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インフォテリア平野社長に聞く、上場で第2の創業を迎えた同社の次代戦略


 インフォテリアは6月22日、東証マザーズに上場した。6月25日についた初値は公開価格の2.6倍となる15万3000円。上場で得た資金は研究開発投資にまわす考えだという。平野洋一郎社長は、「いまは、まさに第2の創業。インフォテリアが新たなスタート地点についた」と語る。約10年間にわたって、XMLの普及に大きく貢献したインフォテリアは、今後、どんな成長戦略を描こうとしているのだろうか。


上場記念の盾を持つ、代表取締役社長/CEOの平野洋一郎氏
―東証マザーズ上場、おめでとうございます。東証で鐘をついた時の気分はどうでしたか(笑)。

平野氏
 私自身、東証には何度も仕事でお邪魔していますし、あまり特別なものとは意識はしていなかったのですが、いざ、叩く段階になったら、これまでの9年が、いきなり走馬灯のようによみがえりましたよ。マンションの一室からスタートして、多くの方々に支えられ、ここまでこれた。本当に恵まれていた9年だったと。実に感慨深いものがありました。何人かの方に、「絶対、あの鐘はついた方がいいよ」と言われていましたが、その意味がわかったような気がします。

 それと、本来ならば、上場した22日に鐘をつくのが慣例なのですが、その日は東証の株主総会で、誰も出席できないといわれ(笑)、セレモニーが25日に延期になったんです。ところが、この6月25日は、2002年に投入した当社の主軸製品である「ASTERIA(アステリア)」の発売日でもありますし、しかも、初値がついた日とも重なった。記念の日になりました。


―上場は、設立当初から目指していたものですか。

平野氏
 そうです。私は、インフォテリア設立前までの11年間、ロータスに在籍していたのですが、そのなかで米国本社の同僚などが退社していくさまを何度も目の当たりにしました。しかも、やめていく同僚の約半分が、「自分で会社を作る」、あるいは「会社を作るのを手伝う」という。その際に、彼らは必ずといっていいほど、ベンチャーキャピタリストに支援を得て、事業をスタートさせるんです。ですから彼らは、「会社を辞める」といったあとには、すぐに、「これがビジネスプランなんだ」と、ベンチャーキャピタリストに説明をするための資料を提示してくる(笑)。こういうやり方があるんだな、ということを学びましたよ。

 ただ、投資家と組むということは、上場か、売却かのいずれかを意識しなくてはならない。売却というと、日本ではあまりいい印象ではとらえられませんが、自分たちのソフトがよりよい形で、世の中に使われるということであれば、決して悪い選択ではない。当時のロータスも、ロータスによって買収された会社のソフトが、20カ国語に対応して、全世界で流通したというケースがありましたから。そういう意味では、私は、創業1日目から上場を意識していましたよ。


―会社のスタート時は、XMLの専業企業ですね。

平野氏
 そのスタンスはいまでも変わっていません。1998年2月にXMLが勧告されましたが、当時は、まだ多くの人がXMLの将来には懐疑的だったと思います。しかし、私は、これはすごいものが出たぞと直感的に感じました。共同創立者である北原(=北原淑行氏、同社CTO)とは、特定のアーテキクチャで囲い込むのには限界があることを共通の認識として持っており、XMLには、それを打破する可能性があると感じたのです。例えば、Notesですべてを揃えられればすばらしいが、社内はそれで統一できても、ネットの先の世界まで、すべてNotesということはあり得ない。XMLとは違うものではありましたが、米国本社にもこの考え方を提案した経緯はありました。しかし、当時のロータスの勢いからすれば、すべてを公開し、外のものとつなぐという発想はなかなか通らない。どうしても受け入れられなかった。こうした一連の出来事が、ロータスを退社し、自分で起業することにつながっています。


―どうして、XMLに着目したのですか。

平野氏
 ロータス時代には、5年先を考えろ、ということを徹底して学びましたから、その成果でしょうね(笑)。それと、つなぐということの重要性を感じていましたから、そのモヤモヤとしたものを、これで解決できると感じたことが大きかったと思います。

 インフォテリアのすべての製品に共通しているのが、「先行する」ということなんです。受託開発ならば、依頼を受けてからそれに対応する技術や機能に対応すればいいが、パッケージを開発する会社というのは、先を読んで手を打たなくてはならない。顧客やパートナーから要望があった時に、「ちゃんと用意してありますよ」というのが理想なんです。ニーズがあるからやる、というのでは遅すぎます。


