあるようですが。

佐藤氏
 予測値の精度をあげる努力はソフトベンダーとして怠ってはいけません。実際に10年前に比べるとかなり精度はあがってきたと思います。ただ、予測値はあくまでも予測ですから、実際との差はどうしても出てきてしまいます。

 それに一口に製造業といっても、製造する商品の性格によって、どこにSCMを導入すべきか変えていかなければなりません。商品によっては販売部門にSCMを投入すると成果があがるものもあれば、調達においてSCMを導入することで成果があがる商材もある。そういったフォローをお客様向けに行う必要もあるでしょう。


―欧米型のソリューションが日本企業にうまくなじまないことも、成果があがっていない要因のひとつになるのでしょうか?

佐藤氏
 確かにそういう部分もあります。ただ、先ほどご紹介したようにソフトウェアが成熟したことでそういう問題点を解消することが容易になってきています。

 日本企業の場合、事業部ごとにまったく異なるITプラットフォームを利用しているケースも少なくありません。私も経験がありますが、ある事業部はレガシーシステムを使っているが、別な事業部はオープンシステムを使っていて、データ連携をさせるためのツールを開発しなければならない。そうなるとコストも時間も余分にかかります。

 i2では、こうした事態をカバーするために、アジャイルビジネスプロセスプラットフォーム(Agile Business Process Platform=ABPP)というソリューションを提供しています。ABPPは、データモデルやビジネスルール、ユーザーインターフェイス、ビジネスワークフローといった標準アプリケーションコンポーネントを素早く組み立て、企業に固有のビジネス要件や市場要件に適応させることができる開発ソリューションです。データを連携させるためにプログラムを書き換えてきた手間が大幅に軽減されるので、私がIT部門にいた時代にこれがあったら、どんなに楽だったろうと思うくらい(笑)。

 もっとも、単にソフトを渡すだけのビジネスをしていたら、お客様からは「なぜ、i2がプラットフォームを売るのか?」という声が上がるでしょうが。


―輸送業向けに、IBMとの協業でSaaSモデルでのソリューション提供を行うことが発表されました。

佐藤氏
 輸送業で大規模な企業というと数が限られます。そのためSaaSでのソリューション提供が適していると判断しました。

 輸送業以外の業種で利用できる、オンデマンド型のソリューション「MEI(Multi-Enterprise Interactive )」も提供しています。アップルのiPodのように製品の企画、デザインはアップルで行っているものの、中で使われている部材、生産は他社が行うという商品が増えています。オンデマンド型ソリューションであれば、関わっているすべての企業があたかもひとつの会社のごとくi2のソリューションを利用することが可能になるわけです。


―オンデマンド型ソリューションによって、i2のソリューションを利用できる企業の数が増えるということですね。

佐藤氏
 これまでは下請け企業には、大企業側の意向で端末を導入してもらうといったことをやってきましたが、オンデマンド型ソリューションであれば規模の小さな企業でも導入が可能になります。

 それにオンデマンド型ソリューションは、一度導入してもらうとなかなか止めにくい。この点はわれわれベンダーにとってありがたいところです(笑)。


日本発のソリューションを出したい

―最後に日本市場における課題は何かを教えてください。

佐藤氏
 昨年、日本法人の社長に就任してから、組織を変え、スタッフを変え、そして働いている社員の考え方を変えていくことに力を注いできました。

 サービスを優先する「Service-LED Company」という考え方がありますが、そうなるための教育はさらに強化していきたいと思っています。

 それに加えて、「日本発」でソリューションを実現していきたい。そのためには、まずお客様の問題点を聞いて、それを解決するための施策を具現化していく必要があります。昨年10月に発表したマイクロソフトとの協業体制の確立もそのひとつです。マイクロソフトのプラットフォームと、当社のテクノロジーノウハウ、コンサルティングサービスを組み合わせたSCMソリューション「Global Real-Time PSI」を協同で提供し、Microsoft Office SharePoint Server 2007をプラットフォームとしたポータルソリューション「PSI Insightポータル」を構築しました。これは日本発の第一弾製品です。

 僕はね、当社のソフトの最大のライバルはマイクロソフトのExcelだと思っているんですよ。


―SCMソフトを販売している企業ではなく、Excelがライバルですか?

佐藤氏
 よく、「SAPやオラクルがライバルですか?」と聞かれますが、利用者の数で比べたら専用ソフトよりもExcelを使ってSCMシミュレーションをしている人の方が圧倒的に多いと思いますよ。だからこそ、マイクロソフトと組んだんです。


―確かにSCMに限らず、「Excelを使って作業をしている」という企業は多いでしょうね。

佐藤氏
 その他に日本でやらなければならないことといえば、公表できる事例作りですね。日本のユーザーにソリューションを紹介すると、必ず「事例はありますか?」といわれる。しかし、何度も言っているようにSCMというのは企業の差別化策として導入されています。うまくいっている先進ユーザーほど、「公表したくない」というんですよ。それはその通りなんですが、なんとか事例を作っていくことも必要でしょうね。



URL
  i2テクノロジーズ・ジャパン株式会社
  http://www.i2japan.co.jp/


( 三浦 優子 )
2007/04/27 00:00

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