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デル・メリット社長、「社長1年目の成果と今後のDell 2.0 Japanを語る」


 ジム・メリット氏がデル日本法人の社長に就任してから、ちょうど1年を経過した。この間、日本法人の成長は極めて順調だ。2007年1月締めとなる2007年度の日本法人の業績は、出荷台数で前年比14%増、重点分野としたエンタープライズ製品の出荷台数は10%増、サービス分野においては66%増の成長率。すべての領域で前年実績を大きく上回った。また、第9世代サーバーの投入、Dell|EMCブランドの新製品投入に加え、個人向けハイエンドPCのXPSシリーズの国内投入といった積極的なラインアップ強化のほか、企業では17万2000社の新規顧客を、個人では約28万人の新規顧客をそれぞれ獲得。サービス、サポート分野において、500人以上の社員を採用するといった積極策も見逃せない。デルは、今後、この成長をいかに維持するのか。日本法人社長として2年目を迎えたジム・メリット氏率いるデルの取り組みを聞いた。


2けた成長の実現など就任1年目はすばらしい年に

代表取締役社長 ジム・メリット氏
―社長就任後1年間の成果はどう判断していますか。

メリット氏
 (日本語で)すばらしい1年でした(笑)。私が来日した時に、日本法人には、2つのフォーカスポイントがあると感じました。ひとつは、お客様に対して、より近い存在になること。そして、もうひとつは、会社の環境を作り、社員が自己啓発し、キャリアを形成できる環境をつくること。これらの取り組みの結果が、カスタマに対して、高い価値を提供できると考えたからです。

 お客様に対して、よりフォーカスするという点では、とくに、サービス/サポート分野に対して、多くの投資をしてきました。また、営業現場の人員を増やしたり、お客様関連イベントを数多く開催した。カスタマセンターを設置している宮崎でのプラチナイベントの開催や、新規顧客向けのディナーイベントも行った。先ごろ、CEOのマイケル・デルが来日した際には、約400人のお客様をご招待し、マイケル・デルの口から、直接、今後のデルの方針を説明した。このようにお客様との接点を多く持ち、メッセージを伝えることにも力を注いだ。その成果は、顧客満足度の数値が上昇したこと、テクニカルサポート、セールスサポートに対する評価が高まっていること、事業が2けた成長しているといった実績から見ても明らかだといえます。しかし、顧客価値の向上という点では、もっとやらなければならないことも多いと考えています。


―もうひとつのフォーカスポイントである、社員に対するフォーカスに対する成果はどうですか。

メリット氏
 1年前には、自身のキャリア開発プランを持っていない社員が多かった。この1年で、これを改善することができ、スキルアップに向けた取り組みを社員が開始できるようになった。また、好業績を反映して、社員に報償を与えるということも行ってきました。テーマパークチケットをプレゼントしたり、ハッピーウェンズディとして、社員にお菓子を配布するといったこともしましたよ(笑)。

 また、社員の増員を図ることで、それまでのワーク・ライフバランスを変え、社員が充実した仕事に取り組むことができるようにする一方、プライベートの時間をしっかりと取れるようにした。私は、新しい職場環境をつくりあげることができたと自負しています。多くの社員も、デルにならば新たなことに挑戦できる、あるいはキャリアを伸ばせる、やりたいことができると感じたはずです。


―しかし、社員からは、メリット社長は仕事に大変厳しい、という声が出ていますよ(笑)。

メリット氏
 確かにそうかもしれませんね(笑)。私は、社員に対する期待値が高いですからね。ただ、フェアであること、考え方に一貫性を持って臨むことは徹底していきたい。私は、社員に成功体験をしてもらいたいのです。この1年、チーム全体が一丸となって勝利に向かい、取り組んできましたから、私は、かなり前進したと思っています。社員一人ひとりががんばった結果、デル・ジャパンが大きな前進を遂げたことは大きな誇りです。


―就任時点で考えていたことと、現在の実績とを比較すると、どれくらいの差がありますか。

メリット氏
 もちろん、1年前に、今後、何が起きるかということのすべてを想像することはできなかった。しかし、さまざまな課題に直面し、それにチャレンジし、新たな仕組みを構築し、顧客に対して付加価値を提供するということに繰り返し取り組んできた。その結果が大きな進化につながっています。具体的な成果としては、お客様に対応する組織の体制強化があげられます。ただ、これは、現在よりも日々向上できるようにがんばりたい。