―XMLはまさに5年先を読んでいましたね。どうすれば、5年先を読めるのですか。

平野氏
 ソフトの5年先を読むには、ハードの動きを見るのがいいんです。ハードウェアやインフラが5年後にはどうなっているか、世の中はなにを求めようとしているのか、というように、外から埋めていくと、ソフトの次が見えてくる。未来は自分たちが作るんだ、そこでなにか貢献ができたらいいという意識を持っておくことも必要でしょうね。


―インフォテリアでは、インフォテリア認定トレーニングコースや、インフォテリア認定教育センター制度を整備し、XML技術者認定制度「XMLマスター」をスタートさせるなど、XML技術者の育成にも早くから取り組んできました。同時に、この9年間で、XMLの位置づけも大きく変化しましたね。

平野氏
 当初は、ドキュメントフォーマットと認識されたり、ロゼッタネットに代表されるように、通信するためのフォーマットとして使用されるということが中心でした。つまり、使ったらすぐに消去され、別のフォーマットで管理されるというような揮発性の高いデータで用いられることが多かった。

 それが、第2段階に入り、.NETに組み込まれたり、システムのなかで重要な役割を担うなどバックエンドで活用されるようになってきた。そして、最近では、XMLがいよいよフロントエンドに出始めている。ユーザーが直接利用するデータがXMLベースとなり、揮発性の低いデータでも利用されている。XMLのポジションは大きく変化してきているといえます。

 当社の製品も、それにあわせて進化を遂げています。当初は、ASTERIAの開発の途中で、製品化が可能なものを、世界初の商用XMLエンジン「iPEX」として発売したり、ロゼッタネットに対応したソフトとして提供しましたが、2002年に、ASTERIAを発売してから、バックエンドでXMLを活用する動きが一気に加速しました。そして、昨年発表したASTERIA Warpでは、フロントエンドでWeb上のサービスとつなぐことが可能になった。こうした変化を的確にとらえ、一歩先をいく製品提案をしていくのが当社の手法だといえます。

 それと、パッケージビジネスで大切なのは、やらないことをしっかりと決めておくということですね。肥大化して、使いにくいものになってしまいますし、開発に余計な時間とコストをかけることになる。とはいえ、顧客やパートナーの声を聞くと、あれもこれも入れたくなってしまう。私は、いろいろな方とお話しする機会が多いものですから、いつもそのジレンマに悩まされています。なので、「切る」のは、北原の役目です(笑)。


―受託開発事業には進出しないのですか。

平野氏
 投資家からは、事業の安定や規模を獲得するためにも、受託開発事業をやるべきという話もありますが、すべて、マスターパートナーを通じた販売としています。新たな製品を導入するタイミングでは、事例を作るという意味で、SIerと組むこともありますが、それはあくまでも製品立ち上げ時の手法のひとつであって、継続的にSIerと連携するということではありません。先ほども触れたように、パッケージビジネスには、先を読むという手法が必要です。受託開発を始めることによって、その感覚が鈍ってしまう、フォーカスが甘くなってしまうということを懸念します。ですから、当社では、基本的には受託開発事業はやらないと決めています。


―上場は、創業時からの目標であったといわれましたが、次の目標はなんでしょうか。

平野氏
 上場は、マイルストーンであって、ゴールではないと考えています。しかし、上場によって、これまでのベンチャーキャピタリストやエンジェルとは違った、新たな投資家とのお付き合いがはじまることになった。私は、上場にあわせて、社内に向けて、「これは、第2の創業である。そして、ここにいるみなさんは、創業メンバーである」と話しました。


―第2の創業を、事業の観点からとらえるとどうなりますか。

平野氏
 3つあります。ひとつは、ASTERIAを次の時代のソフトとして進化させ、提供することです。当社では、SOAにおけるESB(Enterprise Service Bus)の部分を、ESP(Enterprise Service Pipeline)という形で提唱しています。いま、SaaSが注目を集めていますが、ネット上のソフトをつなぐことで、新たな使い方を提案していく。その役割を担うのがASTERIAということになる。「つなぐ」ことに最適化したツールとして、先手を打っていきたいと考えています。