 また、エンタープライズ分野の体制強化も達成できた。インテル日本法人でエグゼクティブを務めていた町田栄作を、アドバンスド・システムズ・グループ(ASG)本部長として迎え入れることができ、同時に、同部門では、組織の増強、人材追加、パートナーとのリレーションシップ強化、セールスの実戦力強化、他部門との連携といった成果をあげています。

 それと、私は、米本社に対するデル・ジャパンの発言力をより高めたいと思っていました。日本の顧客が期待するレベルは大変高い。この要求をデルが実現できれば、デルはグローバル展開において、より高いレベルの製品を提供できる。その点でも、米本社に、日本の顧客に対する理解をもっと深めてほしいと思っていました。結果として、これも成し遂げることができたと考えています。本社のプロダクトグループのエグゼクティブを日本に駐在させることで、顧客へのコミュニケーションを強化し、製品のトラブルや要求に対しても、より速いスピードで対応できるようにし、製品品質、サービス品質を高めることができたといえます。

 このように、社員の強化、人数の増強、リーダーシップの強化に加え、日本のデル・ジャパンの本社に対する存在感を増すことができ、顧客満足度を高めるということでは達成ができた。業績も好調です。しかし、好調ではあるが、もっと向上したいと考えています。


―日本法人に足りないところはありますか。

メリット氏
 ひとつは、日本固有の製品を用意することですね。日本は、エレクトロニクス分野では世界的に見ても先行している市場ですし、高い価値を持った製品に対するニーズが高い。こうした要求に応えるためには、日本市場向けの製品が必要です。

 いま、デルでは、日本の顧客のことを考えた、日本の市場に特化した新たなノートPCや、オールインワンPCの開発を開始しています。ノートPCは、今年後半の発表になりますから、まだ詳細はいえませんが、軽量化を達成した製品になるでしょう。設計プロセスにおいて、日本のコンシューマユーザー、法人顧客に声を聞くために、フォーカスグループという組織を日本法人のなかに作りました。日本のコンシューマユーザーのニーズを掘り起こし、法人ユーザーの要求を実現するための組織です。

 また、米本社のビジネス・プロダクト・グループのシニアバイスプレジデントであるジェフ・クラークが、先ごろ来日し、日本の顧客との対話や、社員との対話を通じて、製品のどこを改善すべきか、日本の競合他社の製品はどうなっているのか、という比較を行った。このように、日本のマーケットに特化した製品を提供するための準備を着々と進めています。この製品の生産は中国で行う予定です。すでに、中国の生産拠点には、日本市場向け専用の生産ラインがありますから、これを活用することになります。

 また、今年末には、グローバル・コンシューマ部門を日本法人のなかにも設置します。これは、米本社で準備を進めているもので、準備が出来次第、日本にも設置する。これにより、コンシューマ部門における日本市場へのフォーカスはさらに高まっていくでしょう。エキサイティングな方法で、コンシューマ市場をイノベーションし、新たなルートへのアプローチも開始したい。ここでは、日本で働いている社員が所属し、日本市場にフォーカスした形で取り組むことになります。

 グローバル・コンシューマ部門の設置は、単なる組織変更ではなく、日本市場にとって大きな影響を与えるものになると、私は期待しています。日本のコンシューママーケットは、世界的に見ても、ポテンシャルが高い。この分野を担当する組織が、グローバル組織のなかに入ることで日本のフォーカスが高まる。日本の顧客からの声が聞こえやすくなることを期待しています。

 いま、デルでは、全世界規模で官僚的な風土をなくし、コンシューマや中小企業向けの事業領域に力を注ぐ姿勢を明らかにしています。また、長期的な成長を見据えた上での礎づくりにも取り組んでいる。日本市場においては、大規模企業、中小企業の分野ではかなりの存在感を発揮できていますし、ビジネスを速いスピードで進める体制も確立されつつある。その一方で、今後は、エンタープライズ事業分野、コンシューマ分野、そして、公共市場にも、もっと力をいれていく必要があります。


公共ビジネスは重要な分野、引き続き体制を強化する

―ここ数年、重点事業領域として掲げていたエンタープライズ分野向けの成長率が低く見えますね。エンタープライズ製品の出荷台数は10%増に対して、ソフトおよび周辺機器(S&P)が33%増、サービス分野においては66%増の成長率です。思い通りの成果が上がっていないのではないですか。

メリット氏
 サーバーやストレージといったエンタープライズ製品は、クライアントPCとは違って、付帯するビジネスが発生する。サーバー、ストレージとともに、仮想化技術や統合化といった需要が発生し、さらに、それを実現するために、マイクロソフトやオラクルといった製品を導入することになる。

 当社の分類方法もあり、本来のエンタープライズ事業の成長が見えにくくなっている部分はあります。例えば、66%増の成長率を遂げているサービス事業の場合、そのほとんどがDPS(デル・プロフェッショナル・サービス)によるものですから、これはほぼエンタープライズ事業だととらえていい。また、S&Pは33%の成長率となっているが、これも約半分が、マイクロソフトやVMware、オラクル、シマンテックといったエンタープライズ関連ソフトで占めている。

 ハードの成長率は相対的に低く見えますが、エンタープライズ事業全体では大きな前進ができた。アライアンスの強化、パートナービジネスの推進などによって、ソリューションベースのアプローチができ、より高い価値を提供できるようになる。これからもますます強化していく考えです。


―昨年、防衛省向けに5万6000台という一括受注の実績がありましたね。今後の公共分野向けの展開はどう考えていますか。

メリット氏
 デル・ジャパンにとって、公共ビジネスは大変重要なセグメントです。デルでは、大規模企業、中小企業、そして公共分野というように、ビジネスを分割していますが、大規模企業、中小企業分野においては、1位のシェアを獲得し、製品によっては2位あるいは3位のポジションを維持している。これが、公共ビジネスという点では、まだまだ努力する余地がある。

 公共ビジネスには、大きく3つのセグメントがあります。ひとつは中央官庁、地方自治体を含む政府関連、2つめには教育分野、そして3つめに医療分野です。これらの3つの市場において、マーケットシェアを伸ばすことが、デルの成長には不可欠です。この1年間で、公共ビジネスを担当する社員を35~45人増やしています。これにより、政府機関や教育機関、医療機関でも、十分カバーできる規模を実現し、デルが取れるべきシェアを、取れる体制としました。2007年度も引き続き、体制を強化していきます。


―新規顧客の獲得数が多いことにも驚きました。先日の発表では、企業においては、17万2000社の新規顧客を獲得し、個人では約28万人の新規顧客を獲得したとの発表がありましたね。

メリット氏
 新規顧客の獲得数という意味では、例年に比べて多くなっていますが、決して突出して多かったわけではありません。ただ、デルは新規顧客の増加に力を注いでいますから、この数値そのものが、私が、「すばらしい1年であった」と表現する理由のひとつになっています。

 デルには、3つのビジネスの進め方があります。ひとつは、既存顧客に対するケアを十分に行い、シェアの拡大維持を図るものです。2つめが、すでにデルのノートPCは使っているが、まだサーバーまでは導入していないというような、1つか2つのデルの製品をご利用いただいている顧客に対するアプローチ。こうしたユーザーには、さらにデルの良さを知っていただくためのアプローチをしていきます。そして3つめが、取引金額が少ない顧客、あるいはこれからデルの製品を使っていただく顧客。これが新規顧客という領域になります。デルによる品質の高い製品、サービス/サポートを活用していただくための努力を続けていきたい。


―先ほど触れた日本市場向けの新製品投入や、中国市場向けの専用モデルの投入など、デルでは、かつてのワンプロダクトによるグローバル戦略から、エリアごとの戦略へと転換しましたね。これはどういう意味があるのでしょうか。