 2つめは、第2、第3の柱をいかに作るかということです。ASTERIAはサーバーを導入する大手企業が中心となりますが、サーバーを導入していないようなSOHO、中小企業に対する「つなぐ」という提案です。これは、c2talk(シー・ツー・トーク)が核になります。メールやWebブラウザは個人のツールとして、大変重要な役割を果たしていますが、これからはカレンダー機能が重視されると考えています。ソーシャルカレンダーといったものをどう活用していくかという提案をしていきたいですね。


―c2talkのビジネスモデルはどう構築していきますか。

平野氏
 まずは無料で配布し、使っていただく環境を広げる。その上で、ネットワーク上でアフィリエイト広告事業やコンテンツ事業で収益を確保する考えです。2010年頃には、柱のひとつに育て上げたいと考えています。


―事業の柱というのはどのぐらいの規模を想定していますか。

平野氏
 一般的に全社売上高の2割程度を占めれば事業の柱といっていいかもしれませんね。私は、ソフトウェアには法則がある思っているんです。それは「バージョン3の法則」(笑)。バージョン3になって、ようやく事業ベースに乗るというものです。Windowsも、Notesも、一太郎も、すべてバージョン3から事業として花開いた。c2talkはまだバージョン1ですから、3年かけてじっくりと育てていきたい。


―3つめはなんですか。

平野氏
 海外事業です。当社は、2000年に海外進出して失敗した経験があります。私自身が、ロータス時代に、日本法人が比較的自由に事業を展開したことで、成長させた経験がありましたから、それと同じ手法を持ち込んでやってみた。英語版を開発して、それを現地法人に任せて売るという方法です。現地のことは現地が一番知っているのだから、口を出さない方がいいと考えていたのですが、これが失敗の原因だったと反省しています。一方、製品は国際化しているのに、企業体質が国際化していないという企業が、日本の場合には多い。いま、やっているのは、しっかりと米国市場に腰を据えて、地盤をつくるという手法です。


―海外事業は、どんな成長曲線を描いていますか。

平野氏
 世界的に見て、日本の市場規模は10%弱ですから、国際化した企業を目指すのであれば、少なくとも、5割程度を海外事業が占めるという体制が必要ではないでしょうか。まだ1割にも満たない規模で、これだけ大きな目標を掲げるのもおこがましいのですが、これは、第2の創業における大きな目標といえます。日本では、EAIのベンダーとしてナンバーワンのポジションを獲得しましたが、世界で戦うにはこのポジションだけでは駄目です。むしろ、米国で4位、5位というポジションの方が、アジアで通用する。英語圏でどの程度の実績があるかということが、世界戦略では重要な要素です。まず米国市場をターゲットとしているのも、そこで実績を積み、そこからアジアに打って出るための施策です。


―平野社長自身、これまでは、XML普及の伝道師という役割を担ってきましたが、第2の創業以降は役割が変化することになるのでは。

平野氏
 確かに、これまでは営業は後回しで(笑)、伝導活動をしていた部分もあり、事業はどうなっているんだというお叱りも受けました。これからは、伝道師のままではいけませんね。ただ、c2talkは、まだまだカレンダー機能の重要性を訴えなくてはならないですから、伝道師からは完全には抜け切れないかもしれません。伝道師を兼務しながら、事業に取り組むことになる。


―どんな役割になりますか。

平野氏
 いい言葉が思い浮かびませんね。なにか考えないといけないですね(笑)。ただ、会社としては、これまでは「XML」がキーワードでしたが、これからは「つなぐ」という言葉がキーワードになります。XMLは当たり前のものとしてとらえられ、ユーザーインターフェイスを含めたフロントエンドをどうするかといった動きも出てきている。SaaSのような動きによって、地理的な制限といったものがなくなり、ビジネスチャンスの幅も広がる。Web 2.0の世界になり、リアルタイム化や双方向化といったものが、ますます進展する。その世界において、どんなソフトが必要とされるのか。携帯電話端末との連動も重要な要素といえます。こうした環境のなかでは、やはり、どう「つなぐ」かがポイントになってくる。第2の創業は、「つなぐ」ことに取り組んでいく考えです。



URL
  インフォテリア株式会社
  http://www.infoteria.com/


( 大河原 克行 )
2007/07/06 00:00

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