メリット氏
 デルが、個々の市場の特徴をとらえた製品を投入していくことを、新たな方針に掲げたのは事実です。新興市場に対する取り組みもそのひとつといえるでしょう。新興市場は、日本や米国、西欧と比べると、インフラの違いもあり、求められるテクノロジーやニーズが違ってくる。今回、中国専用向けに開発したEC280は、中国市場のためだけにデザインした製品です。こうしたローエンド製品を中国市場に投入することで、大きなビジネスチャンスをものにしたい。よりマーケットの特徴をとらえ、ニーズをとらえた製品を投入していくことで、われわれにとってのビジネスチャンスがあると判断したのです。


2008年度のキーワードは「イノベーション」

―日本では、日本市場向けの製品投入とともに、サービス企業の買収の意向も示していますね。

メリット氏
 サービス事業は重要な分野であり、顧客に高い価値を提供することができる。サービス企業とのパートナーシップによって、インフラの簡素化、ソリューションの提供、付加価値の提供といったことが可能になります。われわれとしてもサービス事業分野を、今後もさらに成長させていきたいと考えている。そのための組織的も強化していく考えです。これらの取り組みのなかで、顧客、社員にとって、これが合理的であり、いい方向に行くと判断した場合には、サービス企業の買収を決断することになります。


―どんな企業が買収の対象となりますか。

メリット氏
 いや、まだ具体的な話はありませんよ。ただ、条件をあげるとすれば、よいサービスを持っていること、当社のサービス製品と相性がいい企業ということになります。経営コンサルティングよりも、インフラ周りに強い会社が対象ですね。ある業種に特化しているとか、全国をカバーしているかどうか、といったことに関しては、未定です。


―日本法人社長として2年目に入りました。2月からは、すでに、2008年度がスタートしています。2008年度のキーワードはなんでしょうか。

メリット氏
 欠かせない取り組みとしては、長期にわたる礎づくりということになります。また、パートナーシップの強化や、ソリューションおよびセールス部門への投資、社員の強化、組織の強化といった昨年から引き続いて取り組んでいくテーマも多いですね。

 一方で、サービス企業の買収や、新しいソリューションを提供するといった新たな取り組みも開始します。こうしたさまざまなイニシアチブに共通するキーワードは、「イノベーション」ということになるでしょうね。デルモデルについても、新しいステップに踏み出さなくてはなりませんし、顧客へのアプローチの仕方も、これまでのやり方をブレイクスルーしていかなくてはならない。

 デルは、新たな成長ステージに入っていきたい。そのためには、いままでとは違ったビジネスのやり方に対しても、リスクを恐れずに挑戦していく必要がある。社員には、ビジネスをより賢明な方法で、しかも、クリエイティブな方法で取り組むことを求めたい。


―昨年、米本社では、Dell 2.0を標ぼうしましたが、これは社員に浸透していますか。

メリット氏
 Dell 2.0で掲げたのは、顧客とのダイレクトな関係によるメリットを最大限に活用し、顧客との関係強化と製品ライフサイクルを通じた価値を提供すること。また、価格競争力に加えて、製品、ソリューション、サービスといった付加価値を高め、顧客満足度を最大化すること、多様化する顧客ニーズに対して、カスタマイズしたソリューションを提供することです。また、エンタープライズ、サービス、ソフトウェア/周辺機器、コンシューマといった多様化するデルのビジネスフォーカスをバランスよく成長させることも重要な取り組みです。

 ただ、Dell 2.0は、こうしたイニシアチブを頭で理解すればいいというものではありません。デルの組織文化そのものを変えていくものになるからです。だからこそ、デル・ジャパンにおけるキーワードは、イノベーションであるべきだと考えています。イノベーションという言葉のなかには、リスクを恐れないという要素、枠組みにとらわれない考え方をするという要素、中にこもらずに、外に出て考えようということも含まれている。いかに、社内のカルチャーチェンジをしていくかが大切です。

 デルは、いつも変わりゆくニーズに応えられる強い組織でありたいと思っています。そのためには強いリーダーシップが必要であり、これを保つことに気をつかっている。また、どういう人材を集めることで、次のステップにいくことができるのかということも重要です。デルは、お客様に対して、最強の価値を提供するためにはどうするかということを常に考えている。まだまだ成長の余地はあると考えています。デル・ジャパンは、この1年も、きっと大きな進化を遂げることになりますよ。



( 大河原 克行 )
2007/05/11 00:00

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